「会社員は年金で得をしている」と聞いたことがある人は多いはずですが、その差が具体的に月いくらなのかまで答えられる人は少ないはずです。この記事では、厚生年金と国民年金(基礎年金)の仕組みの違いを、実際の平均受給額の差という数字で編集部が整理します。

「会社員だから得」という言葉の中身を、感覚ではなく金額で確認していきましょう。特に、これから転職や独立を考えている人にとっては、この差を知っておくことが老後の資金計画に直結します。

1. 「会社員特権」の正体は、2階建て構造にある

まず、なぜ会社員と自営業者で将来もらえる年金に差が生まれるのか、制度の土台を確認します。

1.1 1階は全員共通、2階は会社員・公務員だけ

日本の公的年金は「2階建て」と呼ばれる構造になっています。20歳以上60歳未満の全員が加入する1階部分が「国民年金(基礎年金)」、会社員・公務員がこれに上乗せして加入する2階部分が「厚生年金」です。自営業者やフリーランスは、原則として1階部分のみに加入します。

つまり「会社員特権」と呼ばれるものの正体は、2階部分の有無です。厚生年金に加入している期間がある人は、老後に基礎年金と厚生年金の両方を受け取れます。

齊藤 慧
「特権」という言葉には少し語弊があります。厚生年金は保険料を労使折半で多く納めてきた結果としての上乗せであり、会社員が一方的に得をしているというより、負担と給付が対応した仕組みだと理解しておくとよいでしょう。「ずるい」ではなく「対価」として捉え直すだけで、見え方はずいぶん変わってくると思います。

2. 編集部試算:平均受給額の差は月7万9681円

ここからが本題です。実際の平均受給額を使って、この差を具体的な金額で確認します。

2.1 厚生年金15万289円、基礎年金7万608円

厚生労働省の統計によると、厚生年金の平均受給月額(老齢基礎年金を含む)は15万289円です。一方、日本年金機構によると、令和8年度の老齢基礎年金の満額は月7万608円(昭和31年4月2日以後生まれの場合)です。

この2つの数字の差を取ると、7万9681円になります。これが、厚生年金に加入してきた人と、基礎年金のみの人との、平均的な受給額の差ということになります。

2.2 【厚生年金と国民年金・平均受給額の比較】

前提条件:厚生年金の平均受給月額(厚生労働省)と、老齢基礎年金満額(日本年金機構・令和8年度)の差を編集部で試算1/2

前提条件:厚生年金の平均受給月額(厚生労働省)と、老齢基礎年金満額(日本年金機構・令和8年度)の差を編集部で試算

出所:厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」などを基にLIMO編集部作成

  • 厚生年金の平均受給月額:15万289円
  • 老齢基礎年金の満額(令和8年度):7万608円
  • 差額:約7万9681円

年額に直すと、約95万6172円の差になります。この金額は、加入期間や現役時代の給与水準によって一人ひとり変わるため、あくまで平均としての目安です。老後20年間で単純計算すると、累計で約1912万3440円もの差になる計算です。

齊藤 慧
月7万9681円という差を年単位・老後20年単位で考えると、決して小さな金額ではありません。ただしこれは平均同士の比較であり、厚生年金の加入期間が短い人は、この差がもっと小さくなる点は覚えておいてください。平均という数字は、自分に当てはめる前に一呼吸置いて確認する習慣を持っておきたいところです。

3. 【編集者の視点】

注意したいのは、厚生年金の平均受給月額15万289円という数字が「老齢基礎年金部分を含んだ合計額」だという点です。厚生年金だけを別枠でもらえるわけではなく、基礎年金の上に厚生年金部分が上乗せされた結果の金額です。

そのため「会社員は基礎年金にプラスして15万円もらえる」という誤解をしないよう注意が必要です。正しくは「基礎年金を含めて平均15万289円」という理解になります。

4. 男女で見ると、差はさらに大きく開く

平均受給額を男女別に見ると、この差はさらに広がります。

4.1 男性は約9万9359円差、女性は約4万805円差

厚生労働省の統計によると、厚生年金の平均受給月額は男性16万9967円、女性11万1413円です。老齢基礎年金の満額(月7万608円)との差を取ると、男性は約9万9359円、女性は約4万805円になります。

この男女差は、現役時代の賃金水準や厚生年金の加入期間の違いを反映したものです。単純に「会社員だから得」と一括りにするのではなく、自分自身の加入期間や現役時代の年収を踏まえて考える必要があります。

4.2 【男女別・厚生年金と基礎年金の差額】

前提条件:厚生年金の男女別平均受給月額(厚生労働省)と、老齢基礎年金満額(日本年金機構・令和8年度)の差を編集部で試算2/2

前提条件:厚生年金の男女別平均受給月額(厚生労働省)と、老齢基礎年金満額(日本年金機構・令和8年度)の差を編集部で試算

出所:厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」などを基にLIMO編集部作成

  • 男性:厚生年金平均16万9967円、基礎年金との差額は約9万9359円
  • 女性:厚生年金平均11万1413円、基礎年金との差額は約4万805円
齊藤 慧
男女差が約2.4倍という開きは、厚生年金の加入期間や賃金格差の歴史をそのまま映し出しています。「会社員だから安泰」ではなく、自分の加入期間・給与水準に照らして考えることが大切で、平均だけを鵜呑みにしないようにしましょう。この差の背景を知っておくことは、単なる数字比較を超えた意味を持つと感じます。

5. 【編集者の視点】

実務上のポイントは、この差が「会社員か自営業か」だけで決まるのではなく、「厚生年金に何年加入したか」「現役時代の給与水準がどうだったか」によって大きく変わるという点です。会社員として働いた期間が短ければ、この差は縮まります。

自分の見込み額を正確に知りたい場合は、ねんきん定期便やねんきんネットで、これまでの加入記録と将来の見込み額を確認することをおすすめします。

6. 厚生年金の受給額は、加入期間と給与水準で大きく変わる

平均額だけを見ると「会社員なら誰でも約7万9681円多くもらえる」と考えてしまいがちですが、実際にはそうとは限りません。厚生年金の受給額を左右する要素を確認します。

6.1 加入期間が短ければ、平均との差は縮まる

厚生年金の受給額は、現役時代の給与水準(標準報酬月額)と、厚生年金への加入期間の掛け算で決まる「報酬比例部分」を基礎年金に上乗せする仕組みです。そのため、新卒からずっと会社員だった人と、数年だけ会社員を経験してその後は自営業に転じた人とでは、同じ「厚生年金加入経験あり」でも受給額は大きく異なります。

厚生年金への加入期間が短い人は、上乗せされる報酬比例部分も小さくなるため、平均額15万289円との差はあくまで目安であり、自分自身の加入期間を踏まえて考える必要があります。

6.2 現役時代の給与水準も、上乗せ額に直結する

同じ加入期間でも、現役時代の給与が高かった人ほど、報酬比例部分は大きくなります。逆に、パートタイムなどで厚生年金の加入要件を満たしつつも給与水準が低かった期間が長い人は、上乗せ額もそれに応じて小さくなります。

「会社員だったかどうか」という二択ではなく、「何年間・どのくらいの給与水準で厚生年金に加入していたか」という掛け算で、実際の上乗せ額が決まる仕組みだと理解しておくと、平均額との比較がより正確になります。転職や独立を挟んだキャリアの人ほど、この掛け算の結果は平均から離れやすくなります。

齊藤 慧
「平均だから自分もそのくらいもらえるはず」と考えるのは早計です。加入期間と給与水準という2つの掛け算で決まる仕組みだと知っておくだけで、ねんきん定期便の見込み額を見たときの納得感が変わってくるはずです。数字の裏側にある構造を理解しているかどうかで、老後設計の安心感は大きく変わります。

7. 【編集者の視点】

実務上の防衛策としては、転職や独立を考えている人ほど、厚生年金への加入期間がどこで途切れるのかを意識しておくことです。会社員を辞めて自営業に転じるタイミングで厚生年金の加入期間が止まるため、独立後は上乗せ部分が増えなくなります。

独立を予定している場合は、独立前にねんきん定期便で見込み額を確認し、独立後に国民年金基金やiDeCoでどれだけ上乗せを用意すべきか、事前に計算しておくと見通しが立てやすくなります。

逆に、自営業から会社員に転じる人にとっては、厚生年金への加入がこれから始まるタイミングを意識しておくことで、今後の受給見込み額がどう積み上がっていくかをイメージしやすくなります。

8. 自営業者やフリーランスが2階部分を補う方法

最後に、厚生年金に加入していない人が、この差を補う制度上の選択肢を確認します。

8.1 国民年金基金やiDeCoで、上乗せ部分を自分でつくる

自営業者やフリーランスなど国民年金第1号被保険者は、厚生年金のような2階部分に自動では加入しません。ただし、国民年金基金やiDeCo(個人型確定拠出年金)に任意で加入することで、自分自身で老後の上乗せ部分を用意することができます。

これらの制度は加入も掛金も任意であるため、厚生年金のように自動的に上乗せされるわけではありません。「会社員特権」の差を意識するのであれば、こうした制度の活用を検討する余地があります。

8.2 国民年金基金とiDeCoは、併用にも上限がある

国民年金基金とiDeCoは、どちらも掛金が全額所得控除の対象になるという税制上のメリットがあります。ただし、両方に加入する場合は掛金の合計に上限が設けられているため、それぞれの制度の特徴を踏まえたうえで、どちらに重点を置くかを検討する必要があります。

国民年金基金は将来受け取る額があらかじめ決まっているのに対し、iDeCoは自分で選んだ運用商品の成果によって将来の受取額が変動します。どちらが向いているかは、老後資金に対する考え方や、運用に対する姿勢によって変わってきます。両方を少しずつ組み合わせて活用している人もいます。

齊藤 慧
自営業者にとって、厚生年金がないことは不利な面ばかりではありません。国民年金基金やiDeCoを自分の判断で選び、掛金の額や運用方針を自由に決められるという側面もあります。「特権がない」と嘆く前に、自分で設計できる制度がある点にも目を向けてほしいというのが、この記事で一番伝えたかったことです。

※本記事は、編集部が厚生労働省・日本年金機構が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。

会社員側にとっても、厚生年金があるからといって老後資金の準備をそれだけに頼りきるのではなく、iDeCoなどで上乗せを検討する余地は十分にあります。

なお、関連してねんきん定期便から読み解く受給額のリアルについても、あわせて確認しておくと理解が深まります。

9. まとめ

  • 会社員・公務員は基礎年金(1階)に厚生年金(2階)が上乗せされ、自営業者などは基礎年金のみが基本です。
  • 厚生年金の平均受給月額15万289円と、老齢基礎年金満額7万608円(令和8年度)の差は約7万9681円です。
  • 男女別では、男性が約9万9359円、女性が約4万805円の差になります。
  • この差は保険料負担に対応した上乗せであり、加入期間や給与水準によって個人差が大きく変わります。
  • 厚生年金に加入していない人は、国民年金基金やiDeCoで上乗せ部分を自分で用意する選択肢があります。

「会社員は年金で得をしている」という言葉の中身は、2階建て構造の有無と、それに伴う平均約7万9681円という受給額の差でした。感覚的な「得・損」ではなく、具体的な金額で自分の状況を把握しておくことが、老後の見通しを立てるうえで役立ちます。

厚生年金の有無だけでなく、加入期間・給与水準・自分で用意する上乗せ制度の有無まで含めて考えることで、老後の家計をより現実的に見通せるようになります。平均額はあくまで出発点として、自分自身の数字を確認する習慣をつけておきましょう。

自分自身の見込み額を確認したい場合は、ねんきん定期便やねんきんネットで確認することをおすすめします。会社員か自営業かにかかわらず、まずは自分の加入記録を正確に把握することが出発点になります。年に一度届くねんきん定期便は、封を開けずに放置せず目を通す習慣をつけておくとよいでしょう。

あわせて、年金「平均受給額」の残酷な現実と男女格差も参考にしてみてください。

10. よくある質問

10.1 Q. 厚生年金と国民年金(基礎年金)は、どちらか一方しかもらえないのですか。

A. いいえ。厚生年金に加入していた期間がある人は、老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を受け取れます。厚生年金は基礎年金に上乗せされる2階部分です。

10.2 Q. 厚生年金の平均受給月額15万289円は、基礎年金を含む金額ですか。

A. はい。老齢基礎年金部分を含んだ合計額です。厚生年金部分だけが別枠で支給されるわけではありません。

10.3 Q. 自営業者は、この差を埋める方法がありますか。

A. 国民年金基金やiDeCo(個人型確定拠出年金)に任意で加入することで、老後の上乗せ部分を自分で用意できます。ただし加入・掛金とも任意のため、自動的には上乗せされません。

10.4 Q. 男女で受給額に差があるのはなぜですか。

A. 現役時代の賃金水準や厚生年金の加入期間の違いが主な要因です。個人差が大きいため、自分自身の加入記録を確認することをおすすめします。

10.5 Q. 転職を繰り返した場合、厚生年金の加入期間はどうなりますか。

A. 転職しても厚生年金の加入期間は通算されます。会社を変わるたびに加入期間がリセットされるわけではなく、それぞれの勤務先での加入期間が積み重なっていきます。転職の間に自営業期間を挟んだ場合は、その期間だけ厚生年金の積み上げが止まります。

10.6 Q. パートやアルバイトでも厚生年金に加入できますか。

A. 勤務先の規模や労働時間などの要件を満たせば、パート・アルバイトでも厚生年金に加入できます。加入すれば、その期間分の報酬比例部分が将来の受給額に上乗せされます。

10.7 Q. 公務員も厚生年金の平均受給額に含まれますか。

A. 公務員も厚生年金に加入しているため、統計上は会社員と同じ厚生年金の枠組みに含まれます。共済年金は平成27年10月の被用者年金一元化により厚生年金に統合されています。

10.8 Q. 会社員なら誰でも厚生年金の平均額に近づきますか。

A. 必ずしも近づくとは限りません。加入期間が短い人や、パートタイムなど給与水準が低い期間が長い人は、平均額より少なくなる場合があります。自分の見込み額を個別に確認することが重要です。

10.9 Q. 自営業からの転向で厚生年金に加入した場合、平均額に届きにくいですか。

A. 加入期間が短くなる分、平均額より少なくなりやすい傾向はあります。ただし、加入していた期間分の報酬比例部分は着実に上乗せされるため、ゼロになるわけではありません。ねんきん定期便で、自分の加入実績に応じた見込み額を確認しておくとよいでしょう。

関連して老後資金の正しい「内訳」と不足額のあぶり出しもあわせてご覧ください。

参考資料

齊藤 慧