受注残高2,693億円という先行指標。量は読めても採算は読めない

EPCという事業は、先行指標が公開されている点で読みやすいとされる。受注を取り、数年かけて売上に変えていくからだ。実際に数字も開示されている。

2026年3月期の受注高は1,758億円で前期比▲26.1%。会社は、インド向け石油化学プラント、トルクメニスタン向け石油化学プラント、韓国向け化学プラントなどを受注したとしている。

分野別では石油化学が860億円で受注実績合計の48.9%を占め、化学・肥料が583億円、石油・ガスが149億円と続く。石油化学が受注の半分近くを担う構図だ。

次期繰越工事高、いわゆる受注残高は連結で2,693億円となった。前期末の3,017億円からは減っているが、それでも直近の完成工事高1,829億円を大きく上回る仕事を抱えている。持分法適用関連会社の当社持分相当を含めると、総受注高は4,204億円、総受注残高は5,024億円に達する。

ここに、業界で共有されている見方とのズレがある。受注残高が積み上がっていれば将来の売上は読める、という理解は間違っていない。だが同じ期に、受注高は期初計画を上回り、利益は計画から200億円以上ぶれた。

受注残の量と、その残が生む採算は別の変数である。EPCで効くのは残高の大きさではなく、その中に採算の崩れた案件が何本混ざっているかだ。そして後者は、受注残高の数字の外側にある。

売上の2割弱を1社が占めた前期。顧客集中という別のリスク

顧客の側から見ると、この会社の売上の作り方がよく見える。

2025年3月期は、Indorama Fertilizer FZEという1社への売上が489億円あり、総売上に対する割合は17.62%だった。売上の2割弱を1社が担っていたことになる。

2026年3月期はこの顧客の割合が10%を下回り、10%以上を占める相手先は存在しなくなった。開示上は集中が消えた形だ。

ただ、これを分散が進んだ結果と受け取るのは早い。完成工事高そのものが951億円減った期である。大型案件の進捗が一巡して抜け落ちた結果として、上位顧客の割合が下がったという見方のほうが自然だろう。

EPCは少数の大型案件で売上が構成される事業だ。だから1社の割合が高いこと自体は珍しくない。問題は、売上の集中と損失の集中が同じ根から来る点にある。

前期の190億円の営業損失は、まさに1件の案件から生まれた。売上の柱が太いということは、その柱が折れたときの影響も大きいということだ。顧客の入れ替わりは、売上の見通しよりリスクの分布として眺めたい。

190億円の損失を出しながら営業キャッシュは黒字。自己資本比率16.7%からの立て直し

損益計算書だけを見ていると、この期の姿を取り違える。

2026年3月期の営業キャッシュ・フローは93億円の入りだった。前期は230億円の出だったので、資金の向きは損益と逆に改善している。投資キャッシュ・フローは1億円の入り、財務キャッシュ・フローは62億円の入りで、期末の資金残高は144億円増えて869億円になった。

会社は資金増加の理由を、進行中の一部プロジェクトで顧客からの資金回収が進んだこと、持分法適用会社からの受取配当金が増えたことだと説明している。

5期に伸ばすと、この会社のキャッシュ・フローの振れ幅がよくわかる。営業キャッシュ・フローは2023年3月期に155億円の入り、2025年3月期に230億円の出、そして2026年3月期に93億円の入り。工事の進捗と入金のタイミングで、毎期のように符号が入れ替わっている。

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出所:東洋エンジニアリング株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:東洋エンジニアリング株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

財務の状態は楽ではない。自己資本比率16.7%は、建設業の中央値58.3%とはまるで水準が異なる。同社が開示するキャッシュ・フロー対有利子負債比率は6.6、インタレスト・カバレッジ・レシオは4.5倍である。

会社は、借入契約に付された財務制限条項に期末時点で抵触していたが、有価証券報告書の提出日現在は金融機関と変更契約を締結して抵触は解消しており、支援体制も確保されているとしている。手元流動性は月商2.5カ月分程度を目安とし、取引銀行10行と総額90億円の貸出コミットメント契約を結んでいる。

そのうえで会社は2026年度から2030年度までの中期経営計画を策定した。EPCを核とした遂行力を前提に、構想から設計、建設、運用、保全、改修までプラントのライフサイクル全体で価値を出す事業モデルへ移すという方向だ。

成長ドライバーにはO&M(運転・保守)、ファインケミカル、バイオ医薬、次世代地熱、重要鉱物を挙げ、注力地域をインド・中央アジア・アフリカに置く。財務面では2030年度までに自己資本を750億円前後まで積み上げ、資本コストを上回るROE(自己資本利益率)12%を維持することを目標とし、当期純利益は2030年度に100億円を掲げている。

自己資本の目標を金額で置いたところが、この計画のわかりやすさだと考えられる。比率ではなく金額で示せば、利益を積む以外に達成の道がない。

筆者コメント

受注残高と自己資本比率を並べて見ると、この会社の課題がはっきりする。

手元の受注残は連結で2,693億円あり、持分法適用会社を含めれば5,024億円になる。年間の完成工事高を大きく上回る仕事を抱えている。一方で自己資本比率は16.7%まで下がった。

仕事の量に対して、それを受け止める自己資本が薄い。EPCは工事損失が出れば一気に資本を削る事業だから、この組み合わせは効率の良さではなく緊張として読むべきだろう。

会社が2030年度の自己資本750億円を掲げたのは、その緊張を数字で認めたということでもある。

だとすれば、この銘柄で追う指標は受注高より自己資本の積み上がり方だ。受注は営業力で取れるが、自己資本は利益を出し続けないと増えない。金額で目標を置いた以上、そこには言い逃れの余地もない。

四半期ごとの受注ニュースに反応する前に、貸借対照表の純資産の行を確かめる。そういう順番で決算を見ることをおすすめしたい。この業種では、それが王道にして最も効く読み方だと考えている。

参考資料

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石津 大希