失業保険の話では、「会社都合」「自己都合」という言い方がよく出てきます。ところが、ハローワークの資料には、「会社都合」という言葉は出てきません。制度上の名前は「特定受給資格者」と「特定理由離職者」です。
離職理由で、受け取れる日数や、受給に必要な加入期間が変わります。さらに、ハローワークの資料によると、期間の定めのある契約が更新されなかった人に限った特例は、離職の日が令和9年3月31日までの間にある人が対象です。約半年後に、期限が来ます。
この記事では、ハローワークと厚生労働省の公表資料(2026年10月時点)をもとに、会社都合にあたる特定受給資格者の範囲、特定理由離職者、懲戒解雇と定年退職の扱い、離職理由が実際と違うときの対処を整理します。個別の判定は、ハローワークに確認してください。
1. 「会社都合」は通称:制度上は特定受給資格者という
ハローワークの「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」には、特定受給資格者の範囲が、2つのグループで書かれています。1つ目は「倒産」等により離職した人、2つ目は「解雇」等により離職した人です。
倒産等は4つ、解雇等は13の区分があり、合わせて17の区分が示されています。会社の都合で、再就職の準備をする余裕がなく離職を余儀なくされた人を、手厚く扱う考え方で作られています。
ここで押さえたいのは、離職理由を決めるのは、会社ではなくハローワークだという点です。厚生労働省のQ&Aでは、ハローワークは、本人の主張と証拠書類、事業主の主張を確認したうえで、離職理由を決めるとしています。
離職票に書かれた離職理由は、あくまで出発点です。実際の理由と違うときの伝え方は、あとの章で整理します。
2. 特定受給資格者の範囲:倒産等と解雇等、あわせて17の区分
範囲の中身を、ハローワークの資料から主なものを抜き出して、表にまとめました。解雇等のうち、賃金、残業、退職勧奨などは、実際に迷いやすい区分です。
表に入れていない区分は、法令違反の業務により離職した場合、職種転換等の際に必要な配慮が行われなかった場合、妊娠・出産や子の養育、家族の介護をする労働者への不利益取扱いなどです。全17区分の原文は、ハローワークのページで確認できます。
2.1 【特定受給資格者(会社都合にあたる区分)の主な範囲】
前提条件:ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」(2026年10月時点)の記載から、主な区分を抜き出して整理。全17区分のうち、法令違反の業務、職種転換への配慮、妊娠・出産等への不利益取扱いは省略1/2
倒産等のグループ
- 倒産:破産、民事再生、会社更生等の申立てや、手形取引の停止等に伴う離職です。
- 大量雇用変動:1か月に30人以上の離職を予定した届出、または被保険者の3分の1を超える人が離職したことによる離職です。
- 事業所の廃止:事業活動停止後に再開の見込みがない場合を含みます。
- 事業所の移転:移転により通勤することが困難になったための離職です。
解雇等のグループ
- 解雇:自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除きます。
- 労働条件の相違:労働契約の締結のときに明示された労働条件が、事実と著しく違っていたための離職です。
- 賃金:賃金の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかった、または、賃金が従前の85%未満に下がった(予見できなかった場合に限る)場合です。
- 時間外労働:離職の直前6か月のうち、連続3か月で45時間、1か月で100時間、または連続2か月以上の平均で月80時間を超えた場合です。
- 退職勧奨:事業主から直接または間接に退職するよう勧められたための離職です。恒常的な早期退職優遇制度への応募は該当しません。
- ハラスメント等:上司や同僚からの故意の排斥、著しい冷遇、嫌がらせ、事業主が把握しながら必要な措置をとらなかったセクハラ等です。
- 契約更新:3年以上更新されて雇われた後に更新されない、または、更新が明示されていたのに更新されない場合です。
- 休業:使用者の責めに帰すべき事由による休業が、引き続き3か月以上になったための離職です。
3. 【編集者の視点】
表の12行を見ると、「会社が倒産した」「解雇された」のように、分かりやすい出来事だけが対象ではないことが分かります。賃金が従前の85%未満に下がった、時間外労働が続いた、退職を勧められた、といった日々の出来事も、条件を満たせば区分に入ります。
一方で、「退職を勧められた」と感じても、恒常的に設けられている早期退職優遇制度に応募して辞めた場合は、この区分に当たらないとされています。自分で応募した形になるためです。
どの区分に当たるかは、事実関係で決まります。辞める前後の書類や記録が、判断のよりどころになります。
4. 判断が分かれやすい3つ:パワハラ、残業時間、退職勧奨
厚生労働省のQ&Aは、パワハラで退職した場合について、上司や同僚から「故意」にのけ者にされたり、著しい冷遇や嫌がらせ(いじめ、暴力、暴言など)を繰り返し受けたりして離職した場合に該当するとしています。
一方で、管理者が、部下の職務上の失態があった場合などに注意や叱責をすることは、通常起こり得ることとされ、そのことだけでは該当しないと書かれています。
時間外労働は、数字で決まっています。離職の直前6か月のうち、連続3か月で45時間、1か月で100時間、または連続2か月以上の平均で月80時間を超えた場合です。タイムカードや賃金台帳などで、時間を示せるようにしておくことが重要です。
Q&Aでは、手続のときに、離職理由を証明する書類等があれば持参するよう案内しています。特定の個人を対象にした配置転換や給与体系の変更があった場合は、配置転換の辞令の写し、就業規則、労働契約書、賃金台帳などが例に挙がっています。
5. 特定理由離職者:自己都合でも、正当な理由があれば別の区分になる
特定理由離職者は、特定受給資格者とは別の区分です。ハローワークの資料では、大きく2つに分かれています。1つ目は、期間の定めのある労働契約が満了し、更新されなかった人です。
この場合は、本人が更新を希望したにもかかわらず、更新の合意が成立しなかったときに限られます。契約更新条項が「契約の更新をする場合がある」とされているなど、更新について明示はあるが、確約まではない場合が、この基準に当たると説明されています。
2つ目は、正当な理由のある自己都合で離職した人です。体力の不足や疾病、家庭の事情の急変、通勤が困難になったことなどが挙げられています。給付制限の「正当な理由」の認定基準と同様に判断されるとされています。
5.1 【特定理由離職者の範囲:期間満了と、正当な理由のある自己都合】
前提条件:ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」(2026年10月時点)の記載による整理。正当な理由のある自己都合は、給付制限の「正当な理由」の認定基準と同様に判断される2/2
- 期間満了で更新なし:期間の定めのある契約が満了し、本人が更新を希望したが、更新の合意が成立しなかった場合です。
- 体力・心身の状態:体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力・聴力・触覚の減退等により離職した場合です。
- 妊娠・出産・育児等:妊娠、出産、育児等で離職し、受給期間の延長措置を受けた場合です。
- 家庭の事情の急変:父母の死亡、疾病、負傷等で扶養のために離職を余儀なくされた、または常時看護が必要な親族のために離職した場合です。
- 別居の困難:配偶者または扶養すべき親族と別居生活を続けることが困難になった場合です。
- 通勤の困難:結婚に伴う住所の変更、保育所の利用、事業所の移転、鉄道・バスの廃止や運行時間の変更、転勤・出向に伴う別居の回避などで、通勤が不可能または困難になった場合です。
- 希望退職の応募等:特定受給資格者の退職勧奨に該当しない、企業整備による人員整理等で、希望退職者の募集に応じて離職した場合です。
期間満了で更新されなかった人には、ハローワークが示す特例があります。受給資格に係る離職の日が令和9年3月31日までの間にある人に限り、所定給付日数が、特定受給資格者と同様になります。
この特例の期限は、2026年10月時点で、約半年後です。有期契約の更新時期が近い人は、契約の終了日を確認しておきたいところです。ただし、期限後の扱いは、2026年10月時点の資料からは確認できませんでした。
6. 離職理由で何が変わるか:必要な加入期間と、受け取れる日数
厚生労働省のQ&Aによると、雇用保険の基本手当は、原則として、離職前2年間に被保険者期間が12か月以上必要です。ただし、倒産・解雇等の理由で離職した場合や、期間の定めのある契約が更新されなかったことなどによる離職の場合は、離職前1年間に6か月以上で足ります。
所定給付日数も、離職理由で変わります。ハローワークの表では、特定受給資格者は、被保険者期間が1年未満なら全年齢で90日です。35歳以上45歳未満で、5年以上10年未満なら180日です。一般の離職者(自己都合等)は、同じ5年以上10年未満で90日です。
この差を、金額で見てみます。離職時に35歳以上45歳未満、被保険者期間が5年以上10年未満で、基本手当日額が同じ6000円と仮定した、編集部の試算です。特定受給資格者の180日なら108万円、一般の離職者の90日なら54万円で、差は54万円です。
実際の日額は、離職前の賃金で決まり、上限があります。この試算は、日数の違いを金額のイメージにするための仮定で、個別の額を示すものではありません。基本手当の計算の仕組みは、【雇用保険の基本手当】離職前6か月の賃金の5〜8割が90日から360日分。自己都合の給付制限は2025年4月から1か月に短縮されたでも整理されています。
7. 【編集者の視点】
同じ勤続年数でも、離職理由が違うだけで、受け取れる日数が2倍になることがあります。「会社都合」にあたるかどうかは、お金に直結するので、離職票の理由欄を、受け取ったその場で確認する習慣が大切です。
離職票は、離職の日の翌々日から10日以内に、会社が資格喪失届を出すことで、ハローワークから会社経由で本人に渡されます。10日を過ぎても届かないときは、会社に処理状況を確認し、それでも進まなければ、ハローワークに相談するよう案内されています。
離職理由を決めるのは、あくまでハローワークです。納得できない点があれば、手続のときに、遠慮なく伝えてください。
8. 懲戒解雇と、自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇
「懲戒解雇なら失業保険は出ない」という話を聞くことがあります。ハローワークの資料には、「懲戒解雇」という言葉は出てきません。出てくるのは、特定受給資格者の解雇から除かれる「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」です。
厚生労働省のQ&Aによると、自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇された場合(重責解雇)の給付制限は、3か月です。ここでの給付制限は、待期の7日が終わったあとに、基本手当が支給されない期間のことです。
つまり、重責解雇は、特定受給資格者としては扱われず、給付制限が3か月になります。ただし、「懲戒解雇」と記載されたことが、そのまま重責解雇になるのかは、本記事で確認した一次資料には書かれておらず、確認できませんでした。個別に、ハローワークが判断します。
自己都合の給付制限は、退職日が令和7年4月1日以降なら、原則1か月です。退職日から遡って5年間のうちに、2回以上、正当な理由なく自己都合退職して受給資格決定を受けた場合は、3か月です。
9. 定年退職:給付制限の記載は確認できず、受給期間の延長は2か月以内に
定年退職が、給付制限の対象になるかどうかは、ハローワークと厚生労働省のQ&Aに、明確な記載を確認できませんでした。Q&Aが給付制限の対象として挙げているのは、自己都合による退職と、重責解雇です。離職票の離職理由は、ハローワークで確認してください。
定年退職で、確かな点は、受給期間の延長です。基本手当の受給期間は、原則として、離職日の翌日から1年間です。しばらく仕事を探さず休養したい人は、離職日の翌日から2か月以内に、受給期間の延長を申請します。
ハローワークの案内では、60歳以上の定年等による退職者が、就職を希望しない期間(1年が限度)を申し出ると、その期間分が受給期間の1年に加算されます。手続には、「受給期間延長申請書」と離職票が必要です。
申請が遅れると、延長ができなくなります。厚生労働省のQ&Aは、65歳以上で離職して、一時金の支給を受ける人には、受給期間の延長制度が適用されないと注意しています。年齢と受け取る制度によって、扱いが変わります。
10. 離職票の理由が実際と違うとき:手続の場で伝え、証拠を持参する
厚生労働省のQ&Aによると、実際の退職理由は解雇なのに、離職票には自己都合退職と書かれているなど、記載が実際と違うときは、受給の手続のときに、管轄するハローワークの担当者へ、その旨を伝えるよう案内されています。
手続のときに、離職理由を証明する書類等があれば、持参します。ハローワークは、本人の主張、証拠書類、事業主の主張を確認したうえで、離職理由を決定します。
10.1 【離職理由が実際と違うとき:申出から審査請求までの流れ】
- 1 離職票の確認:離職票の離職理由が、実際の理由と合っているかを見ます。解雇なのに自己都合と書かれている、などの食い違いに注意します。
- 2 手続時に申し出る:受給手続のときに、管轄のハローワークの担当者へ伝えます。離職票が届かないときは、会社に確認し、進まなければハローワークへ相談します。
- 3 証拠書類を持参:離職理由を証明する書類等を持っていきます。配置転換の辞令の写し、就業規則、労働契約書、賃金台帳などが例です。
- 4 ハローワークが判定:本人の主張、証拠書類、事業主の主張を確認して決定します。決定するのは会社ではなくハローワークです。
- 5 不服なら審査請求:都道府県労働局の雇用保険審査官に、審査請求をします。期間は3か月以内で、文書または口頭で行えます。
厚生労働省のQ&Aによると、特定受給資格者または特定理由離職者として判定された人は、市区町村の保険料(税)の軽減措置を受けられる場合があります。対象は、受給資格者証の12欄「離職理由」に、11、12、21、22、23、31、32、33、34のいずれかが記載されている人とされています。詳しくは、市区町村の窓口に確認してください。
11. ハローワークの判定に納得できないとき:審査請求は3か月以内
ハローワークの離職理由の判定に不服があるときは、処分を行ったハローワークを管轄する都道府県労働局の雇用保険審査官に、審査請求ができます。厚生労働省のQ&Aは、請求の期間を、2つに分けて示しています。
1つ目は、所定給付日数の決定、つまり特定受給資格者に当たるかどうかの判定に不服がある場合です。この場合は、基本手当が支給終了となった認定日の翌日から数えて、3か月以内です。
2つ目は、給付制限に当たるかどうかの判定に不服がある場合です。この場合は、「○月○日から○月○日まで○日間は基本手当を支給しない」という処分があったことを知った日の翌日から数えて、3か月以内です。
審査請求は、文書または口頭で、雇用保険審査官か、処分を行ったハローワーク、または請求する人の住所地を管轄するハローワークを経由して行えます。文書で請求するときは、郵送もできるとされています。
12. まとめ
ハローワークの資料には「会社都合」という言葉は出てこず、制度上の名前は特定受給資格者です。倒産等と解雇等で、17の区分があります。自己都合でも、正当な理由があれば、特定理由離職者という別の区分になります。
離職理由によって、必要な被保険者期間(12か月と6か月)と、所定給付日数が変わります。期間満了で更新されなかった人の特例は、離職の日が令和9年3月31日までの間にある人が対象です。
重責解雇は給付制限が3か月です。「懲戒解雇」がそのまま重責解雇になるかは、確認できませんでした。定年退職では、受給期間の延長を、離職日の翌日から2か月以内に申請する必要があります。
離職票の理由が実際と違うときは、手続のときにハローワークへ伝え、証拠書類を持参します。判定に不服なら、3か月以内に審査請求ができます。個別の判定は、ハローワークに確認してください。
13. よくある質問
13.1 Q. 「会社都合」とは、制度上どういう区分ですか?
ハローワークの資料では、「特定受給資格者」と書かれています。倒産等と解雇等の2つのグループがあり、17の区分が示されています。
13.2 Q. 特定理由離職者とは、何ですか?
期間の定めのある契約が満了して更新されなかった人と、正当な理由のある自己都合で離職した人です。特定受給資格者とは別の区分です。
13.3 Q. 離職理由で、必要な被保険者期間は変わりますか?
変わります。原則は離職前2年間に12か月以上ですが、倒産・解雇等や、契約が更新されなかったことなどによる離職は、離職前1年間に6か月以上です。
13.4 Q. 懲戒解雇だと、失業保険は出ませんか?
ハローワークの資料に「懲戒解雇」という言葉は出てきません。自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇(重責解雇)は、給付制限が3か月です。懲戒解雇の扱いは、確認できませんでした。ハローワークで確認してください。
13.5 Q. 定年退職でも、失業保険はもらえますか?
受給の要件を満たし、失業の状態にあれば、受給できます。給付制限の扱いは、確認できませんでした。しばらく仕事を探さないときは、離職日の翌日から2か月以内に、受給期間の延長を申請します。
13.6 Q. 離職票の離職理由が、実際と違います。どうすればよいですか?
受給の手続のときに、管轄のハローワークの担当者へ伝え、離職理由を証明する書類等があれば持参します。ハローワークが、本人と事業主の主張を確認して、離職理由を決めます。
13.7 Q. ハローワークの判定に不服があるときは?
都道府県労働局の雇用保険審査官に、審査請求ができます。期間は、処分を知った日などの翌日から3か月以内です。起算の日は、所定給付日数の判定と、給付制限の判定で異なります。
13.8 Q. 期間満了で更新されなかった人の特例は、いつまでですか?
ハローワークの資料では、受給資格に係る離職の日が令和9年3月31日までの間にある人に限り、所定給付日数が特定受給資格者と同様になります。期限後の扱いは、確認できませんでした。
13.9 Q. 早く再就職したときの制度はありますか?
再就職手当という制度があります。計算に使う日額の上限などは、【令和8年8月改定】再就職手当の計算に使う日額上限は6745円に。支給残日数別に「もらえる額」を試算で整理されています。
参考資料
- ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」
- ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」
- ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
- ハローワークインターネットサービス「よくあるご質問(雇用保険について)」
- 厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」
齊藤 慧
