素材の会社と聞くと、大きな工場と薄い利幅を思い浮かべる人が多いだろう。だがフルヤ金属(7826)の直近の決算は、その印象とかなり違う姿を映している。株価も1カ月で水準が切り替わった。利益と現金、どちらを見るかで会社の見え方は変わる。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

ココがポイント
  • 2026年6月期通期は売上高1,001億円・営業利益247億円で、営業利益は前期の2.6倍に増えた
  • 株価は2026年8月上旬の6,740円から9月2日の9,670円へ1カ月で4割強上げ、直近時点のPERは13.44倍・PBRは3.04倍
  • 利益の急拡大に対して営業キャッシュフローは5期を通じて薄く、在庫と借入で成長を支える資本配分になっている

1. 2026年8月上旬を境に切り替わった株価の水準

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

直近1カ月の終値を並べると、2026年8月上旬に段差がある。

8月4日の終値は6,740円で、この21営業日のなかで最も低い終値だった。それが8月7日には7,920円まで1割強切り上がる。2026年6月期通期の内容が市場に伝わったタイミングと重なるとみられる。

そこからの動きは一直線ではない。8月17日に9,160円まで乗せたあと、8月19日には8,020円へ押し戻された。

再び水準を上げたのは8月下旬だ。8月24日の8,350円から日を追って切り上がり、9月1日の9,810円がこの期間で最も高い終値となった。

そして9月2日の終値は9,670円である。前日から1.4%の下落で、上げ幅をわずかに吐き出した程度の小幅な調整にとどまる。

起点の6,740円と比べれば、水準は4割強高い。1カ月でこれだけ動けば、ボラティリティ(株価の日々の値動きの激しさ)は相応に高いと言っていい。

直近時点のPER(株価収益率)は13.44倍、PBR(株価純資産倍率)は3.04倍だ。純資産の3倍を超える価格が付いている一方、利益に対する倍率は10倍台の前半にとどまる。この2つが同時に成り立つのは、直近の利益水準がそれだけ大きく伸びたからである。

2. 営業利益が2.6倍になった2026年6月期の中身

2026年6月期通期の売上高は1,001億円で、前期の573億円から+74.5%伸びた。

営業利益は247億円。前期の95億円の2.6倍である。経常利益246億円、当期利益160億円で、当期利益も+147.9%と2.5倍に近い。1株当たり利益は652円になった。

なぜここまで伸びたのか。会社によれば、円安の進行が貴金属価格の上昇と輸出採算の改善を通じて業績にプラスに働いた。あわせてデジタルおよびグリーン分野向け製品の高付加価値化を進め、安定供給体制の強化に取り組んだとしている。

会社自身の見通しも期中に切り上がっている。2026年6月期の通期営業利益計画は、上期の時点で165億円、3Q累計の時点で225億円だった。実績の247億円はそこをさらに上回った。

3Q累計の段階で売上高は747億円(前年同期比+83.1%)、営業利益は173億円(同+109.4%)に達していた。通期の247億円との差を取れば、4Q単体で74億円を稼いだことになる。

2027年6月期の会社計画は、売上高1,010億円(+0.9%)、営業利益265億円(+6.9%)、当期利益177億円(+10.4%)である。売上をほぼ横ばいに置いて、利益だけを一段伸ばす形だ。配当も1株165円から180円へ引き上げる計画になっている。

売上を伸ばさずに利益を積む計画は、単価か製品構成の改善を前提にしていると読める。会社が挙げた高付加価値化の延長線上にある絵だろう。

3. 素材メーカーのイメージと利益率が食い違う

2026年6月期の営業利益率は24.8%になる。その他製品という業種の中央値は4.7%だ。5倍以上の開きがある。

素材を扱う会社と聞けば、重い設備を抱えて薄い利幅で回す姿を思い浮かべやすい。実際の数字は、その像とはっきり食い違う。

ROE(自己資本利益率)も、2025年6月期は10.4%で業種中央値の6.2%を上回っていた。2026年6月期は当期利益が2.5倍近くに増えたので、資本効率はさらに切り上がったことになる。

従業員は2025年6月期末で418人だ。この人数で1,000億円規模の売上を扱う。貴金属という単価の高い素材を扱う事業モデルが、そのまま数字に出ている。

ただし、利益率の高さがそのまま現金の厚みになるわけではない。2026年6月期上期の営業キャッシュフローは55億円で、同じ期間の営業利益74億円を下回っている。

間に挟まっているのは在庫だ。貴金属を素材として扱う以上、生産と販売の間に高価な在庫が寝る。売上が伸びる局面では、その在庫も一緒に膨らむ。

高い利益率と、現金が残りにくい運転資本。この2つは矛盾しているようでいて、同じ事業モデルから同時に出てくる。株価の水準を考えるうえでも、両方を並べて置いておきたいところだ。

4. 筆者コメント

本文で触れた2つの倍率を並べて置くと、市場が何を評価しているのかが見えてくる。純資産に対する評価は高く、利益に対する評価はむしろ控えめだ。

この組み合わせが示すのは、市場が「今の利益は帳簿の厚みでは説明できない」と見ていることだろう。設備や資産の量ではなく、そこから引き出す利益の質に価格が付いている。

もっとも、利益に対する倍率の低さは分母が急に大きくなった結果でもある。この倍率は「今の利益水準が続くなら」という条件付きの数字だ。条件が外れれば見え方は一変する。

2027年6月期の会社計画は、売上をほぼ据え置いて利益だけを一段伸ばす絵になっている。売上の伸びを前提にしない利益成長は、単価と製品構成に強く依存する。裏を返せば、そこが崩れたときの振れ幅も大きい。

株価が1カ月でどれだけ動いたかより、この利益がどこから来ているのかを追うほうが実りは大きい。決算を読むときは、利益の絶対額ではなく利益率の中身に目を向けることをおすすめしたい。