「新富裕層」という言葉を見かけて、「富裕層」「準富裕層」とはどう違うのだろうと立ち止まった方も多いはずです。似た言葉が増えるほど、かえって基準があいまいに感じられます。
結論から言うと、「準富裕層」は野村総合研究所(NRI)が明確な金額基準を定めた正式な階層名である一方、「新富裕層」にはそうした一次資料の定義が見当たりません。NRIの一次資料に立ち返り、言葉の中身を一つずつ整理していきます。
なお、富裕層の定義や割合に関する詳しい説明は、下記の記事より一部を引用・参照しています。
1. 「新富裕層」とは?NRIの5階層にある言葉なのか確認する
まず、これまで整理されてきた基準を確認したうえで、「新富裕層」という言葉がどこに位置づけられるのかを見ていきます。
1.1 NRIの5階層のおさらい
NRIは、預貯金・株式・投資信託などの金融資産の合計額から負債を差し引いた「純金融資産保有額」をもとに、全世帯を超富裕層・富裕層・準富裕層・アッパーマス層・マス層の5階層に分類しています。
このうち「準富裕層」は、純金融資産5000万円以上1億円未満の世帯を指す正式な階層名で、2023年時点で403.9万世帯、日本の総世帯の7.25%を占めます。金額基準がはっきり定められている言葉です。
1.2 「新富裕層」は、この5階層のどこにも当てはまらない
一方「新富裕層」は、超富裕層・富裕層・準富裕層・アッパーマス層・マス層という5階層の名称には含まれません。ただし、こちらは後述するように、NRIが別の切り口で言及している概念と関わりがあります。
1.3 【純金融資産保有額の階層別にみた世帯数(2023年)】
NRIの5階層(新富裕層はいずれにも該当しない)
- 超富裕層(5億円以上):11.8万世帯
- 富裕層(1億円以上5億円未満):153.5万世帯
- 準富裕層(5000万円以上1億円未満):403.9万世帯
- アッパーマス層(3000万円以上5000万円未満):576.5万世帯
- マス層(3000万円未満):4424.7万世帯
「準富裕層」の詳しい基準や該当ラインについては、【最新データ】日本の富裕層の割合は?年代別の平均貯蓄額と年収別データから見る資産形成の最適解でも取り上げています。
2. 【編集者の視点】
資産や制度に関する新しい言葉を見かけたときは、まず発信元を確認する習慣をおすすめします。個人のブログやまとめサイトが広めた言葉なのか、研究機関や官公庁が定義した言葉なのかで、信頼度は大きく変わります。
NRIの一次資料であれば、ニュースリリースや「NRI Management Review」のようなレポートに、金額基準や調査方法とあわせて用語が記載されています。こうした一次資料に用語そのものが見当たらない場合、二次的な言い換えである可能性を疑ってよいでしょう。
資産形成の相談窓口でこうした言葉を使う場合も、「その言葉の基準は何を根拠にしていますか」と一度確認してみると、担当者の説明の裏付けが分かり、納得感を持って話を聞けます。
「準富裕層」のように金額基準が明記された言葉であれば、自分が該当するかどうかを、預貯金や株式などの資産を実際に洗い出すことで確認できます。基準がはっきりしている分、次にとるべき行動も具体的になります。
3. 「新富裕層」の実像は、NRIが示す「いつの間にか富裕層」と「パワーファミリー」
「新富裕層」という言葉自体はNRIの一次資料に見当たりませんが、関連する内容は別のレポートで具体的に紹介されています。
3.1 NRIレポートが示す「新たな富裕層タイプ」
NRIが2025年3月に公表した「NRI Management Review」No.12の「新たな富裕層タイプと金融機関のアプローチ方法」では、従来型の富裕層とは異なる2つのセグメントを紹介しています。
1つ目は「いつの間にか富裕層」、2つ目は「パワーファミリー」です。「新富裕層」と検索して知りたい実像は、多くの場合この2つのどちらかに当てはまります。
同レポートによると、「いつの間にか富裕層」の規模は数十万人であり、富裕層のうちの1割程度を占めるとされています。決して例外的な少数ではなく、一定のボリュームを持つ層として位置づけられています。
3.2 従来型の富裕層は法人オーナー・地主が中心
同レポートによると、純金融資産5億円以上の富裕層(超富裕層)の半数以上は、上場・非上場法人オーナーが占めています。地主も比較的多い属性とされ、先祖代々引き継がれてきた土地を持ち、賃貸アパートや駐車場を経営するケースが紹介されています。
この「代々受け継いだ資産を持つ層」が従来型の富裕層像であり、「新富裕層」という言葉は、この従来型と対比する形で使われることが多いとみられます。
同レポートでいう「地主」とは、主な収入源が事業や給与所得ではなく不動産収入であり、それによって生計を立てている人を指します。地元の名家や名士も多く、先祖代々引き継がれてきた土地を持ち、賃貸アパートや駐車場を経営しているケースが紹介されています。
3.3 従来型の富裕層は対面証券が中心
同レポートは、法人オーナーの資産運用行動についても調査結果を紹介しています。資産運用のメイン先を対面証券と回答した法人オーナーは66%だったのに対し、投資経験のある一般生活者(50代以上)では39%にとどまりました。
都市銀行や地方銀行、ネット証券をメインとする割合は、法人オーナーの方がむしろ低い結果でした。長年にわたって対面での関係を築いてきた金融機関を、引き続き主な窓口としている様子がうかがえます。
一方で、ネットショッピングモールや交通手段のオンライン予約、無料通話・チャットアプリ、SNSの利用率は、法人オーナーの方が一般生活者より高い結果でした。クレジットカードの利用明細確認や証券会社のオンライントレードでは、法人オーナーと一般生活者の間に大きな差はありませんでした。
事業を営むうえで出張などの移動が多く、利便性の高い交通系のデジタルサービスを使いこなしている面があるとみられます。「対面証券が中心だからデジタルに疎い」とは限らない点が、従来型の富裕層像を考えるうえで見落としやすいポイントです。
「新たな富裕層タイプ」の内訳(NRI Management Review No.12)2/2
出所:野村総合研究所「新たな富裕層タイプと金融機関のアプローチ方法」(NRI Management Review No.12、2025年3月)を基にLIMO編集部作成
3.4 【「新たな富裕層タイプ」の内訳(NRI Management Review No.12)】
いつの間にか富裕層(3つの類型)
- 類型1:40代後半〜50代の会社員。リスク性資産を非常に高い割合で保有
- 類型2:50代後半以降の会社員。確定拠出年金や持株会で複利効果を享受
- 類型3:60代以上の退職者。退職金運用が成功
パワーファミリー
- 都市部:世帯年収1250万円以上、平均金融資産残高2050万円
- 地方部:世帯年収850万円以上、平均金融資産残高1800万円
都市部・地方部いずれのパワーファミリーも、平均金融資産残高はNRIの5階層でいう「マス層」(純金融資産3000万円未満)の範囲にとどまっています。世帯年収が高くても、この時点ではまだ準富裕層やアッパーマス層には届いていない世帯が多いことがうかがえます。「新富裕層」という言葉のイメージと、実際の資産水準にはまだ距離があることが分かります。
4. 「ニューリッチ」「オールドリッチ」という対比は、NRIの用語ではない
ネット上では「新富裕層」を「ニューリッチ」、従来型の富裕層を「オールドリッチ」と呼んで対比する記事も見られます。この対比表現の出どころも確認しておきます。
4.1 ニューリッチ・オールドリッチは二次的な呼称
NRIの公表資料を確認する限り、「オールドリッチ」「ニューリッチ」という言葉自体を用いた記述は見当たりません。これらは、NRIが示す「従来型の富裕層」と「新たな富裕層タイプ」という2つの区分を、メディアや個人が分かりやすく言い換えた呼称とみられます。
言い換え自体が誤りというわけではありませんが、「ニューリッチ」という言葉で検索して読んだ内容が、そのままNRIの一次資料の主張であるとは限りません。ライフスタイルの違いなど、一次資料に基づかない記述が加わっている場合もあります。読み進める際は、どこまでが一次資料の裏付けで、どこからが書き手の解釈なのかを意識しておくと安心です。
4.2 呼び名を追うより、基準を確認する
「新富裕層」「ニューリッチ」「オールドリッチ」といった言葉は、今後も新しい呼び方が増えていく可能性があります。呼び名そのものを覚えるより、「純金融資産がいくらか」「どのような資産形成の経緯をたどったか」という一次資料の基準に立ち返ることが、遠回りに見えて確実な方法です。
実際、NRIのレポート自体も「従来型の富裕層」「いつの間にか富裕層」「パワーファミリー」という言葉を使っており、「新富裕層」という一語には集約していません。複数のセグメントをまとめて呼びたいというメディア側の都合が、「新富裕層」という便利な総称を生んだ可能性があります。
同じことは「準富裕層」には当てはまりません。準富裕層はNRI自身が金額基準とともに定義した言葉であり、メディアが後から作った総称ではないためです。この違いが、両者の間で情報の信頼度に差が生まれる理由です。
5. 【編集者の視点】
富裕層に関する呼び名は、金融機関のマーケティングやメディアの見出しの都合で新しく作られることが少なくありません。呼び名が増えること自体は悪いことではありませんが、読者としては「その言葉が指しているのは、結局どの資産水準・どんな属性の人か」を、元の一次資料まで遡って確認する視点を持っておくと安心です。
特に、パワーファミリーや準富裕層のように具体的な年収・資産の基準が示されている言葉と、新富裕層のように基準が示されないまま広まっている言葉とでは、情報としての信頼度が異なります。
資産形成の見通しを立てる際は、呼び名にとらわれず、自分の世帯年収と純金融資産残高を実際に計算し、NRIの5階層のどこに近いかを確認することから始めるとよいでしょう。純金融資産の計算方法については、新NISA時代、「貯金と投資の割合」はどうすべきか?現金保有の適正ラインでも取り上げています。
※本記事は、編集部が野村総合研究所の公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
6. まとめ
- 「準富裕層」は野村総合研究所が定めた正式な階層名で、純金融資産5000万円以上1億円未満、2023年時点で403.9万世帯です。
- 「新富裕層」は一次資料に直接の呼称が見当たりませんが、NRIレポート「新たな富裕層タイプと金融機関のアプローチ方法」が示す「いつの間にか富裕層」「パワーファミリー」という2つの具体的なセグメントに対応しています。
- 「ニューリッチ」「オールドリッチ」という対比表現も、NRIの一次資料の用語ではなく、二次的な言い換えです。
- 言葉の呼び名を追うより、純金融資産の金額基準に立ち返って自分の位置を確認することが、確実な方法です。
富裕層に関する呼び名は、これからも新しく生まれていく可能性があります。
新しい言葉に出会ったときは、まず「その言葉に金額基準や一次資料の裏付けがあるか」を確認する視点を持っておくと、情報に振り回されずに済みます。呼び名が変わっても、資産形成の考え方そのものは大きく変わりません。「準富裕層」のように基準がはっきりした言葉を軸に、自分の現在地を確認する習慣が、遠回りに見えていちばんの近道です。
7. よくある質問
7.1 Q. 「新富裕層」と「準富裕層」は同じ意味ですか?
A. 異なります。「準富裕層」は野村総合研究所が純金融資産5000万円以上1億円未満と定めた正式な階層名です。一方「新富裕層」はNRIの一次資料に直接の呼称が見当たらず、正式な階層名ではないとみられます。
7.2 Q. 「新富裕層」とは具体的にどんな人を指しますか?
A. NRIの一次資料に「新富裕層」という直接の呼称はありませんが、同社のレポートが示す「いつの間にか富裕層」(会社員が株式運用や退職金運用で資産を増やしたケース)や「パワーファミリー」(共働きの高年収世帯)を指すことが多いとみられます。
7.3 Q. 「ニューリッチ」「オールドリッチ」とは何ですか?
A. NRIの一次資料には見当たらない呼称で、メディアなどが「新たな富裕層タイプ」と「従来型の富裕層」を分かりやすく言い換えた対比表現とみられます。
7.4 Q. パワーファミリーの資産水準はどのくらいですか?
A. NRIのレポートによると、都市部パワーファミリー(世帯年収1250万円以上)の平均金融資産残高は2050万円、地方部パワーファミリー(世帯年収850万円以上)は1800万円です。
7.5 Q. 従来型の富裕層はどんな人が多いですか?
A. NRIのレポートによると、純金融資産5億円以上の富裕層(超富裕層)の半数以上は、上場・非上場の法人オーナーです。地主も比較的多い属性とされています。
参考資料
- 野村総合研究所「日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯、その純金融資産の総額は約469兆円と推計」(2025年2月13日公表)
- 野村総合研究所「新たな富裕層タイプと金融機関のアプローチ方法」(NRI Management Review No.12)(2025年3月公表)
LIMO編集部ウェルスマネジメント班

