10. 非課税の枠は開いてあるのに、値下がりが気になって少額でも踏み込めない。ファイナンシャルアドバイザー・菅原 美優が語る、置いておくと戻せなくなるものの順序

60歳代は、これまでに開いた口座や結んだ契約が、いくつも重なったまま手元に残っている時期です。前半でみたように、お金にまつわる仕組みには、期限を過ぎるとその年の分がそのまま消えてしまうものや、決められた日までに申し出ないと受け取れなくなるものがあります。

ご相談を受けていて感じるのは、そうした期限は、忘れていた人にも催促の連絡が来るわけではないということです。書面は届いていても、封を開けなければ日付は目に入りません。

口座を開くところまでは進んでも、そこから先を決めきれずにいるあいだに、その年の枠が使われないまま過ぎていくことがあります。驚かれるのは、減っていたことではなく、そうして戻ってこない部分があったことです。相談の場では次のような声を耳にします。

10.1 少額でも始めておきたい気持ちはあるのに、値下がりを考えると踏み込めない

60歳代(ご相談者)
「投資信託や債券は以前から持っていて、非課税で投資できる制度の口座も開いてあります。保険も以前から入っているものがあって、今回あらためて別の保険を申し込んだところです。

将来のことを考えると、少額でもいいので非課税の制度を使って投資信託を積み立てておきたい気持ちはあるのですが、株式が値下がりするような場面を考えると、どこまで踏み込んでよいのか決めきれません。

少しずつでも始めたほうがよいのか、決められるようになるまで待つべきなのかが分からないのです」

相談の場でも、口座や契約は持っているけれど、そこから先に踏み込めないままになっているという方に数多くお会いします。

10.2 【ファイナンシャルアドバイザー・菅原 美優が回答】決めきれないうちに過ぎてしまう部分から先に確かめる

菅原 美優
運用を始めるタイミングについて、よくご相談を承ります。

投資タイミングを考える前に、まずはその年のうちに使わなければ持ち越せない枠がどれぐらいかを確かめてみましょう。非課税で運用できるNISA制度には、一年ごとに投資できる金額の上限があり、その年に使わなかった分を翌年に足して使うことはできません。

また、値下がりが怖いという不安を金額と回数の刻み方に置き換えることで解消できるでしょう。一度にまとめて入れれば、その日の値段がそのまま結果を左右しますが、回数を分けて購入することによって、高い日も安い日も混ざり、買った値段はならされていきます。

そして、口座を使える状態に戻して、毎月の負担にならない金額から始めていきましょう。

10.3 ポイント1:その年のうちに使わなかった枠は、翌年に持ち越されない

最初に確かめていただくのが、非課税で投資できる制度の枠の扱いです。この制度には一年ごとに投資できる金額の上限があり、その年に使わなかった分を翌年に足して使うことはできません。

口座を開いてあること自体には期限がありませんから、開いたまま何年か置いてあっても口座が消えるわけではないのですが、使わなかった年の枠のほうは、その年が終わると戻ってきません。

ここが、置いておくと戻せなくなるものの代表です。反対に、売却した分にあたる枠は、翌年以降にまた使えるようになる仕組みがあります。つまり、使わずに過ぎた分は戻らず、使ったうえで手放した分は戻る、という向きになっているわけです。

この違いを知らないまま「まだ決められないから、決まってから始めよう」と待っていると、決めるための時間の代わりに、使えたはずの枠のほうを支払っていることになります。少額でも動かしておくほうが、結果として選べる幅は広く残ります。

10.4 ポイント2:値下がりが怖いという気持ちは、金額と回数の刻み方に置き換える

踏み込めない理由として挙がるのが、株式の値下がりです。この不安は、なくそうとするものではなく、刻み方に置き換えるものだと考えています。

値動きのある資産は、上がることも下がることもある代わりに、預けたままにしておく置き場所にはない増え方をします。そのうえで、多くの方がつらいと感じるのは、下がったこと自体ではなく、下がった場面でやめるかどうかの判断を迫られることのほうです。

ですから、最初に決めるのは何を買うかではなく、いくらを、何回に分けて入れるかにしています。一度にまとめて入れれば、その日の値段がそのまま結果を左右します。

同じ金額でも回数を分ければ、高い日も安い日も混ざり、買った値段はならされていきます。金額を小さくしておくことにも同じ働きがあり、下がった場面でも手放さずに済むうえ、値動きに目が慣れるまでの期間として使えます。

長く置いておける分と、近いうちに使う予定のある分をはじめに分けておけば、下がったときに取り崩さなければならない事態も避けられます。踏み込めるかどうかは、勇気ではなく、この刻み方で決まります。

10.5 ポイント3:口座を使える状態に戻し、毎月の負担にならない金額から始める

次が手続きです。しばらく使っていなかった口座は、開いてはいても、そのままでは動かせないことがあります。住所や連絡先が以前のままになっていて書面が届いていなかったり、取引を始めるための登録の一部が済んでいなかったりするからです。

ご相談では、まずここを整えていただきます。窓口に問い合わせれば、何が足りていないかはその場で分かりますし、必要な書面が郵送で行き来する場合は、その分の日数も見込めます。使える状態に戻ったら、いくらから始めるかと、何を持つかを決めます。

ここで無理に大きな金額を決める必要はありません。毎月の負担にならない金額で積み立てを始めておくほうが、続けやすく、判断も軽くなります。

持つものは、先ほどの考え方のとおり、値動きの違うものが一つにまとまっているものから入るのが分かりやすいと思います。始めてしまえば、あとは金額を増やすか、対象を足すかという調整の話になり、最初の一歩ほど重くはありません。

10.6 ポイント4:渡された書面には、日付が決まっている項目がある

保険の契約や金融商品の申し込みのときには、契約の概要をまとめた書面と、とくに注意していただきたい点をまとめた書面が渡されます。ここには、日付で決まっている項目がいくつも並んでいます。申し込んだあと一定の期間内であれば申し込みを取り下げられる仕組みがありますが、これは期間を過ぎると使えません。

健康状態などをお伝えする手続きも、決められたときに正しく行っていないと、あとから受け取りに影響することがあります。保障が始まる日にも決まりがあり、申し込んだ日からすぐという形とは限りません。

途中でやめる場合の扱いも書かれていて、早い時期に解約すると差し引かれる分があることや、そのときの金利の水準に応じて受け取る額が増減する仕組みが組み込まれていることがあります。

そして、払った保険料に応じて税の負担が軽くなる仕組みは、こちらから申告して初めて適用されます。年末や確定申告の時期に手続きをしなければ、その年の分は受けられません。

受け取るお金にどの区分の税がかかるかも書面に関わってきますので、届いた封筒は開けたその日に、日付の書かれている行だけでも拾っておいてください。

決めきれないまま時間が過ぎても、すべてが手遅れになるわけではありません。戻らないのは、期限の決まっていたものだけです。だからこそ、確かめる順番は期限のあるものからになります。

まずは届いている書面を開いて、日付の書かれている項目を書き出すところから始めてみてください。そのうえで、期限の近いものから順に、契約先の窓口へ「いつまでに何をすればよいか」を問い合わせてみてください。

11. まとめにかえて

長く置いてしまった手続きの話は、後ろめたさが先に立ちます。ただ、9つを並べてみると、結末は制度ごとに違いました。期間が定められているものだけが締め切られ、それ以外はいまから確かめれば話が進みます。

合算療養費には2年という期間が書かれていて、加給年金は加算される期間そのものに終わりがあります。雇用保険の3つは離職からの日数が数えられ、臨時給付金は回ごとに募集が締め切られます。一方で、給付金のように毎年度の判定を待てるものもあります。

まずは封を開けて、日付の書かれた行だけを紙に写す。それができれば、どこから順に窓口へ行くかが決まります。

さかのぼれる範囲や時効の扱いは個々の事情でも変わりますので、要件や必要な書類については、年金事務所やハローワーク、お住まいの市区町村の窓口で早めに確認していただくのが確かです。

参考資料

菅原 美優