4. 働くほど損をする?「在職老齢年金」2026年4月法改正(65万円の壁)を解説

これまで、多くの働くシニアを悩ませてきたのが、「働きすぎて給料をもらいすぎると、年金がカットされてしまう」という在職老齢年金制度の壁でした。しかし、これからのシニア雇用を後押しするため、この制度は大幅に緩和されています。

2026年(令和8年)4月1日からは、年金カットの基準となる支給停止調整額がこれまでの51万円から「65万円」へと大幅に引き上げられました。

  • 改正前(2025年度まで):「賃金+年金」の合計額が51万円を超えると、超過分の半額が支給停止
  • 改正後(2026年度から):合計額が65万円を超えるまでは支給停止がなくなり、超過した場合のみその半額が支給停止

これにより、「毎月の賃金(総報酬月額相当額)」と「老齢厚生年金の基本月額」の合計額が「65万円」以下であれば、厚生年金は一切カットされることなく、全額を受け取れるようになっています。

この大幅な緩和により、これまで「年金カットが怖いから」と働く時間をセーブしていたシニア層も、収入を気にすることなく、持てる経験や能力をフルに活かして高水準の給与で働けるようになります。

雇用保険の給付金を賢く活用しつつ、この「65万円の壁」の恩恵を受けることで、シニア期の経済的なゆとりは大きく向上するでしょう。

5. 【コラム】4人に1人が「年下上司」に? 最新データで見るミドルシニアの就労意欲とジェネレーションギャップ

ここで、実際に企業で働くシニア・ミドルシニア世代が、働くことに対してどのような意識を持っているのか、最新の調査データから覗いてみましょう。

株式会社マイナビが2026年8月28日に発表した「ミドルシニアの働く意識に関する実態調査」によると、現役世代の働く意識や職場の人間関係に、興味深い変化が見られます。

5.1 4人に1人が直面する「年下上司」と、53.5%が実感するギャップの壁

まず注目したいのが、職場における「年下上司」の存在感です。同調査によると、ミドルシニア正社員のうち、直属の上司が自分より年下であると回答した割合は26.9%(およそ4人に1人以上)にのぼりました。さらに、年下上司を持つミドルシニアの53.5%(半数超)が「ジェネレーションギャップを感じたことがある」と回答しています。

  • 具体的にギャップを感じる部分(上位)
  • 仕事や業務の進め方:15.3%
  • 職場でのコミュニケーションの取り方:12.5%

5.2 「働き続けたい年齢」が上昇、全年代で「60歳超」に

こうした職場の変化が進む一方で、働く意欲そのものは年々高まっています。

20〜50代の正社員を対象に「何歳まで働きたいか」を聞いたところ、平均は62.0歳となり、2023年の調査開始時点(平均60.2歳)と比較して1.8歳上昇しました。

また、調査開始以来はじめて、20代、30代、40代、50代のすべての年代で平均希望年齢が60歳を上回り、現役世代全体の「長く働き続けたい」という意欲が顕著に高まっていることが確認されました。

5.3 ミドルシニアの約3割が「65歳以降も働きたい」

特に40代・50代のミドルシニア層に焦点を当てると、30.1%が「65歳以降も働き続けたい」と回答しました。「65歳まで働きたい(36.8%)」と合わせると、約7割が65歳以降の就労を視野に入れています。

  • 65歳以降も働き続けたい:30.1%
  • 65歳まで働きたい:36.8%
  • 65歳以降の理想の働き方「正規社員として働きたい」:78.3%
  • 「慣れ親しんだ仕事・職場で働き続けたい」:67.2%(管理職では77.3%)

シニアになっても慣れ親しんだ職場で、正社員として安定して活躍し続けたいという強いキャリア維持志向が読み取れます。なお、就労希望年齢が高い人ほど、「職場で良い仕事をしたと認められたり、称賛されたりすることがある」と実感している傾向もみられ、周囲からの承認が就業モチベーションに好影響を与えていることが分かります。

これからの「人生100年時代」の職場は、幅広い年代の社員がフラットに混ざり合って働く多世代協働の場へと変わっていきます。

年上の部下と年下の上司が、年齢やこれまでの実績といったプライドを一度脇に置き、お互いの強みや新しい進め方を尊重し合える信頼関係をいかに築くか。

これこそが、豊かなセカンドライフでの働きやすさを左右する、何よりの鍵と言えるかもしれません。

6. まとめにかえて|公的支援を賢く活用し、豊かなセカンドライフを

還暦を過ぎ、定年退職を迎えた後も働き続けるセカンドライフの期間は、かつてないほど長くなっています。

老後の資金計画を立てる際、多くの方は預貯金の取り崩し方法や新NISAなどの投資といった「自助努力」に目を向けがちです。

もちろんそれらも非常に大切ですが、国や自治体が用意している「雇用保険の各種給付」や「在職老齢年金の緩和措置」など、公的制度の対象となる権利を漏れなく利用していくことも、極めて強力な「生活防衛」の手段となります。

長く働く選択を経済面から強力にサポートしてくれる公的制度の仕組みを正しく理解し、適切なタイミングで忘れずに申請すること。

そして、変化していく職場の人間関係や多様な価値観に柔軟に適応していくこと。この2つの準備こそが、これからの長いセカンドライフをより豊かで安心なものにするための、確かな一歩となるでしょう。

7. 筆者からのコメント

熊谷 良子

在職老齢年金の基準額が「65万円」まで大幅に緩和されたことで、シニア世代の資産寿命を延ばす「デキュムレーション(資産の賢い取り崩し)」の戦略は、今後大きく変わってくるかもしれません。

収入の上限を過剰に心配することなく厚生年金に加入して長く働き続ければ、将来受け取る年金額自体を増額させることにもつながります。

さらに、就労収入で当面の生活費を賄いながら年金の「繰下げ受給」を併用すれば、繰下げ1カ月ごとに0.7%(最大84%)の年金増額に結びつきます。

物価高に負けないインフレ防衛資金を「自分の力で」育てる、心強い人生設計と言えるでしょう。

参考資料

池上 翠