「老後資金5000万円あれば、もう贅沢しても大丈夫」。そう思ってはいないでしょうか。しかし5000万円から8000万円という資産規模には、平均的な老後資金の話とは違う、独特の落とし穴があります。

資産が少し積み上がってくると、生活水準を上げてしまいがちです。その「少しの贅沢」が、資産の減り方をどれだけ早めてしまうのか、具体的に見ていきます。

なお、年代別の貯蓄額データについては、下記の記事より一部を引用・参照しています。

【全世代(20~70歳代)比較】貯蓄額の平均・中央値はいくら?単身・二人以上世帯で比較すると見えた「お金がある人・ない人の差」
【全世代(20~70歳代)比較】貯蓄額の平均・中央値はいくら?単身・二人以上世帯で比較すると見えた「お金がある人・ない人の差」
ココがポイント
  • 野村総合研究所の基準では、資産5000万〜1億円未満は「準富裕層」で、403万世帯が該当します
  • 5000万円と8000万円の差3000万円は、30年間でならすと月8万円強の生活費上乗せ余力にあたります
  • 資産の水準によっては、使わずに残すと相続税の対象になる場合があります

1. 「小金持ち」の実態は野村総研の「準富裕層」

資産5000万〜8000万円という規模を「小金持ち」と呼ぶこともありますが、これがどの階層にあたるのか、まず正確に確認しておきましょう。

1.1 純金融資産5000万円以上1億円未満が「準富裕層」

野村総合研究所は、純金融資産の保有額によって世帯を5階層に分類しています。このうち「準富裕層」は5000万円以上1億円未満とされています。

2023年時点で、準富裕層は403万世帯と推計されています。「富裕層」(1億円以上5億円未満)153万5000世帯と比べても、はるかに多くの世帯が該当する層です。

準富裕層は、資産運用がうまくいけば「富裕層」に上がる可能性がある一方、支出のペースを誤れば下の階層に戻ることもある、いわば分岐点にいる層だといえます。

齊藤 慧

403万世帯という数字は、聞いただけではかなりの規模に見えます。ですが実際は少数派で、多くの世帯はその下の層にいます。ここまで積み上げてきたこと自体、素直に評価できる実績だと思います。

野村総合研究所の分類では、準富裕層の下には「アッパーマス層」「マス層」が続きます。世帯数でみると、準富裕層より下の層が全体の大半を占めており、資産5000万円以上という水準に到達している時点で、かなり少数派に入っていることになります。

2. 年代別の貯蓄額から見る、資産5000万〜8000万円の位置づけ

資産5000万〜8000万円という規模が、実際にどのくらいの位置にあるのか、年代別の貯蓄額データで確認しておきます。

2.1 単身世帯の年代別貯蓄額(2025年)

金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査」2025年によると、単身世帯の貯蓄額(平均値)は、60歳代で1364万円、70歳代で1489万円でした。

中央値で見ると60歳代300万円、70歳代500万円と、平均値との差が大きいことが分かります。資産5000万〜8000万円という規模は、この平均値をさらに上回る水準にあたります。

齊藤 慧

中央値と平均値の差、300万円と1364万円では、受け取る印象がまるで違ってきます。一部の資産家が平均を引き上げている構造がある以上、「平均より低いから不安」という発想自体を見直す必要があります。

だからこそ「もう十分な資産がある」という感覚を持ちやすい層ですが、次章で見るように、その感覚が生活水準を押し上げてしまうことがあります。

2.2 二人以上世帯ではさらに水準が上がる

同調査を基にした別の集計によると、70歳代の二人以上世帯の平均貯蓄額は2416万円、中央値は1178万円でした。単身世帯より高い水準にあるものの、資産5000万円以上という規模には、平均値でも届いていません。

つまり、資産5000万〜8000万円という規模は、単身・二人以上世帯のいずれで見ても、平均値をさらに上回る少数派の水準にあるといえます。周囲と比較して「自分だけ足りていないのでは」と感じる必要は薄いはずです。

3. 資産が増えると生活水準も上がる——編集部試算

資産が5000万円から8000万円に増えたとき、その差3000万円をどう使うかによって、資産の減るペースは大きく変わります。

3.1 差額3000万円は、30年で月いくらの余力になるか

65歳から95歳までの30年間(360か月)で均等に取り崩すと仮定した場合、差額3000万円は月8万3333円の生活費上乗せ余力に相当します。

齊藤 慧

月8万円強という数字で示されると、使ってもいい範囲だという感覚が生まれます。ただ、その感覚が積み重なると減るペースが早まるという話は、次の段落で触れています。数字に安心する一方で、頭の片隅に置いておきたい点です。

3.2 【資産額別・月あたりの生活費上乗せ余力(編集部試算)】

試算:月あたりの上乗せ余力1/2

試算:月あたりの上乗せ余力

出所:LIMO編集部作成

資産6000万円・7000万円の場合

  • 6000万円(差額1000万円):月約2万7778円の余力
  • 7000万円(差額2000万円):月約5万5556円の余力

資産8000万円の場合

  • 8000万円(差額3000万円):月約8万3333円の余力

月8万円強という金額は、旅行や趣味、外食の頻度を上げるには十分な水準です。ただし、この余力を毎月使い切ってしまうと、資産の減るペースは平均的な老後世帯よりかなり早くなります。

たとえば、月2回の外食を月8回に増やし、年に1回の国内旅行を海外旅行に切り替えるといった変化だけでも、月数万円単位の支出増になり得ます。「差額を全部使う」という意識がなくても、生活水準は少しずつ上がっていくものです。生活費の増え方を見てきたところで、次は「使わずに残す」場合に関わる相続税の話を確認しましょう。

4. 【編集者の視点】

資産が増えると、外食の回数を増やしたり、旅行のグレードを上げたりと、生活水準を少しずつ引き上げてしまうことは自然な流れでしょう。

問題は、その「少しずつ」が積み重なると、月々の支出が資産の増加ペースを上回ってしまう場合があることです。特に、資産が増えた直後の数年間は、支出が緩みやすい時期といえるでしょう。

また、住み替えや車の買い替えなど、単発の大きな支出も「資産があるから」という理由で先送りにされず実行されやすくなります。

防衛策としては、資産が増えたタイミングで、増えた分の何割までを生活水準の向上に充てるか、あらかじめ上限を決めておくことです。証券会社や独立系のファイナンシャルアドバイザーに、資産の取り崩し計画を年1回程度見直してもらう習慣をつけるとよいでしょう。

特に、住宅のリフォームや車の買い替えのような単発の大きな支出は、「今すぐ必要か」「数年待てるか」を分けて考えることをおすすめします。複数の単発支出が同じ年に重なると、想定より資産の減りが早まる原因になりがちです。

5. 使わずに残すと相続税——制度との接点

資産を使わずに残しておく選択には、実は別の論点があります。相続税の基礎控除との関係です。

5.1 相続税の基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人数」

国税庁の案内によると、相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。相続財産がこの金額を超える部分に、相続税がかかる可能性があります。

たとえば配偶者と子1人の合計2人が法定相続人の場合、基礎控除額は4200万円になります。配偶者と子2人の合計3人なら4800万円になります。相続人の数が多いほど、基礎控除額も大きくなる仕組みです。

5.2 資産5000万〜8000万円は、基礎控除を超えやすい水準

資産5000万〜8000万円という規模は、この基礎控除額を超える場合が少なくありません。もちろん、配偶者の税額軽減など他の控除もあるため、実際に課税されるかどうかは個別の状況によります。

「使わずに残す」ことが、必ずしも家族にとって最も有利な選択とは限らない、という視点は持っておいた方がよいでしょう。生前にできる備えもあります。

なお、配偶者が相続する場合には「配偶者の税額軽減」という別の制度があり、配偶者の取得財産が1億6000万円までであれば、配偶者にかかる相続税が軽減されます。ただし、これは配偶者に限った制度であり、子への相続には適用されません。

5.3 【法定相続人数別・相続税の基礎控除額】

相続税の基礎控除額の計算式(3000万円+600万円×法定相続人の数)を法定相続人数別に整理2/2

相続税の基礎控除額の計算式(3000万円+600万円×法定相続人の数)を法定相続人数別に整理

出所:国税庁「No.4152 相続税の計算」などを基にLIMO編集部作成

法定相続人が1人・2人の場合

  • 1人:基礎控除額3600万円
  • 2人(配偶者と子1人など):基礎控除額4200万円

法定相続人が3人・4人の場合

  • 3人(配偶者と子2人など):基礎控除額4800万円
  • 4人(配偶者と子3人など):基礎控除額5400万円

資産5000万円という水準は、法定相続人が1人だけの場合、基礎控除額3600万円をすでに超えています。相続人の数が少ない世帯ほど、早い段階で意識しておく必要があるといえるでしょう。

6. 【編集者の視点】

「なるべく使わずに子どもに残したい」という考え方は自然なものですが、資産の規模によっては、それがそのまま相続税の対象を増やすことにつながる場合があります。

ここで見落とされがちなのが、相続税の申告・納付には期限があるという点です。相続の開始(死亡)を知った日の翌日から10か月以内に、申告と納税を済ませる必要があります。

相続財産の多くが不動産や、すぐに現金化しにくい資産である場合、納税資金の準備が間に合わないという事態も起こり得ます。10か月という期間は、遺産分割の話し合いも含めると、決して長くはありません。

資産の内訳が現金・預貯金だけでなく、不動産や非上場株式などにも及ぶ場合は、納税資金をどこから捻出するかを、早い段階からシミュレーションしておく必要があるでしょう。相続人同士で「誰が何を相続するか」を事前に話し合っておくことも、いざというときの負担を減らします。

防衛策としては、生前に相続財産の概算を一度計算してみることです。基礎控除を超えそうな場合は、生前贈与の非課税枠の活用や、納税資金の確保について、税理士に早めに相談しておくことをおすすめします。

7. 「引退後は無収入」という前提そのものが崩れている

老後資金のシミュレーションの多くは、「65歳以降は年金と資産の取り崩しだけで生活する」という前提を置いています。しかし、この前提自体が実態と合わなくなってきています。

7.1 65〜69歳の過半数が働いている

総務省統計局が2025年9月14日に公表した資料によると、2024年の65歳以上の就業率は25.7%で、前年より0.5ポイント上昇しました。

年齢階級別に見ると、65〜69歳では53.6%、70〜74歳では35.1%、75歳以上でも12.0%が就業しており、いずれも過去最高の水準です。

65歳以上の就業者数は930万人で、2004年以降21年連続で増加しています。「引退後は無収入」という前提は、もはや多数派の実態ではなくなりつつあります。

齊藤 慧

930万人が働いている、21年連続で増えている。この数字が示すのは、「働き続ける」ことがもう特別な選択ではなくなってきているという現実です。無理のない範囲で関わり続ける生き方も、選択肢の一つとして定着してきています。

ただし、同資料によれば、65歳以上の雇用者(役員を除く)に占める非正規の職員・従業員の割合は76.9%です。多くは正社員時代と同じ収入水準ではなく、再雇用や非正規雇用による限定的な収入であることには注意が必要です。

資産の取り崩しシミュレーションを見る際は、それが「完全に無収入」を前提にしているのか、「一定の就労収入がある」前提なのかを確認することが、実態に近い判断につながるでしょう。

8. 【編集者の視点】

「老後は資産と年金だけで生活する」という前提でシミュレーションを組むと、実態より厳しい数字が出やすくなります。実際には、65〜69歳の半数以上が何らかの形で働いているのが今の姿でしょう。

ただし、非正規雇用が中心である以上、現役時代と同じ感覚で「収入があるから大丈夫」と考えるのは早計です。収入の額と、いつまで続けられるかという2つの不確実性が残ります。

防衛策としては、資産の取り崩し計画を「無収入」パターンと「一定の就労収入あり」パターンの両方で試算しておくことです。就労収入が途切れた場合に、生活水準をどこまで下げられるかも、あわせて考えておくとよいでしょう。

9. まとめ

  • 資産5000万〜1億円未満は、野村総合研究所の定義では「準富裕層」にあたり、403万世帯が該当します
  • 資産5000万円と8000万円の差3000万円は、30年間で均等に取り崩すと月8万3333円の生活費上乗せ余力になります
  • 資産5000万〜8000万円は、相続税の基礎控除額を超える場合が少なくありません
  • 2024年の65〜69歳の就業率は53.6%で過去最高であり、「引退後は無収入」という前提は実態と合わなくなってきています

資産が増えたとき、それをどれだけ生活水準の向上に使い、どれだけ将来や家族のために残すかは、正解がひとつに決まる話ではありません。

まずは、資産の取り崩し計画と、相続財産としての概算の両方を一度確認してみてはいかがでしょうか。具体的な配分や税務上の取り扱いについては、ファイナンシャルプランナーや税理士に相談することをおすすめします。日々の生活費だけでなく、将来の家族の負担まで含めて考えると、判断の軸が見えやすくなるはずです。

10. よくある質問

10.1 Q. 老後資金5000万円は「小金持ち」ですか

A. 野村総合研究所の定義では、純金融資産5000万円以上1億円未満は「準富裕層」にあたります。2023年時点で403万世帯が該当し、「富裕層」(1億円以上5億円未満)の一歩手前の層です。

10.2 Q. 老後資金5000万円と8000万円では、生活レベルはどう変わりますか

A. 差額の3000万円を30年間で均等に取り崩すと仮定すると、月あたり約8万3333円の生活費上乗せ余力になる計算です。旅行や趣味の頻度を上げる余地は生まれますが、使い切ると資産の減るペースは早まります。

10.3 Q. 老後資金7000万円や8000万円は相続税がかかりますか

A. 相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」です。資産7000万〜8000万円は、法定相続人の数によっては基礎控除を超える場合があります。個別の判断は税理士に確認することをおすすめします。

10.4 Q. 老後は本当に無収入になるのですか

A. 総務省の2025年公表資料によると、2024年の65〜69歳の就業率は53.6%です。多くの人が何らかの形で働き続けており、「完全な無収入」を前提にした試算は実態と異なる場合があります。

10.5 Q. 準富裕層は今後どうなっていきますか

A. 野村総合研究所によると、富裕層・超富裕層の世帯数は2013年以降一貫して増加傾向にあります。準富裕層から富裕層へ移行する世帯がある一方、支出の増加によって水準を維持できない世帯もあると考えられます。株式相場の変動によって、資産評価額そのものが上下する点にも注意が必要です。

参考資料

齊藤 慧