「富裕層」という言葉を検索したことがある人の多くは、「自分はどの層に入るのだろう」という素朴な疑問を抱えています。年収が高ければ富裕層なのか、それとも資産の大きさで決まるのか、はっきりしないまま検索を終えている人も少なくありません。
この記事では、日本の富裕層の定義として広く参照されている野村総合研究所(NRI)の最新推計をもとに、基準となる金額や2023年時点の実態を整理します。あわせて、2023年のデータで見つかった「中間層の異変」という、まだあまり知られていない変化も紹介します。
なお、富裕層の割合や年代別の資産形成については、下記の記事より一部を引用・参照しています。
1. 「富裕層」の基準は「純金融資産1億円以上5億円未満」——野村総合研究所の5段階分類でみる全体像
「富裕層」には、国が定めた公式の定義はありません。ただし民間の研究機関である野村総合研究所が、日本の世帯を資産規模で5段階に分類する推計を長年公表しており、この基準が実質的な物差しとして広く使われています。
1.1 純金融資産という物差し
NRIの分類が使うのは「純金融資産保有額」という指標です。預貯金や株式、投資信託、生命保険などの金融資産の合計から、住宅ローンなどの負債を差し引いた金額を指します。
不動産そのものの評価額は含まれません。持ち家があっても、金融資産が少なければ富裕層には分類されない仕組みです。
1.2 5段階の全体像(2023年時点)
NRIは日本の総世帯を、純金融資産保有額に応じて5つの階層に分類しています。「富裕層」はこのうち上から2番目、「超富裕層」が最上位にあたります。
純金融資産保有額の階層別にみた世帯数と資産規模(2023年)1/2
出所:野村総合研究所「日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯、その純金融資産の総額は約469兆円と推計」などを基にLIMO編集部作成
1.3 【純金融資産保有額の階層別にみた世帯数と資産規模(2023年)】
上位2階層(1億円以上)
- 超富裕層(5億円以上):11.8万世帯
- 富裕層(1億円以上5億円未満):153.5万世帯
中間の3階層(1億円未満)
- 準富裕層(5000万円以上1億円未満):403.9万世帯
- アッパーマス層(3000万円以上5000万円未満):576.5万世帯
- マス層(3000万円未満):4424.7万世帯
2023年時点で、富裕層と超富裕層を合わせた世帯数は165.3万世帯です。2021年の148.5万世帯から11.3%増加し、この推計を始めた2005年以降で最も多い水準になりました。
5つの階層の世帯数をすべて合計すると、日本の総世帯数は約5570万世帯と推計されます。このうち富裕層・超富裕層が占める割合は3%に満たず、大半の世帯はマス層とアッパーマス層に集中していることが分かります。
2. 「年収が高い=富裕層」ではない、資産と年収は別の物差し
「富裕層 定義 年収」と検索する人の多くは、「年収がいくらあれば富裕層なのか」を知りたいはずです。ですがNRIの定義は年収ではなく、あくまで純金融資産の残高で決まります。
2.1 年収が高くても富裕層とは限らない
年収が高くても、住宅ローンや教育費の負担が大きく、金融資産をあまり積み上げられていない世帯もあります。この場合、NRIの基準では富裕層には分類されません。
逆に、年収が特別高いわけではなくても、長期間にわたって着実に資産を積み上げてきた世帯が、結果的に純金融資産1億円を超えるケースもあります。
2.2 年収から富裕層に近づく世帯像
NRIは、都心部で世帯年収3000万円以上に達する共働き世帯を「スーパーパワーファミリー」と呼んでいます。世帯年収が2000万円を超える40歳前後から資産が急速に積み上がり、50歳前後に富裕層となる可能性があるとしています。
地方部でも、生活コストの違いを踏まえると、世帯年収1000万円以上の共働き世帯が60歳前後に富裕層となる可能性があるとNRIは分析しています。
なお、NRIは世帯年収1500万円以上の共働き世帯を「パワーファミリー」と呼んでおり、スーパーパワーファミリーはその中でも特に世帯年収3000万円以上に達した層を指す言葉です。
富裕層に共通する資産形成の行動パターンについては、資産1億円以上の富裕層に共通する3つの特徴!お金が自然と貯まる人の思考と行動で詳しく解説しています。
3. 2023年、日本の「中間層」に起きた過去最大の変化——アッパーマス層はなぜ激減したのか
NRIの推計を2021年と2023年で比較すると、5階層のうちアッパーマス層だけに大きな異変が起きていることが分かります。
3.1 2021年→2023年の階層別世帯数の変化
準富裕層とマス層の世帯数はどちらも増えている一方、その間に挟まれるアッパーマス層だけが大きく減っています。
2021年→2023年の階層別世帯数の変化(中間3階層)2/2
出所:野村総合研究所「日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯、その純金融資産の総額は約469兆円と推計」の推計値を基にLIMO編集部が試算
3.2 【2021年→2023年の階層別世帯数の変化(中間3階層)】
増えた階層
- 準富裕層:325.4万世帯→403.9万世帯(+24.1%)
- マス層:4213.2万世帯→4424.7万世帯(+5.0%)
減った階層
- アッパーマス層:726.3万世帯→576.5万世帯(-20.6%)
編集部で2005年から2023年までの推移を計算したところ、アッパーマス層の726.3万世帯から576.5万世帯への減少幅は、この推計が始まった2005年以降で最大でした。
一方、準富裕層の325.4万世帯から403.9万世帯への伸びも、同じ期間で最大の増加幅にあたります。株価の上昇や円安を背景に、アッパーマス層にいた世帯の資産が値上がりし、上の準富裕層に押し上げられた結果ではないかとNRIは分析しています。
4. 【編集者の視点】
「中間層が減った」と聞くと不安になるかもしれませんが、ここでいう減少は、資産が減って階層が落ちたという話ではありません。むしろ逆で、資産が増えたことで上の階層に移った世帯が多いために起きている変化です。
注意したいのは、この統計はあくまで世帯単位の推計であり、自分自身の資産状況を正確には教えてくれない点です。自分がどの階層に近いのかを知りたい場合は、預貯金・株式・投資信託・保険の解約返戻金などを合計し、そこから住宅ローンなどの負債を差し引いた「純金融資産」を自分で計算してみることが出発点になります。
証券会社や銀行のマイページ、通帳、保険証券を横断的に確認しないと正確な金額は出てきません。ばらばらに眺めているだけでは、自分の位置を見誤りやすくなります。
資産の棚卸しをした結果、想定より多くの純金融資産があると分かった場合は、資産運用の見直しだけでなく、相続や贈与を含めた資産の承継についても、早めに考え始める価値があります。具体的な進め方に迷う場合は、税理士や金融機関の資産承継相談窓口に相談する方法があります。
5. 一般の会社員にも起きている「いつの間にか富裕層」という新しい富裕層像
NRIは今回の推計で、新しいタイプの富裕層像を「いつの間にか富裕層」と名付けました。まだあまり知られていない言葉ですが、内容を知ると身近に感じる人も多いはずです。
5.1 「いつの間にか富裕層」とはどんな人か
年齢は40代後半から50代、職業は主に一般の会社員です。従業員持株会や確定拠出年金、NISA枠の活用を通じて、運用資産が結果的に1億円を超えたケースが多いとNRIは説明しています。
NRIの試算では、準富裕層から富裕層になった「いつの間にか富裕層」は、富裕層以上の世帯のうち1〜2割程度を占めると推察されています。
5.2 気づかないことで起きるリスク
この層は、資産が増えても給与収入の範囲内でこれまでと変わらない生活を続けているのが特徴です。金融機関との付き合い方も変えていない人が多いとされています。
資産運用を金融機関の担当者や家族・知人に任せきりで、自分では内容を把握していないケースもあるとNRIは指摘しています。富裕層向けの金融商品の特性やリスクの理解が、資産の増加ペースに追いついていない可能性があります。
NRIは、こうした「いつの間にか富裕層」を含め、新たに出現しつつある富裕層の解像度を上げ、各セグメントに応じた金融サービスを提供していくことが、今後の金融機関に求められると指摘しています。
6. 【編集者の視点】
「いつの間にか富裕層」という言葉が示すのは、特別な人だけの話ではなく、地道な積立や勤務先の制度をこつこつ続けてきた結果、資産規模が変わった人たちの姿です。
ただし、資産が増えたこと自体に気づいていない、あるいは気づいていても何も対応していないケースには注意が必要です。運用資産の額が大きくなるほど、値動きの影響も金額として大きくなるためです。
防衛策としては、年に一度など決まったタイミングで、証券会社や銀行の残高、持株会・確定拠出年金の評価額をまとめて確認する習慣を持つことが挙げられます。想定より資産が増えていた場合は、リスクの取り方や資産の配分が今の自分に合っているかを見直す材料になります。
資産規模が大きくなった段階で判断に迷う場合は、担当の金融機関だけでなく、独立系のファイナンシャルアドバイザーや税理士に相談し、複数の視点から意見を聞く方法もあります。
※本記事は、編集部が野村総合研究所が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
7. 相続をきっかけに資産が急増するケースも増えている
富裕層・超富裕層が増えている背景として、NRIは株価上昇や円安に加えて、相続の影響も挙げています。
7.1 相続人が富裕層になるケースの増加
NRIが引用する国税庁の相続統計によると、課税価格3億円以上の被相続人の数は、2017年の8039名から2022年には1万98名に増えています。その法定相続人の数も、2万7395名から3万3045名に増加しています。
相続によって、それまで富裕層ではなかった人が、一度に純金融資産1億円以上を保有する立場になるケースが増えていると考えられます。
7.2 資産の急増と相続税の申告
相続税には基礎控除があり、遺産の総額がこの金額以下であれば申告や納税は原則不要です。基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。
相続によって純金融資産が急に増えた場合、この基礎控除を超えていないか、早めに確認しておくことが欠かせません。相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内と定められています。
老後の生活設計や資産防衛の観点からは、老後資金1億円〜3億円の生活レベル。超富裕層が陥るインフレと税金の罠もあわせて参考になります。
8. 【編集者の視点】
相続によって純金融資産が急に増える場合、慌ただしい中で「申告が必要かどうか」の確認が後回しになりがちです。基礎控除を超えるかどうかは、預貯金や株式だけでなく、生命保険金や不動産の評価額まで含めて計算する必要があります。
申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内と決まっており、この期限を過ぎると、本来受けられたはずの控除や特例が使えなくなる場合があります。
早い段階で、相続財産の全体像を洗い出し、基礎控除額と比べてみることが第一歩になります。判断に迷う場合は、早めに税理士や税務署の窓口に相談することをおすすめします。
9. まとめ
- 「富裕層」に国の公式な定義はなく、野村総合研究所が純金融資産保有額1億円以上5億円未満と定義しています。
- 2023年時点で富裕層・超富裕層は合わせて165.3万世帯、準富裕層は403.9万世帯です。
- 富裕層かどうかは年収ではなく、積み上がった純金融資産の額で決まります。
- 2021年から2023年にかけて、アッパーマス層が過去最大の減少を見せる一方、準富裕層は過去最大の伸びを記録しました。
- 「いつの間にか富裕層」のように、一般の会社員が資産形成の結果として富裕層に近づくケースも増えています。
富裕層という言葉は、遠い世界の特別な人を指すイメージを持たれがちですが、実際の基準は年収ではなく、日々の積み立てや資産配分の結果として積み上がる純金融資産の額で決まります。数字の切り口を変えるだけで、意外と身近な話に感じられるはずです。
自分がどの階層に近いのか気になった場合は、まず預貯金や投資信託、保険などの金融資産を洗い出し、負債を差し引いた金額を確認することから始めてみてください。相続などで資産規模が急に変わった場合は、早めに専門家に相談することも大切です。
10. よくある質問
10.1 Q. 富裕層とは、簡単に言うとどういう人ですか?
A. 野村総合研究所の分類では、預貯金や株式などの金融資産から負債を差し引いた「純金融資産」が1億円以上5億円未満の世帯を富裕層と呼びます。年収の高さではなく、積み上がった資産の額で判断される点がポイントです。
10.2 Q. 富裕層の基準は誰が決めているのですか?公的な基準はありますか?
A. 国が定めた公式の基準はありません。現在広く使われているのは、野村総合研究所が独自に推計・公表している純金融資産保有額別の5段階分類です。
10.3 Q. 準富裕層と富裕層の違いは何ですか?
A. 野村総合研究所の分類では、純金融資産5000万円以上1億円未満が準富裕層、1億円以上5億円未満が富裕層です。2023年時点で準富裕層は403.9万世帯、富裕層は153.5万世帯と推計されています。
10.4 Q. 年収がいくらあれば富裕層になれますか?
A. 富裕層の基準は年収ではなく純金融資産の額のため、年収だけでは判断できません。ただしNRIの分析では、世帯年収3000万円以上の共働き世帯が50歳前後で富裕層になる可能性があるとされています。
10.5 Q. アッパーマス層は富裕層に含まれますか?
A. 含まれません。アッパーマス層は純金融資産3000万円以上5000万円未満の世帯を指し、富裕層(1億円以上5億円未満)より下の階層にあたります。2023年時点で576.5万世帯と推計されています。
参考資料
- 野村総合研究所「野村総合研究所、日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯、その純金融資産の総額は約469兆円と推計」(2025年2月13日公表)
- 野村総合研究所「Financial Information Technology Focus 2025.5 拡大する富裕層市場と『いつの間にか富裕層』」(2025年5月公表)
- 国税庁タックスアンサー「No.4152 相続税の計算」
LIMO編集部ウェルスマネジメント班

