3. 遺族厚生年金はどう変わる?2028年4月からの制度改正の方向性
ここまで見てきた男女差のある受給ルールは、2025年に成立した年金制度改正法により、2028年4月から段階的に見直されることが決まっています。
これから遺族年金を受け取る可能性がある人は、現行制度だけでなく改正後の方向性もあわせて押さえておきましょう。
3.1 子のない配偶者は原則5年の有期給付に統一
見直しの柱は、子のない配偶者に対する遺族厚生年金の「有期給付化」です。
改正後は、死亡時60歳未満の配偶者について、性別を問わず原則5年間の有期給付に統一される方向で制度設計が進められています。
現行制度では子のない30歳未満の妻だけが5年間の有期給付とされ、子のない夫は55歳未満だと受給権自体がありませんでしたが、この男女差が解消される形です。
あわせて、有期給付の期間中の年金額を手厚くする「有期給付加算」や、亡くなった配偶者の厚生年金記録の一部を遺された配偶者の記録に分割する「死亡分割」という新しい仕組みも導入される予定です。
3.2 対象になるのは2028年4月以降に亡くなった人の遺族
厚生労働省は、この見直しの背景について「女性の就業率の向上などの社会経済情勢の変化にあわせて、遺族厚生年金の男女差を解消する」ことを目的として説明しています。
この改正は2028年4月以降に亡くなった人の遺族が対象で、すでに遺族厚生年金を受給している人や、2028年3月以前に亡くなった人の遺族には適用されません。
また女性については、急激な変化を避けるため20年程度かけて段階的に移行する経過措置が設けられる予定です。
中高齢寡婦加算についても、制度の切り替えにあわせて一定の経過措置が検討されていますが、具体的な金額や縮小のスケジュールは、本記事執筆時点では確定していません。今後の公表内容を確認する必要があります。
4. 「申請から振込まで2〜3ヶ月」。そのあいだの生活費はどうする?
遺族年金は、請求してすぐに振り込まれるわけではありません。年金事務所への請求から実際に年金が振り込まれるまでには、一般的に2〜3ヶ月程度かかるとされています。
この間、口座の凍結と収入の空白期間が重なり、当面の生活費に困る遺族も少なくありません。あらかじめ使える制度を知っておきましょう。
4.1 口座凍結から初回振込までのタイムラグ
配偶者が亡くなったことを金融機関が把握すると、名義人の預貯金口座は凍結され、原則として遺産分割が終わるまで引き出しができなくなります。
遺族年金の請求書を年金事務所に提出してから、審査を経て実際に口座へ振り込まれるまでにも一定の期間がかかるため、葬儀費用や当面の生活費をどう確保するかが実務上の大きな課題になります。
4.2 遺産分割前でも使える「預貯金の仮払い制度」
2019年7月に施行された相続法改正により、遺産分割が終わる前でも、一定の範囲で相続人が単独で故人の預貯金を払い戻せる制度が設けられました。
払い戻せる金額は「相続開始時の預貯金債権の額×3分の1×払い戻しを求める相続人の法定相続分」で計算され、同一の金融機関に対しては150万円が上限となります。
家庭裁判所の手続きを経ずに、金融機関の窓口で直接手続きできる点が特徴です。
これを超える金額が必要な場合は、家庭裁判所に保全処分を申し立てることで、他の相続人の利益を害さない範囲で、さらに仮払いを受けられる方法もあります。
預貯金の仮払い制度を利用する際は、通帳の写しや戸籍謄本など金融機関ごとに必要書類が異なるため、落ち着いて一つずつ窓口に確認しながら進めましょう。未支給年金(亡くなった方がまだ受け取っていなかった年金)の請求もあわせて行うと、当面の資金繰りの助けになります。
5. 事実婚・再婚・離婚のときの遺族年金Q&A
遺族年金は、受給が始まったあとの家族関係の変化によって、受給権が失われることがあります。相談の現場でとくにつまずきやすい3つのケースを、Q&A形式で確認していきましょう。
5.1 Q1. 再婚したら遺族年金はどうなる?
遺族年金を受け取っている人が結婚(内縁関係を含む)をしたときは、その時点で受給権を失います。
届出の期限は、遺族基礎年金が14日以内、遺族厚生年金が10日以内と定められており、「遺族年金失権届」を年金事務所等に提出する必要があります。
支給が止まるのは、婚姻届を提出した日など失権事由が発生した日からで、届出をしないまま受給を続けていると、本来受け取れない期間の年金を不正に受給したことになります。
再婚するタイミングで手続きを忘れてしまい、後になって日本年金機構から返還を求められるケースは実務上少なくないため、再婚を決めたら早めに年金事務所へ相談することをおすすめします。
5.2 Q2. 内縁関係(事実婚)でも遺族年金は受け取れる?
遺族年金の「配偶者」には、婚姻届を出していない内縁関係(事実婚)の相手も含まれます。
ただし、戸籍上の配偶者と違って、事実婚関係にあったことと、生計を同じくしていたことの両方を自分で証明しなければなりません。
証明書類としては、健康保険の被扶養者情報、給与計算上の扶養手当の記録、結婚式場の証明書、連名の郵便物や公共料金の領収書、賃貸借契約書の写しなど、複数の書類をあわせて提出するのが一般的です。
原則として第三者による証明も必要になりますが、住民票上は別世帯でも住所が同じ場合は不要とされています。
書類の性質上、証明のハードルは戸籍上の配偶者より高くなりやすいため、該当する可能性がある人は、早い段階で年金事務所に相談し、どの書類をどれだけ揃える必要があるかを確認しておくと安心です。
5.3 Q3. 離婚した元配偶者は遺族年金を受け取れる?
遺族年金は、亡くなった時点で生計維持関係にあった配偶者を対象とする制度です。
離婚によって配偶者ではなくなった元夫・元妻は、たとえ婚姻期間中に厚生年金の保険料を分担してきた実績があっても、原則として遺族年金の受給対象にはなりません。
ただし、離婚時に厚生年金の記録を分割する「合意分割」「3号分割」によって、自分自身の老齢厚生年金の記録として一部を引き継いでいる場合は、その分が将来の自分の年金額に反映されます。遺族年金と年金分割は別の制度である点を混同しないようにしましょう。
6. まとめ
遺族年金は、亡くなった方の年金加入状況、遺された配偶者の年齢や性別、65歳以降の自分の年金受給状況、さらには家族関係の変化によって、受け取れる金額や期間が細かく変わる制度です。
自分がどのパターンに当てはまるのかを早めに把握し、2028年4月からの制度改正の動向や、当面の資金繰りに使える仕組みもあわせて知っておくことで、いざというときにあわてず対応できるようになるでしょう。
参考資料
- 日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」
- 日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
- 日本年金機構「遺族年金ガイド 令和8年度版」
- 日本年金機構「遺族年金を受けている方が結婚や養子縁組などをしたとき」
- 日本年金機構「生計同一関係証明書類等について」
- 厚生労働省「年金制度改正法に関する広報について」
- 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」
和田 直子
