素材メーカーの決算は市況で振れる。だから利益の数字だけを追いかけると、その会社が本当に稼げているのかは見えにくくなる。三井化学(4183)はまさにそういう銘柄だ。9月1日の終値は2,320円で、直近1カ月では最も高い。ところが同じ日のPBRは0.96倍にとどまる。利益とキャッシュ、そして市場の値付けは、それぞれ別の速さで動いている。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

ココがポイント
  • 9月1日の終値は2,320円。前営業日の2,187円から6%上昇し、直近1カ月で最も高い水準となった
  • 2027年3月期1Qの営業利益は484億円。通期予想830億円に対する進捗は58%に達している
  • 直近通期の営業利益は738億円だが、営業キャッシュフローは2,129億円と5期で最も厚い

1. 8月19日の急落から、9月1日に1カ月で最も高い水準へ

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

直近1カ月の終値を並べてみる。起点の8月3日は2,091円で、そこから8月13日の2,237円まで、緩やかに切り上がる展開だった。

流れが折れたのは8月19日である。前日の2,205円から2,083円へ、率にして5%超の下げとなった。この2,083円が、直近1カ月で最も低い終値である。

その後の2週間は2,100円台前半でのもみ合いが続いた。8月28日は2,146円、8月31日は2,187円と、じりじりとは戻していたものの、8月中旬の水準には届いていない。

そこへ9月1日の2,320円である。前営業日から133円、率にして6%の上昇となり、8月3日の水準からは11%高い。直近1カ月では最も高い終値だ。

この日の買いを一つの理由で説明することはできない。素材株は原油や為替、海外市況の思惑で動きやすく、相場全体の地合いも絡む。ただ、8月19日の下げで削られた分をひと息に取り戻した形であり、後述する1Qの利益の出方が改めて見直された可能性は高い。

2. PBR0.96倍・PER18.6倍という値付けが語ること

直近時点のPER(株価収益率)は18.6倍、PBR(株価純資産倍率)は0.96倍である。PBRが1倍を下回るということは、1株当たり純資産よりも低い値段が付いているということだ。直近通期のBPS(1株当たり純資産)は2,349円だった。

化学と聞くと、大きな設備を抱えて景気の波を受けやすい業種、という見方が一般的だろう。その見方自体は当たっている。ただし数字を当ててみると、同社の位置はもう少し込み入っている。

直近通期のROE(自己資本利益率)は4.0%で、化学業種の中央値6.6%を下回る。営業利益率も4.4%と、業種中央値6.9%に届かない。一方で自己資本比率は40.2%と、業種中央値64.6%を大きく下回る。

ここが読みどころだ。自己資本比率が低いということは、それだけ負債を効かせているということであり、本来ならROEは押し上げられる方向に働く。レバレッジをかけたうえでROEが業種中央値に届かないのだから、資産そのものの収益性は数字が示す以上に低い。PBRが1倍近辺に張り付いている背景には、この構図があると考えられる。

3. 2027年3月期1Qは営業利益484億円、通期予想への進捗は6割弱

2027年3月期1Qは、売上収益(IFRS)4,600億円、営業利益484億円、親会社の所有者に帰属する当期利益320億円だった。

前年同期にあたる2026年3月期1Qは、売上収益4,153億円、営業利益127億円、当期利益7億円である。売上収益は1割強の伸びにとどまるのに対し、営業利益は3.8倍になった。増収幅よりも利益の伸びがはるかに大きい、典型的な採算改善の形だ。

会社の通期予想は、売上収益1兆9,000億円で前期比+13.9%、営業利益830億円で+12.5%、当期利益450億円で+30.9%である。

この計画に対し、1Q時点の進捗率は営業利益で58%、当期利益では71%に達する。四半期を均せば25%が目安になるから、出足だけを見れば計画をかなり上回っている。

もっとも、化学の四半期業績は定期修繕の時期や原料価格の変動で大きく偏る。1Qの進捗をそのまま4倍にする読み方は危うい。会社が通期予想を据え置いていること自体、下期の前提を強気には置いていない表れとも読める。

それでも、営業利益127億円だった1年前と比べれば、事業の足元は明らかに変わった。株価が9月1日に反応したのも、この変化の確からしさが少しずつ増していることに対してではないだろうか。

4. 筆者コメント

業種の中での立ち位置に照らすと、この銘柄の姿は少し独特だ。

収益性の指標はどれも業種中央値に届かない。ROEも営業利益率も下回る。それでいて自己資本比率だけは業種中央値を大きく下回っており、財務の余裕という意味でも上位ではない。並べて見れば、市場が1株純資産に届かない値段を付けている理屈は分かる。

ただ、1Qの営業利益484億円は、その前提を揺らす数字でもある。通期計画の6割弱をひと四半期で稼いだ会社に、1倍を下回るPBRが付いたままでいるのは、いささか座りが悪い。

市場が見ているのは、この採算がどれだけ続くかだろう。素材の利益は市況で来て市況で去る。1四半期の数字ではまだ「戻った」とは言い切れない。

次の四半期で営業利益の水準が保たれるかどうか。そこだけは、決算が出たら真っ先に確かめたいところだ。