「新NISAで含み益が出ているけれど、いつ売ればいいのか分からない」「一度売ったら非課税枠はどうなるのか」。そんな不安を抱えている方に向けて、この記事では新NISAの売却・引き出しの基本ルールと、意外と見落とされがちな「枠が復活するタイミング」の実務を整理します。

特に、2025年12月に閣議決定された「令和8年度税制改正の大綱」で、金融庁が要望していたある見直しが見送られたという事実は、売却タイミングを考えるうえで知っておく価値があります。

なお、新NISA制度の基本的な仕組みについては、下記の記事より一部を引用・参照しています。

【新NISA】毎月5万円を15年運用するといくら?50歳から始める利回り別シミュレーション
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1. 新NISAは自由に売却できる。まず押さえたい基本ルール

新NISAで保有している商品は、iDeCoのように引き出しに年齢制限があるわけではなく、いつでも売却・現金化することができます。証券会社の取引画面から、保有商品の一部または全部を指定して売り注文を出すだけです。

1.1 「利益分だけ売却」はできるのか

「含み益の部分だけを売って、元本部分は残したい」という相談を目にすることがありますが、これは特定口座の考え方が混ざっています。

特定口座では税金計算のために取得単価(簿価)を厳密に管理しますが、NISA口座はそもそも売却益が非課税のため、税務上「利益部分だけを狙って売る」という発想自体に意味がありません。売却は保有口数を指定して行うため、口数に応じて元本と含み益が比例配分される形になります。

下村 美乃莉
私自身、新NISAでの積立を続けるなかで「一部だけ売る」という選択肢があることに、最初は気づきませんでした。全部売るか、何もしないかの二択だと思い込んでいたので、口数単位で調整できると知ったときは肩の力が少し抜けたのを覚えています。

全部を解約する必要はなく、必要な分だけ一部売却するという選択肢があることを、まず知っておいてください。ライフイベントに合わせて必要な金額だけを取り崩す使い方が、新NISAでは基本になります。

もう一つ押さえておきたいのが、NISA口座は1人につき1つの金融機関でしか開設できないという原則です。複数の証券会社に分けて非課税枠を管理することはできず、売却や枠の復活も、口座を開設している1つの金融機関の中で完結します。

2. 非課税枠が「売った年」には戻らない理由と、見送られた改正

売却すると非課税保有限度額(生涯で1800万円、うち成長投資枠は内数で1200万円)は復活しますが、そのタイミングには誤解が生じやすいポイントがあります。

2.1 枠が復活するのは「翌年以降」

金融庁のNISA特設ウェブサイトでは、非課税保有限度額の再利用について次のように説明されています。

当該商品の簿価分の非課税枠を翌年以降に再利用できることとなります。

出典:金融庁「よくある質問」(NISA特設ウェブサイト)

ここで重要なのは2点です。復活する金額は「売った値段」ではなく「取得したときの簿価」であること、そして復活のタイミングは同じ年ではなく翌年以降だということです。

年間投資枠と非課税保有限度額、枠が復活するタイミングの違い1/2

年間投資枠と非課税保有限度額、枠が復活するタイミングの違い

出所:金融庁「よくある質問」(NISA特設ウェブサイト)を基にLIMO編集部作成

2.2 【(枠の復活タイミング)】

年間投資枠の場合

  • 今年の枠を使い切ってから売却:今年中は再利用できない
  • 再利用できる時期:翌年1月1日以降

非課税保有限度額(総枠)の場合

  • 復活する金額:売却した商品の簿価(取得価額)分
  • 再利用できる時期:売却した翌年以降

実は金融庁自身が、この「翌年待ち」を短縮したいと考えていたことが、税制改正の要望資料から分かります。金融庁は令和8年度税制改正要望のなかで、「投資商品を入替しやすくするため、非課税保有限度額の当年中の復活に関する措置を講ずること」を挙げていました。

しかし、2025年12月に閣議決定された「令和8年度税制改正の大綱」における金融庁関係の主要項目には、つみたて投資枠の対象年齢見直しや対象商品の拡充は盛り込まれた一方、この「当年中の復活」は含まれていませんでした。要望段階では検討されていたものの、実現には至らなかったということです。

3. 【編集者の視点】

この「見送り」は、実務上かなり重い意味を持ちます。というのも、成長投資枠で含み益が出た銘柄を売って、すぐに別の銘柄に「入れ替えたい」と考える方は少なくないからです。

年内に売却してすぐ買い直しても、非課税枠としては使えず、結果的にその買い直し分は課税口座(特定口座)で行うか、翌年まで待つかの二択になります。特に成長投資枠の1200万円に近いところまで使っている方ほど、この制約に引っかかりやすくなります。

防衛策としては、年内の入れ替えを急がず、いったん現金や課税口座で保有し、翌年の年明けに非課税枠で買い直すという順序を意識することです。証券会社によって非課税枠の消化状況の表示方法が異なるため、取引前に自分の年間投資枠・生涯投資枠の残り枠を必ず確認してください。

制度の細部は今後の税制改正でも変わり得るため、大きな組み替えを検討する際は、最新の情報を金融庁のNISA特設ウェブサイトで確認するか、口座を開設している証券会社に問い合わせることをおすすめします。

下村 美乃莉
「復活するなら別にいつ売っても同じ」と思っていたのですが、翌年まで待つ必要があると知って、自分の積立の見直し方を少し考え直しました。制度の要望が通らなかったというニュースまで追いかけている方は少ないと思うので、知っておいて損はないはずです。

4. 枠を使い切ってからの売却は「1年分」の差になる——編集部試算

この「翌年待ち」が、実際どれくらいの差になるのか気になる方もいるでしょう。ここでは、下村自身が実践している年率3%という保守的な想定利回りをもとに、編集部で試算してみます。

4.1 試算の前提

成長投資枠をほぼ使い切っている状態で、簿価100万円分の商品を年内に売却し、同じ非課税枠で別の商品に入れ替えたいケースを想定します。

本来ならすぐに非課税枠で再投資できれば、その資金も運用に回りますが、実際には翌年まで枠が使えないため、その間は現金や課税口座で待機することになります。

売却資金100万円を1年間、非課税枠で運用できなかった場合の機会損失試算2/2

売却資金100万円を1年間、非課税枠で運用できなかった場合の機会損失試算

出所:金融庁「よくある質問」(NISA特設ウェブサイト)の枠復活ルールをもとに、想定利回り年率3%でLIMO編集部が試算

100万円という金額であれば「約3万円」ですが、成長投資枠の上限に近い金額を動かす場合は、この差はより大きくなります。年率3%という前提自体、相場によって上下する点にも注意が必要です。

仮に、成長投資枠の上限に近い1200万円分を売却し、同じように翌年まで枠が使えないとすると、同じ年率3%の前提での機会損失は単純計算で36万円になります。動かす金額が大きい人ほど、入れ替えのタイミングを慎重に考える必要があるということです。

5. 【編集者の視点】

この試算のポイントは、「損をする」という話ではなく「機会を先送りにする」という点にあります。売却して得た資金そのものが減るわけではなく、非課税の恩恵を受けながら運用できる期間が1年遅れる、という性質のものです。

だからこそ、年内に慌てて入れ替える必要が本当にあるのか、一度立ち止まって考える価値があります。値上がりが続いている銘柄を「今のうちに」と焦って売り、翌年まで非課税枠が使えないまま相場が動いてしまうケースも実務上は起こり得ます。

老後資金づくりの一環として新NISAを活用している方は、資金をどう取り崩していくかという視点も欠かせません(手遅れになる前に。「新NISA・iDeCo・保険」を活用した老後資金の貯め方で、貯める段階からの考え方を解説しています)。

入れ替えを急ぐ前に、「その銘柄を本当に手放す必要があるのか」「一部売却で足りないか」を確認する。この一手間が、翌年待ちのロスを避ける一番の防衛策です。

下村 美乃莉
3万円という数字だけ見ると小さく感じるかもしれませんが、動かす金額が大きくなるほど積み重なって効いてきます。私も入れ替えを思い立ったときほど、いったん手を止めて枠の残りを確認するようにしています。焦って売る前に、一呼吸置く習慣をつけておきたいところです。

6. 「定期売却サービス」の手数料、無料が続くとは限らない

老後資金として新NISAを取り崩す方法のひとつに、毎月一定額を自動的に売却して受け取る「定期売却サービス」があります。ライフイベントに合わせた都度売却とは違い、あらかじめ決めたペースで引き出せる点が特徴です。

6.1 大綱に盛り込まれた手数料の見直し

この定期売却サービスについて、令和8年度税制改正の大綱には見過ごせない項目が含まれています。金融庁の資料によれば、現状つみたて投資枠における売買手数料はゼロとなっているところ、定期売却サービスに限り、サービスに通常必要と認められる手数料の徴収を可能とする措置が示されました。

金融庁の注記では、資産を運用しながらその成果を活用したいニーズに応える観点から、定期売却サービスの普及に取り組む金融機関のシステム負担に配慮するもの、と説明されています。

この措置は2025年12月時点で大綱に盛り込まれた段階であり、通常国会での関連法案審議を経て正式に決まります。施行時期は本記事執筆時点では確定していません。

定期売却サービスは、主要な証券会社や銀行の多くが提供しており、老後の生活費として毎月一定額を受け取りたいというニーズに応える仕組みとして広がってきました。手数料が無料であることが普及を後押ししてきた面もあるため、有料化の動向は幅広い利用者に関係するテーマです。

7. 【編集者の視点】

「引き出し方」を調べている方の多くは、老後の生活費として新NISAを取り崩すイメージをお持ちだと思います。定期売却サービスはそのための便利な仕組みですが、これまで無料だったサービスに手数料がかかる可能性が出てきたことは、頭の片隅に置いておいてください。

現時点で慌てて設定を変える必要はありませんが、実際にサービスを使っている方、これから使おうとしている方は、口座を開設している証券会社に手数料の見直し予定があるかどうかを確認しておくと安心です。

途中引き出しそのものにデメリットがあるわけではなく、非課税で運用できる期間が短くなる、複利の効果を十分に生かせなくなる、という点が実質的な影響です。取り崩しのペースと生活費のバランスは、家計全体を見ながら都度見直すことをおすすめします。

下村 美乃莉
無料が当たり前だと思っていたサービスに手数料の話が出てくると、少し身構えてしまいます。ただ、まだ大綱の段階で施行時期も決まっていないので、今すぐ何かを変える必要はありません。制度の動きを知っておく、くらいの温度感で十分だと思います。

※本記事は、編集部が金融庁が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。

8. 売却・解約の判断で迷ったときの整理の仕方

最後に、売却や解約を検討する際の考え方を整理します。全部を解約する必要はなく、目的に応じて一部売却と全部解約を使い分けることが基本です。

8.1 目的別の使い分け

まとまった資金が必要なライフイベント(住宅資金・教育資金など)であれば、必要な金額分だけを一部売却するのが基本です。口座そのものを閉じる全部解約は、新NISAの利用自体をやめる場合に限られます。

資産配分を見直したいだけであれば、売却せずに新しい投資枠で別の商品を買い増す方法も選択肢になります。新NISAを長く続けている方ほど、貯蓄と投資の比率を定期的に点検する視点も欠かせません(新NISA時代、「貯金と投資の割合」はどうすべきか?現金保有の適正ラインで取り上げています)。

迷ったときほど、「今すぐ現金化する必要があるか」「非課税枠を翌年まで待てるか」の2点を分けて考えると、判断がしやすくなります。

実際に売却を検討する際は、①いくら必要かを先に金額で決める、②その金額を賄うには簿価ベースでいくら分の商品を売れば足りるかを確認する、③非課税枠を翌年また使う予定があるかを考える、という3つの順で整理すると判断しやすくなります。特に③を飛ばして売ってしまうと、翌年に買いたい商品が出てきたときには限度額を使い切ったままになっている、という事態にもなりかねません。

9. まとめ

  • 新NISAの売却・引き出しはいつでも自由に行え、一部売却と全部解約を目的に応じて使い分けられます。
  • 売却で復活する非課税保有限度額は、売却した商品の簿価分が翌年以降に再利用可能になります。
  • 金融庁が要望していた「当年中の枠復活」は、令和8年度税制改正の大綱では見送られました。
  • 定期売却サービスの手数料が有料化される可能性が、同じ大綱に盛り込まれています。

新NISAは非課税期間が無期限になったことで、売却のタイミングをじっくり考えられる制度になりました。だからこそ焦って売る前に、枠の復活タイミングという「見えにくいルール」を踏まえて判断することが、結果的に非課税の恩恵を最大限に生かすことにつながります。

制度の細部は税制改正のたびに変わる可能性があります。大きな売却や入れ替えを検討する際は、金融庁のNISA特設ウェブサイトで最新情報を確認するか、口座を開設している証券会社の窓口に相談してみてください。

10. よくある質問

10.1 Q. 新NISAはいつでも解約できますか?

A. はい、年齢制限などはなく、いつでも保有商品の一部または全部を売却できます。ただし、口座そのものを閉じる全部解約と、必要な分だけ売る一部売却は分けて考える必要があります。

10.2 Q. 売却した非課税枠はいつから再利用できますか?

A. 金融庁の説明によれば、売却した商品の簿価(取得価額)分の非課税枠は、翌年以降に再利用できます。年間投資枠は同一年内には復活しません。

10.3 Q. 含み益の部分だけを売却することはできますか?

A. NISA口座では売却益が非課税のため、特定口座のように「利益部分だけを狙って売る」という考え方自体が当てはまりません。売却は保有口数単位で行われ、元本と含み益が比例配分されます。

10.4 Q. 途中で引き出すとデメリットはありますか?

A. 引き出し自体に罰則やペナルティはありません。ただし、非課税で運用できる期間が短くなり、複利の効果を十分に生かせなくなる点は実質的な影響として考えられます。目的が明確でない引き出しは、先送りできるかどうかを一度検討してから判断することをおすすめします。

10.5 Q. 新NISAとつみたてNISA(旧制度)で売却ルールは違いますか?

A. 旧制度の口座で保有していた商品は、新NISAの非課税保有限度額とは別枠で、制度上定められた非課税期間が終わるまで非課税のまま保有できます。売却すれば新NISAのように枠が復活するわけではないため、保有している制度が新旧どちらかを金融機関の取引画面で確認しておくと安心です。

参考資料

LIMO編集部NISA解説班