厚生労働省の令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況によると、厚生年金保険(第1号)の老齢年金の平均年金月額は、令和6年度末で15万289円でした。
ところが同じ資料には、15万1142円という数字も載っています。どちらも老齢年金の平均月額で、間違いではありません。
この記事では、2つの数字がなぜ生まれるのかを、統計で使われる「受給権者」と「受給者」の違いからひもといていきましょう。
1. 「受給権者」と「受給者」は指している人が違う
はじめに、統計上の言葉の定義を確認します。
1.1 受給権者には全額支給停止の人も含まれる
厚生労働省の資料によると、受給権者とは「年金を受ける権利を持っていて、本人の請求により裁定された者」をいい、これには全額支給停止されている者も含むとされています。
権利はあるけれど、いまは支給が止まっている。そういう人も受給権者として数えられているということです。
1.2 受給者は全額支給停止されていない人だけ
一方の受給者は、「受給権者のうち、全額支給停止されていない者」と定義されています。実際に年金を受け取っている人に絞った数え方です。
なお、受給者の年金額には一部支給停止されている金額も含んでいるとされています。全額止まっている人は外れますが、一部だけ止まっている人は含まれるという整理です。
2. 老齢厚生年金の平均月額は15万289円?それとも15万1142円?
この違いが、平均年金月額にどう表れるのかを見ていきます。
2.1 差は853円
厚生年金保険(第1号)の令和6年度末現在の平均年金月額は、老齢年金でみると受給権者ベースが15万289円、受給者ベースが15万1142円です。差は853円になります。
受給者ベースのほうが高くなるのは、全額支給停止されている人が計算から外れるためです。いずれも併給する老齢基礎年金の額を含んだ数字となっています。
2.2 なぜ全額支給停止になるの?働きながら受け取る際の注意点
では、なぜ年金を受け取る権利があるのに、全額支給停止になってしまう方がいるのでしょうか。その主な理由のひとつが「在職老齢年金」という制度です。
在職老齢年金とは、60歳以降も厚生年金保険に加入して働きながら受け取る老齢厚生年金のことです。この制度では、給与と賞与の月額換算額(総報酬月額相当額)と老齢厚生年金の基本月額の合計が一定の基準額を超えると、年金の一部または全額が支給停止される仕組みになっています。
令和6年度の基準額は50万円に設定されています。つまり、現役時代のように高いお給料をもらい続けている場合、年金が全く振り込まれないケースがあるということです。このような方々は「年金をもらう権利(受給権)」はあるものの、「実際に年金を受け取っている人(受給者)」ではないため、統計上の数字にズレが生じます。
ご自身が長く働き続けることを想定している場合は、この在職老齢年金の仕組みを理解し、給与と年金のバランスを考慮しながら働き方を計画することが重要です。
3. 障害年金や遺族年金でも金額に差が出る?3つの年金の特徴
受給権者と受給者の数え方の違いは、老齢年金だけでなく「障害年金」や「遺族年金」といった他の公的給付でも同様にみられます。障害年金は受給権者ベースが9万9171円、受給者ベースが10万4130円で、差は4959円です。
遺族年金は受給権者ベースが8万2209円、受給者ベースが8万4228円で、差は2019円でした。3つのなかでは障害年金の差が最も大きくなっています。
公的な給付でどこまで賄えるかを考えるとき、出発点になるのが平均額です。その平均がどの範囲の人を数えたものかで、置く前提が変わります。
