2. 男女で約5万9000円の差。年金分割の仕組みとは

この夫婦間の年金格差を是正し、老後の生活を支える数少ない公的な手段が「年金分割」という制度です。

分割によって影響を受けるのは、すべての人に共通する国民年金(基礎年金)の部分ではなく、会社員などが加入する「老齢厚生年金」の部分です。厚生労働省の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、老齢厚生年金の平均的な受給額(老齢基礎年金を含む)は月額15万289円です。

【男女別】老齢厚生年金の平均的な受給額3/3

【男女別】老齢厚生年金の平均的な受給額

出所:厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」

しかし、これを男女別に見ると大きな差があります。

  • 男性の平均受給額:月額16万9967円
  • 女性の平均受給額:月額11万1413円

男女間で月額約5万9000円もの開きがあることが分かります。この差を生む主な要因こそが、働き方の違いやライフイベントによる厚生年金記録の差です。婚姻期間中に生じたこの夫婦間の厚生年金記録の差を、離婚時に最大2分の1ずつに分け合うのが年金分割の役割です。この制度を利用して、将来の年金増額のメリットを受けやすいのは次のような方々です。

  • 婚姻期間中、専業主婦(または専業主夫)だった期間が長い人
  • パートタイムなど、配偶者の扶養の範囲内で働いてきた人
  • 夫婦ともに共働きだったが、配偶者との収入差が大きかった人

3. 年金分割で「月約3.3万円」増える?実施状況をみる

では、実際にどのくらい年金分割が利用されているのでしょうか。令和6年度の統計をみると、離婚件数18万3840組に対し、年金分割の実施件数は3万5755件でした(離婚分割2万3383件、3号分割のみ1万2372件)。離婚した夫婦のうち、年金分割を利用したのは約2割にとどまっています。

一方で、年金分割による年金額への影響は小さくありません。

離婚分割 受給権者の分割改定前後の平均年金月額等の推移2/2

離婚分割 受給権者の分割改定前後の平均年金月額等の推移

出所:厚生労働省「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」

仮に月3万円の増額が老後の20年間続いたとすれば、総額で720万円もの差になり、老後の安心感に大きくつながります。

第1号改定者(分割した側)

  • 改定前:15万6324円
  • 改定後:12万4917円
    →約3万1408円減少

第2号改定者(分割を受けた側)

  • 改定前:6万934円
  • 改定後:9万4509円
    →約3万3575円増加

このように、年金分割によって受給額が月3万円以上増えるケースもあり、離婚後の生活設計を考えるうえで重要な制度といえるでしょう。

※それぞれ異なる対象者の平均値のため、全体の減少額と増加額は一致しません。

3.1 合意分割と3号分割の違い

年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。合意分割は婚姻期間中の厚生年金記録を対象に、夫婦の合意または裁判により最大2分の1まで分割する制度です。

一方、3号分割は、2008年(平成20年)4月以降に、第3号被保険者(会社員や公務員に扶養されている配偶者)だった期間がある方は、この3号分割という仕組みが使えます。この期間分については相手の同意や合意書の作成が一切不要で、自分ひとりの手続きだけで厚生年金記録を半分に分割できるため、非常にスムーズです。

ただし、対象となる期間が2008年4月以降に限られるため、婚姻期間がそれ以前から長く続いている場合は、合意分割と組み合わせて請求することを検討してみると良いでしょう。

4. 【2026年4月改正】請求期限が「5年」へ。4つの手続きステップ

年金分割による恩恵は大きいものの、令和6年度の統計によると、離婚件数18万3840組に対し、年金分割の実施件数は3万5755件と、利用者は約2割にとどまっています。最大の理由は「制度自体を知らないこと」や「日々の忙しさで期限を過ぎてしまうこと」などが考えられます。

しかし、2026年4月1日の法改正により、年金分割の請求期限が原則として「離婚等をした日の翌日から起算して5年以内」へと大幅に延長されました。手続きの時間が確保しやすくなったことは朗報です。(※2026年3月31日以前に離婚をした場合は、従来通り「2年以内」となります)

年金分割は待っていても自動的には行われません。ご自身で以下の4つのステップで手続きを進める必要があります。

  1. 「年金分割のための情報通知書」を請求する
    お近くの年金事務所でこの書類を請求します。分割の対象となる期間や、年金を分割する割合(按分割合)の目安、ご自身の年金がどれくらい増えそうかを把握することができます。
  2. 相手と話し合い、按分割合を決める(合意分割の場合)
    情報通知書をもとに、元配偶者と年金を分ける割合を話し合います。最大で50パーセントずつに分けることが可能です。話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判を利用して決めることになります。
  3. 「標準報酬改定請求書」を年金事務所に提出する
    割合が決まったら、年金事務所に請求書を提出します。このとき、戸籍謄本や、2人で合意したことを証明する書類(公正証書や調停調書など)を一緒に提出する必要があります。
  4. 年金記録が改定される
    提出した書類の内容が認められると、国が管理する厚生年金の記録が書き換えられ、将来もらえる老齢厚生年金の額に反映されます。

5. まとめにかえて

今回は、2026年4月の法改正で請求期限が延長された「年金分割」の仕組みと、年金事務所での具体的な手続きについて解説しました。

年金分割は、婚姻期間中の夫婦の収入差を調整し、老後の生活基盤を穏やかに守るための正当かつ大切な制度です。2026年4月以降の離婚であれば請求期限が5年に延長されましたが、自動で分割されるわけではないため、自ら手続きを行う必要があります。

離婚前後は心身ともに負担が大きく、目の前のことで手一杯になりがちですが、将来の自分自身を助けるための重要な一歩です。ご自身のタイミングが落ち着いたときなど、少しでも気になる場合は年金事務所や専門家に相談し、安心できる未来の生活設計に役立ててみてください。

参考資料

村岸 理美