5. 利益が2.6倍でも営業キャッシュフローは積み上がらない

過去5期の営業キャッシュフローを並べると、利益の伸びとはまるで違う絵が出てくる。

2021年6月期は▲34億円、2022年6月期は▲12億円、2023年6月期は▲4億円と、3期続けてマイナスだった。プラスに転じたのは2024年6月期の32億円で、2025年6月期は9億円まで縮んでいる。

この5期はいずれも黒字である。利益は出ているのに、営業段階では現金が残らない。

効いているのは棚卸資産だ。2021年6月期末の296億円から、2025年6月期末には823億円まで積み上がった。5期で2.8倍である。

貴金属を素材として扱う事業では、在庫そのものが高価になる。売上が伸びれば、それを支える在庫も比例以上に増える。

在庫回転日数は2021年6月期の537日から2025年6月期は696日へ延びた。仕入から現金回収までの期間を示すキャッシュコンバージョンサイクルも、484日から529日へ長くなっている。

一方で投資キャッシュフローは、2021年6月期の▲21億円から2025年6月期の▲49億円へ拡大した。設備投資が重くなった局面である。

営業段階で現金が残らず、投資も増える。差を埋めたのは財務キャッシュフローだ。2021年6月期の+76億円から2025年6月期の+47億円まで、5期すべてでプラスを維持してきた。

中身は借入だけではない。資本剰余金は2023年6月期末の70億円から2024年6月期末には123億円へ増えている。外部からの資金調達で成長を回してきた形と読める。

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出所:株式会社フルヤ金属 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:株式会社フルヤ金属 有価証券報告書をもとに筆者作成

6. 設備投資と借入で組み立てられた資本配分

設備投資の中身を見ると、投資キャッシュフローが膨らんだ理由がはっきりする。

2025年6月期の設備投資は49億円だった。有価証券報告書では、新千歳工場の建設費用10億円、新基幹システムの導入費用10億円、つくば工場の隣地土地購入10億円が主なものとして挙げられている。

進行中の計画はさらに大きい。同報告書に載る4件の重要な設備新設は、投資予定総額の合計で134億円になる。既支払額は70億円で、半分ほどが残っている。

内訳は事業の方向をそのまま示している。つくば工場の工場拡張とデジタル製品向け設備が35億円、土浦工場の水電解用触媒の量産と貴金属回収の効率化設備が18億円、千歳工場の移転拡張と石英加工設備が47億円、そして新基幹システムが34億円だ。

土浦工場の設備については、完成後に年200kgの能力増を計画している。水素関連とリサイクルという2つの方向に、まとまった金額が向いていることになる。

資金調達の方法として、報告書はいずれも自己資金と借入金を挙げている。千歳工場については経済産業省の補助金も併記されている。

実際に借入は増えてきた。借入金の合計は2021年6月期末の134億円から、2025年6月期末には286億円へ2倍を超えている。自己資本比率は52.0%で、その他製品の業種中央値60.8%を下回る。

負債を使うこと自体が問題なのではない。資本効率の観点では、デットキャパシティ(負債を負う余力)を遊ばせているほうが論点になる。ここで見ておきたいのは、その負債が在庫と設備という回収の遅い資産に向いている点だ。

もっとも、直近では潮目が変わりつつある。2026年6月期上期の投資キャッシュフローは▲22億円にとどまり、財務キャッシュフローは▲98億円と大きなマイナスに転じた。

外部から資金を入れる局面から、自前の現金で返す局面へ。過去5期の姿とは向きが逆になっている。

7. 筆者コメント

業種の中での立ち位置に照らすと、この会社は少し変わった組み合わせを抱えている。利益率と資本効率は業種中央値を大きく上回るのに、自己資本の厚みは中央値を下回る。

普通、稼ぐ力の強い会社は内部留保が積み上がって自己資本比率が上がっていく。ここではそうならなかった。稼いだ利益が在庫と設備に吸われ、足りない分を外部の資金で埋めてきたからだ。

この構造は、貴金属という素材を扱う事業の性質そのものだと言っていい。在庫の単価が高ければ、成長するほど運転資本が膨らむ。成長と資金需要が同じ方向に動く事業では、損益計算書の増益はそのまま自由に使える現金にはならない。

だからこそ、直近の上期で財務キャッシュフローがマイナスに転じたことの意味は大きい。運転資本の膨張が一巡したのか、それとも一時的な返済なのか。次の決算で最初に確かめたい点だ。

利益の伸び率だけを追うのではなく、その利益が在庫と設備を養ったあとに何が残るのかを見てほしい。この会社を眺めるうえでは、そちらのほうがはるかに雄弁だろう。

参考資料

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石津 大希