7. 30歳代に多い「つみたて投資枠を、どれくらいのペースで使えばいいのか分からない」というご相談。IFA・長井 祐人が伝えたいこと

30歳代は、働き方や収入の見通しがだんだん定まってくる一方で、住まいや子育てにかかるお金がこれから重なっていく時期です。前半でみたように、非課税で投資できる制度は毎年の枠として用意されていて、使わなかった年の分を後から取り戻すことはできません。

証券会社で個人のお客様の資産運用のご相談に応じてきた立場から申し上げると、この年代の方が迷われるのは、投資をするかしないかではなく、枠をどれくらいのペースで使っていくかという点です。上乗せに使える期間がいちばん長いのがこの年代ですから、急いで満額を入れることより、続けられる速さを見つけることのほうが効いてきます。相談の場では次のような声を耳にします。

7.1 30歳代に多いお悩み相談は「大きく増やしたいわけではないのに、枠を埋める速さと買うものが同時に決まらない」

30歳代のお客様

「そんなに大きく増やそうという気持ちはなくて、できるだけ減らさずに、ちょっとずつでも増えればいいという気持ちでいます。保険を通じて運用に回している分はすでにあって、それに加えて非課税の口座でも少しずつ積み立てを始めようと考えています。手元にあるまとまったお金も、いくらか動かそうかと迷っているところです。

ただ、いざ選ぶ段になると手が止まります。候補として名前が挙がるものがいくつもあって、どれがどう違うのかが分かりません。国内の株式は、正直なところあまり信用しきれないので投資先から外したいと思っています。運用の管理に手間をかけたくないという気持ちもあります。毎月いくらずつ入れていけばいいのか、枠をどれくらいのペースで使えばいいのかも決まっていません」

相談の場でも、非課税で投資できる枠があることは知っていて口座も用意したのに、毎月いくらずつ入れるのかと、何を買うのかが同時に決まらないという方に数多くお会いします。

こうした方に多いのは、この二つを一度に決めようとしていることです。順番を分ければ、どちらも決められる大きさの問いになります。

7.2 【IFA・長井 祐人が回答】買うものの中身が決まると、入れる速さは後からついてくる

長井 祐人

積立投資を始める際は、「非課税枠をどれだけ使うか」ではなく、「毎月いくらなら無理なく続けられるか」から考える必要があります。
投資は、一般的に投資金額が大きいほど得られるリターンも大きくなります。
しかし、収入や支出は人それぞれ異なり、枠をすべて使い切ることが正解とは限りません。
積立投資は、20年・30年と長期間に続けることも想定しているため、現在の生活や保険などに影響が出ない金額から始めていきましょう。
余裕が出てきたら、少しずつ積立額を増やしていきましょう。NISAやiDeCoも積立額を変更することができますが、長期投資を行っても損失のリスクがなくなるわけではないため、注意が必要です。

7.3 ポイント1:同じ口座の中に、入れ方が決められた枠と、自由に入れられる枠がある

最初に確かめていただくのは、口座の中に用意されている枠の形です。非課税で投資できる制度には、性格の違う二つの入れ口があります。一方は、あらかじめ決められた投資信託の中から選んで、毎月など決まったタイミングで買い付けていく形です。年間で入れられる上限は120万円で、一定の条件を満たす商品の中から選ぶ仕組みになっています。もう一方は、上場している株式や、より幅の広い投資信託も対象になり、まとまった額を一度に入れることもできる形です。こちらの年間の上限は240万円です。同じ口座の中にありますが、上限の決まり方も、お金の入れ方も違います。ここを分けずに「非課税の口座をいくらやるか」とひとまとめに考えると、毎月の積立額をどうするかという話と、手元のまとまったお金を動かすかどうかという話が混ざってしまいます。積み立てで入れる分は、家計から毎月確実に出せる額に合わせて決める。まとまったお金を入れるかどうかは、それとは別の判断として置く。この二つを分けておくと、上限まで使うのか、出せるところまでで止めておくのかという判断もしやすくなります。なお、制度の上限や対象になる商品の条件は見直されることがありますので、実際に手続きをする前に、口座を開いた金融機関の説明や公的な案内で最新の内容を確かめてください。

7.4 ポイント2:どこに投資するのかという範囲と、値動きの決め方で候補を仕分ける

二つめは、候補の名前がいくつも並んで見分けがつかない、というところです。実際のところ、投資信託を見分ける軸はそれほど多くありません。一つめは、どこに投資するのかという範囲です。米国の代表的な株価指数に連動するものは、投資先が米国の大きな企業に集まります。全世界の株式に広く分散するものは、米国が大きな割合を占めつつ、欧州や日本、新興国も含まれます。名前が違っても中に入っている企業はかなり重なりますが、米国以外の部分をどれくらい持つかで、値動きの出方が変わります。二つめは、値動きの決め方です。指数に連動させることを目的にしたものは、指数と同じ動きになるように機械的に組み入れます。運用する側が銘柄を選んで指数を上回ることを目指すものは、その判断が当たれば指数より増えますが、外れれば下回ります。国内の株式を投資先から外したいというお考えがあるなら、この二つの軸で見ていくとよいでしょう。全世界に分散するものには日本の企業も含まれますから、外したいのであれば、範囲のほうを選び直すことになります。どちらが正しいという話ではなく、何に投資しているのかを自分の言葉で言えるかどうかが基準になります。

7.5 ポイント3:判断をおまかせする形は、払う費用と納得できる増え方を並べて見る

運用の管理に手間をかけたくないというお気持ちは、この年代の方から本当によく伺います。その受け皿として、値動きの状況に応じて株式や債券の組み入れ比率を運用する側が調整していく、判断そのものをおまかせする形の商品もあります。ロボアドバイザー型と呼ばれることもあるもので、自分で見直す手間はたしかに減ります。ただ、必ず一緒に見ていただきたいのが費用です。投資信託を持っている間は、信託報酬という費用が資産から少しずつ引かれ続けます。判断を委ねる形のものは、その手間の分だけ費用が高めになる傾向があります。指数に連動させるだけのものと比べると、その差は一年あたりでは小さく見えますが、持ち続ける年数のあいだ積み上がっていきます。ここで比べるのは、費用の高さそのものではなく、払う費用と、その分だけ増え方が良くなると納得できるかどうかです。手間が減ることに価値を感じるなら、費用は納得して払うものになります。増え方だけを期待して選ぶと、下がった年に費用のほうだけが目につきます。費用は交付される目論見書や説明の書面に必ず書いてありますから、候補を並べて、同じ欄を見比べてみてください。

7.6 ポイント4:地域と種類で一枚に並べ、保険で運用に回している分も同じ表に載せる

四つめは、ここまで見てきた候補を、地域と種類で一枚に並べ直す作業です。手を動かす量は少ないのですが、効き方はいちばん大きいところです。縦に国内・先進国・新興国といった地域、横に株式・債券・その他といった種類を置いて、いま持っているものと、これから買おうとしているものを書き込んでいきます。すると、候補として挙げていたものが同じような欄に集まっていることが見えてきます。そして落としやすいのが、保険を通じて運用に回している分です。保険の中で投資に回っている部分も、値動きのある資産です。ここを表に載せずにいると、非課税の口座の中だけを見て分散できているつもりになり、全体では同じ地域の株式に大きく偏っている、ということが起こります。この表ができてから、あらためて何を買うのかを決めます。減らさずに少しずつ増えればよいというお考えであれば、値動きの幅が小さく収まるように、株式だけに寄せない置き方もあります。期間を長く取れるので途中の値動きは受け止められるというお考えであれば、株式の比率を高めに置くこともできます。どちらを選ぶにしても、毎月いくら入れるのかは、この表と、家計から出せる額の両方が決まってから出てくる数字です。枠の上限が先に来るわけではありません。

枠が用意されていると、埋めなければ損をするように感じてしまいますが、上限は「ここまで入れられる」という線であって、「ここまで入れなさい」という指示ではありません。これは一つの考え方であり、どの範囲まで枠を使うのが適しているかは、すでに続けている契約の条件や、ご家族の状況、収入の見通しによって異なります。まずは、いま持っているものを地域と種類で一枚に書き出してみてください。一枚になったら、積み立てで選べる商品の条件と、持っている間にかかる費用を、交付される目論見書や口座を開いた金融機関の窓口で確かめておくことをおすすめします。枠の上限や税の扱いで判断に迷うときは、税務署や専門家にもあたってみてください。

8. まとめにかえて

年間120万円という上限は、月に割り戻すと10万円です。ただ、記事でたどった試算では、月8万円まで引き上げても15年後の資産評価額は2119万円で、置いた目標の3000万円には届きませんでした。上限に近づけることと、目標に届くことは別の話だということです。

一方で、毎月1万円から始めて5年ごとに2万円ずつ足していく形なら、25年で元本1500万円、年利3%なら約1958万円という並びになりました。急いで満額を入れるより、止めずに続けられる額から始めて、余裕が出た時点で足していくほうが現実的です。年間の上限や対象になる商品の条件、税の扱いについては、口座を開いた金融機関の説明や公的な案内で確かめながら進めてください。

参考資料

長井 祐人