「親の介護のために会社を辞めるしかなかった」。そんな話は、決して珍しいものではありません。総務省の調査では、介護・看護を理由に離職する人が年間10万人を超えています。しかし、実際には介護休業以外にも、離職を防ぐための公的制度が複数用意されています。
この記事では、育児・介護休業法の基本と対象者を解説した記事より一部を引用・参照しつつ、介護休業以外にどのような制度が離職の防波堤になり得るのかを、公的資料にもとづき編集部が整理します。
1. 介護・看護を理由とする離職は、年間10万人を超える
まず、介護離職の現状を統計で確認します。
1.1 5年間で7000人増加、依然として改善していない
総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、調査前1年間に介護・看護を理由に離職した人は10万6000人にのぼります。この人数は、前回(平成29年)調査の9万9000人から7000人増加しており、介護離職の問題が改善していないことがうかがえます。過去5年間の累計では、介護・看護を理由とした離職者は47万4000人に達しています。
離職後、そのまま無業のままの人が8万3000人、再就職した人(有業者)が2万3000人という内訳です。介護のために仕事を辞めても、その後すぐに再就職できるとは限らない実態が見えてきます。
2. 【編集者の視点】
介護離職を防ぐための制度というと、まず思い浮かぶのは育児・介護休業法の介護休業(対象家族1人につき通算93日まで3回に分割可能)かもしれません。しかし実際には、介護休業を使い切った後、あるいは介護休業とは別に、日常的な働き方そのものを調整できる制度が複数存在します。
これらの制度をあわせて知っておくことで、介護休業だけでは対応しきれない長期戦の介護にも備えやすくなります。
3. 短時間勤務等の措置は「3年で2回以上」利用できる
介護休業とは別に、日常的な働き方を調整できる制度を確認します。
3.1 1日単位・週単位の時短、フレックス、時差出勤など5つの選択肢
事業主には、介護のための「短時間勤務等の措置」として、①1日の所定労働時間を短縮する制度、②週または月の所定労働時間を短縮する制度、③週または月の所定労働日数を短縮する制度、④フレックスタイム制度、⑤始業・終業時刻を繰り上げ・繰り下げる制度(時差出勤)、のうち少なくとも1つを設けることが義務づけられています。
この措置は、対象家族1人につき、利用を開始した日から連続する3年以上の期間で、2回以上利用できます。介護休業の「通算93日・3回まで」という上限とは別枠の制度であるため、両方を組み合わせて活用することができます。
3.2 【制度別・利用できる期間と回数】
- 介護休業:対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限に分割取得可能
- 短時間勤務等の措置:対象家族1人につき、利用開始から連続する3年以上の期間で2回以上
4. 【編集者の視点】
実務上、短時間勤務等の措置は勤務先によって制度設計が異なります。厚生労働省が示しているのは「いずれか1つ以上を設ける」という最低ラインであり、企業によっては複数の制度を併用できる場合もあります。まずは勤務先の就業規則や人事部門に、自社がどの制度を採用しているかを確認することが実務上の第一歩です。
5. 時間外労働・深夜業を制限できる権利もある
働き方の調整に加えて、残業や深夜勤務そのものを制限できる権利も確認します。
5.1 時間外労働は月24時間・年150時間まで、深夜業は原則免除
要介護状態にある対象家族を介護する労働者が請求すれば、事業主は1か月について24時間、1年について150時間を超える時間外労働をさせることができません。この請求には回数の制限がなく、1回につき1か月以上1年以内の期間で、制限開始予定日の1か月前までに書面等で請求する必要があります。
また、同様に請求すれば、原則として午後10時から午前5時までの深夜業をさせることも禁止されます。いずれも、事業の正常な運営を妨げる場合は例外的に認められないことがありますが、原則として労働者側の権利として保障されています。
5.2 【制度別・時間外労働と深夜業の扱い】
- 時間外労働の制限:1か月24時間・1年150時間を超える時間外労働の禁止(回数制限なし)
- 深夜業の制限:午後10時〜午前5時の労働を原則禁止
6. 「介護休暇」は年5日・時間単位でも取得できる
短時間勤務等の措置や時間外労働の制限とは別に、通院の付き添いなど単発の用事に使える「介護休暇」という制度もあります。
6.1 対象家族1人で年5日、2人以上で年10日、時間単位での取得も可能
厚生労働省の解説によると、要介護状態にある対象家族の介護や世話をする労働者は、事業主に申し出ることで、1年度において対象家族が1人の場合は5日、2人以上の場合は10日を限度に、介護休暇を1日単位または時間単位で取得できます。介護休暇は、労働基準法第39条による年次有給休暇とは別に与える必要がある休暇です。
時間単位での取得が認められているため、「午前中だけ通院に付き添う」「役所の窓口手続きのために2時間だけ抜ける」といった細切れの使い方ができるのが特徴です。介護休業(通算93日)や短時間勤務等の措置(3年で2回以上)が中長期の対応を想定しているのに対し、介護休暇は単発・短時間の用事に向いた制度と位置づけられます。
6.2 【介護休暇の日数と取得単位】
- 対象家族が1人の場合:年5日まで
- 対象家族が2人以上の場合:年10日まで
- 取得単位:1日単位または時間単位(いわゆる中抜けも配慮対象)
申出は書面に限定されておらず、口頭や当日の電話での申出も認められています。介護休暇の申出・利用を理由に解雇するなどの不利益な取り扱いも禁止されているため、取得をためらう必要はありません。
7. 【編集者の視点】
介護休暇の賃金が有給になるか無給になるかは、法律で一律には定められておらず、勤務先の就業規則によって異なります。取得を検討する段階で、給与への影響も含めて人事担当部署に確認しておくと、実際の家計への影響を見誤らずに済みます。
8. 相談窓口の利用も、離職を防ぐ選択肢の1つ
制度そのものに加えて、勤務先や外部の相談窓口を早めに利用することも、介護離職を防ぐうえで有効な手段です。
8.1 「地域包括支援センター」で、公的介護サービスの情報を先に集めておく
介護離職を防ぐには、勤務先の制度だけでなく、公的な介護サービスをどれだけ活用できるかも大きく影響します。市区町村ごとに設置されている「地域包括支援センター」では、要介護認定の申請方法から、利用できる介護サービスの種類、ケアマネジャーの紹介まで、介護に関する相談を幅広く受け付けています。
親などの家族に介護が必要になりそうだと感じた時点で、実際に要介護状態になる前から地域包括支援センターに相談しておくことで、いざというときに慌てず、勤務先の制度と公的介護サービスを組み合わせた対応を検討しやすくなります。
9. 勤務先に「両立支援制度」の相談窓口があるかも確認する
公的な相談窓口に加えて、勤務先側の体制も確認しておきたいポイントです。
9.1 育児・介護休業法は、相談体制の整備も事業主に義務づけている
育児・介護休業法では、介護休業や短時間勤務等の措置といった各制度の内容を周知するだけでなく、労働者からの相談に応じるための体制整備を事業主に義務づけています。この相談窓口を通じて、自社にどのような制度があるか、実際にどう申請すればよいかを確認できます。
「制度はあるはずだが、誰に相談すればいいか分からない」という状態を避けるためにも、介護が必要になる前の段階で、自社の相談窓口がどこにあるかを把握しておくとよいでしょう。
9.2 ハラスメント防止措置も、あわせて義務づけられている
育児・介護休業法では、介護休業や介護休暇の申出・取得を理由とする上司・同僚からの嫌がらせ(ケアハラスメント)を防止するための措置を講じることも、事業主の義務として定められています。「制度はあるが、使うと評価が下がりそうで申し出づらい」という状況は、本来この防止措置によって解消されるべきものです。
実際に不利益な取り扱いや嫌がらせを受けたと感じた場合は、社内の相談窓口だけでなく、都道府県労働局雇用環境・均等部に相談することもできます。1人で抱え込まず、外部の相談先があることも知っておくとよいでしょう。
制度の利用を理由とした解雇その他の不利益な取り扱いも法律で禁止されています。社内窓口で対応してもらえない、あるいは相談したこと自体を理由に扱いが悪くなったと感じる場合は、労働局への相談を検討する価値があります。
10. 制度を組み合わせて使うことが、離職を防ぐ現実的な選択肢
最後に、これらの制度をどう組み合わせるかを整理します。
10.1 介護休業+短時間勤務等の措置+時間外労働の制限、を状況に応じて併用する
介護は、一時的な対応で済むケースもあれば、数年単位で続くケースもあります。急な入院・手術への対応には介護休業を、日常的な通院の付き添いや在宅介護の負担が続く時期には短時間勤務等の措置や時間外労働・深夜業の制限を、というように、介護の状況に応じて複数の制度を組み合わせることが、離職を防ぐ現実的な選択肢になります。
いずれの制度も、勤務先への申請が前提です。「制度を知らなかったために使えなかった」という事態を避けるためにも、実際に介護が必要になる前から、勤務先にどの制度が整っているかを確認しておくことをおすすめします。
また、働き方の調整だけでなく、介護費用が総額でどれくらいかかるのかをあわせて把握しておくと、収入面・費用面の両方から介護離職のリスクに備えやすくなります。
※本記事は、編集部が総務省・厚生労働省が公表する公式の最新統計・制度情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
11. まとめ
- 介護・看護を理由とする離職者は年間10万6000人(総務省・令和4年就業構造基本調査)にのぼります。
- 介護休業以外にも、短時間勤務等の措置(3年で2回以上)、時間外労働の制限(月24時間・年150時間)、深夜業の制限、介護休暇(年5日または10日・時間単位取得可)という権利があります。
- これらは介護休業とは別枠の制度のため、状況に応じて組み合わせて活用できます。
- 制度を使うには勤務先への申請が前提のため、介護が必要になる前に自社の制度を確認しておくことが重要です。
介護離職は、一度選択すると再就職までに時間がかかる場合が多い、後戻りしにくい選択です。介護休業だけでなく、短時間勤務や残業・深夜勤務の制限といった制度もあわせて知っておくことで、無理のない両立の道を探りやすくなります。
具体的な制度の利用条件や手続きについては、勤務先の人事担当部署や、都道府県労働局雇用環境・均等部に確認することをおすすめします。
12. よくある質問
12.1 Q. 介護離職者はどのくらいいますか。
A. 総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、介護・看護を理由とする離職者は年間10万6000人です。過去5年間の累計では47万4000人にのぼります。
12.2 Q. 介護休業以外に、どんな制度がありますか。
A. 短時間勤務等の措置、時間外労働の制限、深夜業の制限という3つの制度があります。介護休業とは別枠で利用できます。
12.3 Q. 短時間勤務等の措置は何回使えますか。
A. 対象家族1人につき、利用を開始した日から連続する3年以上の期間で、2回以上利用できます。
12.4 Q. 時間外労働の制限は何回まで請求できますか。
A. 回数の制限はありません。1回につき1か月以上1年以内の期間で、制限開始予定日の1か月前までに書面等で請求します。
12.5 Q. 深夜業の制限を請求すれば、必ず深夜勤務がなくなりますか。
A. 原則として午後10時から午前5時までの労働が禁止されますが、事業の正常な運営を妨げる場合は例外的に認められないことがあります。
12.6 Q. これらの制度は誰でも使えますか。
A. 要介護状態(負傷・疾病・身体上または精神上の障害により2週間以上常時介護を必要とする状態)にある対象家族を介護する労働者が対象です。介護保険法の要介護認定とは別の基準です。
12.7 Q. 介護休暇は何日まで取得できますか。
A. 対象家族が1人の場合は1年度に5日まで、2人以上の場合は10日までです。1日単位のほか、時間単位でも取得できます。
12.8 Q. 制度を利用したことで会社から不利益な扱いを受けた場合はどうすればよいですか。
A. 育児・介護休業法では、制度の利用を理由とする解雇その他の不利益な取り扱いやハラスメントを禁止しています。社内窓口で解決しない場合は、都道府県労働局雇用環境・均等部に相談する方法があります。
参考資料
- 厚生労働省「短時間勤務等の措置」
- 厚生労働省「時間外労働の制限」
- 厚生労働省「深夜業の制限」
- 厚生労働省「両立支援のひろば」Q25 従業員が介護休暇の取得を希望する場合
- 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」
齊藤 慧
