日本を代表する巨大企業であるNTT(NTT株式会社)。多くの人は「固定電話の会社」や「NTT東日本・西日本」というイメージを持っていますが、実態は利益の約6割を携帯電話の「ドコモ」が稼ぐ、通信とITの複数の事業を抱える企業グループ(コングロマリット)です。しかし、巨大企業ゆえに大きな利益成長は見込みにくく、通期の会社予想では営業利益がほぼ横ばい、最終利益は減益の見通しです。一体なぜ、本業の成長が鈍化する中で、NTTは次世代技術「IOWN(アイオン)」に研究開発・投資を進め、世界の巨大IT企業を巻き込んだ規格争いに挑んでいるのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏がNTTの事業構造と成長戦略を分析し、巨大企業が描く次なる勝ち筋を解説します。

この記事のポイント

  • NTTの利益の約6割は「ドコモ」が稼ぎ出しており、固定電話などの地域通信事業の割合は2割に満たない
  • 足元は増収増益だが、巨大企業ゆえに通期の会社予想は営業利益がほぼ横ばい・最終利益は減益で、新たな成長ドライバーが求められている
  • 次世代の成長の芽である「IOWN(光電融合)」構想は、世界的なデータセンターの電力消費課題を解決する可能性を秘めている
  • 規格争いで勝つための鍵は技術力だけでなく、過去に数々の覇権争いを経験してきた「ソニー」の存在にある
  • 投資の観測点は、IOWNがどの領域で採用され、NTTがそれをどう収益化するかのビジネスモデルの開示にある

1. 「固定電話の会社」ではないNTTの本当の稼ぎ頭

1.1 実は利益の約6割をドコモが稼ぐ

NTTと聞いて、多くの人が最初に思い浮かべるのは固定電話や、NTT東日本・西日本といった地域通信の事業でしょう。泉田氏は、昔のイメージではNTT東日本・西日本、NTTコミュニケーションズぐらいだったと振り返り、聞き手もNTTコミュニケーションズのイメージがあると応じます。そのうえで泉田氏は、いまのNTTはそれだけではないと指摘します。

「NTTって一口に言っても、通信キャリアの東日本西日本だけじゃないのよ。もう移動通信も入ってますから」

現在のNTTの事業セグメントは、大きく4つに分かれています。NTTドコモやNTTドコモビジネスを含む「総合ICT事業」(ICTは情報通信技術のこと)、NTTデータが担う「グローバル・ソリューション事業」、NTT東日本・西日本の「地域通信事業」、そして不動産やエネルギーなどの「その他」です。

2024年度の営業利益の構成比を見ると、その実態がはっきりと浮かび上がります。利益全体の60.2%を「総合ICT事業」が稼ぎ出しており、次いで「グローバル・ソリューション事業」が19.1%を占めています。私たちがNTTの本業だとイメージしがちな「地域通信事業」が利益に占める割合は、わずか17.4%に過ぎません。つまり、現在のNTTの実態は、携帯電話を中心とした通信事業と、グローバルに展開するITサービス事業が収益の柱となっているのです。

NTTのセグメント別営業利益構成比(2024年度)1/4

NTTのセグメント別営業利益構成比(2024年度)

出所:NTT「統合報告書2025」を基にイズミダイズム作成

1.2 足元の決算に見る巨大企業ゆえの「成長の壁」

収益構造が変化しているとはいえ、NTTは日本屈指の巨大企業です。その規模の大きさゆえに、直面している課題もあります。

2026年度(2027年3月期)第1四半期の決算を見ると、営業収益(売上高に相当)は3兆6,177億円で前年同期比10.9%増、営業利益は4,251億円で同4.9%増、最終利益は2,748億円で同5.8%増となりました。増収増益ではあるものの、売上の伸びに対して利益の伸びが弱い形です。

さらに、通期の会社予想(第1四半期時点)では、営業収益が約15兆円(前年比4.5%増)を見込む一方で、営業利益は1兆7,100億円(同0.2%増)とほぼ横ばい、最終利益は9,800億円(同5.5%減)の減益を見込んでいます。

泉田氏はこの業績見通しについて、巨大企業であるがゆえに急激な利益成長は見込みにくい状態にあると分析します。何もしなければ利益はフラットな状態が続くため、株式市場からは「これ以上の成長はない」と織り込まれてしまうリスクがあります。だからこそ、NTTは次なる成長の柱を育てる必要があるのです。

2. 次世代の成長の芽「IOWN」と光電融合とは何か

2.1 光と電気の変換ロスをなくす

利益成長が横ばいとなる中、NTTが次世代の成長ドライバーとして注力しているのが「IOWN」構想です。この構想の中核となる技術が「光電融合」と呼ばれるものです。

私たちが普段インターネットを利用する際、家の手前までは光ファイバーでデータが送られてきますが、家の中のルーターやスイッチに到達した段階で、光信号から電気信号に変換されています。泉田氏はこの変換プロセスに大きな課題があると指摘します。

「光から電気にする時にロスっていうのが発生するんですよね。熱を持ったりそのスピードが落ちたりとかするんですけども、今そういう状況です。なのでここに無駄がある、非効率さがまだ残っているという状態なんですよ」

データセンターでも同様に、サーバーやルーターを経由するたびに光と電気の変換が繰り返されています。この変換によるエネルギーロスと発熱が、AIの普及によって膨大な電力を消費する現代のデータセンターにおいて、大きな課題になりつつあるのです。光電融合は、この無駄をなくし、光のまま情報処理を行うことを目指す技術です。

2.2 長距離から半導体内部へと進むロードマップ

NTTは2023年発表の中期経営戦略で、光電融合デバイスの製造会社の設立を打ち出し(NTTイノベーティブデバイスとして設立済み)、IOWN構想を1.0から4.0までのフェーズに分けて推進するロードマップを描いています。

  • IOWN1.0(2022年度〜): データセンター間など、距離の長いネットワーク向けの光化
  • IOWN2.0(2025年度〜): サーバー内のボード(基板)間を接続する通信の光化
  • IOWN3.0(2029年度〜): 基板上に搭載された半導体チップ間の通信の光化
  • IOWN4.0(2030年度以降※): 半導体チップの内部そのものの光化

(※統合報告書やIR説明会等の別資料では、IOWN4.0の商用化を2032年頃としています)

最終的なIOWN4.0の段階では、電力効率を100倍へ引き上げるという目標が掲げられています。これは遠い未来の夢物語だけではありません。2025年の大阪・関西万博のパビリオンでは、IOWN2.0の技術を活用して電力消費量を8分の1にするコンピューターを実現したとNTTは発表しており、2.0の段階までは実用化が進んでいます。

距離の長いネットワーク領域から着手し、徐々に半導体内部の微細な領域へと光化を進めていくこのアプローチについて、聞き手が「通信網を持つNTTならでは」と水を向けると、泉田氏は半導体の処理を光で行うという発想そのものに通信技術の強みが活きると応じます。

「半導体って普通に考えると電気信号で0101を作って処理してるんだけど、これを光で処理させてやろうっていう発想で、これはやっぱり通信技術に強みを持つというふうには思うんですよね」

IOWN構想のロードマップ2/4

IOWN構想のロードマップ

出所:NTT「中期経営戦略 New value creation & Sustainability 2027 powered by IOWN」(2023年5月12日)を基にイズミダイズム作成