本記事の3つのポイント
- iPS細胞由来再生心筋細胞のヒト移植が間近に迫っている。研究チームが20年度からヒトへの移植研究を開始する
- これまでの手法では時間がかかりすぎてしまうなどの問題があったが、今回開発した手法は短時間でかつ大量に細胞を培養することが可能
- 治療の到達点として、心筋細胞の壊死による喪失、収縮不全の状態で、細胞移植による心筋の補充(再生心筋細胞の移植)をすることで、心不全から回復させることが可能に
2019年11月29日に関西医科大学(大阪府枚方市)が開催した大学院企画セミナーにおいて、慶應義塾大学医学部循環器内科教授の福田恵一氏が「臨床前夜となったヒトiPS細胞由来再生心筋細胞を用いた難治性重症心不全治療法の開発」と題した講演を行った。
20年度に、人類が初めてヒトiPS細胞由来の心筋細胞を重症心不全患者に移植するもので、症状に苦しむ多くの患者に大きな希望を与えることになる。
20年度にiPS細胞由来再生心筋細胞のヒト移植
福田氏の研究チームは、HLA(Human LeukocyTe AnTigen)のHaploType homoのiPS細胞を用いてヒト心室筋細胞の作出、高純度の精製、大量培養法を確立。その再生心筋細胞を微小心筋組織(心筋球)として形成し、免疫不全マウスやラット、サルなどに移植し、高率に生着できることを確認している。
安全性試験、催不整脈性試験では有意な問題事象は観察されず、さらには、造腫瘍性試験では腫瘍形成は観察されなかった。20年度にはヒトを対象としたFirsT in humanの移植研究を実施する予定となっているなかで、再生医療の現状と将来展望について解説した。
福田氏は、研究・開発に取り組むこの治療法が、米国で20万人、日本で数万人と推定される治療法のない難治性重症心不全の患者を対象とし、治療の到達点として、心筋細胞の壊死による喪失、収縮不全(心不全の進行)の状態で、細胞移植による心筋の補充(再生心筋細胞の移植)をすることで、心不全から回復させることであると語った。
iPS細胞を用いた難治性心筋疾患に対する解析・治療法開発の流れとして、遺伝性心筋疾患などの心移植待機患者から採血し、末梢血T細胞を取り出し、センダイウイルスによる4因子導入、TiPS細胞の導入により心筋細胞への分化を誘導し、大量培養、純化・精製させ、ヒト心筋細胞を移植し心不全を治療するとともに、活動電位記録など病態解明・創薬へとつなげる。
この治療法は、オーダーメード多能性幹細胞、免疫拒絶反応がない、倫理的問題がないという大きなメリットがあることを強調した。