光ファイバーや電線で知られ、フジクラや住友電気工業と並ぶ「電線御三家」の一角を占める古河電気工業。ITインフラを支える企業として広く知られていますが、実は前期(2026年3月期)の決算では、同社の利益の約4割を稼ぎ出していたのは自動車向けの部品事業でした。電線の会社だと思っていたのに、なぜ自動車部品が最大の稼ぎ頭なのでしょうか。そして今、その安定した収益源からあえて軸足を移し、事業構造を大きく変えようとしているのはなぜでしょうか。元機関投資家の泉田良輔氏の解説をもとに、古河電工の今の稼ぎ頭と次の主力、その間の資源配分、そしてその判断が正しかったかを確かめる方法を整理します。

この記事のポイント

  • 前年度の古河電工の営業利益の約4割は自動車部品だったが、会社は光ソリューション・情報コンポーネントへの主力交代を打ち出している
  • 直近の好決算は、光ソリューションと情報コンポーネントの売上増が力強く牽引している
  • 事業転換の成否は、巨額の投資を向けるデータセンター関連事業のROIC(投下資本利益率)で検証される

1. 電線御三家の意外な稼ぎ頭とは

古河電工がどのような事業で収益を得ているのか、まずはその全体像から見ていきましょう。同社の事業は多岐にわたりますが、2026年3月期(2025年度)の実績を見ると、売上高が最も大きいのは「メタルソリューション」事業です。しかし、営業利益の観点で見ると景色が変わります。

同年度の連結営業利益639億円のうち、最大の稼ぎ頭となっているのは「自動車電装システム」事業であり、264億円を稼ぎ出しています。これは全体の約4割にあたります。

セグメント別営業利益1/4

セグメント別営業利益

出所:古河電気工業「2026年度第1四半期決算 説明会資料」(2026年8月6日)を基にイズミダイズム作成

電線の会社でありながら自動車部品が利益の約4割を占めていたことについては、インタビュアーのウリちゃんも「個人的には意外だった」と感想を述べています。自動車電装システム事業は、電化が進む自動車向けの電装部品を手がけています。泉田氏はこの事業の立ち位置について、次のように分析します。

「自動車の電装システムは営業利益率7.4%。これは自動車部品にしてはそこそこという感じで、めちゃめちゃ稼いでいるわけではないけれど、悪いわけでもない」

自動車業界の構造として、最終的な完成車メーカーに製品が届く手前には、電装を得意とする部品メーカーが存在します。古河電工はそうした企業に部品を納入するポジションにあり、泉田氏は7.4%という利益率を、その立ち位置からすれば「大体これぐらい」の水準だと見ています。

一方で、現在株式市場から熱い視線を集めているデータセンター関連の事業はどうでしょうか。古河電工では、データセンター関連として注目されるのが「情報コンポーネント」と「光ソリューション」の2つのセグメントです。2025年度の実績では、情報コンポーネントが159億円、光ソリューションが107億円の営業利益を上げています。これら2つを足し合わせると266億円となり、現在の稼ぎ頭である自動車電装システム(264億円)とほぼ同規模に成長していることが分かります。

2. 利益を押し上げたデータセンター関連事業

自動車部品とデータセンター関連事業が利益を二分する構造の中、2026年8月6日に発表された2027年3月期第1四半期(FY26 Q1)の決算は、1年前とは様変わりするほどの好業績となりました。

売上高は前年同期比24.3%増の3,652億円、営業利益は同205.4%増の255億円、そして最終的な純利益は同335.0%増の222億円と、力強い数字が並びました。この大幅な増益は、一体何が牽引したのでしょうか。

前年同期の営業利益83億円から、今期の255億円へと171億円増益した中身を分解すると、その構造が見えてきます。

第1四半期の営業利益増減2/4

第1四半期の営業利益増減

出所:古河電気工業「2026年度第1四半期決算 説明会資料」(2026年8月6日)を基にイズミダイズム作成

最大の増益要因は「売上増」によるプラス114億円です。このうち、光ソリューションと情報コンポーネントの2事業だけで91億円を稼ぎ出しています。次いで大きいのが「改善効果等」によるプラス93億円(泉田氏はコストダウンなど生産プロセス面の改善とみています)で、ここでも光ソリューションが44億円と大きく貢献しています。

一方で利益を押し下げたのは、人件費の増加(26億円増)を含む「その他固定費」のマイナス53億円と、「減価償却費・研究費」のマイナス2億円です。これらに為替のプラス19億円を加えることで、合計171億円の増益となります。

この決算の数字から読み取れる事業の性質について、泉田氏は次のように指摘します。

「売上が増えてここまで利益が増えるということは、やっぱり限界利益率が高いビジネスなのかなと思っています」

限界利益率が高いビジネスとは、売上が増えた際に、それに伴って増える変動費が少なく、利益が手元に残りやすい構造を指します。データセンター向けの需要増が、そのまま利益の急拡大に直結していることがうかがえます。

では、この利益を牽引している光ソリューションと情報コンポーネントとは、具体的に何を作っているのでしょうか。

光ソリューション事業では、「Lightera(ライテラ)」と呼ばれるブランドで低損失の光ファイバーや光ケーブル全般、光接続製品を展開しているほか、FTTH(家庭向け光ファイバー通信)システムや無線システム、ネットワークルータなどのブロードバンドネットワーク機器を手がけています。

一方の情報コンポーネント事業はさらに多岐にわたります。半導体製造用のテープや断熱材などの機能樹脂に加え、熱をコントロールする放熱製品(高性能ヒートシンク、ヒートパイプ、ベーパーチャンバー、水冷モジュールなど)を展開しています。さらに、ハードディスク用のアルミブランク材、回路基板やリチウムイオン電池に使われる電解銅箔、そして次世代技術として注目される光電融合デバイスなども含まれます。

総じて言えば、データセンターの根幹をなすネットワークインフラと、その周辺で必要となる高度なハードウェア部材を提供しているのが、これら2つの事業なのです。

3. 主力の交代を宣言した中期経営計画

足元の業績をデータセンター関連事業が牽引していることが分かりましたが、古河電工は今後の会社のかたちをどのように描いているのでしょうか。2026年5月19日に発表された中期経営方針「古河電工グループ ビジョン2030の実現に向けた経営方針」には、大胆な事業構造の転換が示されています。

この計画の中で会社は、2029年3月期(FY28)の到達水準として、光ソリューションで370億円、情報コンポーネントで990億円の営業利益を出すという目標を掲げました。この2事業を合わせると1,360億円となり、会社全体で計画している連結営業利益1,700億円の80.0%を占める計算になります。

「会社全体の80%を、この光ソリューションと情報コンポーネントで叩き出すぞというのが目標になっています」

泉田氏がこう語るように、これはまさに「主力の交代」を宣言した計画だと言えます。

売上の伸びを見ても、その意気込みは明らかです。情報コンポーネント事業の売上高は、2025年度の実績1,980億円から、今期予想(5月12日時点)の3,100億円へ、そして2028年度には6,600億円へと急拡大させる計画を描いています。

情報コンポーネント売上推移3/4

情報コンポーネント売上推移

出所:古河電気工業「古河電工グループ ビジョン2030の実現に向けた経営方針」(2026年5月19日)を基にイズミダイズム作成。2026年度予想は5月12日公表時点の値

なぜ光ソリューション(光ファイバーなど)よりも、周辺部材である情報コンポーネントの売上を大きく伸ばす計画なのでしょうか。この点について泉田氏は次のように読み解きます。

「一旦光ファイバーを引いてしまえば終わってしまうので、その後のところが伸びる余地があると会社は思っている、ということなんですよね」

一方で、これまで利益の約4割を稼いできた自動車電装システム事業の計画は対照的です。売上高は3,575億円(2025年度実績)から3,600億円へとほぼ横ばいで推移する計画であるのに対し、営業利益は264億円(2025年度実績)から今期予想で230億円、そして2028年度には210億円へと減益になる計画が示されています。

自動車部品という安定した事業でありながら、なぜこのような計画になっているのでしょうか。泉田氏はこの数字の背景について、次のように推測します。

「あえてリソース割かないっていうことなのかもしれない。(中略)『決まった量の仕事はしますよ』ぐらいのスタンスで、積極的に取りに行かないっていう判断なのかもしれない」

なお、この自動車電装システムの減益について、会社側は「2026〜2028年は先行投資により利益が一時的に低下する」とし、「2030年には投資回収局面に入り、2025年度並みの水準まで回復できると考える」と説明しています(2026年6月5日の自動車電装システム事業説明会の質疑応答)。いずれにしても、少なくとも今後数年間は、会社の成長エンジンをデータセンター関連へ明確にシフトさせる計画です。

この方針は、生み出した現金をどこに投資するかという「キャピタルアロケーション(資本配分)」にもはっきりと表れています。2026年度から2030年度までの5年間で、会社は総額6,600億円(資料p.14の記載。p.13では6,500億円)の投資を計画していますが、そのうち5,000億円をデータセンター関連を中心とした「注力分野への投資」に振り向けるとしています。