1. 1カ月の下げと、9月4日の戻り

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

直近1カ月、8月6日から9月4日までの21営業日の動きを追う。

起点の8月6日は2,752円。8月17日に2,815円まで水準を上げたあと、そこから切り下がり、9月3日には2,470円まで下げた。8月17日から9月3日までの下げは12%を超える。

9月4日の終値は2,611円で、前日から141円、5.7%の上昇となった。この日に個別の開示があったわけではない。相場全体の動きが影響した可能性が高い。

直近時点のPBR(株価純資産倍率)は1.70倍。前日は1.61倍だった。2025年3月期末の1株当たり純資産は1,497円で、そこから見ても株価はおおむね1.7倍台の水準にある。

この1.7倍という数字を読むには、分母の中身を知っておく必要がある。2025年3月期末の無形資産は6,872億円で、そのうちのれんが4,070億円を占める。純資産1兆7,171億円に対し、のれんだけで2割強にあたる。

のれんは、買収した事業の値段のうち、目に見える資産では説明できない部分だ。言い換えれば、買ったときに置いた期待値がそのまま資産として並んでいる。期待どおりに稼げば資産のままだが、稼げなければ減損として消える性質を持つ。

足元の決算も軽くはない。直近で開示されている2026年3月期上期は、売上収益1兆3,023億円に対して営業利益211億円にとどまった。前の期の通期で2,381億円を稼いだ会社の半年分としては、明らかに薄い。

PBR1.7倍という値段は、この純資産の中身と足元の稼ぎ方をどう見るかで意味が変わってくる。株価が1カ月のうちに1割を超えて振れたのは、そのどちらに傾くかを市場が測りかねているからかもしれない。

2. 売上収益を6割増やした5期に、ROEは元の水準へ戻っていない

2021年3月期から2025年3月期までの5期を並べてみる。

売上収益は1兆6,180億円から2兆6,078億円へ、6割増えた。営業利益も1,599億円から2,381億円へ、5割近く増えている。数字の絶対額だけを見れば、この会社は着実に大きくなった。

ところがROE(自己資本利益率)の並びは違う動きをする。12.0%、11.4%、2.8%、8.4%、9.8%。2023年3月期に大きく沈み、そこから戻してきたものの、5期前の水準には届いていない。

営業利益率も同じ形をしている。9.9%、8.9%、4.0%、6.9%、9.1%。2025年3月期はほぼ5期前と同じ水準まで戻った。

つまり本業の利益率は元に戻ったのに、ROEだけが戻り切っていない。理由は分母にある。純資産が1兆960億円から1兆7,171億円へ、5割以上膨らんだのだ。

同じ期間にのれんは3,199億円から4,070億円へ増えている。規模を買い足せば、買った資産のぶん自己資本の側も厚くなる。厚くなった自己資本はROEの分母を押し上げる。ここは会計の構造上ほぼ自明な話で、M&Aで成長する会社が背負う宿命のようなものだ。

業種の水準と照らしてみると、この会社の位置はもう少しはっきりする。電気機器のROE中央値は6.8%、営業利益率の中央値は7.05%。ニデックのROE9.8%、営業利益率9.1%はどちらも中央値を上回っている。

ここで一般的なイメージとのズレが出てくる。買収で規模を作った高収益のモータ会社、という受け止め方が先に立ちやすい。だが粗利率は20.6%で、電気機器の中央値30.1%を大きく下回る。自己資本比率51.8%も中央値62.1%以下だ。

薄い粗利を、規模と負債を使って利益に変えている構造である。高収益企業という言い方が指す姿とは、少し別のものだ。そしてこの二つは、同じ決算のなかで同時に成り立っている。

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出所:ニデック株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:ニデック株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

3. 筆者コメント

規模を買い足すことは、稼ぐ力を買い足すことと同じなのだろうか。

のれんという資産は、その問いに対する会計上の答え方だ。買ったときの期待値を資産として計上する。だからM&Aで成長した会社は、成長した瞬間に自己資本が厚くなる。

厚くなった自己資本は、そのまま資本効率の分母になる。買収で規模を増やす会社は、規模を増やしたその日から資本効率の重荷を背負い始める。本業の利益率が元に戻っても、ROEが戻り切らない理由はここにある。

これはこの会社に限った話ではない。ただ、5期という短い期間の並びのなかで、この力学がこれほどきれいに見える会社はそう多くない。

資本効率を見るときは、分子の利益だけでなく、分母がどう作られたのかを一度たどってみることをおすすめしたい。買って大きくなった会社と、自力で大きくなった会社では、同じROEの意味がかなり違う。