10. 50歳代に多い「定年までに、iDeCoの中身を入れ替えたほうがいいのか分からない」というご相談。IFA・神田 翔平が伝えたいこと
50歳代の後半になると、定年という区切りが具体的な日付として見えてきます。前半でみたように公的年金は働き方や加入期間によって受け取る額が変わりますが、それとは別に、勤め先の確定拠出年金やiDeCoで積み立ててきたものをどう扱うかという宿題が、この時期にまとめてやってきます。加えて、2026年12月からはiDeCoに加入できる年齢の上限が引き上げられる予定で、これまで「定年までの数年しかない」と考えていた準備の期間が、その分だけ後ろに延びることになります。残り時間が短いという前提で急いで決めるべきか、延びた分を織り込んで組み直すべきか。筆者もよくお客様から、この時期の判断をどう置けばいいのかといったご相談をいただきます。相談の場では次のような声を耳にします。
10.1 50歳代に多いお悩み相談は「定年が近いのに、今の運用を続けていいのか決めきれない」

「定年を迎える時期が近づいていて、勤め先の確定拠出年金とiDeCoで積み立ててきたものが、今のところ利益の出ている状態です。住宅ローンもまだ残っているので、このまま値動きのあるものに置いておいていいのか気になっています。
手数料の低い商品に入れ替えたほうがいいのか、それとも今のままで置いておくべきなのか。受け取り方も一時金と年金から選べると聞きましたが、退職金と合わせてどう考えればいいのかまでは分かりません」
定年を目前にして、これまで積み上げてきたものの置きどころを決めかねているという方に数多くお会いします。
10.2 【IFA・神田 翔平が回答】入れ替えるかどうかより、決める順番のほうが先
「あと数年で定年だから、いま中身を入れ替えないと間に合わない」と決めつける前に、いまの資産の状況で運用を続けられるかどうかの確認から始めていきましょう。
また、資産配分を見直す場合には、それまでの運用が一度リセットされることにも注意が必要です。今後の相場の見通しと見比べたうえで考えましょう。
手数料についても、誰が負担するのかを整理したうえで、受け取り方と、受け取った後の置き場所まで考えて組み換えるかどうかを判断する。これが定年間近の場合の進め方の一つです。
10.3 ポイント1:毎月の資金の流れを整えてから、積み立てを続ける形をつくる
最初に見るのは商品ではなく、毎月の入りと出です。定年を挟む時期は、働き方が変わることで手取りの水準そのものが動きます。住宅ローンの返済が残っていれば、その返済と積み立てがしばらく並走することになりますし、返済のために積み立てを止めてしまえば、せっかく延びた準備の期間を使い切れません。ご相談の際も、いまの収支のどこに余裕があり、どこが窮屈なのかを先に洗い出し、無理なく続けられる金額の水準に置き直すところから始めました。ここが整っていないまま商品の話に進むと、途中で続けられなくなり、いちばん避けたい「積み立てを止める」という結論に流れてしまいます。順番として、資金の流れを整えるほうが先です。
10.4 ポイント2:乗り換えると、それまで積み上げてきた運用が一度リセットされる
いま持っているものを売って別の商品を買い直すこと、いわゆるスイッチングには、見落とされやすい面があります。利益が出ている状態であっても、売った時点でその成果はいったん確定し、新しい商品はそこから改めて積み上げ直すことになります。値動きのタイミングによっては、そのまま持ち続けていれば得られたはずの戻りを取り逃がすことにもなりますし、商品によっては解約する際に差し引かれる費用がかかるものもあります。積み立ての効果は、時間をかけて重ねていくところに大きく効いてきますので、その時間を自分から短くしていないかという視点で見てみてください。乗り換えないという判断も、立派な判断のひとつです。
10.5 ポイント3:信託報酬は誰が負担しているのか、仕組みを知ってから比べる
投資信託の信託報酬は、加入者が別途どこかへ振り込むような費用ではありません。運用会社などが銘柄全体から受け取るもので、日々の価格に織り込まれる形で差し引かれています。明細に金額として出てこないぶん、数字だけを並べて「低いほうへ移るべきだ」と判断しがちなところです。ご相談者にも、信託報酬は運用会社が銘柄全体から受け取る手数料であり、加入者が直接負担するものではないため、運用の成績が同等であれば無理に乗り換える必要はない、とお伝えしました。インデックス型とアクティブ型のように性格の違うものを比べるときも、手数料の数字そのものではなく、その費用が差し引かれた後の成果がどうなっているかで見比べるほうが、判断を誤りにくくなります。
10.6 ポイント4:受け取り方と、受け取った後の置き場所を一続きで考える
確定拠出年金やiDeCoで積み上げてきたものは、一時金として受け取る形と、年金として分けて受け取る形、その両方を組み合わせる形から選べます。受け取り方によって税制上の扱いが変わる仕組みがあり、退職金がある場合はその受け取り方とも関わってきます。ここは制度の条件が細かく、改正されることもある部分ですので、勤め先の制度がどうなっているかとあわせて、早めに確認しておくことをおすすめします。そして、受け取った後にどこへ置くのかまでを一続きで考えておくことも大切です。まとまった形で手元に来てから慌てて置き場所を探すことになりがちですが、投資信託、債券、保険、個人年金といった選択肢はそれぞれ性格が違います。加入できる期間が延びれば、積み立てを続けながら受け取りの時期を選ぶという組み方もできるようになりますので、いま急いで結論を出さなくてよい部分と、いま決めておいたほうがよい部分を分けて考えてみてください。
これは一つの考え方であり、乗り換えの要否や受け取り方の選び方は、加入している制度の内容や退職金の有無によって状況ごとに異なります。制度の適用条件は改正されることもあるため、勤め先の担当部署や専門家に、最新の内容をあわせて確認してください。
11. まとめにかえて
厚生年金の平均年金月額は令和6年度で全体15万289円、国民年金とあわせて月15万円以上を受け取っている人は約49.8%でした。ただし平均のまわりには人数が広く散らばっていて、自分がどのあたりに入るのかは加入していた期間と報酬の水準で変わります。そして2026年12月にiDeCoの加入可能年齢の上限が引き上げられると、同じ掛金でも積み立てられる期間が延びることになります。まずはねんきんネットや年金事務所で公的年金の見込額を確かめ、そのうえで掛金の額と期間を置き直してみてください。制度の要件や適用される時期は改正で変わることがありますので、勤め先の担当部署や関連する窓口にもあわせて確認しておくと確かです。
