「介護費用は月々どのくらいかかるのだろう」——こう考えたとき、多くの人は月額の負担だけをイメージしがちです。

しかし実際には、介護が始まった直後にまとまった一時費用がかかるケースが多く、月額だけで考えると見通しを誤ってしまいます。

この記事では、生命保険文化センターの調査に基づき、介護にかかる一時費用と月額費用、そして介護期間を掛け合わせた「総額の目安」を編集部で試算します。

1. 介護費用は「月額」だけでは足りない——一時費用という見落とし

まず、介護費用の全体像を確認します。

1.1 住宅改修や介護用ベッド購入などで、開始直後にまとまった出費がある

生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」(2024年度)によると、介護を始めるにあたって必要となった一時的な費用(住宅改造や介護用ベッドの購入費など)は、平均47.2万円です。手すりの設置や段差の解消といった住宅改修、介護用ベッドや車椅子の購入などが、この一時費用に含まれます。

月々の費用については、後ほど詳しく確認しますが、この一時費用は「介護が始まった月に、月額費用とは別にまとまった支出がある」という点で見落とされやすいポイントです。月額費用だけを貯蓄計画に織り込んでいると、介護が始まった初月の出費で想定外の負担を感じることになりかねません。

一時費用の内訳は世帯によって幅があります。住宅の構造によっては大掛かりなリフォームが必要になる場合もあれば、レンタルで対応できる福祉用具を組み合わせることで費用を抑えられる場合もあります。介護保険には住宅改修費や福祉用具購入費の一部を補助する制度もあるため、実際の自己負担はこの平均額よりも軽くなる世帯もあります。

1.2 【介護費用の内訳(生命保険文化センター調査)】

前提:生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」2024年度(2人以上世帯)1/2

前提:生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」2024年度(2人以上世帯)

出所:生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」などを基にLIMO編集部作成

  • 一時費用(住宅改造・介護用ベッド購入費等):47.2万円
  • 月額費用(全体平均):9.0万円
  • 介護期間(平均):55.0か月(4年7か月)
齊藤 慧
「介護費用=月々いくら」という考え方は、半分だけ正しい理解です。もう半分の一時費用は、金額こそ月額より大きく見えますが、一度きりの出費である分、事前に備えていれば乗り越えやすいものでもあります。両方をセットで捉えておくことが、落ち着いた準備につながります。

2. 編集部試算:総額の目安は約542万円——一時費用+月額×期間で見えてくる数字

ここからは、一時費用・月額費用・介護期間の3つを掛け合わせ、総額の目安を試算します。

2.1 47.2万円+9.0万円×55.0か月=約542.2万円

生命保険文化センターの調査データを使い、介護費用の総額を編集部で試算します。一時費用47.2万円に、月額費用9.0万円を平均介護期間55.0か月分掛け合わせた495万円を足すと、総額は約542.2万円になります。

もちろんこれはあくまで平均値を用いた目安であり、実際の総額は要介護度や介護を行う場所(在宅か施設か)、利用するサービスの種類によって大きく変わります。ただ、「月額費用だけ」で考えていた場合と比べると、一時費用を含めた総額はイメージよりも大きくなりやすいという点は押さえておく価値があります。

この試算で重要なのは、介護期間が「平均55.0か月」という長期にわたる点です。4年を超えて介護が続いた人は全体の約4割にのぼります。短期間で終わるケースを前提に資金計画を立てていると、介護が長引いた場合に想定外の負担が積み重なることになります。

齊藤 慧
542万円という数字だけを見ると身構えてしまいますが、これは40年以上先まで見通せる年金の給付水準とは違い、介護が始まってから終わるまでの一時的な支出の合計です。老後資金全体の中で、この期間だけをどう乗り切るかという視点で捉えると、備え方も具体的になってくるはずです。

3. 介護期間が伸びるほど、総額はどう変わるか——短期・長期のシナリオ試算

介護期間は人によって大きく異なります。ここでは、平均値だけでなく、短期・長期それぞれのケースで総額がどう変わるかを試算します。

3.1 24か月・55か月・90か月の3パターンで比較

一時費用47.2万円に、月額費用9.0万円を掛け合わせる期間だけを変えて試算すると、介護期間が2年(24か月)の場合は総額約263.2万円、平均の55.0か月では約542.2万円、7年半(90か月)まで長引いた場合は約857.2万円になります。同じ月額費用でも、期間が2倍以上になれば総額もほぼ2倍以上に膨らむ計算です。

この試算からわかるのは、「平均」という数字だけを見て安心してしまうと、実際に介護期間が長引いたときの資金不足に気づくのが遅れかねないという点です。4年を超えて介護が続いた人が全体の約4割を占める以上、長期化したケースも含めて資金計画に幅を持たせておく必要があります。

3.2 【介護期間別・総額の目安(編集部試算)】

前提:一時費用47.2万円+月額費用9.0万円×介護期間(生命保険文化センター調査データをもとにLIMO編集部試算)2/2

前提:一時費用47.2万円+月額費用9.0万円×介護期間(生命保険文化センター調査データをもとにLIMO編集部試算)

出所:生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」などを基にLIMO編集部作成

  • 24か月(2年):約263.2万円
  • 55.0か月(平均・4年7か月):約542.2万円
  • 90か月(7年半):約857.2万円

4. 【編集者の視点】

実務上の注意点は、この試算がすべて「月額費用は一定」という前提に立っている点です。実際には要介護度が上がるにつれて利用するサービスの量や内容が変わり、月額費用も変動していく世帯が多いはずです。あくまで大づかみの目安として活用し、実際の見通しは定期的に見直すことをおすすめします。

特に、介護が始まって間もない時期は、要介護度が軽く月額費用も抑えられている場合があります。その時点の負担感だけで長期の資金計画を立ててしまうと、要介護度が上がった後の負担増に対応しきれなくなる可能性があります。

5. 在宅と施設では、月額費用に2倍以上の差がある

次に、介護を行う場所によって費用がどう変わるのかを確認します。

5.1 在宅平均5.3万円、施設平均13.8万円

生命保険文化センターの調査では、介護を行った場所別の月額費用も公表されています。在宅で介護をした場合の月額費用は平均5.3万円であるのに対し、施設で介護をした場合は平均13.8万円と、2倍以上の開きがあります。

この差は、施設サービスの利用料に加えて、居住費や食費など、在宅では発生しない費用が施設では別途かかることが主な要因です。一方で在宅介護は、費用面では抑えられる傾向にあるものの、家族の時間的・身体的な負担が別途発生する点も見落とせません。

「施設に入れば安心だが費用が高い」「在宅なら費用は抑えられるが家族の負担が大きい」という単純な二択ではなく、要介護度の変化に応じて在宅と施設を使い分けたり、ショートステイやデイサービスを組み合わせたりする世帯も多くあります。費用と負担のバランスは、固定的に考えず、状況に応じて見直していく前提を持っておくとよいでしょう。

6. 【編集者の視点】

実務上の注意点は、この月額費用の平均に含まれるサービスの範囲が、世帯によって大きく異なる点です。介護保険で1〜3割の自己負担となるサービス費用のほかに、保険適用外の自費サービスや、施設の居住費・食費なども含めた「実感としての負担額」がこの平均値には反映されています。

自分の場合の見通しを立てたい場合は、ケアマネジャーに相談し、利用予定のサービスをもとにした概算を出してもらうことをおすすめします。平均値はあくまで目安であり、個別の状況によって上下する前提で捉えておくとよいでしょう。

なお、住民税非課税世帯であれば、介護・高額療養費・修学支援など複数の優遇措置を受けられる場合があり、自己負担を抑える選択肢の一つになります。

7. 月額費用のすべてが介護保険の対象というわけではない

ここまで見てきた月額費用の中には、介護保険が適用される部分と、適用されない部分の両方が含まれています。この違いを知らないと、想定していた自己負担割合と、実際の請求額が食い違って感じられることがあります。

7.1 居住費・食費・日常生活費は、保険適用外が原則

介護保険サービスの利用料は、所得に応じて1〜3割が自己負担となる一方、施設に入居した場合の居住費や食費、日常生活で必要になる日用品費などは、原則として介護保険の対象外です。全額が自己負担、あるいは施設が独自に設定する料金として請求されます。

在宅で介護を行う場合も同様に、訪問介護や通所介護(デイサービス)といった介護保険サービスの利用料は1〜3割負担ですが、保険の対象になっていない自費のサービス(保険適用外の家事代行や、対象時間を超える見守りサービスなど)を組み合わせている世帯では、その分が全額自己負担として上乗せされます。

つまり、月額費用の平均9.0万円という数字には、介護保険適用分の自己負担だけでなく、こうした保険適用外の費用も含まれています。「介護保険があるから1〜3割で済むはず」という理解だけで見通しを立てると、実際の負担額との間にズレが生じやすくなります。

自分が利用しているサービスのうち、どこまでが保険適用でどこからが適用外なのかを、ケアマネジャーや施設の担当者に確認しておくことが、正確な見通しにつながります。特に施設入居を検討している場合は、居住費・食費の水準が施設によって幅広く設定されているため、複数の施設で見積もりを比較しておくと、想定外の負担を避けやすくなります。

8. 介護費用は誰が負担するのか——本人の資産で完結させる視点

最後に、介護費用を誰がどう負担するかという、実務上避けて通れない論点を整理します。

8.1 子ども世代が肩代わりする前提は、家計を圧迫しやすい

介護費用は、法律上の扶養義務とは別に、実務上は要介護者本人の年金や貯蓄でまかなうのが基本的な考え方です。子ども世代が肩代わりする前提で資金計画を立てていない世帯では、突然の介護開始によって、子ども世代の家計や老後資金の準備計画にまで影響が及ぶことがあります。

特に、親の介護費用の水準を把握しないまま「何とかなるだろう」と考えていると、実際に介護が始まったときに、本人の資産だけでは足りない場合の対応を慌てて検討することになりかねません。早い段階で、本人の年金額や貯蓄額と、介護費用の目安を照らし合わせておくことが、家族全体の家計を守ることにつながります。

一人暮らしの高齢者の場合は特に、介護・入院にかかる「見えないコスト」を含めた資金計画が欠かせません。同居家族がいない分、介護サービスへの依存度が高まりやすい点も踏まえておく必要があります。

齊藤 慧
「介護は突然始まる」という言葉をよく聞きますが、費用の見通しだけは、突然にしないでおくことができます。542万円という総額の目安を知っているかどうかで、いざという時の落ち着き方はまったく違ってくるはずです。知ることは、それ自体が備えになります。

※本記事は、編集部が生命保険文化センターが公表する公式の最新調査データを直接確認の上、執筆・検証しています。

9. まとめ

  • 介護費用は一時費用(平均47.2万円)と月額費用(平均9.0万円)の2段構えでかかります。
  • 平均介護期間55.0か月をもとに編集部試算すると、総額の目安は約542.2万円になります。
  • 月額費用は在宅平均5.3万円に対し、施設平均13.8万円と2倍以上の差があります。
  • 4年を超えて介護が続いた人は全体の約4割で、長期化を前提にした資金計画が必要です。
  • 介護費用は本人の年金・貯蓄でまかなうのが基本で、子ども世代への影響を防ぐには早めの照らし合わせが重要です。

介護費用は、月額の負担だけに目が向きがちですが、実際には一時費用と月額費用、そして介護期間という3つの変数が組み合わさって総額が決まります。

自分や家族の場合の見通しを具体的に立てたい場合は、ケアマネジャーへの相談や、市区町村の窓口での確認を通じて、平均値ではなく個別の状況に即した概算を把握しておくことをおすすめします。

総額の目安を知っておくことは、介護が始まってから慌てないための、最初の一歩になります。

10. よくある質問

10.1 Q. 介護費用の総額はどうやって計算すればよいですか。

A. 一時費用と、月額費用×介護期間を足し合わせることで目安を試算できます。生命保険文化センターの平均値(一時費用47.2万円、月額9.0万円、期間55.0か月)を使うと、総額の目安は約542.2万円になります。

10.2 Q. 在宅介護と施設介護、どちらが費用を抑えられますか。

A. 月額費用だけを見ると在宅(平均5.3万円)の方が施設(平均13.8万円)より抑えられます。ただし在宅介護は家族の時間的・身体的な負担が別途発生するため、費用だけで単純に判断しない方がよいでしょう。

10.3 Q. 介護費用は誰が負担するのが基本ですか。

A. 実務上は、要介護者本人の年金や貯蓄でまかなうのが基本的な考え方です。子ども世代が肩代わりする前提を持たず、早めに本人の資産と介護費用の目安を照らし合わせておくことが重要です。

10.4 Q. 一時費用にはどのようなものが含まれますか。

A. 住宅改修(手すりの設置や段差の解消等)や、介護用ベッド・車椅子の購入費などが含まれます。介護保険には住宅改修費や福祉用具購入費の一部を補助する制度もあるため、実際の自己負担は平均額より軽くなる場合もあります。

10.5 Q. 介護期間はどのくらいを見込んでおけばよいですか。

A. 平均は55.0か月(4年7か月)ですが、4年を超えて介護が続いた人は全体の約4割にのぼります。短期間で終わる前提ではなく、長期化する可能性も踏まえて資金計画を立てておくことをおすすめします。

10.6 Q. 介護期間が長引いた場合、総額はどれくらい変わりますか。

A. 一時費用47.2万円に月額費用9.0万円を掛け合わせて試算すると、介護期間が2年なら約263.2万円、平均の4年7か月なら約542.2万円、7年半まで長引くと約857.2万円になります。期間が延びるほど総額も比例して増える計算です。

10.7 Q. 月額費用は要介護度が上がっても一定ですか。

A. 一定ではありません。要介護度が上がるほど利用するサービスの量や内容が増え、月額費用も変動していく傾向があります。介護開始直後の負担感だけで長期の資金計画を立てず、定期的に見直すことをおすすめします。

10.8 Q. 介護費用のうち、介護保険が適用されない部分はどれくらいありますか。

A. 施設の居住費・食費・日常生活費や、保険適用外の自費サービスなどが該当します。割合は世帯によって異なるため、自分が利用しているサービスのうち、どこまでが保険適用でどこからが適用外なのかを、ケアマネジャーや施設の担当者に確認しておくことをおすすめします。

参考資料

齊藤 慧