しかし、米中通商協議において中国側が米国産牛肉の追加関税を免除し、輸入を拡大する考えを示すなど、米国産牛肉の需要は今後もアジア圏で膨らみ続ける可能性は高い。それゆえ、米国産ショートプレートの価格は引き続き上昇トレンドを維持すると思われる。
これら人件費と牛肉の高騰は、営業利益率の低い吉野家の利益に甚大な影響を与える。期によって多少変動するものの、吉野家の営業利益率はだいたい2%だ。仮に、牛肉の値上がりによって原価率が、人件費の高騰によって販管費率がそれぞれ1%ポイント上昇した場合、営業利益はほぼゼロとなる。2019年2月期には実際にこれが起こり、営業利益は吹き飛ぶこととなった。
前期の減損損失"50億円超"積極的な投資姿勢には疑問も?
こうした苦境にある中で、吉野家の積極的な投資姿勢に疑問を持つ投資家は少なくなさそうだ。吉野家は店舗用不動産などの有形固定資産に投資することで、投資キャッシュフローは毎年90億円前後となっている。保有している現預金の約4割を毎年投資していることになる。
一方で、吉野家は長年、毎年のように減損損失を計上している。2019年2月期に関しては、減損損失は50億円超にものぼる。減損とは、平たくいえば「取得した資産が将来的に投資家の期待するリターンを上げられないと判断された際、その分だけ簿価を切り下げる」行為だ。裏を返せば、投資家にとっては吉野家の投資の多くがそれだけ「割の悪い」投資だったことを意味する。
執筆者
1991年生まれ。新潟県新潟市出身。2022年に株式会社モニクル傘下の株式会社ナビゲータープラットフォームに入社し、現在はメディア事業部・メディアグロース企画推進室マネージャー。くらしとお金の経済メディア「LIMO(リーモ)」を中心に、多くの読者の方に幅広いコンテンツを届けるための戦略立案に従事している。
それ以前は、LIMO編集部にてアシスタント・コンテンツマネージャー(ACM)として従事。第一報として報道されるニュースを深堀りし、読者の方が企業財務や金融に対する知的好奇心を満たしたり、客観的データや事実に基づく判断を身に付けられたりできる内容の記事を積極的に発信していた。
入社以前は、株式会社フィスコにて客員アナリストとして約20社を担当し、アナリストレポートを多数執筆。また、営業担当として、IRツール(アナリストレポート、統合報告書、ESGレポートなど)やバーチャル株主総会サービス、株主優待電子化サービスなどもセールス。加えて、財務アドバイザーとしてM&Aや資金調達を提案したほか、上場企業向けにIR全般にわたるコンサルティングも提供。財務アドバイザリーファームからの業務委託で、数千万~数十億円規模の資金調達支援も多数経験。
株式会社第四銀行(現:株式会社第四北越銀行)、オリックス株式会社でも勤務し、中小・中堅企業向け融資を中心に幅広い金融サービスを営業した。株式会社DZHフィナンシャルリサーチでは、日本株アナリストとして上場企業の決算やM&A、資金調達などのニュースと、それを受けた株価の値動きに関する情報・分析を配信。IPOする企業の事業・財務を分析し、初値の予想などに関するレポートを執筆。ロンドン証券取引所傘下のリフィニティブ向けに、週間・月間レポートで、日本株パートを執筆。経済情報番組「日経CNBC」にて毎月電話出演し、相場や株価の状況も解説していた。
新潟県立新津高等学校を経て、2013年に慶応義塾大学商学部を卒業。学部では、岡本大輔研究会にて企業評価論、計量経営学を専攻していた。
最終更新日:2023/11/03