「国民年金と厚生年金、結局どっちに入ればいいの」——検索すると、こんな疑問にたどり着く人がいます。しかし実は、ほとんどの人にとってこれは「選ぶもの」ではありません。働き方によって、加入する制度は自動的に決まります。
そのため、この疑問自体が制度の仕組みへの誤解から生まれていることが多いのですが、実際には例外的に「選べる」場面が1つだけ存在します。70歳を過ぎても会社に勤め続け、老齢年金を受けられる加入期間がまだ足りない人です。
この記事では、通常は選べないという原則と、数少ない例外である「高齢任意加入」の仕組みを編集部で整理します。
この例外を知らないまま「どっちに入るか」を漠然と検索し続けても、自分に必要な情報にはたどり着けません。原則と例外を切り分けて理解することが、遠回りをしないための近道です。
なお、国民年金と厚生年金の基本的な違いについては、下記の記事より一部を引用・参照しています。
1. 「どっちに入るか」は、基本的に選べない
まず、なぜ「どっち」という疑問が生まれるのか、そして実際にはどう決まるのかを確認します。
1.1 加入する制度は、働き方によって自動的に決まる
会社員や公務員として働く人は厚生年金に、自営業者やフリーランス、学生、無職の人などは国民年金に加入します。これは本人が選択するものではなく、雇用形態や勤務条件によって自動的に決まる仕組みです。
厚生年金の適用要件を満たす働き方をしている限り、「今月は国民年金にしておきたい」といった希望を出すことはできません。逆に、要件を満たさない働き方をしている人が、希望だけで厚生年金に加入することもできません。
「どっちがお得か」を比較して選べるようなものではなく、まず自分がどちらの働き方に当てはまるかが先に決まり、加入する制度はその結果としてついてくるという順序になっています。
この順序を逆に捉えて、「厚生年金に入りたいから、それに合わせて働き方を変える」という発想をする人もいますが、それは「制度を選ぶ」というより「働き方を選ぶ」ことの結果として、たまたま加入する制度が変わるという整理になります。
2. 編集部整理:唯一「選べる」例外、70歳以上の高齢任意加入
それでは、なぜ例外的に「選べる」場面が存在するのか、その仕組みを確認します。
2.1 70歳になっても受給資格期間が足りない場合、任意で加入を続けられる
厚生年金保険は原則として70歳になると資格を失いますが、日本年金機構の案内によると、「老齢の年金を受けられる加入期間がなく、70歳を過ぎても会社に勤める場合は、老齢の年金を受けられる加入期間を満たすまで任意に厚生年金保険に加入することができます」とされています。これを「高齢任意加入」といいます。
この制度が「例外」と呼べるのは、通常であれば70歳という年齢で自動的に資格を失うところを、本人の申し出によって加入を継続するかどうかを選べるという点にあります。年齢だけで一律に区切られる原則に対する、数少ない選択の余地です。
2.2 【70歳以上の高齢任意加入・要件】
前提条件:日本年金機構の公式ページに基づき、70歳以上の高齢任意加入の要件を編集部で整理1/2
出所:日本年金機構「70歳以上の方が厚生年金保険に加入するとき(高齢任意加入)の手続き」などを基にLIMO編集部作成
- 対象者:70歳以上で老齢年金の受給資格期間がまだ足りない人
- 加入期間:受給資格期間を満たすまで
- 適用事業所以外での加入:事業主の同意と厚生労働大臣の認可が必要
この制度は、あくまで「70歳まで受給資格期間が満たせなかった人」のための救済的な選択肢です。すでに受給資格期間を満たしている人にとっては、対象にならない仕組みです。
逆に言えば、70歳を過ぎても働き続けているというだけでは、この制度の対象にはなりません。あくまで「受給資格期間が足りているかどうか」が唯一の判定基準であり、勤務年数や年齢そのものは直接の条件ではない点に注意が必要です。
受給資格期間は、厚生年金の加入期間だけでなく、国民年金の保険料納付済期間や免除期間、さらには合算対象期間まで合わせて判定されます。厚生年金の加入年数だけを見て「まだ足りない」と早合点せず、通算した数字で判断することが大切です。
3. 【編集者の視点】
実務上のポイントは、この高齢任意加入が「年金額を増やすための制度」ではなく、「そもそも年金を受け取れる資格を得るための制度」だという点です。すでに受給資格期間を満たしている人が、年金額を増やす目的でこの制度を使うことはできません。
「年金額を増やしたい」という目的であれば、繰下げ受給や、70歳未満であれば通常の厚生年金加入の継続など、別の選択肢を検討することになります。高齢任意加入と混同しないよう、目的に応じた制度を切り分けて考えることが大切です。
「制度の名前」ではなく「自分が達成したい目的」から逆算して調べる姿勢が、遠回りを防ぐコツです。年金額を増やしたいのか、そもそも受給資格を得たいのか、まず自分の目的をはっきりさせることから始めましょう。
自分が対象になるかどうかは、まず受給資格期間(合算で10年以上)を満たしているかどうかを確認することが出発点になります。満たしていない場合にのみ、この選択肢が視野に入ります。
4. 保険料負担の仕組みには、大きな分かれ道がある
高齢任意加入を選ぶ場合、保険料の負担の仕方にも注意が必要です。
4.1 事業主が同意しない場合、保険料は全額自己負担になる
日本年金機構の案内によると、適用事業所で高齢任意加入する場合、事業主が同意すれば「事業主と本人との折半」ですが、事業主が同意しない場合は「全額本人が負担することとなり、納付義務者は本人となります」。さらに「本人が督促指定期限までに保険料を納付しないと資格喪失となります」という規定もあります。
通常の厚生年金加入では、保険料の納付義務者は事業主であり、給与から天引きされる形で自動的に納められます。しかし高齢任意加入で事業主の同意が得られない場合は、この前提が崩れ、自分自身が納付義務者になるという大きな違いが生じます。
この違いは、単に「誰が払うか」だけでなく、「納め忘れたときの責任の所在」にも直結します。給与天引きであれば会社側の事務処理でほぼ確実に納付されますが、自己負担になると、納付漏れのリスクも自分自身で管理する必要が出てきます。
4.2 【高齢任意加入・保険料負担の分かれ道】
前提条件:日本年金機構の公式ページに基づき、高齢任意加入の保険料負担の分かれ道を編集部で整理2/2
出所:日本年金機構「70歳以上の方が厚生年金保険に加入するとき(高齢任意加入)の手続き」などを基にLIMO編集部作成
- 適用事業所・事業主が同意する場合:事業主と本人の折半です
- 適用事業所・事業主が同意しない場合:全額本人負担、納付義務者も本人になります
- 適用事業所以外の場合(※加入に事業主の同意が必須):事業主と本人の折半です
※本記事は、編集部が日本年金機構が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
5. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、高齢任意加入を検討する際に、必ず勤務先の事業主に事前相談しておくことです。同意を得られるかどうかで、保険料の負担割合がまったく変わってしまいます。会社に確認しないまま制度の存在だけを知って進めてしまうと、想定外の全額負担に直面する可能性があります。
事業主に同意を求める際は、なぜ高齢任意加入を希望するのか(受給資格期間が不足している事情)をあわせて説明すると、会社側も判断しやすくなります。制度の目的を共有したうえで相談する姿勢が、円滑な手続きにつながります。早めに相談しておくほど、会社側も対応を検討する時間を確保できます。
督促指定期限までに納付しないと資格を失うという規定もあるため、全額自己負担になった場合は、納付管理を特に丁寧に行う必要があります。せっかく受給資格期間を満たすために加入したのに、納付管理の甘さで資格を失っては本末転倒です。
6. 自分が対象になるか確認する方法
最後に、高齢任意加入の対象になるかどうかを確認する方法を整理します。
6.1 ねんきん定期便・ねんきんネットで受給資格期間を確認する
まずは、自分の受給資格期間がすでに10年以上に達しているかどうかを確認します。ねんきん定期便やねんきんネットで、これまでの加入期間の合計を確認できます。これが高齢任意加入を検討する前提になります。
受給資格期間は、厚生年金の加入期間だけでなく、国民年金の保険料納付済期間や免除期間、合算対象期間まで合わせて判定されます。自分の全期間を通算した数字を確認することが、正確な判断につながります。過去に転職や退職を繰り返した人ほど、通算すると意外と資格期間を満たしているケースもあるので、思い込みで諦めないようにしましょう。
6.2 対象になりそうな場合は、年金事務所と勤務先の両方に相談する
受給資格期間が不足していることが分かった場合は、年金事務所で高齢任意加入の具体的な要件を確認したうえで、勤務先の事業主にも早めに相談する「二段階の確認」をおすすめします。片方だけの確認で進めてしまうと、後から想定外の条件が判明することもあります。
相談の際は、現在の加入期間の合計と、あと何か月不足しているのかを整理しておくと、年金事務所からの案内もより具体的になります。基礎年金番号を手元に用意しておくと、確認もスムーズに進みます。
なお、関連して企業年金と厚生年金の違いについても、あわせて確認しておくと理解が深まります。
7. まとめ
- 国民年金と厚生年金は、働き方によって加入する制度が自動的に決まり、通常は選べません。
- 70歳以上で老齢年金の受給資格期間が不足している場合に限り、任意で厚生年金に加入し続けられます。
- この「高齢任意加入」では、事業主が同意しない場合、保険料は全額本人負担になります。
- 適用事業所以外で加入する場合は、事業主の同意と厚生労働大臣の認可が必要です。
- 対象になるかどうかは、まず自分の受給資格期間を確認することが出発点になります。
「国民年金と厚生年金、どっちがいいか」という疑問は、多くの場合、そもそも選べるものではないという前提を知らないために生まれます。例外的に選べるのは、70歳以上で受給資格期間が不足している人に限られた「高齢任意加入」という限定的な制度です。この例外を自分のケースに当てはめる前に、まず受給資格期間を確認することが欠かせません。
制度の原則と例外を切り分けて理解しておけば、「どっちがいいか」という漠然とした疑問を、自分に本当に必要な確認事項へと具体化できるはずです。数字と条件を一つずつ確認していく地道な作業が、結果的に一番の近道になります。
自分が対象になるかどうか不安な場合は、年金事務所に相談することをおすすめします。原則と例外の両方を正しく理解しておけば、いざというときも落ち着いて対応できます。年齢を重ねてから慌てないよう、早めに自分の加入状況を確認しておく習慣をつけておくとよいでしょう。
8. よくある質問
8.1 Q. 国民年金と厚生年金は、自分で選ぶことができますか。
A. 通常はできません。会社員や公務員は厚生年金、自営業者やフリーランスなどは国民年金に、働き方に応じて自動的に加入します。「お得な方を選ぶ」という発想自体が、この制度には当てはまりません。
8.2 Q. 例外的に選べる場面は、どんな場合ですか。
A. 70歳以上で、老齢年金の受給資格期間がまだ足りない人が対象です。受給資格期間を満たすまで、任意で厚生年金保険に加入することができます(高齢任意加入)。この条件に当てはまらない人には適用されません。
8.3 Q. 高齢任意加入の保険料は、誰が負担しますか。
A. 事業主が同意すれば折半ですが、同意しない場合は全額本人負担になり、納付義務者も本人になります。督促指定期限までに納付しないと資格を失う点にも注意が必要です。適用事業所以外で加入する場合は、事業主と本人の折半になります。
8.4 Q. すでに受給資格期間を満たしている人も、高齢任意加入を使えますか。
A. 使えません。この制度は受給資格期間を満たしていない人が対象で、年金額を増やす目的では利用できません。
8.5 Q. 高齢任意加入を適用事業所以外で行う場合、どんな手続きが必要ですか。
A. 事業主の同意を得たうえで、厚生労働大臣の認可を受ける必要があります。適用事業所での加入とは手続きが異なるため、詳細は年金事務所に確認することをおすすめします。
8.6 Q. 高齢任意加入以外に、70歳以上で年金の加入期間を増やす方法はありますか。
A. 高齢任意加入は厚生年金保険の制度です。国民年金側の制度(任意加入等)とは対象年齢や要件が異なるため、自分の状況に応じてどちらの制度が該当するか、年金事務所に確認することをおすすめします。制度ごとに対象年齢が違う点を混同しないよう注意しましょう。
8.7 Q. 高齢任意加入の途中で、事業主の同意が得られなくなった場合はどうなりますか。
A. 事業主の同意は加入の要件であるため、同意が撤回された場合の扱いは制度上の重要なポイントになります。加入後に状況が変わった場合の具体的な取り扱いは、年金事務所に個別に確認することをおすすめします。開始時点の同意だけでなく、継続的に成り立つ関係かどうかも踏まえて検討しておくと安心です。
参考資料
齊藤 慧

