11. まとまったお金を一度に入れるか迷う30歳代に多いご相談から。ファイナンシャルアドバイザー・菅原 美優が語る、持ち続ける途中の下落を受け止める順序

30歳代は、毎月の積み立てが軌道に乗り、それとは別に手をつけないまま置いてあるお金が手元にたまってくる時期です。記事前半でみたように、値動きのある資産を持ち続けていれば、途中で大きく下がる年は避けられません。それでも保有を続けた場合と、下がった年に手放した場合とでは、その後の残り方が変わってきます。実務でご相談を受けていて感じるのは、下落そのものを心配される方より、下がりにくいものを選べば済むのではないかと考えて、商品選びのほうに答えを求める方が多いということです。減らしたくない気持ちと、現金のままでは増えないという焦りが同時にあると、選ぶ基準は「過去にどれだけ下がらなかったか」に寄っていきます。相談の場では次のような声を耳にします。

11.1 30歳代に多いお悩み:減らしたくないけれど、現金のままでも増えない。下がる場面をどう考えればいいのか決めきれない

30歳代のお客様
「非課税で投資できる制度とiDeCoで、投資信託の積み立ては続けています。それとは別に、しばらく手をつけずに置いてあるお金が手元にまとまってあって、預金に入れたままでは増えないのが気になっています。かといって、現金がないのも不安です。守りながら少しずつ増やせるものがあれば、そちらに移したいと思っています。最近すすめられたなかに、運用の配分を自動で組み替えていく投資信託があって、これまで大きく下がった年が少ないと聞いて気持ちが傾いています。まとまった額を一度に入れてしまってもいいのか、それとも毎月の積み立てを増やすほうがいいのか。非課税の枠にはまだ使っていない部分もあります。ただ、いざ必要になったときに引き出せる分は残しておきたいし、持っている途中で大きく下がったときに自分が耐えられるのかも、正直なところ分かりません」

相談の場でも、積み立ては続けているけれど、手元に置いたままのお金をどう動かすか決めきれないという方に数多くお会いします。

11.2 【ファイナンシャルアドバイザー・菅原 美優が回答】下がりにくいものを探すより、下がったときに何が起きるかを先に知っておく

菅原 美優
手元にあるお金を運用したいけど、まとまった額を一度に入れてしまってもいいのかわからないという声はよく耳にします。中身の投資対象の配分を自動で組み替える仕組みは、何を組み替えているかを、まずは確かめるようにしましょう。毎月の積み立てに向いた枠と、まとまった買い方もできる枠があり、それぞれ一年間に使える金額の上限が決められています。その性質を理解したうえで、まとまったお金の入れ方を決めると良いでしょう。そして、値動きの違うものを持ち合わせ、守りの側と攻めの側をそれぞれ性質で選び分けることが、下落を織り込んだうえで持ち続けられる形になります。

11.3 ポイント1:配分を自動で組み替える仕組みは、下落率の実績ではなく何を組み替えているかで見る

すすめられた投資信託のなかには、あらかじめ決めた割合を守り続けるのではなく、市場の状況に応じて配分そのものを組み替えていく設計のものがあります。株式を多めにする月もあれば、債券や、株式とは違う値動きをする対象を厚くする月もある、という形です。ご相談では、まずこの仕組みが何をしているのかを確かめていただきます。というのは、これまで大きく下がった年が少ないという説明は、その設計が過去の相場でうまく働いた記録であって、これから同じように働く約束ではないからです。配分を組み替える判断が、下がり始めてから追いつくこともあります。確かめていただきたいのは、どういう資産を組み替えの候補にしているのか、組み替えの頻度はどれくらいか、そして運用にかかる費用がどの水準かの三つです。判断を任せる形のものは、任せる分だけ費用が乗ることが多く、その費用は下がった年にも同じように差し引かれ続けます。実績として示された数字より、この三つのほうが、持ち続けているあいだの手ざわりを決めます。

11.4 ポイント2:まとまったお金を一度に入れるか分けるかは、非課税の枠の性質から決まる

次に、非課税で投資できる制度の枠の使い方です。この制度には、毎月の積み立てに向いた枠と、まとまった買い方もできる枠があり、それぞれ一年間に使える金額の上限が決められています。使わなかった年の分を翌年に足して使うことはできない一方、生涯にわたって使える総額のほうにも上限があり、売却した分にあたる枠は翌年以降にまた使えるようになる仕組みがあります。ここを押さえると、まとまったお金の入れ方は好みの問題ではなくなります。一年で使える上限を超える分は、そもそもその年には入れられませんから、何年かに分けて入れていく形が先に決まってくるからです。積み立ての金額を増やす選択と、枠のあるうちに厚めに入れる選択は、どちらかを選ぶというより、上限のなかでどう組み合わせるかという話になります。なお、枠の区分や上限の考え方、売却した枠が戻る条件は制度の細かい定めに関わりますので、実際の金額を決める前に、口座を持っている金融機関の窓口で今年使える残りを確かめてください。

11.5 ポイント3:値動きの違うものを一本にまとめた形と、自分が続けられる下げの幅を突き合わせる

値動きの違うものを一本にまとめた形は、下落を受け止めるための道具として役に立ちます。株式だけを持っていると、下がる場面では持っている分がすべて同じ向きに動きます。債券や、株式とは異なる要因で動く対象を一緒に持っておけば、全体の振れ幅はならされ、下がった年の落ち込みも浅くなります。選ぶときは、すでに積み立てで持っている投資信託の中身と重ならないように見ることが大切です。そのうえで必ずお伺いするのが、どこまで下がったら気持ちがもたないか、という点です。目減りした状態が一年、二年と続いても持ち続けられますかと伺うと、多くの方が一度考え込まれます。ここで大事なのは正解を出すことではなく、自分の答えを言葉にしておくことです。言葉にしておけば、実際に下がった局面で、それが想定の内側なのか外側なのかを自分で判断できます。想定の内側であれば、何もしないことがそのまま計画どおりの行動になります。逆に言葉にしないまま持っていると、下がった理由を調べる前に、売るという判断だけが先に来てしまいます。

11.6 ポイント4:守りの側は債券の性質で、攻めの側は下げの深さを承知したうえで選ぶ

最後に、守りの側と攻めの側をそれぞれの性質で選び分けます。守りの側でよく候補になるのが債券です。債券は、発行したところにお金を貸して、決められた利息を受け取り、満期に額面が戻る仕組みです。満期まで持てるのであれば受け取る額の見通しは立てやすい一方、途中で売る場合は、そのときの金利の水準によって値段が上下します。金利が上がる局面では、すでに持っている債券の値段は下がる向きに働きます。外国の通貨で発行されたものであれば、円に換える時点の為替も受け取る額に効いてきます。つまり債券も絶対に減らないものではなく、減り方の理由が株式とは違うもの、という理解になります。攻めの側については、特定の分野に絞った投資信託のように、上がるときの勢いが大きい代わりに下がるときも深い、という選択肢があります。こうしたものを組み入れるなら、全体のなかでの割合を先に決めておき、その部分は大きく下がる前提で持つことです。守りと攻めを混ぜて一つの平均として眺めていると、下がった局面でどちらを手放すべきかが分からなくなります。

下がった年に何もしないという選択は、放っておくことではなく、下がることを先に織り込んでおいた結果として選べるものだと考えています。仕組みを確かめ、枠の使い方を決め、続けられる下げの幅を言葉にしておけば、下落は判断を迫る出来事ではなく、想定の内側の出来事になります。これは一つの考え方であり、非課税の制度の枠の扱いや、商品ごとの費用、途中で手放すときの条件は、制度の定めや契約の内容、ご本人の状況によって異なります。まずは今年使える枠の残りと、いま積み立てている投資信託の中身を書き出すところから始めてみてください。そのうえで、金融機関の窓口や専門家に確認しながら進めていただければと思います。

参考資料

菅原 美優