2. 資産1億円台は、統計のどこに位置しているのか

国外財産調書の1件あたりは約5億6300万円でした。この規模を、平均的な老後世帯の家計と並べてみます。

比べる土台になる数字は、LIMOの記事「老後資金1億円・2億円の生活レベルはどこまで安心?富裕層が見落とすインフレと税金の壁を試算で確認」から要点を借りて確認します。

総務省「家計調査報告(家計収支編)」2025年(令和7年)平均(2026年2月6日公表)によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の実収入は月25万4395円でした。このうち社会保障給付が22万8614円を占め、実収入の89.9パーセントにあたります。

消費支出は26万3979円で、月4万2434円の不足(赤字)が生じている計算です。この不足分を30年間(360か月)分の資産で埋めるとすると、必要な予備資金は1527万円ほどです。

出所:LIMO「老後資金1億円・2億円の生活レベルはどこまで安心?富裕層が見落とすインフレと税金の壁を試算で確認」

実収入から税や社会保険料などの非消費支出3万2850円を引いた可処分所得は22万1545円です。ここから消費支出26万3979円を引いた差が、4万2434円の不足にあたります。

桁が変わると、参照できる統計そのものが乏しくなります。

総務省「家計調査報告(貯蓄・負債編)」2025年(令和7年)平均(2026年5月19日公表)が公表する貯蓄現在高の階級区分は、最上位が「4000万円以上」です。

つまり、資産1億円・2億円・3億円という規模ごとの貯蓄額・生活費の内訳は、総務省の公表統計そのものには存在しません。

出所:LIMO「老後資金1億円・2億円の生活レベルはどこまで安心?富裕層が見落とすインフレと税金の壁を試算で確認」

公表区分は4000万円以上で打ち切られ、1億円台以上の内訳は存在しない2/3

家計調査で公表される貯蓄現在高の階級区分と、公表されていない1億円台以上の区分をまとめた表

出所:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果」をもとにLIMO編集部作成

資産の額が同じでも、時間が経てば中身は変わります。

総務省「消費者物価指数(全国)」2025年(令和7年)平均(2026年1月23日公表)によると、総合指数の前年比は3.2パーセントの上昇でした。この上昇率が今後も続くと仮定した場合、資産1億円の実質的な価値は10年後に約7298万円、20年後に約5326万円、30年後に約3887万円となります。

この試算は、あくまで2025年の物価上昇率が一定で続くと仮定した単純計算です。実際のインフレ率は年によって変動するため、この通りになるとは限りません。

出所:LIMO「老後資金1億円・2億円の生活レベルはどこまで安心?富裕層が見落とすインフレと税金の壁を試算で確認」

物価上昇率3.2パーセントが続くと、1億円の実質価値は30年後に約3887万円まで下がる3/3

物価上昇率3.2パーセントが続いた場合の資産1億円・2億円・3億円の10年後・20年後・30年後の実質価値の試算表

出所:総務省統計局「消費者物価指数(全国)2025年(令和7年)平均」をもとにLIMO編集部作成

非課税制度の効き方も、規模で変わります。

NISAの非課税保有限度額は1800万円(うち成長投資枠の上限は内数で1200万円)です。この枠を使い切った場合の資産額に対するカバー率は、資産1億円で18.0パーセント、1億5000万円で12.0パーセント、2億円で9.0パーセント、3億円で6.0パーセントとなります。

資産が大きくなるほど、非課税枠が資産全体に占める割合は小さくなっていきます。NISAは有力な選択肢のひとつではありますが、資産規模が大きい場合、それだけで資産の大部分を非課税にできるわけではない、という点は理解しておく必要があります。

出所:LIMO「老後資金1億円・2億円の生活レベルはどこまで安心?富裕層が見落とすインフレと税金の壁を試算で確認」

3. 公表されている範囲と、されていない範囲

ここまで、国外財産調書の提出状況と、資産1億円台という規模の立ち位置を見てきました。

国税庁の令和6年分の集計では、総提出件数1万4544件、総財産額8兆1945億円で、前年からそれぞれ9.8パーセント、26.3パーセント増えています。財産の種類別では有価証券が5兆4817億円で66.9パーセントを占め、東京局が財産額の80.6パーセントを抱えていました。

一方、国内の貯蓄については、総務省の公表区分が4000万円以上で打ち切られており、1億円台以上の内訳は公表資料に存在しません。国外財産のほうが、5000万円超という線で中身まで公表されているという関係です。

提出義務の判断は、年末時点で国外財産の合計額が5000万円を超えるかどうかで決まります。海外に不動産や有価証券をお持ちで判断に迷う場合は、所轄の税務署や税理士にご確認ください。

参考資料

LIMO編集部ウェルスマネジメント班