「年金だけで暮らしていて、この先ホームに入ることになったらどうしよう」――そう感じている方は少なくないでしょう。
厚生年金の平均受給月額は15万1142円、国民年金のみの場合は月5万9431円が平均です(いずれも令和6年度末の受給者平均)。
「貯蓄がなければ、あらゆる高齢者施設への入居は不可能なのか」というと、必ずしもそうではありません。ただし、年金額や貯蓄額に応じて、現実的に選べる施設はまったく異なります。
本記事では、年金だけで入れる施設がどれくらいあるのか、月額費用の内訳、そしてもっとも「安い」というイメージの強い特別養護老人ホーム(特養)に見落とされがちな2つの壁を、最新の民間調査と公的資料から整理します。
1. 「貯蓄がない」高齢世帯は、実は珍しくない
総務省「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果」によると、世帯主が65歳以上の二人以上世帯の平均貯蓄額は2564万円、貯蓄保有世帯の中央値は1777万円です。
- 貯蓄2500万円以上の世帯:36.3%(約3分の1)
- 貯蓄300万円未満の世帯:14.9%
一見すると余裕があるように見えますが、貯蓄300万円未満の世帯も全体の14.9%を占めており、世帯間で保有額に大きな開きがあることがわかります。
また、同じ総務省の「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、年金を中心に暮らす高齢無職世帯の家計は、収入だけでは支出をまかなえていません。
- 高齢夫婦無職世帯:実収入25万4395円に対し消費支出26万3979円、非消費支出3万2850円を含めると毎月4万2434円の不足
- 高齢単身無職世帯:実収入13万1456円に対し消費支出14万8445円、非消費支出1万2990円を含めると毎月2万9980円の不足
毎月の不足分は貯蓄の取り崩しで補うことになるため、「年金だけで入れる施設を探す」という段階になったとき、すでに手元資金に余裕がない世帯も一定数存在すると考えられます。
2. 【民間施設編】年金だけで入れる老人ホームは全国にどれくらいある?
まずは、特養などの公的施設を含まない「民間の有料老人ホーム等」から見ていきます。
老人ホーム紹介サイト「みんなの介護」に掲載されている介護付き有料老人ホーム・住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームの計24949件を対象にした調査(クーリエ、2026年8月)によると、厚生年金の平均受給月額15万1142円以内に月額費用が収まる施設は全国に1万6581件あり、全体の66.5%を占めます。
※なお、この調査では特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院等は対象外とされています。
- 厚生年金平均月額15万1142円以内の施設:16581件(66.5%)
- 月10万円以内の施設:3255件(14.4%)
- 国民年金のみの平均5万9431円で足りる施設は、この中でもさらに限られる
年金の範囲内で検討できる民間施設は全国の3分の2にのぼる一方、国民年金だけの場合は選択肢がぐっと狭まる計算です。
ただし、ここでいう「月額費用」はあくまで家賃・食費・管理費などの基本料金であり、これとは別に発生する費用がある点にも注意が必要です。
2.1 基本料金のほかにかかる費用もある
公益社団法人全国有料老人ホーム協会によると、有料老人ホームでは家賃・食費・管理費などの基本料金のほかに、介護保険サービスを利用した際の自己負担分(1〜3割)、医療費の自己負担分、おむつ等の消耗品費といった実費が別途発生します。
金額は施設や個人の状態によって差が大きいため一概には言えませんが、基本料金だけを年金額と比較して「収まる」と判断するのではなく、こうした実費も踏まえて予算を考えておくことが大切です。
3. 月額費用のほとんどは家賃、というイメージは本当?
全国の有料老人ホーム11179件を対象にした別の調査(クーリエ、2026年8月)では、月額費用の平均は17.2万円。その内訳は、家賃36.6%、食費27.0%、管理費26.6%、その他2.9%、水道光熱費2.0%、介護費(任意)1.9%となっています。
- 家賃:36.6%(月額換算 約6.3万円)
- 食費:27.0%(同 約4.6万円)
- 管理費:26.6%(同 約4.6万円)
- その他・水道光熱費・介護費(任意):合計6.8%(同 約1.2万円)
食費と管理費を合わせると53.6%となり、家賃36.6%を上回ります。
「月額費用のほとんどは家賃」というイメージとは異なり、実際には食費・管理費の負担のほうが大きいのが実態です。
3.1 厚生年金の平均額だけで、この内訳はまかなえるか?
厚生年金の平均受給月額15万1142円に対し、有料老人ホームの平均月額は17.2万円。単純計算では月に約2万円弱の差が生じます。
これに前章の実費も加わることを考えると、「平均額の施設だから大丈夫」と早合点せず、基本料金に一定の余裕を持たせて施設を選ぶことが安心につながります。
4. 筆者からのコメント
「老人ホームの費用は家賃が中心」というイメージを持っている方は多いのではないでしょうか。
しかし今回の調査結果を見ると、食費と管理費を合わせた割合のほうが家賃より大きく、月々の支払いの半分以上を占めています。さらに、基本料金とは別に介護保険の自己負担分や医療費、消耗品費などの実費もかかります。
見学や資料請求の際は、家賃の欄だけでなく、食費・管理費の内訳や、基本料金以外にどんな実費が発生するのかまで確認することをおすすめします。
年金の範囲内に収まるかどうかを判断する際は、家賃相場や基本料金だけで早合点せず、総額のイメージを持っておくと安心です。複数の施設を比較するときも、パンフレットの家賃欄だけを見比べるのではなく、月々発生する実費まで含めた総額同士で確認することを心がけてください。
