2026年度も、物価や賃金の変動に応じた公的年金額の改定が実施されました。日々の生活費が変動するなかで、私たちの暮らしを根底から支える公的年金制度の仕組みを正しく理解し、万が一の事態に備えておくことの重要性はますます高まっています。
私自身もファイナンシャルプランナーとして日々活動するなかで、ご自身の健康状態に不安を抱える方から将来の年金についてご相談をお受けすることがあります。「自分が障害年金を受けている状態で、もしも配偶者に先立たれてしまったら、これからの年金はどうなるのでしょうか」と、ひとりで不安を抱え込んでしまう方は決して少なくありません。
日本の公的年金制度は「1人につき1つの年金」が原則ですが、複数の年金を受け取る権利が発生した場合には、ご自身の生活状況に合わせてより支えとなるほうを選ぶことができます。この記事では、障害年金2級を受けている65歳未満の妻が夫を亡くしたモデルケース(令和8年度の金額)を用いて、遺族年金と障害年金の仕組みや選択のポイントを初心者の方にも分かりやすく解説します。
1. 障害年金を受給中でも遺族年金はもらえる?4つの支給要件を確認
はじめに、遺族厚生年金が支給される場面と、受け取る遺族の決まり方を確認します。障害年金を受けていることは、遺族年金の受給権を得る妨げにはなりません。
1.1 遺族厚生年金が支給される4つのケース
遺族厚生年金は、亡くなった方が次のいずれかにあたるときに支給されます。
- 厚生年金保険の被保険者である間に亡くなったとき
- 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から5年以内に亡くなったとき
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受け取っている方が亡くなったとき
- 老齢厚生年金の受給資格を満たした方が亡くなったとき
はじめの3つが短期要件、4つ目が長期要件です。短期要件の1つ目と2つ目には、保険料の納付要件もあります。
1.2 受け取れる遺族の順位
受け取れるのは、亡くなった方に生計を維持されていた遺族のうち、最も順位の高い方です。順位は、子のある配偶者、子、子のない配偶者、父母、孫、祖父母の順です。
子のない30歳未満の妻は5年間のみの受給になり、子のない夫、父母、祖父母は55歳以上に限られ、受給開始は60歳からです。
2. 【遺族厚生年金】月給40万円で30年加入の場合、遺族年金はいくらになるのか
ここからは具体的な数字を用いて考えてみましょう。夫の過去の働き方の記録から遺族厚生年金の額を、妻自身の記録から障害厚生年金の額をそれぞれ算出します。
今回のモデルケースは、夫の平均標準報酬額(ボーナスを含めた現役時代の平均的な月収)が40万円、厚生年金の加入期間が360月(30年)で、全期間が平成15年4月以降であったとします。夫は会社員として在職中に亡くなったものと仮定します。
2.1 夫の報酬比例部分は年78万9264円
平成15年4月以後の期間の報酬比例部分は、平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数で計算します。40万円×5.481/1000×360月で、年78万9264円です。
遺族厚生年金はその4分の3なので、年59万1948円、月あたり約4万9329円になります。加入期間が300月を超えているので、300月とみなす計算は使いません。
2.2 妻の障害厚生年金2級は、妻自身の記録で年41万1075円
障害厚生年金2級の額は、本人の報酬比例の年金額です。被保険者期間が300月に満たないときは、300月とみなして計算します。
妻の平均標準報酬額が25万円で、300月とみなす場合、25万円×5.481/1000×300月で年41万1075円です。実際の額は、本人の加入記録によって変わります。
3. 「遺族年金か障害年金か」65歳未満の妻が直面する2つの選択肢(子2人の場合の年金額)
65歳未満では、遺族年金と障害年金を組み合わせて受け取れません。子がいる場合は、どちらを選んでも子の加算額が付きます。
3.1 遺族年金を選ぶと、子2人で年192万6848円
令和8年4月分からの遺族基礎年金は、昭和31年4月2日以後生まれの方で年84万7300円(昭和31年4月1日以前生まれの方は年84万4900円)です。子の加算額は、1人目と2人目が各24万3800円、3人目以降が各8万1300円です。
子が2人いれば、遺族基礎年金は年133万4900円です。遺族厚生年金の年59万1948円と合わせて、年192万6848円になります。
3.2 障害年金を選ぶと、子2人で年174万5975円
障害基礎年金2級は、昭和31年4月2日以後生まれの方で年84万7300円(昭和31年4月1日以前生まれの方は年84万4900円)で、子の加算額は遺族基礎年金と同じです。1級なら年105万9125円(同105万6125円)になります。
2級で子が2人いれば、障害基礎年金は年133万4900円です。障害厚生年金2級の年41万1075円と合わせて、年174万5975円になります。
障害年金2級の妻が夫を亡くしたとき、65歳未満で選べる2つの受け取り方(子2人の試算・令和8年度の額)1/2
出所:日本年金機構「遺族年金ガイド 令和8年度版」、日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」を参考にLIMO編集部作成
【障害年金を選んだ場合】
- 障害基礎年金2級:84万7300円
- 子の加算額2人分:48万7600円
- 障害厚生年金2級:41万1075円
- 合計:年174万5975円
【遺族年金を選んだ場合】
- 遺族基礎年金:84万7300円
- 子の加算額2人分:48万7600円
- 遺族厚生年金:59万1948円
- 合計:年192万6848円
このモデルケースでは、遺族年金のほうが年18万873円多くなります。基礎年金と子の加算額は同じ額なので、差はそのまま遺族厚生年金と障害厚生年金の差です。
遺族基礎年金は、末の子が18歳になった年度の3月31日を過ぎるなどして、対象になる子がいなくなると終わります。
3.3 子がいない妻の場合は、中高齢寡婦加算を含めて比べる
夫が亡くなったときに40歳以上65歳未満で子がいない妻は、遺族厚生年金に中高齢寡婦加算の年63万5500円が加算されます。遺族年金の側は、この加算を含めた額で比べることになります。
4. 65歳以上になると、障害基礎年金と遺族厚生年金を組み合わせて受け取れる
65歳を過ぎると、支給事由が違う年金でも組み合わせて受け取れる特例があります。
4.1 選べる組み合わせは2通り
日本年金機構によると、障害基礎年金や障害厚生年金を受けている方が遺族厚生年金を受けられるようになったときは、65歳以後、「障害基礎年金と障害厚生年金」か「障害基礎年金と遺族厚生年金」のいずれかの組み合わせを選べます。
モデルケースに当てはめると、前者は年125万8375円、後者は自分の老齢厚生年金による調整の前で年143万9248円です。
4.2 自分の老齢厚生年金があると、その分の遺族厚生年金は止まる
65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利がある方は、老齢厚生年金が全額支給され、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額が支給停止になります。自分の厚生年金の加入記録がある方は、この調整が加わります。
障害基礎年金を受け取っている間は、経過的寡婦加算を受け取ることはできません。経過的寡婦加算の対象は、もともと昭和31年4月1日以前生まれの妻に限られています。
障害年金2級と遺族年金では、基礎年金と子の加算額が同じ額なので、損得は上乗せ部分の差で決まります。どちらが多いかは子の年齢とともに変わるため、選んだあとも金額を見直す時期をあらかじめ決めておくことをおすすめします。
