5. 5期で崩れて戻りかけている、営業利益率という物差し

会社が有価証券報告書で開示している5期の推移を並べてみよう。連結売上高は570億円、715億円、557億円、556億円、595億円。売上高営業利益率は15.3%、14.3%、0.2%、0.0%、4.3%と動いた。

売上は2割ほどの振れ幅にとどまるのに、利益率は15%台からほぼゼロまで落ちている。固定費の重さがそのまま出た形だ。

ROEは6.6%、7.5%、▲27.1%、4.4%、2.0%。2024年3月期の大幅なマイナスは、同期に281億円の減損損失を計上し、当期純損失248億円となったことによる。稼ぐ力の低下ではなく、過去の投資の値洗いがここに集約されている。

では足元の収益力はどう評価できるか。機械業種の中央値は営業利益率が7.9%、ROEが7.8%である。2026年3月期の営業利益率4.3%は、この中央値をはっきり下回る。

ところが粗利率を見ると話が変わる。2026年3月期の売上総利益は181億円で、粗利率は30.4%。機械業種の中央値29.5%とほぼ並ぶ水準だ。

差が生まれているのは販管費の側である。販管費155億円は売上の26.1%を占め、そのうち研究開発費は39億円、売上の6.6%にあたる。

粗利は取れている。落ちたのは、この固定費を吸収するだけの売上水準だった。そう整理すると、通期予想が置く増収の25.1%という数字の意味が変わって見える。売上が戻れば利益率は跳ねる構造だからだ。

財務は厚い。自己資本比率は前期の69.5%から72.2%へ上がり、機械業種の中央値67.3%を上回る。もっとも、負債をほとんど使わない財務が資本効率の観点で最適かどうかは、また別の論点だ。

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出所:株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ 有価証券報告書をもとに筆者作成

6. 日本が伸びて中国が縮んだ、地域別の温度差

同社の報告セグメントは所在地別に区分されている。2026年3月期の売上高は日本が266億円(前期比22.5%増)、欧州が167億円(同0.7%増)、北米が121億円(同4.1%増)、中国が40億円(同28.0%減)だった。

セグメント利益(経常利益)は日本が36億円で前期比66.1%の増益。欧州は6億円で、前期のセグメント損失から黒字転換した。北米は5億円で同5.0%の減益、中国は3億円で同26.5%の増益である。

4セグメントの利益を単純に合わせると、その7割を日本が稼いだ計算になる。増収率も日本が突出して高い。国内の稼働率が上がったことが、連結の利益率をそのまま押し上げたわけだ。

会社によれば、中国は産業用ロボット向けが減ったことで減収となった。北米は防衛用途向けの受注高が減った一方、AIロボット向けの受注高が増えている。欧州はハーモニック・ドライブ・エスイーの株式取得時に計上した無形資産に係る償却費10億円の負担を抱えながら、セールスミックスの変化による売上総利益率の上昇で黒字に転じた。

地域ごとに効いている力が違う。連結の数字だけを追うと、この温度差は見えなくなる。

7. 2030年度に売上1,000億円、上振れではなく作り直された目標

もう一つ、株価の期待の厚みに直接関わる開示がある。中期経営計画の作り替えだ。

同社は2024年度を初年度とする中期経営計画で、2026年度の財務目標として連結売上高900億円、売上高営業利益率15%から20%、ROE10%以上を掲げていた。

会社はこの計画について、策定時に想定していた前提条件と比べて差異が生じている環境変化を踏まえ、現行の中期経営計画を見直したとしている。そのうえで2026年度を起点とする新たな中期経営計画(2026年度から2030年度)を策定した。

新計画の目標は、2030年度の連結売上高1,000億円以上、売上高営業利益率15%以上、ROEおよびROIC10%以上。注力する成長領域として「AIロボット」「航空・宇宙・防衛」「eモビリティ」の3分野を定めている。

ここで注目したいのは水準ではなく年度だ。売上高の目標は900億円から1,000億円へ、営業利益率は15%から20%が15%以上へ。水準はおおむね据え置かれ、達成年度が4年後ろへずれた。

市場が織り込む将来利益は、達成の確度と同時に到達の時期にも左右される。時期が後ろへ動けば、同じ目標でも現在価値は薄くなる。1カ月の値動きの背景を一つに絞ることはできないが、この作り替えが意識された可能性はある。

もっとも、2027年3月期の通期予想から逆算した営業利益率11.4%は、15%という目標への足がかりとしては悪くない位置だ。目標が遠のいたのか、それとも現実的な線に引き直されたのか。判断は数字の積み上がりを待つほかない。

8. 筆者コメント

稼ぐ力が戻るとは、どの数字が戻ることなのだろうか。この会社を見ていると、その問いが避けられなくなる。

粗利率は業種の真ん中を保っている。自己資本も厚い。それでも営業利益率は業種の中央値を下回り、ROEは低い水準に沈んだ。壊れているのは製品の競争力ではなく、固定費を回すだけの数量だ。

だからこの銘柄は、装置産業として読むべきだと私は考えている。開発費と生産設備を先に置き、需要の波が来たときに一気に回収する。波の谷では利益がほぼ消え、山では利益率が跳ねる。過去5期の並びは、その振幅をきれいに描いている。

そう捉えると、見るべき指標も変わってくる。四半期の増益率よりも、受注の積み上がりと工場の稼働の方向だ。前者は結果、後者は原因である。

成長領域として掲げられた分野は、いずれもまだ数量が細い。細い需要が数量に化けるまで、この会社の利益率は行き過ぎと戻り過ぎを繰り返すのではないだろうか。決算を追うときは、増減率の派手さより「どの用途がどれだけ数量を出したか」に目を向けてほしい。

参考資料

9.1 免責事項

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石津 大希