株式投資を始めたいと思いながら、証券口座の開設方法や「最低いくら必要なのか」がわからず、一歩を踏み出せずにいる人は少なくありません。
「まとまった資金がないと始められない」「証券会社が潰れたら投資したお金は戻ってこないのでは」といった思い込みが、最初の一歩を重くしている面もあります。
実際には、東京証券取引所(東証)が公表する最新データを見る限り、その不安の多くは実態とズレています。
この記事では、証券口座の開き方という基礎知識に加え、東証の統計から見える「本当に必要な資金」の水準、NISA口座と特定口座で手取りがどう変わるか、証券会社が破綻した場合に何が守られるのかを、公的資料に基づいて整理します。
1. 株式投資を始める3ステップ―証券口座・NISA口座・資金の準備
株式投資を始めるための最初のステップは、証券会社に口座を開設することです。ここでは、初心者がつまずきやすいポイントを中心に、始め方の基本を整理します。
1.1 証券口座を開く前に決めておきたいこと
株式投資を始めるには、まず証券会社に口座を開設する必要があります。
店舗を持つ証券会社と、インターネット上で取引が完結するネット証券があり、手数料の安さや取引のしやすさから、初めての株式投資にはネット証券を選ぶ人が多い傾向にあります。
口座開設の際は、通常の証券口座に加えて、NISA口座も同時に申し込んでおくと手間が省けます。
NISA口座は1人につき1つの金融機関でしか持てないため、最初にどの証券会社を使うかを決めることが、実質的な最初の分かれ道になります。
口座開設後は、資金を入金し、銘柄を選んで注文を出す、という流れになります。
2. 「いくらから」始められる?知っておきたい株式の売買単位
証券口座を開いたら、次に気になるのが「いくらから買えるのか」という点です。ここには、見落としやすいルールがあります。
2.1 単元株と単元未満株の違い
日本国内の上場株式では、2018年10月1日から、すべての銘柄の売買単位が「100株」に統一されています。
それ以前は、企業ごとに1000株単位や1株単位などバラバラな売買単位が存在していましたが、東京証券取引所が2007年11月から進めてきた統一の取り組みにより、現在はどの銘柄も100株単位(1単元)での購入が基本です。
そのため、「1株1000円の銘柄を買うには10万円が必要」というように、株価を100倍した金額が実質的な最低投資額になります。
一方で、証券会社によっては、1単元に満たない「単元未満株」を1株から購入できるサービスも提供されています。
単元未満株は、配当を受け取る権利はありますが、株主総会での議決権など一部の株主の権利が制限される点に注意が必要です。
3. 東証データで見る「必要資金」のリアルな水準
では、実際にいくら用意すれば株式投資を始められるのでしょうか。東京証券取引所が2026年3月に公表した最新の調査から、リアルな水準を見ていきます。
3.1 市場によって大きく異なる「投資単位」
東証と金融情報会社Bloombergのデータをもとに東証がまとめた調査によると、1単元(100株)を購入するのに必要な金額の中央値は、東証全体で15万7650円です。
ただし、この金額は上場する市場によって大きく異なります。
大企業が多いプライム市場の中央値は24万6750円である一方、成長企業が中心のグロース市場では8万8050円にとどまります。
3.2 【市場区分別の投資単位(1単元100株の購入金額)】
中央値
- 東証全体:15万7650円
- プライム:24万6750円
- スタンダード:11万8500円
- グロース:8万8050円
平均値
- 東証全体:24万5029円
- プライム:35万5032円
- スタンダード:18万1792円
- グロース:11万9413円
同じ調査では、個人投資家に「理想の投資単位」を尋ねたアンケート結果も公表されています。
2025年11月から2026年1月にかけて実施され、2万6342人が回答したこの調査では、「10万円程度」を理想とする回答が28.4%と最も多く、30代以下の若年層に限ると、約4割が「10万円未満」を理想と答えています。
グロース市場の投資単位の中央値(8万8050円)は、この「理想」にかなり近い水準です。
「株式投資にはまとまった資金が必要」というイメージは、少なくとも市場区分によっては実態とズレ始めていると言えます。
4. 【編集者の視点】
投資単位が下がっている背景には、東証が2007年から進めてきた「株式分割」の促進があります。
株式分割とは、1株を2株や3株に分割し、株数を増やす代わりに1株あたりの株価を下げる仕組みです。
東証の同じ調査によると、2025年度(2026年2月末時点)に株式分割を決議した上場会社は266社にのぼり、そのうち約7割が投資単位を10万円台以下まで引き下げています。
ここで注意したいのは、株式分割は会社の価値そのものを変えるものではないという点です。
1株が2株になっても、保有する株式全体の価値は理論上変わりません。株価が安く見えても、その会社の実態(業績や財務内容)が良くなったわけではないという基本を忘れないようにしましょう。
投資単位が下がって買いやすくなった銘柄ほど、なぜ分割したのか、業績はどう推移しているのかを、証券会社の取引ツールや企業の決算資料で確認する習慣をつけることが、値動きだけを見て飛びつく失敗を防ぐ防衛策になります。
5. NISA成長投資枠と特定口座、同じ利益でも手取りが変わる
投資単位の次に押さえておきたいのが、利益が出たときの税金の扱いです。どの口座で取引するかによって、手取り額が変わります。
5.1 株式の利益にかかる税金の基本
株式を売却して利益(譲渡益)が出た場合、原則として確定申告が必要で、譲渡益に対して20.315%(所得税等15.315%、住民税5%)の税金がかかります。
証券会社に「特定口座」を開いていれば、この計算を証券会社が代行してくれます。
特定口座には、証券会社が税金を差し引いて納付まで済ませる「源泉徴収あり(源泉徴収口座)」と、証券会社が作成する年間取引報告書を使って自分で申告する「源泉徴収なし(簡易申告口座)」の2種類があります。源泉徴収ありを選べば、原則として確定申告をせずに済みます。
5.2 NISA成長投資枠を使うとどう変わるか
一方、NISA口座の「成長投資枠」で購入した上場株式は、譲渡益や配当が非課税になります。
成長投資枠の年間投資上限は240万円で、つみたて投資枠と合わせた生涯の非課税保有限度額は1800万円(うち成長投資枠は1200万円)です。
例えば、特定口座で10万円の譲渡益が出た場合、税金として2万315円が差し引かれ、手取りは7万9685円になります。一方、同じ10万円の利益をNISA成長投資枠の株式で得た場合、税金はかからず10万円がそのまま手取りになります。
5.3 【口座の種類による税金・手続きの違い(譲渡益10万円の場合)】
税金
- NISA成長投資枠:非課税(0円)
- 特定口座(源泉徴収あり・なし):2万315円
- 一般口座:2万315円
確定申告の要否
- NISA成長投資枠:不要
- 特定口座(源泉徴収あり):原則不要
- 特定口座(源泉徴収なし):必要(証券会社作成の年間取引報告書で簡易申告)
- 一般口座:必要(自分で年間の譲渡損益を計算)
NISA口座は年間投資枠に上限がありますが、非課税というメリットは大きく、初めて株式投資をする人ほど優先して使う価値があります。
ただし、NISA口座で生じた譲渡損失は、特定口座の利益と損益通算(利益と損失を相殺すること)ができない点には注意が必要です。
6. 【編集者の視点】
NISA口座を使う際に見落とされがちなのが、「損益通算ができない」という制約です。
特定口座であれば、ある銘柄で出た譲渡損失を、別の銘柄の譲渡益や配当と相殺し、税金を減らすことができます。
また、損益通算しても控除しきれない損失は、確定申告をすることで翌年以降3年間繰り越すこともできます。
しかし、NISA口座で生じた損失は、税制上「なかったもの」として扱われるため、特定口座の利益と相殺したり、繰り越したりすることができません。
非課税というメリットは大きい一方、含み損を抱えた銘柄をNISA口座と特定口座のどちらで保有しているかによって、損失が出たときの税務上の扱いが変わります。
証券会社によっては、同じ銘柄でもNISA口座と特定口座を使い分けて買い増しできる場合があります。購入前にどちらの口座で買うかを一度立ち止まって考える習慣をつけておくと、後から後悔しにくくなります。
7. 「証券会社が潰れたら」は本当に怖い?分別管理という仕組み
税金と並んで初心者が不安に感じやすいのが、「もし証券会社が潰れたらどうなるのか」という点です。ここにも、正しく知っておきたい制度があります。
7.1 株式は証券会社の資産と分けて管理されている
結論から言うと、証券会社が破綻しても、預けている株式が消えることは想定されていません。
金融商品取引法により、証券会社は顧客から預かった株式や金銭を、自社の資産とは厳格に区分して管理することが義務づけられています。これを「分別管理」と呼びます。
日本証券業協会の解説によると、上場株式は「証券保管振替機構(ほふり)」という第三者機関で、証券会社を含む金融機関ごとの口座に区分して管理されています。
証券会社が破綻しても、株式はほふりの記録に基づいて返還される仕組みです。
7.2 投資者保護基金が補償するのは「分別管理が破られた場合」だけ
もう一つ知っておきたいのが「投資者保護基金」の役割です。
この基金は、証券会社が分別管理を怠っていたために顧客の資産を返還できなくなった場合に、1人あたり上限1000万円まで補償する仕組みです。
※本記事は、編集部が日本取引所グループ・国税庁・日本証券業協会・日本投資者保護基金が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
つまり投資者保護基金は、分別管理という第一の防波堤が破られた「万が一の万が一」に備える仕組みであり、通常であれば出番はありません。
ここで誤解しないようにしたいのは、投資者保護基金はあくまで証券会社の破綻に伴う資産の未返還を補償する制度であり、株価が値下がりして生じた損失を補填するものではないという点です。
「証券会社が潰れる不安」と「株価が下がる不安」は、別の種類のリスクとして分けて考える必要があります。
8. 【編集者の視点】
分別管理や投資者保護基金の仕組みを知っていても、初心者が実務で気をつけたいポイントがもう一つあります。それは、口座を開設する証券会社そのものの登録状況の確認です。
株式の売買を仲介する業務を行うには、金融商品取引法に基づき、内閣総理大臣(実務上は財務局)への登録を受けた「金融商品取引業者」である必要があります。
登録を受けていない業者や、実在する証券会社をかたる詐欺的な勧誘に個人情報や資金を渡してしまうと、分別管理や投資者保護基金の枠組みそのものの外側の被害になり、これらの制度による保護は及びません。
証券会社を選ぶ際は、金融庁や財務局が公表する登録業者一覧で名称を確認する、口座開設の案内が届いた場合は公式サイトから改めてアクセスし直す、といった基本的な確認を怠らないことが、最初の防衛策になります。
9. まとめ
- 証券口座とNISA口座を同時に開設し、資金を入金してから銘柄を選ぶのが基本的な始め方です。
- 2018年10月以降、株式の売買単位は100株に統一されていますが、単元未満株を使えば1株からの購入もできます。
- 東証の投資単位の中央値はプライム24万6750円、グロース8万8050円と市場によって差があり、個人投資家が理想とする「10万円程度」に近い水準の市場もあります。
- NISA成長投資枠を使えば譲渡益・配当が非課税になり、特定口座(源泉徴収あり)を選べば原則として確定申告が不要になります。
- 証券会社が破綻しても、預けた株式はほふりで分別管理されており、投資者保護基金は分別管理が破られた場合のみ最大1000万円まで補償します。
株式投資の始め方は、証券口座を開くという事務的な手続きだけでなく、いくら必要か、税金はどうなるか、万が一のときに何が守られるかという制度の理解とセットで考える必要があります。
まずはNISA口座の開設から始め、単元未満株のような少額の選択肢も視野に入れながら、自分の資金と相談して最初の一歩を決めてみてください。分からない点があれば、口座を開設する証券会社のサポート窓口に確認することをおすすめします。
10. よくある質問
10.1 Q. 株式投資はいくらから始められますか?
A. 通常の単元株取引では、1単元(100株)分の資金が必要になるため、株価によって必要金額は大きく異なります。東証の調査では、1単元購入に必要な金額の中央値は市場全体で15万7650円ですが、証券会社が提供する単元未満株のサービスを使えば、1株から購入することもできます。
10.2 Q. NISA口座と特定口座はどちらを先に開設すべきですか?
A. 決まった順番はありませんが、NISA口座は1人1口座までしか持てないため、証券口座を開くタイミングでNISA口座もあわせて申し込んでおくと、後から手続きし直す手間が省けます。
10.3 Q. 証券会社が破綻したら、預けている株式はどうなりますか?
A. 証券会社が破綻しても、預けている株式は「証券保管振替機構(ほふり)」で証券会社の資産と分別して管理されているため、原則として顧客に返還されます。証券会社が分別管理を怠っていたために返還できない場合に限り、日本投資者保護基金が1人あたり上限1000万円まで補償します。
10.4 Q. NISA口座で損失が出た場合、確定申告で取り戻せますか?
A. NISA口座で生じた譲渡損失は税制上「なかったもの」とみなされるため、特定口座で得た利益や配当と損益通算することはできません。この点は、NISA口座を利用する際の注意点として知っておく必要があります。
参考資料
- 国税庁「暮らしの中の税」
- 日本取引所グループ「売買単位の統一」
- 日本取引所グループ「投資単位の引下げに向けた取組の状況」
- 日本投資者保護基金「投資者保護とは」
- 日本証券業協会「金融商品取引業者等の分別管理Q&A」
- 金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」
LIMO編集部ウェルスマネジメント班
