9月は、夏に受け取った賞与の使い道がおおむね片づき、来年の家計をどう組み直すかを考えやすい時期にあたります。非課税で投資できる枠を来年はどのくらい使うのか、という話が出てきやすいタイミングでもあります。

新NISAのつみたて投資枠には、1年間に入れられる額の上限として120万円が定められています。毎月同じ額でこれを使い切ると考えると、月10万円という数字が出てきます。この記事では、公表されている積立の試算をたどりながら、枠を使い切るペースがどれくらいの家計の余力に支えられているのかを、順番に見ていきます。

長井 祐人
「上限まで入れられないなら、始めても意味が薄い」と決めつける前に、上限の額と、いま出せる額を別々の紙に書いてみてください。実務でご相談を受けていて感じるのは、上限を知った瞬間に、いま積み立てている額との差だけが目に入ってしまう方が多いということです。公的年金という土台の上に乗せる上乗せは、枠の大きさからではなく、毎月出せる額のほうから決めていく。この順番にすると、話が整理しやすくなります。

なお、新NISAを使った積立の試算に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【新NISA】毎月5万円を15年運用するといくら?50歳から始める利回り別シミュレーション
【新NISA】毎月5万円を15年運用するといくら?50歳から始める利回り別シミュレーション

1. つみたて投資枠の年120万円という上限は、どんな仕組みの上に置かれているのか

個人の資産形成を後押しする目的で2014年に始まったNISAは、2024年に大きく見直され、いまの「新NISA」の形になりました。年間に入れられる額の上限も、この見直しで整理し直されています。

1.1 いまの制度で押さえておきたい6つの決まりごとを確かめる

新NISAの輪郭は、次の6点を押さえると見えてきます。枠の名前と上限の額が並んでいる3つめと4つめが、この記事で扱うペースの話に直接かかわる部分です。

  1. 非課税で保有できる期間に上限がなくなりました。
  2. 「つみたて投資枠」と「成長投資枠」を同時に利用できます。
  3. 年間の投資上限額は、つみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円です。
  4. 生涯にわたる非課税保有限度額は合計1800万円で、そのうち成長投資枠は最大1200万円まで利用でき、売却すれば枠が復活します。
  5. つみたて投資枠では、「長期の積立・分散投資」に適していると国が認めた投資信託などが対象です。
  6. 成長投資枠では、上場株式や投資信託など、より幅広い商品に投資ができます。

入り口の額は、思われているほど大きくありません。500円や1000円といった単位から買い付けられる商品も増えており、上限の120万円は「ここまで入れられる」という線であって、入れなければならない額ではありません。

上限だけを見ると遠く感じますが、月あたりに割り戻すと10万円です。この10万円を、いまの積立額の延長線上にどう置くのかが、この先の章で扱う話になります。

2. 毎月5万円を15年間続けると、資産評価額はどこまで届くのか「年1%から年5%まで」

ペースの話に入る前に、公表されている試算がどんな条件で組まれているのかを確かめておきます。次の3つが置かれた前提です。

  • 50歳から65歳までの15年間で老後の資金を準備する
  • 毎月の積立金額は5万円とする
  • 投資信託の利回りは、安定運用を想定して年1%~5%で試算する

2.1 元本900万円に対して、想定利回りごとの到達額がどこまで開くのかを見る

【新NISA】想定利回り別「月5万円」積立投資シミュレーション結果1/3

【新NISA】想定利回り別「月5万円」積立投資シミュレーション結果

出所:金融庁「つみたてシミュレーター」をもとにLIMO編集部作成

想定利回りごとの資産評価額(元本900万円)

  • 年1%の場合:970万円
  • 年2%の場合:1047万円
  • 年3%の場合:1131万円
  • 年4%の場合:1223万円
  • 年5%の場合:1324万円

15年続けて入れた元本の合計は900万円です。そこに乗る運用の成果は、想定利回りしだいで約70万円から424万円までの幅を持ちます。ただし、投資した額を下回る、いわゆる元本割れが起きる年もあります。期待できる収益が大きい前提ほど、値動きの振れ幅も大きくなる関係にあることは、上の表を読むときの前提として置いておきたいところです。

そしてこの表は、毎月5万円という額を15年間そのまま続けた場合の姿です。年60万円ですから、つみたて投資枠の年間の上限120万円に対しては、ちょうど半分にあたります。

長井 祐人
この表を見て「利回りをどう上げるか」に目が向く方が多いのですが、動かせる度合いが大きいのは、実は毎月の額のほうです。利回りは選べても、決められるものではありません。年間の上限を12で割って、120万円は月10万円、240万円は月20万円と月の単位に直しておくと、家計の話と同じ土俵に並べられます。積み立てた後に手を入れずに置いた期間がどう効いてくるのかは、月10万円×15年積立+放置のシミュレーション記事もあわせてご覧ください。

3. 目標を3000万円に置いた場合、毎月の積立額をいくらまで上げれば届くのか

老後に要る額は暮らし方によって変わりますが、ここでは目標を3000万円と置いてみます。50歳から65歳までの15年間でそこへ届かせるには、毎月の額がいくら要るのかという見方です。

3.1 想定利回りを年5%に固定して、月4万円から月8万円までを並べて確かめる

【新NISA】積立金額別「想定利回り5%」積立投資シミュレーション結果2/3

【新NISA】積立金額別「想定利回り5%」積立投資シミュレーション結果

出所:金融庁「つみたてシミュレーター」をもとにLIMO編集部作成

毎月の積立額と資産評価額

  • 月4万円の場合:1059万円
  • 月5万円の場合:1324万円
  • 月6万円の場合:1589万円
  • 月7万円の場合:1854万円
  • 月8万円の場合:2119万円

※想定利回りは年5%で計算

月8万円まで引き上げても、15年後の資産評価額は2119万円にとどまり、置いた目標の3000万円には届きませんでした。ここから先を毎月の額だけで埋めようとすると、家計の負担は急に重くなります。加えて、年5%という利回りは約束された数字ではありません。

この並びから読み取れるのは、15年という期間そのものが短いということです。運用に充てられる年数が長いほど、毎月の額を抑えたまま目標に近づけます。期間を確保しておくことは、毎月の負担を軽くしながら形をつくるための土台にあたります。

4. 収入が増えたときに積立額を足していく進め方は、25年でどこまで積み上がるのか

最初から大きな額を入れなくても、家計に余裕ができた時点で積立額を上げていく組み立て方があります。たとえば、毎月1万円から始めて、5年ごとに2万円ずつ増やしていくとします。この形なら、25年間で合計1500万円の元本を入れられます。

年利3%で運用を続けられたとすると、最終的な資産総額は約1958万円となり、入れた元本の約1.3倍にあたる水準に届く計算になります。

積立額を5年ごとに引き上げた場合の資産推移(金融庁「NISAの活用事例」)3/3

積立額を5年ごとに引き上げた場合の資産推移を示した図

出所:金融庁「NISAの活用事例」

この進め方の良いところは、始めるときの負担が軽い点にあります。長く積み立てるうえで効いてくるのは、途中で止めないことです。まずは出せる範囲の額から始めて、余裕が出てきた時点で見直す。この柔軟さのほうが、最初に大きな額を置くことより結果に効いてきます。

5. 非課税という利点と長く続けることを、枠を使うペースの話として整理するとどうなるのか

運用で得た利益に税がかからないという点は、資産形成を支える大きな要素です。ただ、その利点が効いてくるかどうかは、入れられた額と、続けられた年数で決まります。

同じ条件で始めても、想定利回りと毎月の額が違えば、行き着く額は大きく変わりました。そして毎月の額のほうは、利回りと違って自分で決められる数字です。

短い期間で大きな目標を置くと、毎月の負担がそのまま重くなります。年数を長く取れる形にすれば、無理のない額のまま積み上げていけます。値動きがあることを前提に、自分のペースで続けられるかどうかが、枠を使い切れるかどうかを分けます。

6. 【監修者コメント】月10万円という水準が、どんな前提の上に立った数字なのかを補う

中本 智恵

銀行の窓口でご相談をお受けしていた頃の経験からお伝えすると、「上限まで入れないと損をする」という思い込みは非常に多く見られます。ただ、この記事に並んでいる数字は、性質がふたつに分かれます。年120万円、年240万円、合計1800万円という枠の額は、制度として決まっている数字です。一方で1324万円や2119万円という資産評価額は、想定利回りを置いたうえでの推計であり、置き方を変えれば動きます。同じ記事に並んでいても、確からしさは同じではありません。記事の試算はいずれも50歳から65歳までの15年間、毎月同じ額を入れ続ける前提で組まれていますので、途中で額を下げた年があれば結果は変わります。

それから、毎月10万円を投じられるかどうかは、額面の収入ではなく手取りで決まります。手取りから固定費と生活費を引いた残りが、実際に動かせる部分です。世帯単位で合算すると出せるように見えても、引き落とされるのは片方の口座ですから、名義ごとに分けて見ておくと差が出にくくなります。年間の上限や対象になる商品の条件、税の扱いは今後も見直される可能性がありますので、口座を開いた金融機関の説明や税務署の窓口で確かめたうえで進めていただくのが確かです。