4. 巨額投資の成否を測る「ROIC」というモノサシ

これほどまでに大規模な資源配分の転換を行った会社の判断は、果たして正しかったのでしょうか。その答え合わせをするための重要な指標が「ROIC(投下資本利益率)」です。

ROICとは、過去に事業へ投下した資産(資本)に対して、どれだけの利益を生み出しているかを示す指標です。巨額の設備投資や研究開発を行えば、分母となる投下資本が膨らむため、それに見合うだけの圧倒的な利益(分子)を稼ぎ出さなければ、ROICは向上しません。

古河電工の中期経営方針の資料(Appendix)には、事業ごとのROICと売上高成長率の関係を示した散布図が掲載されています。過去の推移(2021年度から2025年度まで)を見ると、かつてマイナス圏に沈んでいた自動車部品・電池事業のROICが、プラス圏へと大きく改善していることが分かります。

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セグメント別ROIC(25中計期間)

出所:古河電気工業「古河電工グループ ビジョン2030の実現に向けた経営方針」(2026年5月19日)p.34

過去のデータでは自動車部品の改善が目立ちますが、投資家が今後注目すべきは別の場所にあります。

「今年が終わった後に、データセンター周りの事業の円の大きさとそのROIC成長率がどこまで右上にきているか。これが本当に来ていればキャピタルアロケーション正しいねって話になる」

会社が5,000億円もの注力分野への投資を行う以上、今期以降、データセンター関連(光ソリューション・情報コンポーネント)のROICが大きく伸びていかなければ、その投資は説明がつかない。インタビュアーのこの見方に、泉田氏も同意しています。もし期待したほどROICが伸びない結果となれば、安定して稼げる自動車事業をもう一度見直すという議論が出てくる可能性もあると泉田氏は指摘します。

自動車部品からデータセンターへと大きく舵を切った古河電工ですが、事業の根底にある構造には共通点があります。それは、どちらの道を選んでも「巨大な顧客」の動向に左右されるというBtoB(企業間取引)企業としての宿命です。

インタビュアーから「より景気に敏感な領域へ突き進んでいるのではないか」という疑問が投げかけられると、泉田氏は次のように答えます(発言中の具体的な企業名は一般的な呼び方に置き換えています)。

「これはBtoBの宿命なんだけど、自動車に行っても最終的には完成車メーカーがいる。こっちも最終的にはハイパースケーラーがいる。どこに行っても大手顧客がいるっていう状況なので、どっちの方がビジネスしやすいか、あとは利益を取りやすいか、売上を伸ばしやすいかって話にしかならないのかな」

ハイパースケーラーとは、巨大なデータセンターを自ら運営する大手IT企業のことです。

5. まとめ

古河電工は現在、安定した自動車部品の会社から、データセンターのインフラを支える高成長企業へと、自らを測るモノサシを入れ替えようとしています。

直近の第1四半期は売上高が24.3%増えたのに対し、営業利益は約3倍になりました。牽引したのは光ソリューションと情報コンポーネントで、泉田氏はその背景に限界利益率の高さがあるとみています。2028年度に営業利益の8割を光ソリューションと情報コンポーネントで稼ぐという会社の目標に向け、事業構造の転換は着実に進んでいるように見えます。

私たちが今後の決算を見る上で注目すべきは、データセンター関連(光ソリューション・情報コンポーネント)の「ROIC」と「利益の規模」です。会社が投じた巨額の資本に見合うだけの利益を叩き出し、ROICが右肩上がりに伸びていくかどうかが、この大胆な事業転換の成否を測るモノサシになります。

ただし、今回の分析で参照したROIC散布図は旧セグメントの区分で作成されており、かつ2025年度までのデータであるため、現在の急成長がまだ反映されていない点には注意が必要です。また、自動車電装システムについても、会社側は2030年に向けて利益水準が回復するという見通しを示しています。今期から事業区分が変わったため、同じ形のROICの図が今後も開示されるとは限りません。さらに、巨大IT企業によるAI向け設備投資のペースが今後どう変わるかという外部環境のリスクも、本記事では扱っていません。

本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資の最終判断はご自身の責任でお願いします。

参考資料

  • 古河電気工業株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年8月6日)
  • 古河電気工業株式会社「2026年度第1四半期決算 説明会資料」(2026年8月6日)
  • 古河電気工業株式会社「業績予想の修正に関するお知らせ」(2026年8月6日)
  • 古河電気工業株式会社「古河電工グループ ビジョン2030の実現に向けた経営方針」(2026年5月19日)
  • 古河電気工業株式会社「事業説明会 光ソリューション領域」(2026年6月5日)
  • 古河電気工業株式会社「事業説明会 情報コンポーネント領域」(2026年6月4日)
  • 古河電気工業株式会社「自動車電装システム事業説明会 質疑応答」(2026年6月5日)
  • YouTubeチャンネル「イズミダイズム」

各資料の入手先: 古河電気工業株式会社 IRライブラリ

※リンクは記事作成時点のものです。