10. 自分の口座の手続きも、親世代の申請も、一人で抱えたままだと止まってしまう。誰と一緒に確かめるかを先に決める順序を、IFA・川勝 隆登が解説

60歳代は、自分の資産をどう置き直すかという話と、親世代の手続きを支える役目が、同じ時期に重なってくる年代です。前半でみたように、公的な制度にも民間の商品にも、申し出た人の分だけが動くという共通点があります。案内が届いていても、書類を取り寄せて記入し、期限までに出すという一連の作業を担う人がいなければ、対象になっているかどうかとは関係なく、そのまま止まってしまいます。80歳代、90歳代になった親の申請であれば、その作業を支えるのは子の世代です。ところが、支える側に立っているご自身の口座もまた、「自分で全部やる」形のまま何年も動いていない、ということが少なくありません。証券会社で個人・法人の資産運用のご相談に応じてきた立場から申し上げると、手が止まる理由は制度や商品の難しさそのものよりも、分からない場面で隣にいて一緒に確かめてくれる相手が決まっていないことにあります。相談の場では次のような声を耳にします。

10.1 口座は開いてあるのに、何から手をつければいいのかが分からないまま止まっている

60歳代(ご相談者)
「株式や債券は以前から少し経験があって、いまも多くはない額の株式が手元に残っています。自分で商売をしてきましたから、お金のことは自分で調べて自分で決めるほうだと思っていました。非課税の口座もネットで開いてはあるのですが、運用は止まったままです。画面を開けば商品はいくらでも並んでいますし、説明も読める。それでも、全部を自分でやるとなると、どれから手をつければいいのかが分からないのです。分からないところを誰に聞けばいいのかも決まっていません。担当の方がついて一緒に見てくれるのなら、それなら動ける気がしています。」

相談の場でも、口座を開くところまでは進んだけれど、そこから先を自分ひとりで全部決める形のまま止まってしまっているという方に数多くお会いします。

10.2 【IFA・川勝 隆登が回答】動き出すきっかけは商品選びではなく、手続きの段取りのほうにある

川勝 隆登
まずは非課税枠について、現状どういう形で保有しているのかを確認することから始めます。非課税で運用するには限度額があるため、今後計画を立てていく上では枠の範囲を把握しておくことは大切な要素となります。枠を把握したうえで運用を進めていくことになりますが、そこでは相談できる担当者がいるかどうかによってもスタイルが変わってきます。安心して運用するためには一緒に見てくれる相手がいるということが必要です。わからない場面で誰に聞いていいのかは始める前に確認しておきたいところです。最後に口座を使える状態にするというのが手元資金を動かし始める順序となります。

10.3 ポイント1:非課税の枠は、これから使う分と、すでに開いてある分を分けて整理する

まず整理していただくのは、非課税で運用できる制度の枠を、いまどういう形で持っているかです。この制度は、運用で得られた利益にかかる税金がかからない扱いになる代わりに、一年間に使える枠の大きさが決まっており、口座を持てる金融機関はひとつに限られるのが基本の形とされています。ここで話が混ざりやすいのが、「制度そのもの」と「その制度を使う金融機関」は別のものだという点です。すでに開いてある口座があるなら、そこには過去に買った分がそのまま残っています。別の金融機関で使いたいとなった場合、これから買う分の受け皿を移す手続きと、すでに持っている分をどう扱うかは、それぞれ別の話になります。しかも、その手続きは案内を待っていても始まりません。こちらが申し出て、書類を出したところから動きます。年の途中で取引があったかどうかによって、いつからの分が新しい側になるのかも変わってきますので、ご自身のケースがどう扱われるかは、いま口座を持っている金融機関と、移そうとしている先の両方に確かめてから進めてください。

10.4 ポイント2:分からない場面で誰に聞けるのかを、持つ前に確かめておく

次に確かめていただきたいのが、これから持つものを、どこを通して持つのかです。同じ商品でも、自分で調べて自分で注文するところまで全部やる形と、担当者がついて一緒に見ていく形があります。後者では、画面の操作でつまずいたときはもちろん、値下がりした局面で「このまま持っていていいのか」と迷ったときにも、話を聞いてもらう相手が決まっています。実際のご相談でも、知識ではなくこの一点で止まっているケースが目立ちます。調べる力はあるのに、判断の直前で確かめる相手がいないので、決めきれずに時間が過ぎていく。どちらの形を選ぶかで手数料の考え方も変わりますし、相談できる範囲や連絡の取り方も金融機関ごとに違いますので、口座を開く前に聞いておくとよいところです。あわせて、家族の手続きを支える立場になったときに、どこまで代わりに進められるのか、同席や代理についてどんな決まりがあるのかも、窓口ごとに扱いが異なります。ご自身や親世代のケースが当てはまるかどうかは、それぞれの金融機関や所管の窓口、専門家に確かめてください。

10.5 ポイント3:増え方の決まっているものまで、同じ机の上に並べる

持つものを選ぶ段になったとき、値動きのあるものだけを見比べて決めようとすると、かえって決めきれません。株式は、企業の価値の変化がそのまま値段に表れる資産で、どれだけ増えるかは前もって分かりません。一方で債券は、あらかじめ決められた条件で利息を受け取り、期間の終わりに額が返ってくることを前提にした形が基本です。増え方の見通しが立てやすい代わりに、その見通しの大きさは持つ期間の長さと発行元の信用の度合いによって決まります。ここで押さえておきたいのは、途中で売る場合には、そのときの値段で売ることになるという点です。外貨建てのものであれば、円に戻すときの為替も関わってきます。ですから、増え方の決まっているものと決まっていないものを同じ机の上に並べ、「いつ使うお金なのか」で振り分けていく。この並べ方をしておくと、選ぶ対象がぐっと絞れます。どちらか一方が優れているという話ではなく、どちらも選択肢として持っておくものだとお考えください。

10.6 ポイント4:口座を使える状態に戻す手続きと、毎月続ける形を、ひと続きで決める

最後は手を動かす部分です。口座を開く、あるいは止まっている口座を使える状態に戻すには、本人であることの確認や、届いた書類の受け取り、初回のログインといった作業がいくつか並びます。申し込んだその日から売買できるわけではなく、開くまでに日数がかかるのが通常です。ここまでを済ませたら、続けて「毎月いくらを、いつ、どこから引き落として積み立てるか」まで決めてしまうことをおすすめしています。一度に大きな金額を投じるかどうかで迷い続けるより、少額でも自動で続く形にしておくほうが、値段の高いときも安いときも買うことになり、買う時期を自分で当てにいかなくて済みます。引き落としの方法によっては、その金額に応じたポイントが付く仕組みが用意されている場合もありますが、対象になる支払い方法や上限、還元の割合は金融機関やカードの種類ごとに違い、変更されることもあります。条件は必ず、申し込む先の最新の案内で確かめてください。手続きと積み立ての設定を別の日に分けると、片方で止まってしまいがちです。ひと続きで終わらせるのが、止まらないための工夫です。

親世代の申請を子の側から支えるときに効くのは、制度に詳しくなることよりも、書類を取り寄せる人と、分からないところを聞く先を決めておくことです。ご自身のお金についても同じで、順番は変わりません。まずは非課税の枠がいまどうなっているかを整理し、次に聞ける相手を決め、そのうえで持つものを並べて、手続きと積み立ての形まで一度に決めてしまう。これは一つの考え方であり、非課税の枠の扱いや口座を移す手続きの流れ、手数料やポイントの条件、家族が代わりに手続きできる範囲は、金融機関や制度、ご本人とご家族の状況によって異なります。ご自身に当てはまるかどうかは、口座のある金融機関や所管の窓口、税務や法律の専門家に確認しながら進めていただければと思います。

11. まとめにかえて

親世代が受け取れる公的なお金は、制度ごとに窓口も要件も違います。ただ、子の側が用意できるものは共通していて、生年月日と厚生年金の加入期間、住民税が課税されているかどうか、離職日や再就職日といった日付、そして手元の書類のありかです。この5つをそろえてから窓口へ行くと、その場で判断が進みます。

医療と介護の制度は、入院の予定が決まったとき、介護のサービスを増やしたとき、保険が切り替わったときに動きます。年金の上乗せは、65歳という区切りと配偶者の誕生日が節目になります。どちらも家族で共有しておけば、案内が届かない制度でも取りこぼしが減ります。制度の適用は個々の事情で変わりますし、家族が代わりに手続きできる範囲も制度によって違いますので、年金事務所やハローワーク、お住まいの市区町村の窓口、加入している健康保険の窓口で確認しながら進めていただくのが確かです。

参考資料

川勝 隆登