「株は、好きなときに好きなだけ売り買いできるもの」。もしそうイメージしているなら、まず知っておきたい大前提があります。
東京証券取引所で株式が実際に売買できるのは、平日のたった5時間半だけです。しかもその時間帯は、多くの会社員にとって「まさに仕事中」の時間と重なっています。
「毎日値動きを見ていないと株式投資はできないのでは」「土日にまとめて取引すればいいのでは」。そう感じている会社員に向けて、株式投資と「取引時間」の付き合い方を、東京証券取引所の一次資料と編集部の試算をもとに整理します。
1. 東証の「前場」「後場」は何時から何時まで?
まずは基本の確認からです。株式投資を始める前に、東京証券取引所(東証)で実際に売買が成立する時間帯を押さえておきましょう。
1.1 売買が成立する「立会時間」の基本
東証では、株式の売買が成立する時間を「立会時間」と呼びます。午前の取引は「前場」、午後の取引は「後場」です。
前場は9時から11時30分まで、後場は12時30分から15時30分までとなっています。1日の合計はおよそ5時間半です。
注文自体は、前場が始まる1時間前の8時から受け付けが始まります。ただし、注文を出せる時間と、実際に売買が成立する時間は同じではありません。
1.2 土日・祝日・年末年始は「休業日」
東証は、土曜日と日曜日、国民の祝日及び休日に加えて、1月1日から1月3日まで、そして12月31日を休業日と定めています。
この日は立会そのものが行われません。証券会社の画面が動いていても、株式の売買そのものは成立しないということです。
つまり、平日の日中に仕事や家事で身動きが取れない人にとって、株式投資は「時間との付き合い方」を最初に考える必要がある取り組みだといえます(株式投資 始め方で証券口座の基礎から解説しています)。
2. 「たった30分」の裏にある、70年ぶりの大改革
実は、後場の終了時刻「15時30分」は、2024年11月5日に変わったばかりの新しいルールです。ここには、多くの人が知らない歴史があります。
2.1 前回の変更は1954年。実に70年ぶり
東証の取引終了時刻が変わったのは、1954年に14時から15時になって以来、70年ぶりのことでした。
それまでの70年間、「15時に取引が終わる」という前提のもとで、証券業界全体の業務フローが組み立てられてきたのです。
検討のきっかけは、2020年10月に起きた東証の現物株式売買システムの障害でした。この障害を受けた再発防止策の議論の中で、取引時間の延伸というアイデアが浮上したといいます。
2.2 【前場・後場の時間比較(2024年11月5日の変更前後)】
変更前(〜2024年11月4日)
- 前場:9:00〜11:30
- 後場:12:30〜15:00
- 1日の合計立会時間:300分
変更後(2024年11月5日〜)
- 前場:9:00〜11:30(変更なし)
- 後場:12:30〜15:30
- 1日の合計立会時間:330分
2.3 正式決定まで4年。慎重に進められた「隠れた理由」
東証が延伸の検討開始を対外的に公表したのは2021年10月です。そこから3年をかけて、2024年11月5日にようやく実施されました。
なぜこれほど時間がかかったのか。理由のひとつが、投資信託の「基準価額」を算出する業務です。
基準価額はその日の終値をもとに、証券会社・投信委託会社・信託銀行が段階的に処理を進めて算出します。取引の終了時刻が後ろにずれれば、この一連の処理も後ろ倒しになりかねません。
関係各社が業務フローを見直し、最終的な処理時刻は変えずに済むよう、3年をかけて調整が重ねられたといいます。
3. なぜ「後場」だけが延びたのか。見落としがちな実務の罠
ここで押さえておきたいのが、今回の変更が「1日の取引時間が単純に30分増えた」という話ではないという点です。
3.1 前場は変わらず、後場の終了時刻だけが動いた
変更されたのは後場の終了時刻だけで、前場(9:00〜11:30)は従来のままです。多くの人が「取引時間全体が均等に延びた」と誤解しやすいところですが、実際に延びたのは後場の後ろ側の30分だけです。
この30分は、1日のうちでも特に注文が集中しやすい時間帯にあたります。東証プライム市場では、1日の取引のうち大引け(その日最後の売買)が全体の約15%かそれ以上を占めるとされています。
大引け間際は、投資信託の基準価額の元になる終値を決める場面でもあるため、注文が集中しやすく、想定外の値がつきやすい時間帯でもあります。
4. 【編集者の視点】
大引け間際に成行注文を出すと、想定より不利な価格で約定してしまうことがあります。これは初心者だけでなく、値動きを頻繁に確認できない会社員投資家ほど陥りやすい罠です。
2024年11月5日からは、後場終了の5分前(15時25分)から15時30分までの間、注文の受け付けはできても新たな売買は成立しない「クロージング・オークション」という仕組みが導入されています。
この5分間は、板の状況を見ながら注文の変更・取り消しができる時間として設けられたものです。終値付近で売買したい場合は、この仕組みがあることを踏まえ、価格の上限・下限をあらかじめ決めておく「指値注文」を活用すると、想定外の価格での約定を避けやすくなります。
気になる銘柄がある場合は、証券会社の窓口やコールセンターで、指値注文の具体的な入力方法を確認しておくと安心です。
5. 会社員のリアルな「取引できる時間」を編集部試算
ここからは、実際に会社員が1日のうちどれだけ立会時間と生活時間が重なっているのかを、編集部で試算してみます。
5.1 昼休み1時間のうち、後場に重なるのは30分だけ
多くの会社員の昼休みは12時から13時ごろに設定されています。この1時間のうち、後場が始まっているのは12時30分以降です。
つまり、昼休み1時間のうち、実際に後場と重なっているのは12時30分から13時までの30分間だけということになります。残り前半の30分は、まだ午前の休憩時間帯であり、後場は始まっていません。
5.2 【会社員の勤務時間帯と立会時間の重なり方】
勤務時間中(9:00〜17:30)
- 前場(9:00〜11:30):ほぼ完全に勤務時間と重なります
- 後場前半(12:30〜13:00):昼休みと重なる時間帯です
- 後場後半(13:00〜15:30):ほぼ完全に勤務時間と重なります
昼休み(12:00〜13:00)
- 前半30分(12:00〜12:30):立会時間外です
- 後半30分(12:30〜13:00):後場と重なります
この試算が示すのは、日中に相場をリアルタイムで見ながら売買したい場合、実質的に使える時間は昼休みの後半30分に限られる、という現実です。
5.3 通勤時間に出せるのは「注文の予約」まで
前場の注文受け付けは、立会が始まる1時間前の8時から始まっています。通勤中にスマートフォンで指値注文を入力しておけば、会社に着く前に準備を済ませておくことができます。
ただし、この時間に入力した注文はまだ「予約」の状態です。実際に売買が成立するのは、前場が始まる9時になってからだという点は変わりません。出社前の数分を使って、その日の注文内容を組み立てておく、という付き合い方はできます。
6. 土日は「注文」はできても「約定」はしない
もうひとつ、多くの人が引っかかりやすいのが、土日や夜間の「予約注文」に関する誤解です。
6.1 証券会社の画面は動いていても、市場は休んでいる
証券会社のスマホアプリやパソコン画面は、土日や夜間でも注文の入力を受け付けていることがあります。これを見て「土日でも株を売買できる」と思い込んでしまう人が少なくありません。
しかし、東証そのものは土曜日・日曜日・祝日・年末年始を休業日と定めており、この間は立会が一切行われません。土日に入力した注文は「予約注文」として証券会社側に蓄積され、次に市場が開く時間になって初めて処理される仕組みです。
「注文を入力できること」と「売買が成立すること」は別物だという整理を、まず持っておく必要があります。
6.2 夜間に売買したい場合の選択肢「PTS」
東証の立会時間外でも、証券会社によっては「私設取引システム」と呼ばれる仕組みを通じて売買できる場合があります。日本証券業協会の定義では、証券会社が運営するコンピュータシステムを使い、取引所のように取引できる仕組みとされています。
ただし、この仕組みを使える曜日や時間帯は証券会社ごとに異なります。利用を検討する場合は、各社が公表しているルールを事前に確認することが欠かせません。
7. 【編集者の視点】
予約注文まわりでとくに注意したいのは、複数の予約注文を出したまま忘れてしまうケースです。相場状況が大きく変わっているのに、古い価格の注文が翌営業日の寄り付きでそのまま処理されてしまうことがあります。
土日のうちに考えをまとめて注文を入れること自体は否定しません。ただ、月曜の朝にもう一度、入れた注文の内容と当日のニュースに矛盾がないかを見直す習慣をつけておくと安心です。
私設取引システムを使う場合も同様です。稼働時間や手数料体系は証券会社ごとに違うため、口座を持っている証券会社のサイトやコールセンターで、対象銘柄・取引時間・注文方法を具体的に確認してから利用してください。
取り扱う銘柄の数や、東証の立会時間中の値段とのつながり方も証券会社によって差があります。ふだん使っている証券口座で、そもそも私設取引システムに対応しているかどうかから確認しておくと、いざというときに慌てずに済みます。
8. 相場を見られない時間をどう埋めるか
ここまで見てきたように、会社員が日中にリアルタイムで相場を追える時間は限られています。だからといって、株式投資そのものをあきらめる必要はありません。
8.1 価格通知と自動化という選択肢
多くの証券会社のスマホアプリには、指定した価格に到達すると通知が届く機能があります。相場に張り付けなくても、狙った価格帯だけを見張ることができます(株式投資アプリ・ツールの活用で具体的な使い方を解説しています)。
逆に、毎日の値動きを追いかけて短期的に売買を繰り返すデイトレードやスイングトレードは、相場を継続的に確認できることが前提になりやすい手法です。日中に時間を取りにくい人が無理に取り入れると、想定外の値動きに対応できないまま含み損を抱えるリスクもあります(短期売買(デイトレ・スイング)のリスクと注意点で詳しく解説しています)。
あらかじめ決めた金額を毎月自動的に買い付ける積立の仕組みを使えば、そのつど値動きを見て売買のタイミングを判断する必要そのものを減らせます。取引時間を気にする場面を、そもそも少なくするという考え方です。
※本記事は、編集部が日本取引所グループ・日本証券業協会が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
9. まとめ
- 東証の立会時間は前場9時〜11時30分、後場12時30分〜15時30分です。
- 後場の終了時刻は2024年11月5日に70年ぶりに変更され、15時から15時30分になりました。
- 土日・祝日・年末年始は休業日で、立会そのものが行われません。
- 会社員の昼休み1時間のうち、後場と重なるのは実質30分程度という試算になります。
- 土日や夜間の注文は「予約注文」として扱われ、実際の売買成立は次の立会時間になります。
株式投資は、常に相場に張り付いていないとできないものではありません。立会時間の仕組みを知り、指値注文や価格通知、積立の自動化といった手段を組み合わせれば、限られた時間の中でも十分に付き合っていけます。
まずは自分の生活時間の中で、立会時間とどれだけ重なる部分があるかを確認するところから始めてみてください。
10. よくある質問
10.1 Q. 株の売買は24時間いつでもできますか?
A. いいえ。東証の株式は、平日の立会時間(前場9:00〜11:30、後場12:30〜15:30)のみ売買が成立します。証券会社によっては、この時間外にも私設取引システムを通じて売買できる場合がありますが、稼働する曜日・時間帯は各社異なります。
10.2 Q. 土日に株の注文を出すことはできますか?
A. 注文の入力自体は可能な場合が多いですが、実際に売買が成立するのは次に市場が開く時間になってからです。土日の間に相場状況が変わっていることもあるため、市場が開く直前に注文内容を見直すことをおすすめします。
10.3 Q. 仕事中でも株式投資はできますか?
A. スマホアプリの価格通知機能を使えば、常時画面を見ていなくても狙った価格帯を把握できます。毎日の値動きの確認が前提になる短期売買より、指値注文や積立といった、その都度の判断を減らす手法との相性がよい働き方といえます。
10.4 Q. なぜ2024年に取引時間が延びたのですか?
A. 2020年10月に起きた東証の売買システム障害をきっかけに検討が始まり、投資家の取引機会を増やす目的で2024年11月5日に実施されました。取引終了時刻が変わったのは1954年以来70年ぶりです。
10.5 Q. なぜ前場は変わらず、後場だけ延びたのですか?
A. 取引時間の延伸ニーズが主に午後の取引時間帯に集中していたためです。後場の終了が遅れることで投資信託の基準価額算出などの後続業務が遅れる懸念がありましたが、関係各社が業務フローを見直し、最終的な処理時刻を変えずに対応できる体制を整えた上で実施されました。
参考資料
- 日本取引所グループ「売買立会時(立会時間)」(2024年11月4日更新)
- 東証マネ部!(日本取引所グループ)「東証にとって70年ぶりの改革、4年の道のりを経て行われた『取引時間の延伸』」(2024年11月20日公開)
- 日本証券業協会「PTS」(自主規制関連用語集)
- 日本証券業協会「取引所外売買」(自主規制関連用語集)
LIMO編集部ウェルスマネジメント班
