厚生労働省は「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」で、2026年度の老齢年金生活者支援給付金の給付基準額を公表しました。
給付基準額は月額5620円で、前年度より3.2%の増額です。公的年金は偶数月に振り込まれる仕組みのため、夏から秋にかけては、振込通知や制度の案内に目を通す機会が増える時期にあたります。
手続きや確認をしないままだと受け取れない、あるいは気づけないものは、公的な制度にも、自分で契約したものにも共通してあります。公的な給付の多くは、要件を満たしていても自分で請求しないと支給が始まりません。
この記事では、老齢年金に上乗せされる2つの給付、60歳以降に働く人が関わる雇用保険の3つの給付、医療・介護・生活の負担を抑える仕組み、2025年に成立した年金制度改正で見直された点を順に整理します。
そのうえで、申請が必要な給付を1年見落とした場合と、気づいて申請した場合で受け取る額がどれだけ変わるかを、独自に試算します。
なお、60歳・65歳以上の方が対象となる公的給付金に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 自分で請求して初めて受け取れる公的なお金がある|受給資格と受け取りの開始は別のもの
60歳・65歳以上の方が対象となる公的な給付については、「【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説」でも整理されています。
ここではその手前にある、「要件を満たしているのに受け取りが始まらない」という状態がなぜ生まれるのかから確かめていきます。
1.1 老齢・障害・遺族の年金も、請求書を出すところから始まる
老齢・障害・遺族といった公的年金の制度は、暮らしを支える土台になるものです。
ただ、受給資格ができたからといって、その時点で自動的に振り込みが始まるわけではありません。
受け取りを開始するには、自分自身で「年金請求書」を提出し、請求の手続きを済ませる必要があります。ここが済んでいないと、要件のほうを満たしていても、口座には何も入ってきません。
1.2 気づきにくさは、制度が複数の窓口に分かれていることから来ている
国や自治体の給付金・補助金も、基本的には申請とセットで組み立てられています。
期限に間に合わなかったり書類が足りなかったりすると、受給額が減る、あるいは受け取れなくなるといった不利益が生じる可能性もあります。
ここで押さえておきたいのは、見落としが起きるのは注意が足りないからではない、という点です。
年金は年金事務所、雇用保険はハローワーク、医療・介護や臨時の給付金は市区町村と、窓口が制度ごとに分かれています。
ひとつの窓口に行けば自分に関わるものが一覧で出てくる仕組みにはなっていないため、どの制度がどこの管轄なのかを知らないままだと、そもそも問い合わせ先にたどり着けません。気づきにくさは、制度の作りのほうから来ています。
なお、制度の内容は改正されることがあり、要件や金額は人によって変わるため、最新の内容は年金事務所やハローワークなど所管の窓口でご確認ください。
2. 【老齢年金】年金に上乗せされる給付が2つある|加給年金と老齢年金生活者支援給付金
老齢年金を受け取っている方が一定の要件に当てはまる場合、本体の年金に上乗せして受け取れる制度が2つあります。
どちらも該当するかどうかは人によって変わりますので、ここでは仕組みと2026年度の金額を確かめておきます。
2.1 加給年金は年金版の家族手当にあたる
加給年金は、厚生年金に20年以上加入していた方が65歳を迎えたときに、生計を維持している年下の配偶者や子どもがいる場合に加算される制度です。
役割としては、年金版の家族手当にあたるものと説明されます。
加給年金の支給要件はこう定められている
- 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
- 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)
(※)または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年
上記のタイミングで、「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子」がいる場合に、年金へ上乗せされる形になります。
一方で、配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上あるもの)や退職共済年金(組合員期間が20年以上あるもの)を受給する権利を持っている場合には、配偶者加給年金額が支給停止となります。
障害厚生年金・障害基礎年金・障害共済年金などを受給している場合も、同じく支給停止の取り扱いになっています。
2026年度の加給年金の額はこうなっている
加給年金の2026年度の年額として示されているのは、次の金額です。
- 配偶者:24万3800円
- 1人目・2人目の子:各24万3800円
- 3人目以降の子:各8万1300円
これに加えて、老齢厚生年金を受給中の方の生年月日により、配偶者の加給年金額に3万6000円から17万9900円の特別加算額が支払われます。
同じ「配偶者の加給年金」といっても、生年月日によって1年あたりの額に幅が出るということです。
配偶者が65歳になると「振替加算」へ引き継がれる
配偶者が65歳に達すると加給年金は終了します。
ただし一定の要件を満たす場合には、今度は配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」という形で一定額が引き継がれます。加算の対象が本人から配偶者へ移る、という流れです。
2.2 老齢年金生活者支援給付金は所得が基準を下回る場合に支給される
老齢年金生活者支援給付金は、老齢基礎年金を受け取っている方のうち、所得や世帯収入が一定の基準を下回る場合に、生活の底上げを目的として支給されるものです。
年金本体とは別の法律にもとづく「給付金」という位置づけになっています。
対象になる人の条件は3つある
- 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
- 同一世帯の全員が市町村民税非課税
- 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)である
※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される
2026年度の給付基準額は月額5620円だった
2026年度、老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は月額5620円で、前年度より3.2%増額されました。
この基準額をもとに、保険料の納付状況等に応じて実際の給付額が算出されます(下記①と②の合計額)。
- ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480月
- ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円× 保険料免除期間 / 被保険者月数480月
※②で保険料免除期間に掛ける金額は、老齢基礎年金の額が毎年度改定されるのに合わせて動きます。
つまり、給付基準額の月額5620円がそのまま全員に支払われるのではなく、納付済みの月数がどれだけあるかによって金額が変わってきます。
自分の場合にいくらになるのかは、納付記録を確認しないと分かりません。
3. 【雇用保険】60歳以降に働く人が関わる給付が3つある|再就職手当・高年齢雇用継続給付・高年齢求職者給付金
働き続ける方に関わる、就労に関連した給付金や手当も見ていきます。
シニアの就労を支える制度は整いつつあるものの、一般には60歳を境に収入が下がる傾向があります(※)。就職活動や就労の継続が、若い頃と同じようには進まないこともあります。
※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」による年齢階層別の平均給与:50歳代後半男性735万円、女性356万円、60歳代前半男性604万円・女性294万円、60歳代後半男性472万円・女性240万円
3.1 再就職手当は早期の再就職ほど支給額が多くなる
再就職手当は、早期の再就職を促すための手当です。
失業から再就職まで、あるいは失業から事業開始までの期間が短いほど、支給額が多くなる組み立てになっています。
再就職手当の支給要件はこう定められている
- 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
- 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給
給付率は支給残日数によって変わる
- 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数により下記のとおり給付率が異なります。(1円未満の端数は切り捨て)
- 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
- 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」
なお、再就職手当を受け取ったうえで再就職先に6カ月以上雇用され、その6カ月間の賃金が離職前の賃金よりも少ない場合には、「就業促進定着手当」の対象となります。
手当の名称が変わるため、別の制度として整理しておくと確かめやすくなります。
3.2 高年齢雇用継続給付は賃金が下がった場合に支給される
高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の方が就労を続ける際に、賃金が60歳到達時よりも下がった場合に支給される給付金です。
高年齢雇用継続給付の支給要件はこう定められている
- 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
- 支給条件:賃金が60歳到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合
支給率は段階的に見直されている
- 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%
ここで押さえておきたいのは、老齢年金を受け取りながら厚生年金に加入して高年齢雇用継続給付を受け取る場合の調整です。
在職による年金の支給停止に加えて、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する金額が支給停止となります。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%
3.3 高年齢求職者給付金は65歳以上で離職した場合に支給される
高年齢求職者給付金は、65歳以上の方が失業した際に支給される給付金です。
高年齢求職者給付金の支給要件はこう定められている
- 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
- 支給要件:下記の全ての要件を満たした人
- 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある
- 失業の状態にある:離職し「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態」を指す
支給日数は被保険者であった期間で変わる
- 支給額
- 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
- 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額
65歳未満の方が受け取る失業手当は、4週間に一度ずつ失業認定を受けてから給付されます。
これに対して高年齢求職者給付金は一括で支給される点が異なります。
3.4 60歳代前半では、手続きの順番によって受け取る総額が変わる場合がある
雇用保険の給付をめぐって、あらかじめ知っておきたい調整があります。
ハローワークで手続きをして雇用保険の基本手当(失業手当)を受給すると、求職の申込みを行った日の属する月の翌月から、65歳未満に支給される「特別支給の老齢厚生年金」が全額支給停止となります。
停止される期間は、失業給付の受給期間が経過する月、または所定給付日数を受け終わる月のいずれか早い月までです。
失業手当の日額より年金のほうが高かった場合には、結果として受給総額が目減りするケースもあり得ます。
そのため、60歳代前半での退職では、基本手当の受給総額と、支給停止される特別支給の老齢厚生年金の総額を並べて比べておく必要があります。
一方、65歳到達日以後に退職した場合は「高年齢求職者給付金」の扱いとなります。
65歳以降の老齢年金は雇用保険の給付と調整されないため、同時に受け取ることができます。65歳未満での受給とは扱いが大きく異なる、という整理です。
4. 【医療・介護・生活】自己負担に上限を設ける仕組みがあり、案内が届きにくい場面もある
年齢を重ねるにつれて家計に重くのしかかってくるのが、医療費と介護費用です。
こうした出費に備えて、公的医療保険や介護保険には、自己負担に上限を設けたり、あとから払い戻したりする仕組みが用意されています。
4.1 高額療養費制度は自己負担限度額を超えた分が払い戻される
月の初めから終わりまでにかかった医療費の自己負担額が、年齢や所得に応じて定められた「自己負担限度額」を超えた場合に、超えた金額があとから払い戻される制度です。
一般的な所得層(70歳未満・年収約370万〜約510万円)の場合、ひと月の自己負担限度額の基本は「約8万5800円+(医療費から28万6000円を引いた額)の1%」とされています。
ここで気をつけたいのは、事前の手続きをしていないと、退院時に窓口でいったん大きな金額を立て替える形になる点です。
払い戻しを受けられるのは3〜4ヶ月後になります。2026年現在は、マイナ保険証を使うか、あらかじめ「限度額適用認定証」の交付を受けておけば、窓口での支払いをはじめから上限額の範囲に収める形にできます。
4.2 高額介護サービス費には計算対象から外れる費用がある
介護保険サービスを利用して支払った1ヶ月の自己負担額(1割〜3割)の合計が、所得に応じた上限額を超えた場合に、超過分が払い戻される制度です。
実務のうえで見落とされやすいのは、「介護施設での食費・居住費(部屋代)・日常生活費」や「特定福祉用具購入費・住宅改修費」は、この計算対象から完全に除外されるという点です。
「高額介護サービス費があるから、特別養護老人ホームに入っても月額数万円で済む」という前提で見積もっていると、対象外の食費や居住費が毎月10万円以上加算され、資金が足りなくなる原因になりえます。
上限があるのは、あくまで介護サービスの自己負担分だという区別が要ります。
4.3 高額医療・高額介護合算療養費制度は年間単位で計算される
毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間について、医療費と介護費用の自己負担額を世帯でまとめて足し合わせ、基準額を上回った分の払い戻しを受けられる制度です。
医療と介護のどちらも使っている世帯を想定した仕組みになっています。
年間単位での計算になるため意識から離れやすいものの、支給対象となる世帯には原則として医療保険者から案内が届きます。
ただし、計算期間の途中で「75歳になり後期高齢者医療制度に移行した」「退職して会社の健康保険から国民健康保険に切り替わった」といった保険の異動があった場合には、データが分断されて案内が届かないことがあります。
この場合、自ら過去の保険者に申請して合算手続きを行わないと時効(2年)で消滅してしまうことがあると説明されています。案内が来ないこと自体が、対象外である証明にはならないということです。
4.4 住民税非課税世帯向けの臨時給付金には判定の盲点がある
物価高騰への対策として、政府や自治体が住民税非課税世帯を対象に7万円や10万円の臨時給付金を支給することがあります。
この給付金は、その時々の補正予算や地方交付金を活用した一時的なものです。
判定のうえで押さえておきたいのは、「住民税が課税されている方(別居の家族などを含む)の税法上の扶養親族等のみで構成されている世帯」の扱いです。
この場合、世帯分離をして住民票上は非課税の単身世帯になっていても、給付の対象外(不該当)とされます。住民票上の世帯状況にかかわらず、税法上の扶養状況が判定に影響します。
住民税非課税世帯を対象とした優遇の中身や、収入がいくらで該当するのかという境界についてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【2026年最新】「住民税非課税世帯」を対象とした「優遇措置」8選 《年金・給与》年収いくらで該当するのか境界線も見ておこう「収入ゼロでも給付金が届かない?」5つの盲点を徹底解説
5. 2025年成立の年金制度改正で遺族厚生年金と在職老齢年金が見直された
2025年6月に成立した「年金制度改正法」の大きな狙いのひとつは、働き方や家族構成の多様化に応じた年金制度の整備です。
盛り込まれた内容には、いわゆる「106万円の壁」の撤廃に関わる社会保険の加入要件の拡大と、遺族年金についての見直しが含まれています。
5.1 遺族厚生年金の男女差は解消に向かっている
現在の遺族厚生年金の仕組みでは、受給者の性別によって次のような男女差がありました。
現行の遺族厚生年金には男女差がある
- 女性
- 30歳未満で死別:5年間の有期給付
- 30歳以上で死別:無期給付
- 男性
- 55歳未満で死別:給付なし
- 55歳以上で死別:60歳から無期給付
こうした男女差の解消に向けた見直しは、2028年4月から施行される予定とされています。
2028年4月から新しい仕組みが施行される
「原則5年間の有期給付」の対象となるための要件が、男女ともに細かく定められました。
- 女性:施行直後(2028年4月)に原則5年間の有期給付の対象となるのは、「18歳年度末までのこどもがいない、2028年度末時点で40歳未満の方」です。(※既に遺族厚生年金を受給している方や、2028年度に40歳以上になる女性は見直しの影響を受けません。)
- 男性:新たに5年間の有期給付を受けられるようになるのは、「18歳年度末までのこどもがいない60歳未満の方」です。
- こどもがいる場合:18歳年度末までのこどもがいる場合は、こどもが18歳年度末になるまでは現行制度と同じであり、見直しの影響はありません。こどもが18歳になった後、さらに5年間は増額された有期給付および継続給付の対象となります。
5.2 有期給付と継続給付は拡充される
支えが要る状況にある方への給付についても、金額の水準と要件が具体的に示されました。
- 有期給付の増額:有期給付には新たに「有期給付加算」が上乗せされ、現在の遺族厚生年金の額の約1.3倍となります。
- 継続給付(5年目以降の給付継続)の要件:5年間の有期給付終了後も、障害状態にある方や収入が十分でない方は、引き続き増額された遺族厚生年金を受給できます。単身の場合、就労収入が月額約10万円(年間122万円)以下の方は継続給付が全額支給され、概ね月額20〜30万円を超えると全額支給停止となります。
あわせて、今回の改正では遺族基礎年金の見直しも盛り込まれました。
同一生計にある父または母が遺族基礎年金を受け取れなかったケースでも、2028年4月からは、こどもが単独で遺族基礎年金を受け取れるようになるとされています。
5.3 在職老齢年金の基準額は65万円に引き上がった
働きながら年金を受け取ると年金が減額される「在職老齢年金」の仕組みについては、就労意欲を阻害しているとの指摘がありました。
この指摘を受け、減額される基準額が65万円に引き上がりました。
これらは施行の時期が先の内容を含みます。制度の内容は改正されることがあり、要件や金額は人によって変わるため、最新の内容は年金事務所やハローワークなど所管の窓口でご確認ください。
6. 公的な制度と自分で契約したもので、確認しないと気づけない点は共通している
ここまで、公的な制度のなかで申請や確認をしないと受け取れないもの、気づけないものを見てきました。
年金の上乗せ、雇用保険の給付、医療・介護の軽減、臨時の給付金と、それぞれ管轄も手続きも異なります。共通しているのは、要件のほうを満たしていても自分から動かないと始まらない、という点です。
そして、この構造は公的な制度に限った話ではありません。
自分で契約してきた保険や、積み立ててきた運用のものにも、通知が届いていても中身を確かめないままだと気づけないことがあります。
受け取れる時期がいつなのか、受け取るのは誰なのか、いま出ていっている金額がいくらなのか。こうした点は、書類のどこかには書かれていても、意識して確かめない限り目に入ってきません。
なお、運用しているものには価格変動リスクがあり、値動きによって受け取れる額が変わって元本割れとなる場合もあります。
額が確定しているのか、そのときの状況によって変わるのかという違いも、公的な給付と自分で契約したものを並べて見るときの区別のひとつになります。
公的な制度については、年金事務所・ハローワーク・市区町村という所管の窓口が確かめる先になります。
自分で契約したものについては、証券や通知書、契約先の窓口が確かめる先です。どちらも「確かめないと分からない」という点では同じで、確かめる先が違うだけだと整理できます。
7. 申請と手続きをめぐる疑問は3つに集約される
ここでは、公的な給付の手続きに関して相談の場で挙がりやすい質問を、3つに絞って整理します。
いずれも該当するかどうかは人によって変わるため、実際の判断は所管の窓口で確かめる前提でお読みください。
7.1 退職後、失業手当を受け取っている間は配偶者の社会保険の扶養に入れるのか
失業手当(基本手当)の「日額」によって扱いが変わります。
失業手当は非課税のため所得税の計算には入りませんが、健康保険の扶養審査では収入として厳格にカウントされます。
60歳未満なら日額3612円(年収換算130万円未満)、60歳以上なら日額5000円(年収換算180万円未満)が境目です。
これを超えている場合、手当を受給している期間中は配偶者の扶養に入れず、自分で国民健康保険に加入して保険料を支払う必要があります。
7.2 役所から給付金の案内が届かないのは、対象外ということなのか
そうとは限りません。
年金生活者支援給付金のようにハガキが届くものもありますが、加給年金、高年齢雇用継続給付、失業手当などは、いずれも自己申告(申請主義)です。
条件を満たしていても役所から案内は来ません。自分で年金事務所やハローワークに出向き、対象になるかどうかを尋ねるところから手続きが始まります。
7.3 特別支給の老齢厚生年金と失業手当は、どちらを受け取ったほうがよいのか
個別の年金額と、失業手当の日額・給付日数を比較して計算しないと答えは出ません。
現役時代の給与が高く失業手当の日額が高い方は、ハローワークで手続きをしたほうが多くなります。
逆に給与が低めで年金加入歴が長い方は、失業手当を受けずに年金を受け取り続けたほうが総額が多くなる場合もあります。
退職前に最寄りの年金事務所で年金見込額を出し、ハローワークの失業手当計算ツール等で試算してみるという進め方があります。
8. 【独自試算】申請が必要な年金給付を1年見落とした場合、一時的に受け取りが遅れる額はどれだけになるか
ここまで見てきたとおり、公的な年金給付の多くは自分で請求しないと支給が始まりません。では、仮に該当していたのに1年のあいだ気づかなかった場合、一時的に手元に入らない金額(未受領額)はどれだけの規模になるのでしょうか。 (※年金には5年の時効があるため、後から気づいて申請しても過去分を遡って受け取ることができますが、一時的に家計へ入る時期が遅れる影響は決して小さくありません)
ここでは、この記事で扱った2026年度の金額だけを使って、その差の大きさを確かめてみます。
前提は次のとおりです。これらの給付に該当するかどうかは、加入期間・配偶者の年齢・前年の所得・世帯の課税状況などによって人それぞれ変わります。
ここではあくまで「仮に該当した場合」という置き方で計算しています。
- 加給年金の配偶者分は、2026年度の年額として示されている24万3800円を使う
- 配偶者の加給年金額に付く特別加算は、示されている幅の下限3万6000円と上限17万9900円の2通りで置く
- 老齢年金生活者支援給付金は、2026年度の給付基準額である月額5620円がそのまま12カ月分支払われた場合として置く(実際には保険料納付済期間などに応じて金額が変わります)
- 税金・社会保険料は考えない。年度をまたぐ改定も考えない
- それぞれの給付の要件を同時に満たすかどうかは扱わず、1つずつ独立して見る
8.1 老齢年金生活者支援給付金だけに該当した場合
- 月額5620円 × 12カ月 = 6万7440円
- 1カ月あたりに直すと5620円
8.2 加給年金の配偶者分だけに該当した場合
特別加算を考えない場合の金額です。
- 年額24万3800円 = 24万3800円
- 1カ月あたりに直すと約2万300円
8.3 加給年金の配偶者分に、特別加算の下限が付いた場合
- 24万3800円 + 3万6000円 = 27万9800円
- 1カ月あたりに直すと約2万3300円
8.4 加給年金の配偶者分に、特別加算の上限が付いた場合
- 24万3800円 + 17万9900円 = 42万3700円
- 1カ月あたりに直すと約3万5300円
1年という同じ期間で見ても、どの給付に該当するかによって、一時的な未受領額は6万7440円から42万3700円までの規模にのぼります。
いちばん小さいケースといちばん大きいケースのあいだには、およそ6倍の開きがあります。
ここで注目したいのは、加給年金のなかでの差の出方です。
同じ「配偶者の加給年金」に該当していても、生年月日によって特別加算の額が3万6000円から17万9900円までの幅を持ちます。そのため1年分では24万3800円から42万3700円までばらつきます。
同じ制度に該当していても、一時的に手続きが遅れた際の影響額(未受領額)は人によって大きく変わるということです。
また、いずれのケースでも、月あたりに直すと5620円から約3万5300円という金額になります。
1カ月分だけを見ると大きな金額に見えないことが、気づきにくさにつながっている面もあります。月々の家計のなかでは目立ちにくい額でも、1年分をまとめて見ると数万円から数十万円の差になる、というのがこの試算で見えたことです。
申請が遅れることは、注意深さの問題ではありません。
ここまで見てきたとおり、制度ごとに管轄が分かれていて、案内が届く仕組みになっているものとそうでないものが混在しています。差が生まれる原因は、気づきにくい作りのほうにあります。
この試算はあくまで一定の条件を置いた目安です。実際に受け取れる金額や、そもそも対象になるかどうかは、加入記録や所得の状況によって一人ひとり異なります。
受給要件・所得の基準・支給額のいずれについても、この記事の内容だけで判断できるものではありません。制度の内容は改正されることがあり、要件や金額は人によって変わるため、最新の内容は年金事務所やハローワークなど所管の窓口でご確認ください。
8.5 【最重要】気づくのが遅れても「5年以内」なら遡って全額受け取れる
この試算を見ると、「申請が1年遅れただけで数万〜数十万円も損をしてしまう」と不安になるかもしれませんが、安心してください。日本の公的年金制度では、年金を受ける権利(基本権および支給期ごとの支分権)の消滅時効は「5年」と定められています。
たとえ該当していることに1年間気づかずに申請が遅れたとしても、受給権が発生してから5年以内に請求を行えば、過去の該当していた期間(この試算における1年分など)の年金を遡って、全額まとめて一括で受け取ることができます。
したがって、早く気づいた人と遅れて気づいた人とで、最終的に受け取る「生涯の受給総額」に差(損失)が生まれるわけではありません。変わるのは「本来もらえるはずだった時期に分割でもらうか、後からまとめて一括でもらうか」という受け取りのタイミングだけです。
ただし、5年を過ぎてしまうと時効により本当に受け取る権利が消滅してしまうため、気づいた時点での速やかな手続きが不可欠であることに変わりはありません。

