新NISA(少額投資非課税制度)には、年間240万円まで投資できる「成長投資枠」が設けられています。

この枠を利用して、日本の高配当株や米国の高配当ETF(上場投資信託)、あるいはナスダック100に連動するETFなどを購入し、定期的な現金収入を得る「配当金生活」に憧れる方は少なくありません。

通常の証券口座(特定口座など)では、受け取った配当金や分配金に対して約20%の税金が引かれますが、NISA口座であればこれが非課税になります。「持っているだけで非課税でお金が振り込まれ続ける」というのは、魅力的なメリットに見えます。

しかし、金融機関の宣伝やSNSの甘い言葉だけを信じて高配当株投資に手を出してしまうと、NISA特有の「実務上の落とし穴」にハマる危険性があります。

例えば、初期設定を一つ間違えるだけで配当金に税金がかかってしまったり、米国のETFを買ったばかりに「取り戻せない税金」が発生したりするのです。

本記事では、新NISAで高配当株やETFに投資する前に絶対に知っておくべき「3つのデメリット」と、長期的な資産形成を失敗させないための具体的な対処法を解説します。

ココがポイント
  • 受取方式の設定トラップ: 配当金の受取方法を「株式数比例配分方式」に設定していないと、NISA口座で買っていても約20%の税金が引かれてしまう。
  • 米国ETFの二重課税と外国税額控除の罠: 米国株や米国ETFの分配金は現地で10%課税される。NISAでは「外国税額控除」が使えないため、この10%は取り戻せない。
  • 配当再投資による枠の浪費: 受け取った配当金をNISA口座内で「再投資」すると、その都度新たに非課税投資枠(成長投資枠)を消費してしまい、複利効果の効率が落ちる。

1. 監修者コメント:年金不安が生む「配当金」への過度な期待とリスク

下村 美乃莉

FP相談の現場で見えてくるのは、将来の年金受給額に対する漠然とした不安が、生活費の足しになる「配当金(インカムゲイン)」への強い渇望を生んでいるという事実です。しかし、定期的な現金収入を得るために、業績が不安定な超高配当銘柄に集中投資したり、手数料や税制面で不利な商品を選んでしまっては本末転倒です。

新NISAの主眼はあくまで「長期の資産形成」です。目先の配当金を受け取って消費に回すよりも、投資信託の内部で非課税のまま再投資される複利効果を活かして「資産の総額(元本)」を大きく育て、老後に計画的に取り崩すアプローチの方が、安全で合理的であることも理解しておくべきです。

2. 新NISAで「配当金生活」を夢見る人が陥る3つの罠(デメリット)

高配当株やETF投資は魅力的な選択肢ですが、NISA制度の仕様を正しく理解していないと、思いがけない形で非課税メリットを失うことになります。

2.1 罠1:受取方法を「株式数比例配分方式」にしないと課税される

NISA口座で日本の高配当株を買ったとしても、配当金の受取方法(配当金受領方式)を正しく設定していなければ、通常通り約20%の税金が引かれてしまいます。

配当金を非課税で受け取るための必須条件は、受取方法を「株式数比例配分方式(証券口座で配当金を受け取る方法)」に設定することです。もし、「登録配当金受領口座方式(指定した銀行口座で受け取る)」や「配当金領収証方式(郵便局に用紙を持っていき現金で受け取る)」を選択していると、非課税の対象外となってしまうため、口座開設時に必ず確認・変更を行ってください。

2.2 罠2:米国ETF(高配当・ナスダック等)の分配金は10%課税される

成長投資枠では、SPYDやVYMといった米国の高配当ETFや、ナスダック100指数に連動するETFなどが人気です。しかし、米国株や米国ETFから配当金(分配金)を受け取る際、米国現地で「10%」の税金が源泉徴収されます。

通常の課税口座であれば、確定申告で「外国税額控除」を行えばこの10%の一部を取り戻すことができます。しかし、NISA口座では日本国内の税金が無税(0%)であり「二重課税」が発生していないとみなされるため、外国税額控除の適用外となります。そのため、米国で引かれる10%分は戻ってきません。

ただし、日本国内の税金(20.315%)はかからないため、通常の課税口座で保有するよりはNISAの方が手取りが多くなります。完全に非課税ではない点にだけ注意が必要です。

2.3 罠3:配当金の「再投資」が非課税枠(成長投資枠)を浪費する

「配当金を受け取ったら、それを使ってまた同じ株を買う(配当再投資)」ことで複利効果を狙う手法があります。しかしNISAにおいて、受け取った現金(配当金)を使って新たに株やETFを買い付ける行為は、「新規の投資」とみなされ、年間投資枠(成長投資枠240万円)や生涯非課税限度額(1800万円)をその分消費してしまいます。

投資信託(インデックスファンド等)で「分配金受取なし(内部で自動再投資)」を選べば、非課税枠を消費せずに複利効果を得られるのに対し、個別株やETFで現金として配当を受け取るスタイルは、枠の消費スピードを早めてしまうという構造的な非効率を抱えています。

新NISAで「配当金生活」を夢見る人が陥る3つの罠(デメリット)1/2

新NISAで「配当金生活」を夢見る人が陥る3つの罠(デメリット)

出所:LIMO編集部作成

3. 危ない銘柄を回避!高配当株・ETFを選ぶ基準と「隔月分配型」の注意点

これらのデメリットを踏まえた上で、それでも配当金・分配金によるキャッシュフローを重視したい場合の「商品選びの実務」を解説します。

3.1 利回りの高さだけで選ばない(減配リスクと罠銘柄)

「配当利回り(株価に対する配当金の割合)」が5%や6%を超えるような銘柄は一見魅力的に見えますが、同業他社と比較して異常に高い場合は要注意です。

配当利回りが異常に高い理由は、業績悪化によって株価が大きく下落している結果として「計算上の利回りが跳ね上がっているだけ」のケースもあるからです。

このような銘柄に手を出してしまうと、その後に「減配(配当金を減らすこと)」「無配(配当金を出さないこと)」が発表され、株価がさらに暴落するという事態もありえます。

個別株を選ぶ際は、目先の利回りよりも「何年も連続して配当を増やしているか(連続増配)」「利益の範囲内で無理なく配当を出しているか(配当性向が100%を超えていないか、利益が本業のキャッシュフローに裏付けられているか)」といった業績の安定性を重視することが鉄則です。

3.2 ETFを活用した分散投資と「隔月分配型」の台頭

個別企業の業績悪化(減配リスク)を避けるには、数十〜数百の銘柄に分散投資されたETF(上場投資信託)や、配当に特化した投資信託を活用する方法も選択肢の一つです。

なお、新NISA制度では、長期的な資産形成を阻害するという理由から「毎月分配型」の投資信託は購入できません。その代わりとして、奇数月または偶数月に分配金を出す「隔月分配型(年6回決算)」の投資信託が成長投資枠の対象として登場し、人気を集めています。

ただし、これらを購入する際も「運用益から支払われているか」を必ず目論見書等で確認してください。元本を取り崩して支払う「特別分配金(元本払戻金)」が頻発する商品は、自分の資産を削って受け取っているだけであり、資産形成の合理性を欠くため注意が必要です。

4. 高配当投資が「向いている人」と「向いていない人」の違い

最後に、NISAにおける投資スタイルがご自身の目的に合っているかを確認しましょう。

  • 高配当株・ETF投資が向いている人:将来の資産総額の最大化よりも、「今のキャッシュフローを豊かにしたい」「定期的な分配金・配当収入を得ることで投資のモチベーションを維持したい」という方。新NISAの成長投資枠も活用し、銘柄分析や管理の手間を厭わない人に向いています。
  • 高配当株投資が向いていない人(やめといた方がいい人):20代〜40代で、老後に向けて「資産の総額(元本)をできるだけ大きく増やしたい」方。配当金を受け取って再投資を行わない場合や、自動で再投資されるインデックスファンド(全世界株式やS&P500など)の複利効果と比較すると、手動での再投資の手間や機会損失が生じやすいため、インデックス投資を軸に据えるのが合理的です。

高配当投資が「向いている人」と「向いていない人」の違い2/2

高配当投資が「向いている人」と「向いていない人」の違い

出所:LIMO編集部作成

5. まとめ

新NISAを利用した高配当株・ETF投資のポイントは以下の通りです。

  • 配当金を非課税で受け取るためには、必ず証券口座の設定を「株式数比例配分方式」にする。
  • 米国の高配当ETFなどは、分配金から10%の現地税が引かれ、NISAでは外国税額控除が使えないため二重課税のデメリットが残る。
  • 受け取った配当金を再投資すると、その都度NISAの非課税保有限度額(成長投資枠)を消費してしまう。
  • 利回りだけで選ぶのは避け、ETFや隔月分配型投資信託を活用して減配リスクを分散する。

高配当株投資は、定期的な現金収入という精神的な安心感をもたらしてくれますが、NISAの仕組み上、資産の最大化においてはインデックスファンド(配当再投資型)が有利になる場合があります。

ご自身の「投資の目的(今のお金が必要か、将来のお金が必要か)」を明確にし、成長投資枠とつみたて投資枠をうまく使い分けることが成功の秘訣です。

6. よくある質問(FAQ 5問)

6.1 Q1. 成長投資枠で買った高配当株が値下がりして損失が出ました。どうすればいいですか?

A. NISA口座で発生した損失は、他の課税口座(特定口座など)の利益と相殺する「損益通算」ができません。また、翌年以降に損失を繰り越す「繰越控除」も不可能です。高配当株は業績悪化によって株価下落と減配が同時に起きるリスクがあるため、業績や財務状況を確認し、投資理由が崩れていなければ継続保有、悪化している場合は損切りを検討しましょう。

6.2 Q2. 配当金を銀行口座で受け取っても非課税になりますか?

A. なりません。配当金の受取方法として、銀行口座を指定する「登録配当金受領口座方式」を選択すると、NISA口座で保有している株式であっても配当金に約20%の税金が課されます。非課税の恩恵を受けるためには、必ず証券口座内で受け取る「株式数比例配分方式」に変更してください。

6.3 Q3. 米国株の配当金にかかる10%の税金は、確定申告で取り戻せないのですか?

A. はい、NISA口座で保有している米国株(または米国ETF)から生じた配当金・分配金については、確定申告を行っても10%の現地税を取り戻すことはできません。外国税額控除は「日本と外国の両方で課税された(二重課税)」場合にのみ適用されますが、NISAは日本の税金が非課税であるため、控除の要件を満たさないからです。

6.4 Q4. 新NISAで「毎月分配型」の投資信託が買えなくなったのはなぜですか?

A. 毎月分配型の投資信託は、運用益が出ていない月でも元本を取り崩して(特別分配金として)分配金を支払うケースが多く、長期的な資産形成(複利効果)を阻害すると金融庁が判断したためです。新NISAの制度要件として、毎月分配型の投資信託は「つみたて投資枠」「成長投資枠」ともに除外されています。

6.5 Q5. 高配当ETF(VYMやSPYDなど)の分配金は自動で再投資されますか?

A. ETFの分配金は、投資信託のように「自動で内部再投資」される仕組みはありません。証券口座に現金(外貨)として払い出されます。これを再投資に回す場合は、自分で再度ETFを買い付ける注文を出す必要があり、その際にNISAの非課税投資枠(成長投資枠)を消費することになります。

参考資料

LIMO編集部NISA解説班