10. 保険を見直すつもりで相談に来て、開いたままの運用口座に気づいた。ファイナンシャルアドバイザー・渡邉 珠紀が語る、ばらばらな入口をつなぐ順序
60歳代は、自分から申し出ないと動かない手続きが、いくつも重なってくる時期です。公的年金は請求の手続きをして初めて受け取りが始まりますし、暮らしや医療費を支える給付にも、条件に当てはまっていても申請しなければ受け取れないものがあります。前半でみたように、この種の仕組みは、待っていれば向こうから届くというものではありません。そして厄介なのは、その入口が一か所にまとまっていないところです。年金のことは年金の窓口、医療や介護のことは自治体の窓口、保険のことは保険の窓口、運用のことは金融機関の窓口。それぞれの窓口は聞かれたことには丁寧に答えてくれますが、隣の窓口の話まではしてくれません。保険代理店で約2000世帯のご相談に携わってきた立場から見ていて感じるのは、多くの方が「これを始めたい」ではなく「どこから聞けばいいのか分からない」という状態で相談にいらっしゃるということです。相談の場では次のような声を耳にします。
10.1 見直したい気持ちはあるのに、聞く相手がテーマごとに変わって、そのつど振り出しに戻ってしまう

「保険を見直したいと思って、相談の窓口に足を運びました。今入っているのは掛け捨ての形のもので、毎月の負担を考えると、このままでいいのか気になっています。働いているうちは払えても、この先ずっと同じ額を払い続けるのかと考えると迷います。子どもに残せる形にしておきたい気持ちもあります。
もうひとつ、気になっていることがあります。非課税で投資ができる制度の口座を、以前に自分で開きました。ただ、開いたところで止まってしまっていて、何をどう選べばいいのか分からないまま今日まで来ています。保険のことは保険の窓口、運用のことは証券会社と、聞く場所が分かれているので、そのつど一から調べ直すことになって、結局どちらも進みません。相談すると費用がかかるのではという心配もあって、聞くこと自体をためらっていました」
相談の場でも、保険を見直すつもりでいらっしゃって、話しているうちに開いたままの口座や手をつけていない手続きが次々と出てくる、という方に数多くお会いします。
10.2 【ファイナンシャルアドバイザー・渡邉 珠紀が回答】窓口の数だけ分けて考えなくていい。一枚の紙に並べるところから
10.3 ポイント1:保障のために出すお金と、増やすために出すお金は、同じ手元のお金から出ている
保険と運用は、扱う窓口が違うので別の話のように見えますが、決める段階では同じ表の上に並びます。どちらも、毎月あるいは毎年、手元のお金の一部を先に出しておいて、あとで受け取る仕組みだからです。並べてみると、重なっている部分が見えてきます。たとえば掛け捨ての形の保険は、保障を買うことに徹していて、使わなければ戻りません。一方で、払ったお金の一部が積み立てに回る形の保険もあり、こちらは保障と積み立てを兼ねているぶん、仕組みは複雑になります。運用のほうは、保障は付きませんが、必要になったときに引き出せます。どれが正しいということではなく、同じ「先に出しておくお金」を、保障のために出すのか、増やすために出すのか、いつ引き出せる形で出すのかという配分の話になります。ですから、今入っているものの中身を先に確かめる。何を保障してもらっているのか、それは今の暮らしに要るのか、要らなくなった部分はないか。その整理をしないまま新しいものを足すと、同じ保障を二重に持ったまま負担だけが増えることがあります。見直しは、足す前に確かめる作業から始まります。
10.4 ポイント2:口座は開いた時点では動いていない。何を買うかを決めるまでが一つの手続き
非課税で投資ができる制度は、口座を開くところと、実際に買うところが別の手続きになっています。ここで止まってしまう方は少なくありません。案内には「口座開設が完了しました」と書かれているので、手続きが終わったように見えるのですが、その先に、いくらを、どのくらいの間隔で、何に入れるのかを自分で指定する操作が残っています。指定しなければ、お金は動きません。ここも、待っていれば始まるものではないという意味では、申請しないと受け取れない給付と同じ構図です。画面の操作でつまずいている方には、どの順にどこを押すのかを一緒に確かめるところまでお付き合いします。そして選ぶ中身のほうも、一人で決めきる必要はありません。世界のどのあたりに投資するものなのか、値動きの幅はどのくらいの性格なのか、持っているあいだの費用はどれくらいかかるのか。この三つを見るだけでも、候補はかなり絞れます。口座を開けたことを到達点にせず、最初の買い付けが動き出すところまでを一続きの手続きとして扱ってください。
10.5 ポイント3:亡くなったときの備えだけでなく、働けなくなったときのことも確かめておく
保険の見直しの場では、亡くなったときにいくら残るかという話が中心になりがちです。ただ、60歳代でまだ働いている方の場合、もう一つ確かめておきたい面があります。亡くなるわけではないけれど、病気やけがで長く働けなくなったときのことです。この場合、収入が減る一方で、暮らしにかかるお金は減りません。公的な仕組みにも、働けない期間の収入を支える給付は用意されていますが、これも自分で申し出て手続きをしなければ始まりませんし、受け取れる期間や条件が決まっています。そこを埋めるために、働けなくなったときの収入を補う保険があります。ただし、これは誰にでも必要なものではありません。すでに手元に取り崩せるお金があって、当面の暮らしをしのげるのであれば、そちらで足りることもあります。反対に、収入が止まると生活がすぐに立ち行かなくなるのであれば、備えておく意味は大きくなります。要るか要らないかは、手元にある取り崩せるお金と、働けない期間の見通しを並べて決める。名前だけを見て要否を判断しないところが大事です。
10.6 ポイント4:費用のかかり方と、その窓口の費用が誰の負担になっているのかを聞いておく
相談すると費用がかかるのではないか、という心配は、実はとても多く聞かれます。ここははっきり分けて考えられます。かかる費用には、相談そのものに対して支払うものと、商品を持っているあいだに商品の中から差し引かれていくものがあります。相談の窓口によって、どちらの形で成り立っているのかが違います。窓口の側が商品を扱う会社から受け取る形で成り立っているなら、相談する側が直接支払う費用は生じません。そうであるなら、なぜ無料で成り立つのかを説明してもらってください。説明できる窓口であれば、そこで納得したうえで進められます。そして商品側の費用は、こちらが何もしなくても差し引かれ続けるので、持っているあいだにどれくらいかかるのかを最初に確かめておく価値があります。そのうえで、次に何をいつまでにやるのかを決めて帰ってください。一度の相談で全部決めなくてかまいません。今日は中身を確かめるところまで、次は手続きの書類を書くところまで、と区切って、誰と一緒に進めるのかを決めておく。そこまで決まっていると、ばらばらだった入口が一本の道になります。
窓口が分かれているのは、こちらの都合ではなく、制度や事業の側の区切り方です。ですから、入口の数に合わせて自分の悩みを切り分ける必要はありません。手元にあるものを一枚の紙に並べて、どこから手をつけるかを一緒に決められる相手を見つける。それが、相談に来る意味のいちばん大きなところだと思います。これは一つの考え方であり、どの手続きを先に済ませるべきか、どんな保障が必要か、費用がどれくらいかかるかは、働き方や家族の状況、加入している制度によって異なります。公的な給付や年金の請求には期限が決まっているものもありますので、条件や必要な書類は年金の窓口やお住まいの自治体の窓口で早めに確認し、判断に迷う部分は専門家に相談しながら進めてください。
11. まとめにかえて
9つの制度を並べてみると、入口は4つに収まりました。年金事務所、ハローワーク、加入している健康保険の保険者、そしてお住まいの市区町村です。制度の数だけ悩みを切り分ける必要はなく、窓口ごとに質問を束ねれば足ります。
年金の上乗せ2つは同じ窓口で尋ねられますし、雇用保険の3つはハローワークにまとめられます。医療と介護は保険証に書かれた保険者と自治体に分かれ、合算の制度は保険が切り替わった年だけ自分から動く形になります。相談に来る意味がいちばん大きいのは、この束ね方を一緒に決められるところだと感じています。制度の当てはめは個々の事情で変わりますので、要件や必要な書類については、それぞれの窓口で早めに確認していただくのが確かです。
参考資料
- 【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説
- 日本年金機構「初めて老齢年金を請求するとき」年金請求書(国民年金・厚生年金保険 老齢給付)様式第101号
- 日本年金機構「か行 加給年金額」
- 日本年金機構「加給年金額と振替加算」
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度について」
- 日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~」
- 厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
- 日本年金機構「年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整」
- 厚生労働省「再就職手当のご案内」
- 厚生労働省「離職されたみなさまへ<高年齢求職者給付金のご案内>」
- 国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
- 厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額をお知らせする『年金額改定通知書』、『年金振込通知書』の発送を行います」
渡邉 珠紀
