2. 1億円という線の、すぐ手前にいる層
国外転出時課税の入口は1億円です。この線は、資産の階層を分ける区切りとしても使われています。
1億円の手前にいる層については、LIMOの記事「老後資金5000万〜8000万円の生活レベルはどこまで安泰?準富裕層が陥る贅沢と相続税の注意点をチェック」から要点を借りて確認します。
野村総合研究所は、純金融資産の保有額によって世帯を5階層に分類しています。このうち「準富裕層」は5000万円以上1億円未満とされています。2023年時点で、準富裕層は403万9000世帯と推計されています。
準富裕層は、資産運用がうまくいけば「富裕層」に上がる可能性がある一方、支出のペースを誤れば下の階層に戻ることもある、いわば分岐点にいる層だといえます。
出所:LIMO「老後資金5000万〜8000万円の生活レベルはどこまで安泰?準富裕層が陥る贅沢と相続税の注意点をチェック」
この層が全体のどこにいるのかも整理されています。
金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査」2025年によると、単身世帯の金融資産保有額(平均値)は、60歳代で1364万円、70歳代で1489万円でした。中央値で見ると60歳代300万円、70歳代500万円と、平均値との差が大きいことが分かります。
資産5000万〜8000万円という規模は、この平均値をさらに上回る水準にあたります。周囲と比較して「自分だけ足りていないのでは」と感じる必要は薄いはずです。
出所:LIMO「老後資金5000万〜8000万円の生活レベルはどこまで安泰?準富裕層が陥る贅沢と相続税の注意点をチェック」
資産の差は、月々の余力に直せます。
65歳から95歳までの30年間(360か月)で均等に取り崩すと仮定した場合、差額3000万円は月8万3333円の生活費上乗せ余力に相当します。資産6000万円(差額1000万円)なら月約2万7778円、7000万円(差額2000万円)なら月約5万5556円です。
月8万円強という金額は、旅行や趣味、外食の頻度を上げるには十分な水準です。ただし、この余力を毎月使い切ってしまうと、資産の減るペースは平均的な老後世帯よりかなり早くなります。
出所:LIMO「老後資金5000万〜8000万円の生活レベルはどこまで安泰?準富裕層が陥る贅沢と相続税の注意点をチェック」
5000万円との差額3000万円は、月8万3333円の上乗せ余力に相当する2/2
出所:LIMO「老後資金5000万〜8000万円の生活レベルはどこまで安泰?準富裕層が陥る贅沢と相続税の注意点をチェック」をもとにLIMO編集部作成
資産が増えた直後は、支出が緩みやすくなります。
問題は、その「少しずつ」が積み重なると、月々の支出が資産の増加ペースを上回ってしまう場合があることです。特に、資産が増えた直後の数年間は、支出が緩みやすい時期といえるでしょう。
防衛策としては、資産が増えたタイミングで、増えた分の何割までを生活水準の向上に充てるか、あらかじめ上限を決めておくことです。
出所:LIMO「老後資金5000万〜8000万円の生活レベルはどこまで安泰?準富裕層が陥る贅沢と相続税の注意点をチェック」
取り崩しの前提そのものも動いています。
総務省統計局が2025年9月14日に公表した資料によると、2024年の65歳以上の就業率は25.7パーセントで、前年より0.5ポイント上昇しました。年齢階級別に見ると、65〜69歳では53.6パーセント、70〜74歳では35.1パーセント、75歳以上でも12.0パーセントが就業しており、いずれも過去最高の水準です。
65歳以上の就業者数は930万人で、2004年以降21年連続で増加しています。ただし、65歳以上の雇用者(役員を除く)に占める非正規の職員・従業員の割合は76.9パーセントです。
出所:LIMO「老後資金5000万〜8000万円の生活レベルはどこまで安泰?準富裕層が陥る贅沢と相続税の注意点をチェック」
3. 線を越えるかどうかで、必要な手続が変わる
ここまで、国外転出時課税の仕組みと、1億円の手前にいる層の実態を見てきました。
国外転出時課税の対象になるのは、国外転出の時に所有等している対象資産の合計額が1億円以上で、かつ原則として国外転出をする日前10年以内に国内在住期間の合計が5年を超えている方です。対象資産は有価証券や未決済のデリバティブ取引などで、不動産や預貯金は挙げられていません。
納税は国外転出の日から5年間、延長の届出により最長10年間猶予できますが、担保の提供が要件になります。猶予期間中は毎年3月15日までに継続適用届出書の提出も必要です。
5年以内に帰国して引き続き所有等している対象資産については課税を取り消せますが、帰国の日から4か月以内に更正の請求または修正申告が必要です。
一方、資産の階層で見ると、5000万円以上1億円未満が準富裕層で、2023年時点で403万9000世帯と推計されています。同じ1億円という数字が、制度の入口と階層の区切りの両方で使われているということです。海外への移住や、非居住者への贈与を考えている場合は、所轄の税務署や税理士にご相談ください。
参考資料
- 国税庁「No.1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」
- 国税庁「No.1467 贈与により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例」
- 国税庁「No.1468 相続又は遺贈により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例」
- 野村総合研究所「野村総合研究所、日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯、その純金融資産の総額は約469兆円と推計」
- 金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」
- 総務省統計局「統計トピックスNo.146 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」
- LIMO「老後資金5000万〜8000万円の生活レベルはどこまで安泰?準富裕層が陥る贅沢と相続税の注意点をチェック」
- LIMO「老後資金1億円・2億円の生活レベルはどこまで安心?富裕層が見落とすインフレと税金の壁を試算で確認」
LIMO編集部ウェルスマネジメント班