「年収500万円の手取りはいくら?」と早見表で調べても、実際の給与明細の金額とどこか違う。そんな違和感を覚えたことはないでしょうか。
ネット上の早見表の多くは「東京23区在住・独身・ボーナスなし」といった一つの条件だけで作られています。ですが、勤務先が所在する都道府県や、扶養している家族の有無によって、同じ年収でも手取りは数万円単位で変わります。
この記事では、年収と手取りの違いという基本を押さえたうえで、編集部で作った年収別の早見表を示し、その早見表が「どんな前提の上に成り立っているか」を、都道府県ごとの健康保険料率と、扶養控除の有無という2つの切り口から検証します。
自分の状況に早見表をそのまま当てはめる前に、どこにズレが生じやすいのかを確認しておきましょう。
1. そもそも「年収」「所得」「手取り」は何が違うのか
早見表を正しく読むには、まず似ている3つの言葉の違いを押さえておく必要があります。
1.1 年収は税金や社会保険料が引かれる前の総支給額
「年収」は、1月から12月までに会社から支払われた給与の総額で、税金や社会保険料が引かれる前の金額です。源泉徴収票の「支払金額」欄で確認できます。
「所得」は、年収から給与所得控除という一定額を差し引いた後の金額で、税金の計算のベースになります。
そして「手取り」は、年収から社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険・子ども子育て支援金)と、所得税・住民税を差し引いた後、実際に口座へ振り込まれる金額です。
早見表は、この「年収から手取りまでの引き算」を先回りして計算したものです。次の章では、編集部で実際に試算した早見表を見ていきます。
2. 【早見表】年収300万〜900万円の手取り目安
年収300万〜900万円の手取り目安(編集部試算)1/3
出所:国税庁「No.1410 給与所得控除」、同「No.1199 基礎控除」、全国健康保険協会「令和8年度保険料率(東京支部)」などを基にLIMO編集部試算
2.1 【年収300万〜900万円の手取り目安】
年収300万〜500万円の場合
- 年収300万円:手取り約240万円(約80.1%)
- 年収400万円:手取り約317万円(約79.2%)
- 年収500万円:手取り約390万円(約78.0%)
年収600万〜900万円の場合
- 年収600万円:手取り約462万円(約77.0%)
- 年収700万円:手取り約531万円(約75.8%)
- 年収800万円:手取り約594万円(約74.3%)
- 年収900万円:手取り約660万円(約73.4%)
年収が上がるほど、手取り率がゆるやかに下がっていくのがわかります。厚生年金保険料には上限がある一方、所得税は稼ぐほど税率が上がる累進課税だからです。この「額面の75〜85%」という目安がなぜズレるのか、通勤手当の扱いや社会保険料の上限まで踏み込んだ仕組みは、手取りと年収の違い・逆算の基本で詳しく解説しています。
より細かい年収帯・手取り帯の試算は、手取り15万〜25万円は年収いくらかでも扱っています。
3. 【編集者の視点】
この早見表は「東京23区・独身・ボーナスなし」という、あくまで一つの条件で計算した目安です。同じ年収でも、勤務先が所在する都道府県や扶養家族の有無によって、実際の手取りはここからずれていきます。
次の章から、この早見表がどれくらいの幅でずれ得るのかを、具体的な数字で確認していきます。「早見表の数字はあくまで出発点」という前提を持っておくと、自分の給与明細と見比べたときの違和感にも冷静に対処できます。
正確な金額を知りたい場合は、最終的には給与明細や源泉徴収票に記載された実際の控除額を確認するのが一番の近道です。
4. 早見表通りにならない理由①:住む都道府県で健康保険料率が違う
早見表の多くは、東京都の健康保険料率をもとに作られています。ですが、協会けんぽの健康保険料率は都道府県ごとに異なり、全国一律ではありません。
4.1 令和8年度、最も高い佐賀県と最も低い新潟県の差は1.34ポイント
全国健康保険協会(協会けんぽ)によると、令和8年度の都道府県単位保険料率は、都道府県ごとに9.21%から10.55%まで幅があります。最も高いのは佐賀県の10.55%、最も低いのは新潟県の9.21%です。東京都は9.85%で、全国平均に近い水準です。
この保険料率の差は労使折半のため、本人負担で見ると半分の0.67ポイントの差になります。年収が同じでも、勤務先の事業所が所在する都道府県によって、天引きされる健康保険料の金額が変わることになります。
編集部で、年収300万・600万・900万円の会社員について、東京都・佐賀県・新潟県それぞれの健康保険料(本人負担、年額)を試算しました。
4.2 【都道府県による健康保険料(本人負担・年額)の差】
年収300万円の場合
- 東京都(9.85%):約14万7750円
- 佐賀県(10.55%):約15万8250円
- 新潟県(9.21%):約13万8150円
- 佐賀と新潟の差:約2万100円
年収900万円の場合
- 東京都(9.85%):約44万3250円
- 佐賀県(10.55%):約47万4750円
- 新潟県(9.21%):約41万4450円
- 佐賀と新潟の差:約6万300円
年収が上がるほど、同じ料率差でも実際の金額差は開いていきます。早見表を見るときは、それが自分の住む都道府県の料率で作られたものかどうかを、まず確認する必要があります。
5. 【編集者の視点】
協会けんぽの保険料率は、都道府県支部ごとの医療費の実績などを踏まえて、原則として毎年3月分(4月納付分)から改定されます。転職や転勤で勤務先の事業所が変わると、加入する支部も変わり、天引きされる保険料率が変わります。
会社員の場合、自分がどの都道府県支部の協会けんぽに加入しているかは、健康保険証の保険者名称や、給与明細の控除項目名から確認できます。全国健康保険協会が毎年公表する都道府県別の一覧表と照らし合わせれば、自分の保険料率がどの水準にあるかが分かります。
なお、健康保険組合に加入している大企業の会社員は、協会けんぽとは別の保険料率が適用されるため、この試算はあくまで協会けんぽ加入者を前提にした目安です。自分の保険料率が気になる場合は、加入している健康保険組合または協会けんぽの都道府県支部に確認してみることをおすすめします。
6. 早見表通りにならない理由②:扶養家族がいると「税金だけ」が変わる
もう一つ、早見表の前提から外れやすいのが扶養家族の有無です。ここでいう扶養家族とは、配偶者以外で生計を一にする親族(例えば同居する親など)を指します。
6.1 扶養控除は所得税と住民税だけに効き、社会保険料には影響しない
国税庁によると、扶養親族の合計所得金額が58万円以下(給与収入のみなら123万円以下)である場合、所得税の一般の扶養控除として38万円が控除されます。
一方、大阪市の個人市民税の解説によると、住民税(個人市民税・府民税)における一般の扶養控除の額は33万円で、所得要件は所得税と同じく合計所得58万円以下(給与収入123万円以下)です。
この扶養控除は、所得税と住民税の課税所得を減らす効果はありますが、健康保険や厚生年金保険の保険料計算には一切関係しません。社会保険料は、扶養親族の有無にかかわらず、本人の標準報酬月額だけで決まる仕組みだからです。
編集部で、年収300万・600万・900万円の会社員について、扶養親族(一般の扶養控除に該当する親族1人)がいる場合の、所得税・住民税の節税額を試算しました。
6.2 【扶養親族1人の有無による所得税・住民税の節税額】
年収300万円(所得税率5%)の場合
- 所得税の節税額:1万9000円
- 住民税の節税額:3万3000円
- 合計の節税額:5万2000円
年収900万円(所得税率20%)の場合
- 所得税の節税額:7万6000円
- 住民税の節税額:3万3000円
- 合計の節税額:10万9000円
住民税の節税額は、どの年収でも一律3万3000円です。住民税の所得割の税率が、年収にかかわらず10%で一定だからです。一方、所得税の節税額は年収が上がるほど大きくなります。所得税が累進課税で、年収が高い人ほど適用される税率も高くなるためです。
7. 【編集者の視点】
この試算で見落としやすいのは、「扶養控除で得をする金額」と「扶養に入れられる所得の上限」は、どちらも「扶養」という言葉を使いながら別の制度に基づいている点です。
税金の扶養控除は、扶養親族の合計所得58万円以下(給与収入123万円以下)が基準です。一方、健康保険の被扶養者として認定される基準は、多くの健康保険組合・協会けんぽで年収130万円未満とされており、税金の扶養控除の基準とは金額も制度の趣旨も異なります。
「扶養に入れているから税金も社会保険料もまとめて有利になっている」と思い込まず、今問題にしているのが税金の扶養控除の話なのか、社会保険の被扶養者認定の話なのかを、まず区別することをおすすめします。
扶養親族の具体的な所得要件や控除額は、勤務先の年末調整の書類や、お住まいの市区町村の個人住民税の窓口で確認できます。
8. 早見表の前提条件を、自分の状況に当てはめて読み直す
ここまで見てきた通り、早見表はあくまで一つの前提条件のもとでの試算です。最後に、早見表を自分に当てはめる際の注意点を整理します。
8.1 「年収の壁」と「扶養控除」「被扶養者」は、似ているようで基準が違う
年収を基準にした「103万円の壁」「130万円の壁」といった言葉も、早見表とあわせてよく検索されます。これらの壁のうち、どれが税金の話で、どれが社会保険の話なのかは、103万・130万など他の「年収の壁」との違い・比較一覧で詳しく整理しています。
また、本人自身の非課税ラインに関わる「年収の壁178万円」については、年収の壁178万円の基本で制度の仕組みを解説しています。今回の早見表とあわせて確認すると、扶養する側・される側それぞれの基準を整理しやすくなります。
早見表はあくまで「東京都・独身・扶養家族なし・ボーナスなし」という一つの断面を切り取ったものです。勤務先が所在する都道府県、扶養家族の有無、年齢(40歳以上は介護保険料が加わります)、賞与の有無によって、実際の手取りはこの早見表の数字から変わってきます。
※本記事は、編集部が国税庁・全国健康保険協会・大阪市が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
9. まとめ
- 年収は税金・社会保険料が引かれる前の額面で、手取りはそこから社会保険料・所得税・住民税を差し引いた金額です。
- 編集部試算の早見表では、年収300万円の手取りは約240万円(約80.1%)、年収900万円では約660万円(約73.4%)です。
- 協会けんぽの健康保険料率は都道府県ごとに異なり、令和8年度は最も高い佐賀県(10.55%)と最も低い新潟県(9.21%)で1.34ポイントの差があります。
- 扶養控除(所得税38万円・住民税33万円)は所得税・住民税だけに影響し、社会保険料には影響しません。節税額は住民税分が一律なのに対し、所得税分は年収が上がるほど大きくなります。
早見表は、年収から手取りのおおよその見当をつけるための便利な出発点です。ただし、それはあくまで一つの条件のもとでの目安であり、住んでいる場所や家族構成によって数字が動くことを踏まえておく必要があります。
自分の正確な手取りを知りたい場合は、給与明細や源泉徴収票に記載された実際の控除額を確認し、疑問があれば勤務先の給与担当者や、加入している協会けんぽの都道府県支部・市区町村の税務窓口に相談することをおすすめします。
10. よくある質問
10.1 Q. 年収と手取りの差は、だいたいどれくらいですか?
A. 東京23区在住・40歳未満・独身・扶養家族なし・ボーナスなしという条件の編集部試算では、年収300万円で約80.1%、年収600万円で約77.0%、年収900万円で約73.4%が手取りの目安です。年収が上がるほど、手取りの割合はゆるやかに下がっていきます。
10.2 Q. 勤務先が所在する都道府県によって、手取りはどれくらい変わりますか?
A. 協会けんぽの健康保険料率は都道府県ごとに異なり、令和8年度で最も高い佐賀県(10.55%)と最も低い新潟県(9.21%)の差は1.34ポイントです。本人負担ベースでは半分の0.67ポイントの差になり、年収900万円の場合で年間約6万300円の差が生じます。
10.3 Q. 扶養家族がいると、社会保険料も安くなりますか?
A. いいえ、変わりません。扶養控除(所得税38万円・住民税33万円)は所得税・住民税の課税所得を減らす制度で、健康保険や厚生年金保険の保険料は、扶養親族の有無にかかわらず本人の標準報酬月額だけで決まります。
10.4 Q. 早見表の手取り額を、自分の年収にそのまま当てはめてもいいですか?
A. 目安として使うのは問題ありませんが、正確な金額は異なります。早見表は「東京都・独身・扶養家族なし・ボーナスなし」という一つの前提での試算のため、勤務先が所在する都道府県、扶養家族の有無、年齢、賞与の有無によって実際の手取りは変わります。正確な金額は給与明細や源泉徴収票で確認してください。
参考資料
- 国税庁「源泉所得税の改正のあらまし 令和8年4月」(基礎控除額の令和8年4月改正)
- 国税庁「No.1410 給与所得控除」
- 国税庁「No.1199 基礎控除」
- 国税庁「No.1180 扶養控除」
- 大阪市「所得控除額の計算」
- 全国健康保険協会「令和8年度都道府県単位保険料率」
- 日本年金機構「厚生年金保険料額表(令和8年度版)」
- 厚生労働省「令和8年度雇用保険料率のご案内」
- 東京都主税局「個人住民税」
LIMO編集部年収解説班
