3. 所得税の負担割合は「5000万円超1億円以下」の26.2%が最も高く、1億円超は21.1%
申告所得税標本調査には、所得階級ごとに所得税がどれくらいの割合になっているかを示した表もあります。所得が増えるほど負担割合が上がるとは限らないのが、この表の特徴です。
【所得階級別の所得税及び復興特別所得税の負担割合(令和6年分)】
- 500万円超1000万円以下:7.4%
- 1000万円超2000万円以下:15.0%
- 2000万円超5000万円以下:23.0%
- 5000万円超1億円以下:26.2%
- 1億円超:21.1%
- 総平均:15.3%
負担割合は、平均税額を平均所得金額で割ったものです。住民税は含まれていません。令和6年分の平均税額は、定額減税を含む税額控除を差し引いたあとの金額です。
3.1 株式等の譲渡所得等は所得税15%の申告分離課税
株式等を売って得た所得は、ほかの所得と分けて税額を計算する「申告分離課税」です。国税庁によると、上場株式等・一般株式等のどちらの譲渡所得等も税率は20%(所得税15%、住民税5%)で、あわせて所得税額の2.1%の復興特別所得税がかかります。
所有期間が5年を超える土地や建物を売ったときの長期譲渡所得も、所得税の税率は15%(住民税5%)です。
3.2 給与などの総合課税は所得税5%から45%の累進税率
一方、給与所得や事業所得などは合計して税額を計算する総合課税で、所得税の税率は5%から45%の7段階です。課税される所得金額が4000万円以上の部分には45%がかかります。
所得1億円超の層では、所得の約7割を株式等の譲渡所得等と分離長期譲渡所得が占めています。税率が一定の分離課税の所得が多いほど、所得全体に対する負担割合は下がりやすくなります。これが、いわゆる「1億円の壁」と呼ばれる現象です。
4. 令和7年分から始まった「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」
こうした負担の差を受けて、令和5年度税制改正で「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」が導入され、令和7年分の所得税から適用されました。国税庁はこの措置の対象を次のように説明しています。
令和5年度税制改正(※1)において、税負担の公平性を確保する観点から、おおむね平均的な水準として30億円を超える高い所得を対象として、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置(租税特別措置法第41条の19に規定する「特定の基準所得金額の課税の特例」)が導入されました。
出所:国税庁「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置について」
4.1 基準所得金額が3億3000万円を超える部分の22.5%と、通常の所得税額を比べる
しくみは、その年の基準所得金額から3億3000万円を差し引き、その22.5%にあたる金額を出すというものです。この金額が基準所得税額を上回る場合に、上回った分の所得税を追加で納めます。
基準所得金額には、確定申告をしなくてもよい上場株式等の配当所得や譲渡所得等の金額も含まれます。基準所得税額は、通常の方法で計算した所得税の額と、確定申告をしなかった所得の源泉徴収税額を合計したもの(復興特別所得税を含む)です。
4.2 令和8年度税制改正の大綱では、令和9年分以後「1億6500万円超・30%」に見直す
令和7年12月26日に閣議決定された「令和8年度税制改正の大綱」には、この措置の見直しが盛り込まれました。対象となる基準所得金額を1億6500万円超(現行は3億3000万円超)とし、税率を30%(現行は22.5%)に引き上げる内容で、令和9年分以後の所得税に適用するとされています。
5. 資産1億円の富裕層と所得1億円超の申告納税者は、数え方の違う別の集団
ここまで「1億円」という同じ数字で、資産の富裕層と所得の申告納税者を見てきました。2つの統計は数え方が違うため、165.3万世帯と3万2244人をそのまま比べることはできません。
5.1 富裕層は世帯の資産、申告納税者は1人ひとりの1年間の所得で数える
野村総合研究所の富裕層は、ある時点で世帯が持っている純金融資産の額で分けた推計です。申告所得税標本調査は、1人ひとりがその1年間に得た所得を、確定申告の内容から集計しています。
また申告納税者は、申告納税額がある人に限られます。確定申告をしなくてもよい所得だけの人や、還付申告をした人は、所得が多くてもこの統計には入りません。
5.2 資産が多くても、毎年の所得が多いとは限らない
銀行で資産のご相談に携わっていた頃も、まとまった預金や相続した不動産をお持ちでありながら、毎年の収入は年金と利息が中心という方は少なくありませんでした。資産の額と1年間の所得は、必ずしも連動しません。
反対に、所得1億円超の層では株式等や土地・建物を売って得た所得が大きな割合を占めています。売却した年だけ所得が大きくなることもあるので、所得の統計は「その年に何を売ったか」に左右される面があります。
6. まとめ
野村総合研究所の推計では、純金融資産1億円以上の富裕層・超富裕層は2023年に合計165.3万世帯でした。国税庁の令和6年分の申告所得税標本調査では、合計所得金額1億円超の申告納税者は3万2244人で、所得の51.3%を株式等の譲渡所得等が占めています。
所得税の負担割合は5000万円超1億円以下の26.2%が最も高く、1億円超では21.1%でした。令和7年分からは所得がきわめて高い人を対象にした措置が始まり、令和8年度税制改正の大綱では令和9年分以後の見直しも示されています。富裕層の数字を見るときは、資産と所得のどちらで数えたものかを確かめておくと読み違えを防げます。
参考資料
- 国税庁「令和6年分 申告所得税標本調査 標本調査結果」
- 国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
- 国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」
- 国税庁「No.2260 所得税の税率」
- 国税庁「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置について」
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)」
- 野村総合研究所「野村総合研究所、日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯、その純金融資産の総額は約469兆円と推計」
中本 智恵