9. 【コラム:お金のお悩み相談】働き方が変わる時期を迎えて、まとまったお金が手元に入った50歳代。IFA・鶴田 綾が語る、残された年数から逆算して決めていく順序

50歳代は、働き方が変わる時期を迎えて、まとまったお金が一度に手元に入ることのある年代です。同時に、住宅ローンの返済が残っていたり、退職までの年数が数えられるようになったりして、時間の感覚がそれまでより具体的になります。前半でみたように、公的年金の平均は国民年金で月5万9310円、厚生年金で月15万289円。年金だけで足りない分をどう埋めるかが、現実の課題として近づいてくる時期でもあります。出発点がどこであっても迷いの中身はよく似ていて、実務でご相談を受けていて感じるのは、額の多い少ないよりも、この先どれだけ必要なのかが分からないことのほうが人を止めているという印象です。相談の場では次のような声を耳にします。

9.1 50歳代に多いお悩み相談は「手元の資金は増えたのに、値下がりが長引いた記憶が残っていて動かせない」

50歳代のお客様
「働き方が変わる時期を迎えたことで、まとまったお金が手元に入りました。預貯金もそれなりにありますし、毎月も少しずつは貯めています。勤め先の制度を通じて運用した経験があるので、値動きのあるものがどういうものかは一通り知っているつもりです。ただ、そのときに下がった状態が思っていたよりも長く続いたので、この先そんなに時間がないのに大丈夫なのかな、という不安な部分があります。住宅ローンもまだ残っていますし、老後の資金が足りないという話も耳にします。運用に回したほうがいいのだろうとは思うのですが、何をどれだけ選べばいいのか、そこから先が決まりません」

相談の場でも、手元の資金は増えたのに、以前の値下がりの記憶が残っていて動かせないという方に数多くお会いします。

退職までの年数が見えてくると、時間を味方にしにくいという感覚が先に立ちます。若いころなら下がっても待てばよかったものが、いまは待てないのではないか。そう考えて手が止まる方も多いです。

こうした方に多いのは、決められない理由を「知識が足りないから」と受け止めていることです。ただ、実際に足りていないのは商品の知識ではなく、いくら必要でいつ使うのかという前提のほうだったりします。

9.2 【IFA・鶴田 綾が回答】最初に選ぶのは商品ではなく、お金の並べ方

鶴田 綾
「時間がないから、もう間に合わないのではないか」と決めつける前に、これから必要になる額といま続けている貯金で将来どのくらいのお金が貯まりそうかを一度紙に書いてみましょう。
もし、このまま貯金を続けても将来必要となる金額を貯められそうにないのであれば運用することも検討した方が良いでしょう。
また、値下がりが長引いた際のリスクについては、債券や貯蓄型保険など元本が確保されていたり契約時に将来受け取れる金額が確定している等、リスクを抑えて運用できるものを活用して資産を少しずつ増やすのもアリです。
まずは、手元のお金を使う時期ごとに色分けし、それぞれのお金に適した置き方・運用の仕方を考えましょう。

9.3 ポイント1:必要になる額と、いまの延長で届く額を、二つ並べて見る

はじめに、この先の見通しを一度紙の上に置きます。いまの収入と支出、住宅ローンの返済が続く期間、受け取れる見込みの年金、手元にある資産を並べて、家計がこの先どう推移するかを一続きの形にしてみるという作業です。ここで大事なのは、当たる予想を作ることではありません。先が見えないという感覚が、これから必要になる額と、いまの延長で届く額という二つの数字に置き換わることです。数字になると、そのあとの判断がすべて具体的になります。どれだけ増やす必要があるのかが分かれば、引き受けてよい値動きの大きさも決まりますし、逆に、思っていたほど無理をしなくてよいと分かることも珍しくありません。ご相談でも、数字が並んだところで表情が変わる方が多いです。見通しは前提を変えれば結果も変わりますので、一度作って終わりにせず、収入や支出が動いたときに置き直すものだと考えてください。

9.4 ポイント2:値下がりが長く続いた記憶は、一か所に集めない持ち方に置き換えられる

次に、下がった状態が長く続いたという記憶の扱いです。値動きのある資産には上がる場面と下がる場面の両方があり、下がっている期間が何年か続くこともあります。ここで押さえておきたいのは、値動きの幅は持ち方によって変えられるという点です。一つの資産だけを持っていると、その資産が下がる場面がそのまま全体の下がりになります。動く理由の違うものを組み合わせて持てば、一方が下がる場面でもう一方が支えることがあり、全体としての振れ幅はならされます。あわせて、増える仕組みも言葉の意味から確かめていただきます。値上がりで増えるのか、利息や分配で増えるのか、増えた分にどのように税がかかるのか、持っている間に差し引かれる費用がどれだけあるのか。この四つを自分の言葉で言い直せるようになると、勧められたものをそのまま受け取らずに済みますし、下がった局面でも何が起きているのかを自分で説明できます。落ち着きが戻るのは、値動きが止まるからではなく、起きていることに名前がつくからです。

9.5 ポイント3:手元のお金は、使う時期ごとに色を分けてから運用に回す分を決める

そのうえで、手元のお金を使う時期で色分けします。数か月から一年ほどのうちに必要になるお金、数年内に使う予定のあるお金、十年以上先まで手をつけないお金の三つに分け、それぞれに置き場所を割り当てます。近い時期のお金は、増えなくてよいので元本が動きにくい形で持ちます。遠い時期のお金は、途中で下がっても待てるので、値動きのある形で持つ余地があります。この色分けを先にしておくと、運用に回してよい分の上限がおのずと決まります。まとまったお金が入ったときに全額を一度に動かしてしまい、あとで近い出費のために値下がりしたまま手放すことになる、というのがいちばん避けたい形です。住宅ローンの返済が残っている場合は、返済を続けながら運用に回す部分をどれだけにするかも、この色分けのなかで決めます。返済を早めるか運用に回すかは、金利の条件やご家庭の考え方によって答えが変わりますので、条件を書き出して比べてください。

9.6 ポイント4:性格の違うものを薄く重ねると、全体の減り方はなだらかになる

最後に、運用に回すと決めた分の中身です。ご相談では、性格の違う資産を薄く重ねて持つ形をおすすめしています。元本が動きにくい置き場所を土台に置き、その上に利息や分配で増えることをねらう債券のような層、さらにその上に値上がりをねらう株式や投資信託のような層を重ね、それぞれの厚みを決めていきます。保険や個人年金のように受け取る時期が決まっている形も、この層のどこかに入ります。厚みの決め方は、先に出した足りない額と、色分けした使う時期の二つから逆算します。薄く重ねる利点は、どこかの層が下がっても全体が同じ方向には動かないことと、お金が必要になったときに崩す層を選べることです。一つの商品にまとめて置いてしまうと、この選び方ができません。層の数を増やしすぎると管理が続きませんので、はじめは土台と二つの層くらいから始めて、様子を見ながら整えていくとよいと思います。

残された年数が短いと感じるときほど、商品を選ぶところから始めたくなります。ただ、順番を逆にすると、選んだあとで置き場所を直すことになり、下がった局面で動けなくなります。これは一つの考え方であり、これから必要になる額や、返済と運用のどちらを先にするか、どの層をどれだけ厚くするかは、収入やご家族の状況、制度や商品の内容によって異なります。まずは手元のお金を使う時期で三つに分けて書き出すところから始めてみてください。そのうえで、見通しの立て方や商品の条件は、金融機関の窓口や専門家に確認しながら決めていただければと思います。

参考資料

鶴田 綾