7. 預貯金だけでは物価の上昇に追いつかないと気づき、非課税の口座を開き直すところまで進んだ。IFA・川勝 隆登が語る、いま自分がいる段階で見るべきものの決め方

世帯の資産を五つの段階に分けて並べた表は、自分がどのあたりにいるのかを確かめる目印として、よく使われます。前半でみたように、この五つは下から上へ順に積み上がる形になっていて、上の段階に進むほど世帯の数は絞られていきます。ただ、表が教えてくれるのは位置だけです。同じ表を見ていても、いまいる段階が違えば、次に手をつけるところも、見るべきものも変わります。ですから、上の段階にいる方の話をそのまま持ってきても噛み合いません。ご相談を受けていると、位置は分かったのにその先で立ち止まってしまう、という方に何度もお会いします。証券会社で個人・法人の資産運用のご相談に応じてきた立場から見ると、これは表の読み方の問題ではなく、段階ごとに見るものを切り替える発想が共有されていないことによるものです。相談の場では次のような声を耳にします。

7.1 表のなかで自分の位置は分かったのに、そこから何を見ればいいのかは書いていない

60歳代(ご相談者)

「資産を五つの段階に分けた表を見て、自分がどのあたりにいるのかは分かりました。会社員として働いていて、預貯金はある程度たまっています。以前、非課税の口座で投資信託を持っていたことがあるのですが、値動きが気になってしまって、利益が出るのを待たずに解約してしまいました。いまはまた口座を開く手続きをしているところです。

このまま預貯金だけで置いておくと、物価が上がっていくなかで実際に使える価値のほうが減っていくのではないかと気になっています。ただ、表に書いてあるのは自分の位置までです。上の段階にいる方と同じことをすればいいのか、それともいまの段階では別のことをするのか、そこが分からないのです。」

相談の場でも、自分の位置は把握できたのに、そこから次に何を見ればいいのかが決まらないという方に数多くお会いします。

7.2 【IFA・川勝 隆登が回答】上の段階をまねるのではなく、いまの段階で見る数字を絞る

川勝 隆登
上の段階の人と同じことをしようとするのではなく、運用をする上での基本的な考え方を知り、長期的な資産形成に向けて計画立てて進めていくことが重要です。そのうえで、まずは公的年金の積立金の配分を物差しとして借りてみましょう。公になっている運用の例を見るとイメージを持つことができます。また、リスク分散に向けて買う時期を分けたりといった工夫は必要になってきます。あと何年運用できるかによってリスク許容度が変わってくるので、将来をイメージして投資手法や選ぶ商品を検討していきます。

7.3 ポイント1:公的年金の積立金の配分を、比率の物差しとして借りる

何から見ればいいか分からないとおっしゃる方には、まず公になっている運用の例をお見せしています。私たちの公的年金の積立金は、専門の機関が運用していて、その方針や配分は公表されています。国内と海外、そして株式と債券という組み合わせで分けて持つという形をとっていて、どれか一つに寄せていません。ここで見ていただきたいのは、比率の数字そのものではなく、大きなお金を長い期間にわたって預かる立場の人が、どういう考え方で置き場所を分けているかという点です。全部を預貯金に置いてもいませんし、全部を株式に寄せてもいません。つまり、増やす部分と支える部分を同時に持つという形です。これは、いまどの段階にいる方にも共通して借りられる物差しになります。反対に、借りられないのは比率そのものです。公的年金は受け取る人の数も期間もまったく違う前提で組まれていますから、同じ比率をご自身に当てはめる話ではありません。なお、配分の方針や比率は見直されることがありますので、最新の内容は公表資料でご確認いただきたいところです。

7.4 ポイント2:非課税の枠は、買う時期を分けることと組み合わせて考える

次に、いま手続きをしている非課税の口座の話です。この枠のありがたさは、運用して増えた分にかかる税の負担が軽くなるところにあります。裏を返すと、増える前に手放してしまえば、その効き目は出ないまま終わります。以前、利益が出るのを待たずに解約したというお話をいただきましたが、これは商品を間違えたというより、買い方と持ち方が決まっていなかったのだと思います。そこで組み合わせてお伝えしているのが、買う時期を分けるという考え方です。一度にまとめて買えば、買った値段が一点に決まってしまい、その後に下がれば全部が下がった状態になります。毎月決まった額で買い続ける形にしておくと、高いときには少なく、安いときには多く買うことになり、買った値段の平均がならされていきます。値動きが気になって手放してしまった経験があるのなら、この形のほうが続けやすいはずです。ただし、非課税の枠にいくらまで入れられるのか、いつまで使えるのか、口座を開き直したときにどう扱われるのかといった要件は制度の内容によって変わりますので、口座を開く金融機関の案内や公式な情報、税の部分は税務署や税理士にご確認ください。

7.5 ポイント3:あと何年運用できるかで、投資信託の中身の重さを変える

買い方が決まったら、何を買うかです。投資信託は、それ自体が一つの商品というより、たくさんの銘柄をまとめて入れた器だと思っていただくと分かりやすいと思います。ですから、同じ投資信託という名前でも、器の中身が株式ばかりのものと、債券を多めに入れたものでは、値動きの大きさが違います。ここで判断のもとになるのが、その資金をあと何年、手をつけずに置いておけるかという見通しです。置いておける期間が長ければ、中身に株式を多めに入れて、時間をかけて増える部分を厚くする形が取れます。期間が短くなってくれば、中身は債券を多めにして、揺れの幅を抑えるほうへ寄せていきます。よく「何歳ならこの比率」という目安を耳にしますが、実際に見ているのは年齢そのものではなく、収入がいつまで続くのか、そのお金をいつから取り崩すのかという二つです。働き続けている期間が長ければ、同じ年齢でも置いておける期間は長くなります。ですので、まず期間を確かめて、それに合わせて器の中身を選ぶ。この順番でお話ししています。

7.6 ポイント4:株式と債券は役割が違うので、層に分けて重ねる

最後に、株式と債券の役割の違いをお伝えしています。株式は、会社の一部を持って、その会社が伸びた分を受け取る形です。伸びれば大きく増えますが、思わしくなければ減ります。債券は、国や会社にお金を貸して、決められた利息を受け取り、期限がきたら返してもらう形です。増え方の上限はありますが、条件があらかじめ決まっているという性格があります。この二つは増える理由が違うので、同じ場面で同じ方向に動くとは限りません。そこで私は、資産をお菓子のミルフィーユのように層に分けて重ねる形をおすすめしています。いちばん下に、何かあったときのために手をつけない生活のためのお金を、預貯金の形で置く。その上に、数年のうちに使う予定があるお金を、条件の決まっているものに置く。さらにその上に、長く置いておけるお金を、増える部分に回す。こうして層にしておくと、上の層が下がった局面でも、下の層に手をつけずに済みます。物価の上昇に負けないようにしたいというお考えは、いちばん上の層をどこまで厚くするかという話に置き換えられます。層ごとに役割を決めておけば、上の段階にいる方の比率をまねる必要はありません。

五つの段階のどこにいるかは、次にどこを見ればいいかを知る手がかりであって、上を目指すための順位表ではありません。公になっている運用の考え方を物差しとして借り、非課税の枠と買う時期の分け方を組み合わせ、置いておける期間から器の中身を選び、役割の違うものを層に分けて重ねる。この四つを押さえておけば、いまいる段階のまま始められます。これは一つの考え方であり、区分の分け方や、非課税の枠の要件と税の扱い、公的年金の積立金の配分、物価の上がり方は、統計や制度の内容、その時々の状況、ご本人の事情によって異なります。ご自身に当てはまるかどうかは、口座をお持ちの金融機関の担当者や、制度の所管の窓口、税務の専門家に確認しながら進めていただければと思います。

8. まとめにかえて

純金融資産で区切った区分は5つあり、境界にあたる金額は3000万円・5000万円・1億円・5億円です。この4つの間隔は2000万円、5000万円、4億円とそろっていません。区分を1つ上がるという言い方は同じでも、越える金額は区間ごとに大きく違います。

全国平均1940万円を出発点に、毎月3万円を積み立てて年利3%で運用したと置くと、3000万円までが約9.8年、そこから5000万円までが約13.2年、5000万円から1億円までが約19.9年でした。金額の間隔は2.5倍、8倍と広がるのに、年数の差の広がり方は約1.5倍、約2.6倍にとどまります。残高が増えるほど1年に増える額も大きくなるためです。

まずは、いま持っている金融資産の合計から負債の残高を引いて、自分がどの区分にいるのかを確かめてみてください。そのうえで、次の境界までの差額を書き出すと、区分の名前ではなく金額で距離が見えてきます。ここで挙げた年数は一定の利回りを置いた計算上の目安で、実際の運用成績は上下しますし、元本割れの可能性もあります。税や手数料の扱いも商品や契約の条件によって変わるケースがありますので、取引のある金融機関の窓口や、お手元の契約の書面で確かめながら進めてみてください。

参考資料

川勝 隆登