5. 減収の理由は会社が説明している。稼働率と原料調達

直近の通期にあたる2026年3月期は、売上収益1兆6,687億円で前期比▲7.8%、営業利益738億円で▲5.8%と、減収減益で着地した。当期利益だけは343億円で+6.6%と増えている。

なぜ売上収益が減ったのか。会社の説明によると、化学工業界では川下製品の需要鈍化を受けて国内のナフサクラッカー(石油化学製品の基礎原料をつくる分解設備)の稼働率が低調に推移した。加えて中東情勢の不安定化に伴い、エネルギー供給や原料調達に対する不透明感が高まったという。

需要側についても、一部の国や地域では需要の減少や米国の通商政策を背景とする回復鈍化の傾向がみられた、としている。景気そのものは持ち直しの動きが続いたが、化学の川下は先に息切れした、という整理だ。

この説明は、素材産業の宿命をそのまま言い表している。装置は止められない。需要が落ちても設備は動かし続けるか、稼働率を下げて固定費を吸収しきれないかのどちらかになる。営業利益率が4.4%まで薄くなったのは、その帰結だと読み取れる。

もう一つ触れておきたいのが減損である。直近通期の減損損失は219億円だった。採算の合わない設備を帳簿から落とす動きが、利益をさらに削っている。

6. 営業利益738億円に対し、営業キャッシュフローは2,129億円

ここで見方を変えたい。損益計算書ではなく、キャッシュフロー計算書を並べるとどうなるか。

営業キャッシュフローは、2022年3月期925億円、2023年3月期1,012億円、2024年3月期1,613億円、2025年3月期2,005億円、そして2026年3月期は2,129億円である。5期連続で増えており、直近が最も厚い。

同じ5期の営業利益は1,473億円、1,289億円、741億円、783億円、738億円と、ほぼ半減している。会計上の利益とキャッシュ創出力が、真逆の方向へ動いてきた。

市況産業だから稼ぐ力も振れる、というのが素材メーカーに対する一般的な見方だろう。だが実データはそう言っていない。振れていたのは利益であって、現金を生む力ではない。

理由ははっきりしている。直近通期の減価償却費は1,047億円で、営業利益738億円を上回る。ここに減損損失219億円が加わる。いずれも現金の出ていかない費用であり、利益からは引かれてもキャッシュフローには戻ってくる。

投資の側も見ておきたい。投資キャッシュフローは2022年3月期の▲2,052億円を山として、▲1,063億円、▲1,239億円、▲1,650億円、そして直近は▲1,347億円である。設備投資額は直近通期で1,622億円だった。

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出所:三井化学株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:三井化学株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

この結果、営業と投資を合わせたフリーキャッシュフローは、2022年3月期の▲1,126億円から直近通期の+782億円へと反転している。5期前は投資のために外部から資金を入れていた会社が、いまは自前の資金で投資を賄い、なお余らせる状態に変わった。

余った資金の行き先も見えている。直近通期の財務キャッシュフローは▲759億円で、うち配当の支払いに281億円を充てた。加えて自己株式の取得と消却も実施している。有利子負債は7,401億円で、自己資本8,647億円に対してなお重いが、5期前のように投資のために借入を積み増す局面は過ぎたようだ。

7. 筆者コメント

資本配分の姿が変わろうとしているのが、いまの同社だと考えられる。

投資キャッシュフローの絶対額は5期前がピークで、そこからは山を下りている。一方で営業キャッシュフローは毎期積み上がった。投資を減らしてキャッシュが余ったのではなく、投資を続けながら余るようになった、という順序が大事だ。

この局面で経営が問われるのは、余った資金をどこへ回すかである。研究開発費は直近通期で464億円。従業員は16,967人。装置を回すための投資と、次の柱をつくるための投資は、同じ「投資キャッシュフロー」の中に混ざって見えにくい。

PBRが1倍に届かないという値付けは、市場がまだこの資本配分の転換を信じ切っていない、という読み方もできる。逆に言えば、キャッシュの使い道が具体的な事業の形になって現れたとき、値付けの前提は変わる余地がある。

素材株を見るときは、営業利益の増減だけを追わないでほしい。減価償却費と減損を戻したキャッシュがいくらで、それをどこへ振り向けているか。この2点を並べる癖をつけると、市況の波に振り回されずに済む。

参考資料

8.1 免責事項

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石津 大希