3. 60歳代に多い「定期預金から動かすことに踏み切れない」というご相談。ファイナンシャルアドバイザー・中島 卓哉が伝えたいこと
60歳代は、収入の中心が、働いて得るお金から年金へと移り変わっていく時期です。前半でみたように、年金に上乗せして受け取れる公的な給付の仕組みは、要件を満たしているかぎり、生涯にわたって毎月続いていくお金です。一方で、手元に置いている預金は、置いておくだけで大きく増えるものではなく、使えばその分だけ確実に減っていきます。どちらも老後の暮らしを支えるお金ですが、性質はまったく違います。保険代理店で1000世帯以上のご相談を担当してきた立場から申し上げると、この違いを整理しないまま預金の残高だけを眺めていると、動かす判断はいつまでもつきません。相談の場では次のような声を耳にします。
3.1 60歳代に多いお悩み相談は「定期預金に置いたまま、何をどれだけ動かせばいいのか分からない」

相談の場でも、投資の経験がまったくないわけではないのに、いま自分が何をどれだけ持っているのかを言えないまま、預金だけが積み上がっているという方に数多くお会いします。
3.2 【ファイナンシャルアドバイザー・中島 卓哉が回答】商品を選ぶ前に、資産全体の配分を決める順番で考える
大切なのは、いきなり個別商品を選ぶのではなく、全体の配分から順序を立てて整理することです。
まずは預金や株式、年金など手元の資産をリストアップし、余剰資金を新NISAなどの非課税枠に、いくら割り振れるか確認しましょう。
そのうえで投資先については、土台となる「コア(中核の安定資産)」と収益性を狙う「サテライト(周りに添える攻めの資産)」にそれぞれ明確に分けて配置します。
市場の波によって資産構成が変わることに一喜一憂する必要はありません。
最初に目的に応じて配分を決めておくと、市場が変わったとしても定期的な調整程度で十分です。
この全体設計のステップを踏むことで、ただ預金に眠らせることなく、安心して着実に活かすことができます。
3.3 ポイント1:持っているものを一枚に書き出して、非課税の枠にいくら振り分けるかを決める
最初にお願いしているのは、いま持っているものをすべて一枚に書き出すことです。預金、非課税制度を使った積立、個人型の年金、株式。どの区分の資産が、どれくらいあるのか。ここを見ないまま「預金から動かすべきかどうか」を考えても、比べる相手がいないので答えは出ません。実際に書き出してみると、投資に回している部分が思っていたよりひとつの方向に偏っていたり、逆に非課税で運用できる枠がまるごと空いたままだったりすることがよくあります。この枠には、毎月一定額を積み立てていくのに向いた枠と、まとまった金額をある程度自由に入れられる枠があり、それぞれ性格が違います。預金から動かす分をどちらの枠に、いくら振り分けるのか。この判断は、一覧ができてはじめて成り立ちます。なお、実際の設定は証券会社の画面で行うことになりますが、対象を選び、金額を割り振り、積立の指定まで一人で終わらせようとすると、それだけで相応の時間がかかります。ここで手が止まって「やっぱり預金のままでいい」と引き返してしまうくらいなら、窓口や担当者と同じ画面を見ながら一緒に進めてかまいません。
3.4 ポイント2:中心に置く資産と、周りに添える資産を分けたうえで配分する
振り分ける先を決めるときは、資産を「中心」と「周り」に分けて考えると整理しやすくなります。中心に置くのは、世界中の株式や主要な国の株式に広く分散して投資する投資信託のように、値動きが一つの国や一つの業種の事情に左右されにくいものです。ここが土台になるので、金額としてはいちばん厚く取ります。周りに添えるのは、特定の国や地域、特定の業種に絞ったもの、あるいは金のようなコモディティ、値動きの穏やかな債券といった、中心とは違う動き方をするものです。周りの部分は、当たったときの伸びが大きい代わりに外したときの下げも大きくなるので、全体のなかでの比率をあらかじめ決めておきます。大切なのは、中心と周りを合わせた全体として、値動きの方向が一つに揃わないようにしておくことです。値上がりしているものを見て、そこへ次々に足していくと、気づいたときには全体が同じ方向を向いていた、ということが起こります。預金から動かすのは、この配分の絵ができてからで十分です。
3.5 ポイント3:景気の波で顔ぶれが入れ替わることを前提に、定期的に確かめ直す
もう一つお伝えしているのは、決めた配分は一度きりのものではない、ということです。相場が動けば、放っておいても比率は勝手にずれていきます。値上がりしたものは全体に占める割合が膨らみ、値下がりしたものは縮む。決めたときと同じつもりでいても、中身は別のものになっていきます。ですから、年に一度でも半年に一度でも構いませんので、一覧を開いて、いまの比率が最初に決めた配分からどれだけ離れたかを確かめる時間を持ってください。そのときに頭に置いておきたいのが、景気には波があるという前提です。景気が伸びていく局面と、勢いが落ちていく局面とでは、値上がりしやすい資産の顔ぶれが入れ替わります。株式が伸びる局面もあれば、債券や金のように守りに向いた資産が相対的に強くなる局面もある。どれが良い悪いではなく、局面によって主役が変わるだけです。この前提を知っておくと、いま調子の悪い部分を見ても「失敗した」と早合点せずに済みますし、逆に調子のいい部分に全部を寄せてしまうことも防げます。
年金に上乗せされる給付は、要件を満たしていれば生涯続いていくお金で、預金のように使えば減るものではありません。だからこそ、生涯続く分と、手元にあって減っていく分を分けて眺めると、預金のうちどこまでを動かしてよいのかが見えてきます。これは一つの考え方であり、どの区分にどれだけ振り分けるかや、預金のうちどこまでを置いたままにしておくべきかは、受け取る年金の内訳や、これから予定している支出によって異なります。まずは一覧を書き出すところまでを一人で済ませ、振り分けの割合を決める段階からは専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
4. まとめにかえて
緑色の封筒に入って届く請求書は、月あたりでは小さく見える額の入り口です。けれども月額を年に直し、受け取る年数を掛けてみると、預金でまとまった元本を用意するのと同じ規模の話になります。しかも預金は取り崩せば減り、この上乗せは要件を満たすかぎり続きます。同じ物差しに乗せて比べてはじめて、どちらをどう使うかを決められます。
まずは、ねんきん定期便やねんきんネットで納付済月数と免除月数を数え、記事で示した式に当てはめてみてください。そのうえで、対象になるかどうかや実際に受け取れる額の見当は、年金事務所やお住まいの市区町村の窓口で確かめながら進めていただければと思います。制度の適用や判定の時点についての最終的な確認は、所管の窓口や専門家へのご相談をお願いします。
参考資料
- 9月から順次届く「年金生活者支援給付金の請求書」目安はいくら?平均月4249円なのに“月1万円超”もらえる人の共通点
- 日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度について」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業月報(令和8年3月分)」
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金生活者支援給付金にかかる支給金額のお知らせの送付について」
中島 卓哉
