「まわりは、もう生成AIで銘柄を調べているらしい」。そんな話を聞いて、自分だけ取り残されている気がしたことはないでしょうか。
一方で、AIの答えをそのまま信じて損をするのも怖い。プロンプトの工夫を紹介する記事はたくさんありますが、「AIに何ができて、何ができないのか」を公的な資料で確かめた記事はあまり見かけません。
この記事では、総務省・金融庁が公表した最新データをもとに、株式投資の情報収集で生成AIをどう位置づければよいかを整理します。
1. 生成AIで株式投資の情報収集をする人が、この1年で急に増えている理由
まずは背景となる数字から見ていきましょう。総務省が2026年7月に公表した「令和8年版情報通信白書」によると、日本国内で生成AIサービスを使ったことがある人の割合(20歳以上)は、2023年度調査で9.1%、2024年度調査で26.7%でした。
過去調査と同じ「20歳以上」に対象を揃えて比較すると、2025年度調査では52.2%まで伸びています(※新たに15〜19歳を含めた全体では58.8%)。1年で25.5ポイントの上昇、比率にすると約2倍という急な変化です。
1.1 そもそも、生成AIで何ができるのか
株式投資に限らず、生成AIが得意とするのは文章の要約や言い換え、専門用語のかみ砕いた説明です。決算資料の長い文章を「3行でまとめて」と頼むような使い方が典型例といえます。
プロンプト(AIへの指示文)を工夫すれば、比較表の形に整理させたり、自分の疑問を言語化する手助けをさせたりすることもできます。
ただし、株式投資という「お金の判断」が絡む場面では、便利さだけで語れない事情が出てきます。次の章から、公的な統計や資料をもとに、その事情を具体的に見ていきます。
2. 「AIで情報収集している」人の実態は、公的な調査ではまだ捉えられていない
日本証券業協会が2026年7月に公表した「個人投資家の証券投資に関する意識調査」に、興味深い新しい設問があります。
「学校や職場以外で証券投資に関する勉強や情報収集を行った場所や方法」を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのは「インターネット(Webサイト)」の52.9%でした。次いで「テレビ」30.5%、「本」25.9%と続きます。
2.1 【証券投資の情報収集で使われている方法】
上位3つの方法
- インターネット(Webサイト):52.9%
- テレビ:30.5%
- 本:25.9%
この設問に無い選択肢
- 生成AI・ChatGPT等を個別に問う項目:設問自体が無い
ここで注目したいのは、この設問そのものに「生成AI」や「ChatGPT」を個別に尋ねる選択肢が無いという点です。
総務省の白書では国民の58.8%(20歳以上では52.2%)が生成AIを使ったことがあると答えている一方、証券投資というお金に直結する場面での利用実態を、業界団体の調査はまだ独立した項目として拾えていません。
3. 【編集者の視点】
「インターネットで調べた」という回答の中に、実はAIが要約した内容を鵜呑みにしたケースが混ざっている可能性があります。証券会社の公式ページを読んだのか、AIが作った説明文を読んだのかは、本人の記憶の中でも案外あいまいになりがちです。
この境目が消えることの怖さは、情報の「出どころ」が分からなくなる点にあります。誤りがあったとき、どこまで遡って確認すればよいか分からなくなってしまうのです。
防衛策としては難しく考える必要はありません。AIに何かを尋ねたときは、「これはAIの説明」「これは証券会社の公式ページで見た事実」というふうに、頭の中でラベルを分けておく習慣をつけることです。
スマートフォンのメモに一言、情報源を書き添えるだけでも構いません。後から見返したときに、どこまでが裏付けのある事実だったかを追いやすくなります。
4. ChatGPTが「知らない」最新の決算・株価——学習データの壁とハルシネーション
生成AIの多くは、ある時点までの情報をもとに学習し、その後はリアルタイムで学び続けているわけではありません。この境目を「学習データのカットオフ」と呼びます。
つまり、直近の決算発表や当日の株価といった「今」の情報は、AIが単体で正確に答えられるとは限らないということです。
もっともらしいが実際のデータに基づかない答えを作ってしまう現象を「ハルシネーション(幻覚)」と呼びます。金融庁が2026年3月に公表した「AIディスカッションペーパー(第1.1版)」でも、この点が取り上げられています。
「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる、実際のデータに基づかない出力が生成される事象が大きな課題として認識されている。誤った情報を提示したり、信用リスクや法的リスクに直結する回答を誤って生成したりしてしまうと、当該金融機関等の信頼性を損ないかねない。
出典:金融庁「AIディスカッションペーパー(第1.1版)-金融分野におけるAIの健全な利活用の促進に向けた初期的な論点整理-」2026年3月公表
このペーパーは金融機関自身の生成AI活用について書かれたものですが、示唆は個人にも通じます。専門知識と審査体制を持つ金融機関ですら、投資勧誘の場面で「必ず儲かる」といった断定的な回答をAIが出さないよう、回答内容にフィルタリングをかける対策を検討しているのです。
5. 【編集者の視点】
実務でよく起きる罠は、AIに決算数値を尋ねたとき、実際より古い四半期の数字や、似た名前の別企業の数字を、あたかも最新の正解であるかのように答えてしまうケースです。
数字が具体的であればあるほど、人は信じやすくなります。「前年比◯%増でした」のように、細かい数字を添えられると、つい正しいと思い込んでしまいます。
防衛策はシンプルです。AIに数字を出させたら、「この数字はいつ時点の、何という資料に基づいていますか」と必ず聞き返す癖をつけてください。
そのうえで、示された数字を証券取引所や企業の適時開示情報、後述するEDINETなどの公式情報源と突き合わせる。この一手間を省かないことが、株式投資という金銭が絡む場面では欠かせません。
6. AIに読み込ませるなら、公式の一次情報を——EDINETという選択肢
AIに何かを調べさせるとき、多くの人はAI自身の知識だけに質問を投げています。しかし、企業の開示情報には、AIが読み込みやすい「機械可読」な形で公式に公開されているものがあります。
金融庁が運営する「EDINET」がその代表です。金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類を、電子的に閲覧できるシステムとして提供されています。
EDINET(エディネット)とは、「Electronic Disclosure for Investors' NETwork」の略で、「金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム」のことを示します。
閲覧サイトはどなたでも無料で利用でき、届出も不要です。財務諸表を中心に、国際的に標準化された「XBRL」という形式のデータもダウンロードできます。
6.1 【AIチャットとEDINET、それぞれの向き不向き】
AIチャットが向いている場面
- 専門用語のかみ砕いた説明
- 長い文章の要約・整理
EDINETが向いている場面
- 最新の有価証券報告書等の原文確認
- 財務数値の裏取り
ただし、公式データだからといって無条件に信じてよいわけでもありません。EDINETの概要書自体に、こんな注記があります。
この XBRL 形式のデータについては参考情報であり、そこに含まれる英語情報及びその他の情報の正確性が保証されるものではありません。
金融庁自身が公開する構造化データにすら、こうした留保が付いています。AIが要約したものはさらにもう一段階手が加わった情報です。鵜呑みにしない姿勢の大切さが、この一言からもうかがえます。
7. 【編集者の視点】
EDINETという名前を初めて聞いた方も多いかもしれません。実はこのシステム、2008年4月以後に始まる事業年度の財務諸表から、XBRLという構造化データでの提出が始まっています。
2013年9月には対象範囲が有価証券届出書や四半期報告書などにも広がり、今では多くの開示書類がこの形式でそろっています。長い歴史を持つ、地味だが確かな公的インフラといえます。
実務の罠としては、企業名の検索の仕方に少し慣れが必要な点が挙げられます。似た名前の企業や、上場廃止済みの旧社名がヒットしてしまうこともあるため、EDINETコードや提出者名を落ち着いて確認する必要があります。
迷ったときは、企業の公式サイトにある「投資家情報」「IR情報」のページから、EDINETに掲載されているものと同じ書類にたどり着けることも多いので、あわせて試してみてください。
8. プロンプトが上手でも「当たるか」は別問題——AIの得意・不得意を切り分ける
ここまでの内容を踏まえると、生成AIの得意・不得意はある程度はっきりしてきます。得意なのは、専門用語の説明、長い資料の要約、比較表への整理といった「情報を扱いやすくする」作業です。
一方で不得意なのは、将来の株価がどう動くかという予測そのものです。もっともらしい理由を添えて断定的に語ることはできても、その的中率まで保証してくれるわけではありません。
「自分専用の株式投資AIを自作したい」という声もよく聞きます。その場合も、まず土台になるのはEDINETのような公式の一次情報です。個人がAIを使った便利な仕組みを作る際も、出発点を公的なデータに置く発想は変わりません。
たとえば、気になる企業のEDINETコードをあらかじめ控えておき、決算期ごとにXBRL形式のデータを取得して、AIに要点だけ整理させるという組み合わせ方が考えられます。数字そのものの取得元を公式データにそろえておけば、AIの役割は「読みやすく並べ替える」ことに限定できます。
自作したツールを自分だけで使う分には問題になりにくいものですが、その仕組みを他人に有料で提供するとなると話は別です。特定の銘柄についてAIの分析結果を報酬付きで案内するような形態は、金融商品取引法上の登録が必要になる業務に触れる可能性があるため、個人の情報整理と第三者向けサービスの間には一線を引いて考える必要があります。
証券口座の開設や実際の注文といった基礎知識をまだ固めていない方は、先に全体の流れを押さえておくと理解が進みやすくなります(株式投資の始め方で解説しています)。
また、YouTubeやSNS発の情報にも同じように「発信者が誰か」を見極める視点が必要です。動画経由の情報収集で気をつけたい点は、YouTube・動画で学ぶ株式投資でも詳しく取り上げています。
※本記事は、編集部が総務省・金融庁が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
9. まとめ
- 日本国内の生成AI利用経験率(20歳以上)は、総務省の調査で2024年度26.7%から2025年度52.2%(15歳以上を含めた全体では58.8%)へ急伸しています。
- 証券投資の情報収集方法を尋ねた業界団体の調査には、生成AI・ChatGPT等を個別に問う項目がまだありません。
- 生成AIには学習データのカットオフがあり、最新の決算・株価を単体で正確に答えられるとは限りません。
- 金融庁自身が、生成AIのハルシネーションを金融機関等にとっての大きな課題と位置づけています。
- 企業の開示情報は、金融庁のEDINETで無料・届出不要で確認でき、AIの回答の裏取りに使えます。
生成AIは、株式投資の情報収集を効率化してくれる便利な道具です。ただし、その便利さは「使う人が最後まで自分で確かめる」という前提があってこそ成り立ちます。
AIに質問したら、必ず一次情報に立ち返る。この一往復を習慣にすることが、道具に振り回されないための一番の近道になります。
10. よくある質問
10.1 Q. 生成AIに「おすすめの銘柄」を聞いてもいいですか?
A. 得られた回答をそのまま購入判断に使うのは避けましょう。生成AIは学習データの時点までの情報しか持たず、断定的な回答にもハルシネーションが混ざる可能性があります。参考にする場合も、必ずEDINET等の一次情報で裏取りしてください。
10.2 Q. 株式投資に使うAIで、何かおすすめはありますか?
A. 特定のサービス名を推奨することは控えます。汎用的な生成AIチャットは情報整理や用語の説明に向く一方、投資判断そのものを任せる用途には向きません。まずは自分がどんな作業をAIに任せたいのかを明確にしたうえで選ぶとよいでしょう。
10.3 Q. 自分で株式投資用のAIツールは自作できますか?
A. 個人でも、EDINETのような公式に公開されている一次情報を土台にすれば、自作のツールを組み立てる出発点になります。ただし、開示書類の読み込みや解釈には専門知識が必要な場面も多く、公式資料との照合は欠かせません。
10.4 Q. 生成AIに自分の保有銘柄や資産額を入力しても問題ないですか?
A. 個人情報や資産状況をチャットに入力すると、サービスによっては情報が外部に残るリスクがあります。金融庁のディスカッションペーパーでも、生成AIに個人情報を入力しないよう注意喚起する取組みが紹介されています。具体的な保有状況の入力は避け、一般的な質問にとどめる方が安心です。
参考資料
- 総務省「令和8年版情報通信白書(概要)」2026年7月公表
- 金融庁「AIディスカッションペーパー(第1.1版)-金融分野におけるAIの健全な利活用の促進に向けた初期的な論点整理-」2026年3月公表
- 金融庁「EDINET概要書」2026年6月公表
- 日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査(調査結果概要)」2026年7月公表
LIMO編集部ウェルスマネジメント班
