4. 家計調査から見えてくる年代別の資産課題
遺言書の作成は、単なる事務手続きではなく「将来を見据えた大切な資産設計」です。
総務省統計局の「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果」からは、遺言作成時に注意すべきリアルな課題が浮かび上がります。
- 60~69歳:通貨性預貯金31.3%、定期性預貯金24.8%、有価証券25.1%(有価証券は割合・保有額とも全年代でピーク)
- 70歳以上:通貨性預貯金32.5%、定期性預貯金31.5%(全年代で最も高い割合)、有価証券18.5%
- (参考)全年代平均:通貨性預貯金34.5%、定期性預貯金24.8%、有価証券21.4%
- 60代の「価格変動リスク」:有価証券の保有割合・保有額がともに全年代でピークを迎える(貯蓄全体の25.1%、金額にして713万円)。株価変動により作成時と相続時で価値が大きく乖離する恐れがあるため、遺言では金額指定ではなく「割合(例:株式の2分の1)」での指定が有効。「〇〇証券(支店名・口座番号)にあるすべての有価証券を〜」のように口座単位で包括的に指定する方法も効果的。
- 70代以上の「流動性リスク」:定期性預貯金の割合が31.5%と全年代で最も高くなる。相続発生時は口座凍結により解約に時間を要するため、急な納税資金や葬儀費用の確保に支障が出ないよう、一部を流動性の高い資産にしておく配慮が必要。
- 平均値と中央値の乖離:世帯主が65歳以上の世帯でみると、貯蓄現在高の平均値は2564万円であるのに対し、貯蓄保有世帯の中央値は1777万円にとどまる。「一般的な相続対策」を鵜呑みにせず、ご自身の資産構成(預金か証券か)に応じた個別具体的な対策を講じることが重要。
5. 【令和6年施行】知っておきたい贈与税・相続税の最新ルール
こうした資産構成の課題を踏まえ、生前贈与と遺言をセットで考えるケースが増えていますが、2024年1月1日より税制が大きく変わっています。
- 生前贈与の加算期間が「3年」から「7年」へ延長:暦年課税(年間110万円の非課税枠)を利用した贈与について、亡くなる前の贈与分を相続財産に持ち戻して課税する期間が段階的に7年へと延長される。駆け込み対策が難しくなるため、より早期の着手が求められる。
- 相続時精算課税制度に「年間110万円の基礎控除」が創設:同制度に新たに年間110万円の基礎控除が設けられた。少額の贈与であれば申告不要となり、使い勝手が大幅に向上している。
※制度の適用時期や移行期間の扱いは個々の贈与時期によって異なります。ご自身のケースでの正確な取り扱いは、国税庁の最新情報や税理士など専門家にご確認ください。
6. まとめにかえて|「どこに保管しているか」の共有も忘れずに
年金の受給開始や誕生日など、人生の節目はご自身の財産や家族の未来を考える良いきっかけになります。
遺言書は作成して終わりではありません。自筆証書遺言か公正証書遺言か、法務局に預けたのか公証役場にあるのか――「どこに保管しているか」を信頼できる家族と共有しておくことも大切です。
まずはお近くの法務局や公証役場の窓口、あるいは弁護士・司法書士などの専門家に相談し、ご自身とご家族にとって最適な方法を確認するところから始めてみてください。
7. 筆者からのコメント
筆者自身、身内の遺言書が開封される場に立ち会ったことがあります。
子どものいなかった故人は、遺言書の冒頭に、兄弟姉妹への感謝の言葉をつづっていました。財産の分け方そのものより、その温かい一文がいちばん心に残っています。
遺言書は「争族」を防ぐための事務的な手続きと捉えられがちですが、実際には、遺された家族へ思いを伝える手段でもあるのだと、そのとき深く実感しました。
なお、兄弟姉妹への相続に関連して、法的なポイントを一つ補足します。実は民法上、兄弟姉妹には「遺留分(最低限の取り分)」が認められていません。
そのため、相続人が兄弟姉妹のみとなるケースでは、遺留分の制約を気にせず、ご自身の意思を全面的に反映した配分を決めることができます。
一方で、配偶者や子どもがいる場合は、遺言の内容にかかわらず遺留分が保障されます。
全財産を特定の相続人に集中させるような遺言を残す際は、将来のトラブルを防ぐためにも、この点に十分配慮しておくことをおすすめします。
