3. 「クラウド売上が急増すれば」は解決策になるか?
ここで聞き手から、クラウドの売上がもっと急に伸びれば、利益の見え方も変わるのではないかという疑問が出ました。
木村氏の答えは、一概には言えないというものでした。
「一概に言えなくて、なぜならこれってクラウドの売上の予測に基づいて設備投資の予測をしているので、ここがもし変わるとしたら、クラウドの売上を上げるのに必要な設備投資がもっと少なくて済む、例えば半導体の価格が下がるとか、データセンターそんなにお金かけて作らなくてもクラウドの売上が作れるみたいな。ROIC、設備投資に対して戻ってくる売上が増えないと、ちょっと難しいかもしれません」
試算では、設備投資はクラウドの売上を立てるために必要な量として出しています。売上が増えれば、それを支えるサーバーやデータセンターも増やさなければなりません。売上が速く伸びるほど、減価償却費のもとになる設備投資も速く増えるわけです。
利益の伸びを変えられるのは、同じ売上をより少ない設備投資で作れるようになったとき、つまりROIC(投下資本利益率。投じた資本に対してどれだけ利益が戻るかを示す指標で、木村氏はここで「設備投資に対して戻ってくる売上」という意味で使っています)が上がったときです。
泉田氏は、ROICとWACC(加重平均資本コスト=資金を集めるのにかかるコスト)の関係から、次のように補足します。
「元々GoogleとかMetaってアセットライト、投資が少なくてリターンが上がるビジネスだったのに、投資をしないと売上ないしはリターンが出てこないとなっていて、今ご承知のように金利世界中で上がっているけど、こういったハイパースケーラーのROICがガーッと下がってきている」
泉田氏の見立てでは、少ない投資で高いリターンを上げてきた会社のROICが下がる一方、金利の上昇で資金を集めるコストは上がっています。
「変な話、ROICがWACCを下回っちゃうと企業価値破壊していることになるので」(泉田氏)
投資のリターンが資金のコストを下回れば、投資するほど企業の価値を減らすことになります。木村氏も、設備投資の必要な新しい事業でしっかりリターンが取れるのかを、投資家はとても厳しく見ていると話します。
4. 投資判断に活かすための観測点
ここまで、ハイパースケーラーが直面している設備投資と利益の構造について見てきました。木村氏は、これらの銘柄の株価を見る上で最も重要なポイントを次のように結論づけます。
「ハイパースケーラー側は、彼らの営業利益が今後伸びるのか伸びないのか、それに一番影響を与えるのが設備投資から発生する減価償却費がどうなるか、設備投資によって今リターンを得ているデータセンター事業、クラウド事業がそこのROICが改善するのかしないのか、そこが非常に重要だと思います」
木村氏の試算では、2027年に減価償却費は+63%増える一方、売上は+20%にとどまり、営業利益の伸びは+6%まで鈍ります。この差を縮めるのは売上の規模ではなく、設備投資1ドルあたりに戻ってくる売上です。各社のクラウド事業の数字を見るときは、売上がどれだけ増えたかより、設備投資の増え方と比べて売上や利益が伸びているかを確かめることが、ハイパースケーラー株を判断する材料になると考えられます。半導体が安くなる、少ない設備で同じサービスを出せるようになるといった変化は、この比率を押し上げる方向に働きます。
ただし、この試算には触れていない要素もあります。試算は、既存事業でコスト削減をしない前提です。木村氏は、ハイパースケーラーには余力があるので、既存事業のROICを上げるコスト削減などで利益を伸ばしにいくのではないかと見ています。また、耐用年数の議論が「もっと短い」方向に進めば、減価償却費は試算より早く重くなります。試算は「新規受注がいまの水準で横ばい」という1つのシナリオであり、会社の予想ではありません。
参考資料
- 木村敬子氏作成資料「イズミダイズム:ハイパースケーラー」(2026年9月)
- Alphabet Inc. 決算開示資料
- Meta Platforms, Inc. 決算開示資料
- Amazon.com, Inc. 決算開示資料
- Microsoft Corporation 決算開示資料
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
※リンクは記事作成時点のものです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日