4. 毎月の支出を絞って積立に回せる余力ができたのに、含み損を抱えた一本の前で手が止まる。IFA・筒井 亮鳳が語る、減った額より先に確かめること

中間管理職として役職に就く人も多い40歳代は、子どもの進学が近づく一方で自分たちの老後の支度も始めなければならない、二つの準備が重なる傾向にあります。この年代は収入が伸びていく一方で出ていくお金も増えるため、積立に回せる余力を作ろうとすると、入ってくる額が増えるのを待つより、毎月決まって出ていくお金のほうを見直すのが早いという場面が多くなります。

仕事も子育ても手が離せない時期ですから、一つずつ買い方を考え直す時間はなくても、毎月同じ額が出ていく契約を一度見直せば、その効果はそのあと何年も続きます。

ところが、そうして余力を作れたところで次の壁が出てきます。すでに持っている投資信託に含み損があると、その数字が目に入るたびに、これ以上足していいのか、それともいま売ってしまうべきなのかで手が止まってしまうのです。ご相談をお受けしている中でよく出会うのは、この減った額そのものを判断の物差しにしてしまっている方が多いということです。相談の場では次のような声を耳にします。

4.1 含み損を抱えた投資信託を、売るべきか持ち続けるべきか決められない

40歳代(ご相談者)
「会社員として働いていて、子どもが複数います。NISAで投資信託を何本か持っていて、値上がりしているものもあるのですが、値動きの大きいタイプのものが一本、決して小さくない含み損を抱えています。このまま持ち続けるべきか、いま売って別のものに替えるべきか決められません。

子どものうち、上の子の教育資金はある程度用意できましたが、下の子の分は足りていない気がしています。預貯金もそれなりにあって、一部は学費のための口座として分けてあります。

余力ができたので追加で投資に回そうかとも思うのですが、いま持っているものがこの状態なので、増やしていいのかも分からなくなりました。そもそも預貯金と運用のバランスがこれで合っているのかどうかも、確かめたことがありません」

相談の場でも、含み損の数字が気になって、追加で積み立てるかどうかの判断まで止まってしまっている方に数多くお会いします。

4.2 【IFA・筒井 亮鳳が回答】含み損は選び方の答えではなく、引き受けた幅の記録として読む

筒井 亮鳳
「これだけ減ってしまったのだから、自分の選び方が間違っていた」と落ち込む前に、値動きの幅と期待できる増え方がいつも対で決まっていることを確かめましょう。

含み損を抱えた一本を「減った額」ではなく中身の性格で見直し、出番が近いお金と遠いお金を分けて近いほうから確保し、増やし続ける形と受け取りながら使う形を両方持つという構え方に立つことが、進学の時期を挟んでも続けられる持ち方になります。

また、年齢によっても資産をどの割合で分散するか考える必要がありますので、まずは自分自身でどれくらいを預貯金に残すのか、どのくらいを債券にするのか、どのくらいを株にするのか考えてみてはいかがでしょうか。

4.3 ポイント1:値動きの幅と期待できる増え方は、いつも対で決まっている

運用の話でリスクという言葉が出てくると、危ないという意味に受け取られがちですが、指しているのは値動きの幅のことです。幅が大きいものは、上にも下にも大きく動きます。大きく増えることを期待できるものは値動きの幅も大きく、幅が小さいものは増え方も穏やかになる。この二つはいつも対で決まっていて、上だけ大きくて下は小さいという都合のよい組み合わせは存在しません。ここが頭に入っていると、含み損が出たこと自体は、選び方を間違えた証拠ではなく、幅の大きいものを選んだ結果として起こりうる範囲のことだと読めるようになります。ですから最初に確かめるのは、いま持っている一本一本が、この幅の目盛りのどのあたりにあるのかということです。全部が同じ幅である必要はありません。幅の大きいものを持つのは悪いことではなく、幅を知らずに持っていることが問題なのです。目盛りが分かると、減ったから売るという問いが、この幅を引き受け続けるのかという問いに置き換わります。後者のほうが、はるかに答えを出しやすい問いです。

4.4 ポイント2:含み損を抱えた一本は、減った額ではなく中身の性格で見直す

次に、その一本の中身を見ます。同じ投資信託でも、幅広い対象に分けて投資しているものと、特定の分野や規模の小さい会社に絞ったものとでは、性格がまったく違います。絞ったものは、当たったときの伸びが大きい代わりに、下がる局面では深くなります。含み損を抱えているのがそういう一本なら、いま出ている数字は、その性格どおりに動いた結果だと読めます。ですから、判断の材料になるのは減った額ではありません。その分野に戻ってくる筋があるのかどうか、そしてその戻りを待てる時間が自分にあるのかどうかです。売って替えるかどうかを、いくら戻ったら売るという値段の約束で決めようとすると、その水準まで戻らないあいだは何年も宙ぶらりんになります。それよりも、この一本を持っている資産の全体の中でどれくらいの割合までにしておくか、という枠の話として決めるほうが決めやすいのです。割合を先に決めれば、超えている分だけを整理するという答えが出ます。含み益が出ているほうと合わせて全体で見ると、一本の数字の見え方も変わってきます。

4.5 ポイント3:出番が近いお金と遠いお金を分けて、近いほうから確保する

ここからは、お金そのものの見方に移ります。私がいちばん先にお聞きするのは、そのお金の出番がいつ来るのかということです。進学のように使う時期が決まっているお金は、その時点で必要な額がそろっていることが最優先で、増えるかどうかは二番目になります。値動きの幅があるものに置いていると、必要になる年にたまたま下がっている、という可能性を抱えたままになるからです。ですから、出番の近いお金は値動きしない形に寄せます。学費のための口座を分けてあるというのは、この考え方をすでに実践されているということです。一方、出番が遠いお金には幅を引き受ける余地があります。含み損を抱えた一本も、それが出番の遠いお金で持っているものなら、戻りを待つという選択が取れます。出番の近いお金で持っているのなら、話は変わってきます。同じ一本でも、どちらの財布で持っているかで答えが逆になるということです。余力を追加で回すかどうかも、この物差しで見ます。出番の近いほうが足りていない状態で遠いほうに足すと、順番が逆になってしまいます。まずは近いほうを埋めて、そこが済んでから遠いほうに向ける。順番が決まっていれば、毎月の余力をどこに入れるかで迷わなくなります。

4.6 ポイント4:増やし続ける形と、受け取りながら使う形を両方持つ

最後にお伝えしているのが、増やし方には二通りあるということです。一つは、受け取った利益をそのまま運用に戻して、雪だるまのように増やしていく形です。時間をかけるほど効きますが、途中では使えません。もう一つは、受け取ったお金をその都度手元に受け取っていく形です。増え方は穏やかになりますが、受け取ったお金をそのときに使えます。ここで驚かれる方が多いのですが、後者の使い道は生活費の足しだけではありません。家族で出かける機会や、その年齢でしかできない体験に充てるという考え方もあるのです。子育ての時期というのは、お金が必要になる出番と、家族で過ごせる時間の出番が重なっています。資産の全部を将来のために増やす方向へ寄せてしまうと、いまの時間に使える筋がなくなります。そしてこの二通りを分けて持つことは、そのまま資産を分けて持つことにもなります。同じ方向に動くものばかりを持っていると、下がる局面でどこも一斉に下がってしまうからです。増やす形、受け取る形、値動きしない形。この三つを混ぜておくというだけで、どれか一つの調子が悪い時期でも家計は回ります。商品を増やすという話ではなく、性格の違うものを混ぜるという話だと受け取ってください。

含み損の数字は、見るたびに判断を迫ってくるので、それだけを物差しにしてしまいがちです。けれども、その一本を持ち続けるかどうかを決めるのは、いくら減ったかではなく、そのお金の出番がいつ来るかです。毎月の支出を絞って余力を作れたときも、出番の近いほうから順に向けていくと迷いが減ります。これは一つの考え方であり、どこまで幅を引き受けられるかや、どの形をどれだけ持つのが合っているかは、進学の時期やご家庭の支出の中身、加入している契約の条件によって異なります。売るか持ち続けるかを決める段階では、いま持っている口座の中身をひととおり書き出して、専門家と一緒に全体を見ながら判断してください。

5. まとめにかえて

役職ごとの月額の所定内給与は、部長が男女計63万5800円、課長が52万9200円、係長が39万9200円で、部長と課長の間には10万6600円の差がありました。

一方で、部下を持つ課長〜部長級のうち86.8%が自分の実務も兼ねており、これからも管理職を続けるために必要なこととして最も多く挙がったのは「生活(プライベート)の安定」で39.9%でした。

収入は上がっても、家計に向き合う時間のほうは削られていく形です。だからこそ、手をかける回数が少なくて済むところから触っていく順番が効きます。

毎月2万円を20年続けた場合、貯めるだけなら480万円、年利3%で運用できた場合は約653万7088円で、差は約173万7088円になりました。

まずは引き落としの明細を1か月分だけ開いて、毎月自動で出ていくものを抜き出してみてください。通信、住まい、保険。この3つを並べるだけで、手をつける先はかなり絞れます。契約ごとに何がどれだけ下げられるのかは、契約先の窓口などに確かめながら進めていくことが可能です。

参考資料

筒井 亮鳳