2. 「増やす」から「使う」へ、なめらかに移す

移行の失敗は、両極に振れることで起きます。現役の勢いのまま値動きの大きい運用を続けても、逆に不安から全額を預金に移しても、どちらも後悔につながりがちです。段階的に舵を切るのがコツです。

2.1 50歳代:運用と現金の比率を点検する

まだ「増やす」力が残るこの時期に、運用資産と現金の割合を一度確かめます。値動きのある資産に偏っていないか、逆に現金だけで眠っていないかを見て、自分に合う比率へ整えます。

この点検を一度しておくと、定年が近づいても慌てて売り買いせずにすみます。

2.2 60歳代:取り崩し用のクッションを用意する

使う局面に入ったら、当面2〜3年分の生活費を預貯金で確保します。この「現金クッション」があると、相場が下がった年に運用資産を慌てて売らずにすみます。

あわせて、公的年金は受給の開始時期を選べます。繰下げれば受取額を増やせるため、就労や蓄えの状況に合わせて検討する価値があります。

2.3 医療や住まいの費用も見込んでおく

年齢が上がると、医療や住まいにかかるお金が読みにくくなります。移行の計画には、日々の生活費だけでなく、こうした備えの分もあらかじめ織り込んでおきましょう。

持ち家なら修繕費、賃貸なら家賃の支払いが老後もどう続くかも確認しておくと安心です。想定外を減らすほど、取り崩しの計画は狂いにくくなります。

大切なのは、両極に振れず段階を踏むことです。比率の点検、現金クッション、年金の受け取り方を、順に整えていきましょう。

3. 元証券会社員からのアドバイス

「増やす」から「使う」への移行を、3つの行動にまとめます。

一つ目は、運用資産と現金の比率を点検すること。偏りを整えておくと、定年前後で慌てずにすみます。

二つ目は、2〜3年分の生活費を現金で確保すること。このクッションが、下落局面での不本意な売却を防ぎます。

三つ目は、年金の受給開始時期を検討すること。繰下げで受取額を増やす選択肢も、状況に応じて考えてみましょう。

宮野 茉莉子

退職金の運用を控えたお客様と向き合うなかで痛感したのは、移行は「一気に」ではなく「段階的に」が正解だということです。急ハンドルは、たいてい後悔を生みます。

50歳代のうちに比率を点検し、60歳代で現金クッションを用意する。この二段構えなら、相場の上下に振り回されずにすみます。

年金の繰下げも、有力な選択肢です。長く働ける方や蓄えに余裕のある方は、受取額を増やす道も検討してみてください。

まずは、いまの運用資産と現金の割合を書き出すところから。移行の設計は、その一枚から始まります。

移行は、早めに考えはじめるほど、穏やかに進めることができます。増やす力と使う安心、その両方をバランスよく持ち続けることが、この年代のコツです。

一気に舵を切る必要はありません。比率の点検、現金クッション、年金の受け取り方と、段階を踏んでいけば、定年後の暮らしはぐっと軽やかになります。

早めの一手が、定年後の安心につながります。あなたに合った移り方を、いまから少しずつ整えていきましょう。

4. まとめにかえて

50〜60歳代は、お金の役割が「増やす」から「使う」へ移る、大切な転換期です。両極に振れず、段階的に舵を切ることが、後悔しないコツです。

50歳代で比率を点検し、60歳代で現金クッションと年金の受け取り方を整える。この順番なら、移行はなめらかに進みます。

比率や受給時期の判断は、一度に決めなくて構いません。まずは運用と現金の割合を書き出し、偏りを整えるところから始めてみてください。

参考資料

宮野 茉莉子